第137回
2018年12月7日

死後造影CTに関する講習会Virtangioワークショップ2018に参加して

鳥取大学医学部法医学分野
医師・大学院生 吉宮元応 先生

はじめに

この度,2018年9月19日~21日にかけてイタリア北部の地方都市であるモデナで開催された,死後造影に関する研究会である,「Virtangioワークショップ2018」および「TWGPAM(トゥウィックパム)ミーティング」に参加する機会を得ました。短期間の講習会でしたが非常に有意義なのものでしたので,ここに報告いたします。

VirtangioとMPMCTA

Virtangio(バートアンギオ)はSilke Grabherr教授(ローザンヌ大学,スイス)とFumedica社(スイス)が共同開発した死後造影専用機で,これを用いた造影は多相死後血管造影CT(Multi-phase Post Mortem CT Angiography, 以下MPMCTA)と呼ばれます。

MPMCTAは,臨床現場で行われる水溶性造影剤を用いた造影CTとは異なり,死体の血管内に市販のパラフィンオイルと専用のヨード系造影剤であるAngiofil(アンジオフィル)の混合物を注入して行われます。簡単にいうとパラフィンオイルで血管内ボリュームをすべて置換するというようなイメージです。パラフィンオイルを用いる目的は、死体血管は血管内皮細胞間隙が広く、水溶性造影剤はこの間から間質に漏れてしまうため、うまく描出できない場合があるからです。1症例あたり合計3,500mlのオイルを使用しますが、注入に用いられるのがVirtangioです。これを用いると注入量、速度、圧力は全自動で管理されますので、血管を損傷することなく注入することが可能です。

MPMCTAの施行方法ですが、多相というの名の通り、動脈相、静脈相、それにダイナミック相を撮像します。造影前には単純CTを撮像しておきます。まず、通常は右の鼠径部に約5cm程度の切開を加え、大腿動静脈を剖出し、専用カニューレを動静脈にそれぞれ挿入します。それを回路に接続し動脈相を造影し、撮像します。造影剤はVirtangioが自動的に注入します。オイルは毛細血管を通過しないため、動脈に注入すれば動脈相のみを描出することができます。その際、次に同様に静脈相を造影します。そして最後に、ダイナミック相と呼ばれる、造影剤を流しながら撮像を行いMPMCTAは終了です。

読影は、3相のうち、2相以上に認められた所見のみを陽性所見として捉えます。もちろん単純CTとの比較も忘れてはいけません。MPMCTAでは単純CTのみでは明らかにならなかった出血源の検索や血管の狭窄・梗塞を描出することができ、肺塞栓症、心筋梗塞、脳梗塞、臓器血管損傷などが検出できるようになります。ただし、アーチファクトなどがあるため読影には十分な注意とトレーニングが必要になります。

TWGPAMミーティング

一般参加可能なワークショップに先立ち,加入機関のみでTWGPAMミーティングが行われました。TWGPAM(トゥウィックパム,Technical Working Group Postmortem Angiography; 死後血管造影ワーキンググループ)は2012年にヨーロッパで発足した死後造影CTの共同研究を行うワーキンググループです。加入機関は、ヨーロッパを中心とした法医学を主とした研究施設です。ヨーロッパからは,Lausanne(スイス)、Geneva(スイス)、Basel(スイス)、Hamburg(ドイツ)、Krakow(ポーランド)München(ドイツ)、Modena(イタリア)、Paris(フランス)の各施設が,そしてヨーロッパ外ではSao Paulo(ブラジル)、東京の施設が参加しています。日本からはNPO法人りすシステム(東京)が参加し、本学法医学分野も研究協力しています。TWGPAMではMPMCTA症例を共有し、より有効な検査ができるように新たなプロトコールの開発や大規模研究を行っています。

Virtangioワークショップ2018

Virtoangioワークショップは毎年,いずれかのTWGPAM研究機関の本拠地で二日間にわたり行われています。今回はヨーロッパを中心に20名程度が参加しました。

1日目午前中にはMPMCTAの原理や読影の際の注意点などについてのレクチャーが行われ,基本的な知識を身に着けました。午後からはデモです。モデナ大学法医学教室には遺体用CTがないため,造影と撮像は大学病院のCT室で行われました。実際の遺体を用いて,大腿動静脈の剖出およびVirtangioの使い方を学び,造影を行いました。デモの事例では冠動脈左前下行枝に動脈閉塞が見つかり、急性心筋梗塞と診断することができました。単純CTでは確定診断に至らなかった可能性があります。

1日目終了後は,市内観光ツアーと懇親会が行われ,参加者の交流が図られました。モデナはスーパーカーで有名なフェラーリの発祥の地であることから,ツアーの行き先は創業者であるエンツォ・フェラーリの生家に建てられた自動車博物館でした。歴代モデルを間近に見ることができ,多くの参加者が興奮していました。懇親会ではイタリア料理とワインに舌鼓を打ちました。

2日目は心臓性突然死の診断について,TWGPAM機関のメンバーおよびモデナ大学循環器内科教授によるレクチャーが行われました。午後からは,モデナ大学病院の読影室で,これまでのMPMCTA画像データを用いて、レクチャー及びディスカッションが行われました。最後に,モデナ大学医学部法医学教室および解剖室の見学をし、ワークショップは終了しました。

さいごに

我が国におけるAiは単純CTがスタンダードです。しかし、単純CTで描出できる所見には限りがあり、解剖や造影CTと組み合わせることでそれを補うことができます。死後造影はAiの診断率向上に大きく寄与するものと思われます。死後造影のなかでも,MPMCTAは救急現場で行われることがある胸骨圧迫による造影と比較し、より高い確率で血管狭窄などを検出することができます。前述のとおり,我が国では,NPO法人 りすシステムが国内唯一のVirtangioを所有しています。同NPOは機器運搬専用のトラックも用意し,要望があれば全国の施設へ移動し,施行することが可能とのことです。MPMCTAには法的にクリアすべき課題はないわけではありませんが,今後わが国でも十分普及する可能性があります1。

次回のVirtangioワークショップは2019年10月にサンパウロ大学で開催予定です。トピックは「小児におけるMPMCTA」です。ご興味のある方は地球の裏側ブラジルまで足をお運びください。


参考文献
  1. 1. 飯野守男.注目される新技術:多相死後血管造影MPMCTAと施行時の留意点.オートプシー・イメージング学会1000字提言. https://plaza.umin.ac.jp/~ai-ai/reading/proposal/proposal_120.php