第119回
2016年7月5日

小児Aiモデル事業における撮影条件の問題点について

国際医療福祉大学
樋口 清孝先生

平成24年6月、「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律(死因・身元調査法)」及び「死因究明等の推進に関する法律(推進法)」のいわゆる死因究明二法が公布されて、4年の歳月が過ぎました。推進法は2年間の時限立法として内閣府の死因究明等推進会議を経て、平成26年6月に死因究明等推進計画が閣議決定されました。その計画の中には、死亡時画像診断の有用性や有効に行うための条件等を検証するため、小児死亡例に対するAi情報を日本医師会に委託してモデル的に収集・分析することが明記されています。これを受けて日本医師会は「小児の死亡時画像診断モデル事業運営会議」を立ち上げ、読影ワーキンググループを一般財団法人Ai情報センターに委託して事業を展開しています。これが、いわゆる小児Aiモデル事業です。僭越ながら私も本事業のメンバーになっています。

さて、前置きが長くなりましたが、この小児Aiモデル事業の症例数も少しずつですが増えてきました。その一方でAiにおける撮影条件の拙さも露呈してきました。
生体における小児CT検査では、X線による被ばく低減がとても重要であり、診療放射線技師は診断に必要最低限の線量で撮影を行っています。すると、特に新生児や乳幼児は被写体が小さく、細胞外液の量も成人と比べて多いため、組織コントラストの低い画像になってしまいます。さらに、Aiでは死後変化、ポジショニングができないことによるアーチファクトや挿入された治療器具からのアーチファクトなどが加わります。すなわち、Aiでは撮影条件を工夫しなければならないのです。
先日、私が目にした小児Ai症例も日常診療と同様の撮影条件で、しかもAEC(automatic exposure control)が働き、線量は低く抑えられていた画像でした。生体であれば致し方ないのですが、Aiとしては残念なCT画像でした。しかし、単に線量を高くすれば良いのかというと、それはそれで問題です。日常診療で使用している装置であれば、必要以上の過負荷はX線管の冷却時間を長くし、次に行う検査に影響します。また、新生児など極度に小さな被写体では、透過線量の増大に伴う影響も考えられます。これまで低線量撮影の画質評価に関する研究は数多く行われてきましたが、高線量撮影における画像への影響についてはあまり研究されていません。現在、私の研究室で取り組んでいるテーマの一つでもあり、近いうちにその成果を報告できればと思っています。

小児Aiモデル事業を成果あるものにするためには、まずは価値あるAi画像を撮影することに尽きると思います。今後、さらに小児Aiに関する研修会や講習会の開催も必要になってくると考えています。また、第110回 1000字提言でも述べましたが、日本診療放射線技師会ではAi認定診療放射線技師の制度を策定し、各医療機関に1名以上のAi認定診療放射線技師の配置を目指しております。この目標が達成すれば、全国どこでも死因究明等に最適なAi画像が提供できると信じています。