Aiは四次元画像診断
オートプシーイメージング(Ai)が世に広まってはや10年あるいはそれ以上の時間が過ぎようとしている。いまでは多くのAiに関する知見が報告されるようになり、死亡原因に直結する所見や外傷の客観的指標としてAiが利用されるようになった。一方、疾病や中毒等による死亡にはAiの有用性は限定的であり、今後の研究にその可能性が期待されている。
私はAi診断を始めた初期に、検案前CTと解剖前CTのように同一個体に時間を隔ててAiが繰り返し実施された場合、得られる所見が大きく異なっていることを経験し、臨床画像診断の常識を超えた現象にとても驚かされた。入院患者で昨日と今日の画像が異なっていることは(急性期疾患以外で)ほとんどなく、ましてや拍動や呼吸をしていない“動かない”対象物であるはずの遺体であるのに、である。血管内の鋳型状や水平面の高吸収は動脈内血栓形成あるいは動脈瘤内に滞留する造影剤のようで、とても不思議な画像所見と感じた。すりガラス状濃度上昇や斑状の含気低下像が不規則に出現している肺は、肺炎や肺がんとの鑑別に難渋した。後から解剖では病的所見のない死後肺であったことを知らされ、亡くなった患者さんの画像を読むことがいかに難しいものかと考えさせられた。死後変化に関する研究(経験)が進むと、上記所見が死後変化で説明できるようになり、Aiは時間とともに変化することを知り、時間軸を意識して読影しなければならないことが理解できるようになった。
Aiは解剖との組み合わせがベストである、という考え方に私は賛成している。可能であるならば確証をもって画像診断に取り組みたい。そのために、全身の死後経過に伴う画像変化についてさらに研究を進め、死亡原因に結び付く、“普通と違う”死後変化所見を発見したいと考えている。仮説の検証を目的とする実験画像は一つのブレイクスルーを与えてくれると信じている。一方、解剖されないAi画像も世の中にはたくさん存在している。さしずめ親とはぐれた迷子のような危なっかしい存在、と私は感じている。そのような“迷子のAi”を自分が担当する場合には、せめて血液検査所見等の後ろ盾を持ちたいと考えている。と同時に、死後画像(Ai)が四次元画像であることに注意して、死後経過のどの時期を見ているか意識しながら読影に臨みたい、と考えている。