第107回
2015年2月27日

茨城県鹿行地域におけるAiの現状

小山記念病院 放射線科
横山 寿宏先生

茨城県は,人口10万人あたりの医師数が全国平均の237.8人に対し175.7人という,全国ワースト2 位の県である。その中でも,二次医療圏別に見て県南東部に位置する鹿行地域は,さらに少ない88.6人(県内ワースト1位)という全国平均の半分にも満たない非常に深刻な医師不足に悩んでいる医療過疎地域である。脳疾患と心疾患における標準化死亡比は,軒並み全国の平均を上回り(死亡率が高いことを意味する),2倍を優に超える疾患も見受けられる。とても十分な医療が行き届いているとは言い難い地域である。

当院は,茨城県鹿行地域の鹿嶋市に位置している。病床数224床,平均外来数771 名,平均入院患者数193 名,平均在院日数12.5日,病床稼働率86%,1か月平均新規入院患者数465 名(いずれも2013 年実績),常勤医師数47 名(2014 年9 月現在)であり,地域の中核を担う病院である。

当院ではかねてより,警察より依頼された死体検案・Aiを救急外来担当医が行っていたが,救急外来担当医の負担を軽減すること,また,Aiの読影を行う可能性が高いことなどから放射線科医が適しているのではないかという考えの下,2013年5月より,平日日勤帯は放射線科医に施行してほしいという提案が上がった。提案を受けた当院放射線科医は,死体検案を行うことに不安を感じながらも,病院の意向であること,また,画像診断が死因究明に寄与できる可能性について以前から考えていたところがあるという理由で,警察の依頼による死体検案・Aiを引き受けることとなった。

当院においてAiは,Aiという概念が浸透する以前より行われてきたことであり,われわれにとっては,至極“あたりまえ”に行ってきた業務である。なぜ“あたりまえ”になったのか? それはAiが必要なことであり,やらなければならないことであったり,必要に迫られて行ったりしていたからである。これは,医療過疎地域ならではのことなのかもしれない。今後はこの“あたりまえ”という感覚の上にAiという学問を乗せることによって,この地域においてAiが浸透し,発展していくものと考える。当地域におけるAiは始まったばかりであり,当院の取り組みを見ても,試行錯誤を繰り返し少しずつ形になってきたところである。しかし,現在の体制では,いずれAiが放射線科医の負担になることは明白である。これは,Aiに限ったことではないが,当地域は病院に勤める職員だけが医療のことを考えるだけでは足りない地域である。Aiにおいても,地域の方々とともに考えていくことが重要である。


わたしとAi

私が小山記念病院に赴任した10年前、“死体”を撮影すること自体は、件数こそ少なかったが、日常的に行われている業務の1つであった。私自身は、死体の撮影をするのは嫌だなという気持ちを持ちながらもこれも仕事の一つだからと業務にあたっていたことを覚えている。撮影に対する意味など考えたこともなかった。

当時から、山本先生(Ai情報センター理事長)は、当院の非常勤医師として週1回勤務されていたが、今ほど交流もなく、Aiについて話をすることも皆無に等しかった。
ほどなくして、私の立場も変わり、放射線科を管理する立場となったことから、山本先生と話をする機会も増え、Aiというものを知るに至った。山本先生の見識やAiに対する熱意に触れ、先生に協力してAiというものを勉強してみようと思ったのが、私がAiに取り組むきっかけであった。

幸い、当院の小山典宏理事長、床枝事務局長はAiに対し非常に理解があり協力的だったことや、病院と警察が地域を守る同士であるとの意識を持って業務にあたっていること、何より2013年に赴任され、常勤となった放射線科医が死体検案まで行ってくださったことなどから、ストレスなく体制の整備が進んでいる。

すべては、山本先生との出会いから始まったことであり、これは私が尊敬して止まない当院事務次長の鈴木清隆氏が常々口にしている“ご縁”ということである。
山本先生が赴任されていなければ、当院におけるAiは、未だにただの死体撮影で、ただの業務の1つであっただろう。

わたしが今後なさなければならないことは、私自身が山本先生と出会い感じたことを、この鹿行地域に普及させていくことだと考える。医療過疎が急速に進むこの地域において、どこまでできるかわからないが、一つ一つの“ご縁”を大切にし、山本先生の“思い”を広げられるよう励んでいきたい。