第28回 緘黙(かんもく)
メールマガジン第28号(最終回)

緘黙(かんもく)

配信年月:2019年2月号

1.「緘黙(かんもく)」とは?

緘黙とは、発達過程の中で言語を獲得し、もう話す能力があるにも関わらず、何らかの理由によって、ことばを発しないことが数カ月から数年続く状態を指します。多くは、家庭では普通に話しているのに、ある特定の場面(例えば保育園・幼稚園、学校、習い事の場面など)で話せなくなるという「選択性緘黙(あるいは場面緘黙)」の状態を示します。しかし、中にはあらゆる場面で話せない「全緘黙」の状態を示す子どももいます。発症率は0.2〜0.7%くらいですので、それほど多くはありませんが、家庭でおしゃべりな場合などは見過ごされている可能性もあります。

「話そうと思っても(うまく)話せない」というところが吃音にも似ていますが、緘黙の場合は話そうとしない、吃音の場合は話そうとしてもことばが出ない、というのが一般的な違いです。年齢と共に解消していくことも多いのですが、長く続く人もおり、NHK(ETV)の番組「バリバラ」では、吃音や場面緘黙をもつ青年期の男女がともに過ごすという企画の放送もされています。

2. どうして話さないの?

現在報告されているメカニズムは、「不安が高い」心の状態が、話せない状態を引き起こすというものです。安心できる場所から離れると、脳にある危険を察知する部位(扁桃体)の活動が活発になり、不安が高まって(話すところを人から見られたり聞かれたりすることが怖くなり)話せなくなるということです。「不安が高まりやすい」というのは、お子さんの生まれつきの気質・特性であり、緘黙も吃音と同様、親の育て方などのせいではありません。ただし、お子さんの特性の背景には、発達の問題が潜んでいる場合もあります。

3. 対応・支援方法は?

程度の差はありますが、人が慣れないモノ・場所・人に不安を感じることは、当然あります。しかし、トライしてみて「大丈夫だ」との思いを体験することで、不安は低下していきます。緘黙のお子さんも同様です。不安が非常に強い訳ですので、トライをスモールステップ(少しずつ)で行います。まずは子どもにとって安心できる環境を用意し、その中にちょっとだけ新しい試みを取り入れるなどです。発達の問題がある場合は、同時にその支援も必要です。詳しくは参考資料をご参照ください。なお、無理に話させようとするのは逆効果です。

 

4. 本メールマガジンへのご意見・感想

さて、ここからは本メルマガへの皆様のご意見・感想をご紹介したいと思います。

(1) テーマに対するご意見・感想

「役に立った」「気持ちが前向きになった」など、皆様それぞれ異なっておりましたが、多くの感想をいただいた回もありました。子どもに関する心配という点からは、「ひといちばい敏感な子」や「子どものウソ」に対して「安心した」というご感想を多数いただきました。このことからも、敏感だったり、ウソをつくのが、我が子だけではない(それほど心配することではない)とお分かりいただけたと思います。

また、子どもへの声のかけ方としては、「声かけ変換表(ほめることが、へこたれない大人に)」、「子どもへの指示の出し方」などによって、自身の声かけを振り返ったり、具体的な方法が分かったとのご意見も多くいただきました。

さらに、子どもの心を育む観点からは、いくつかの絵本の号や、「子どもと向き合う時間」「子どもの自制心」、また知識という点からは、スマートフォンやメディアの話、「子どもの睡眠」が役に立ったものとして挙げられ、そして、「レジリエンス」について初めて知った、「チック」について今まで間違って理解していたなどのご意見もいただきました。

研究チームとしては、少しでもお役に立てて大変うれしく思います。

(2) 吃音に関する情報へのご意見・感想

吃音に関する情報につきましては、お子さまが吃音をもっていなくても「子育てに役立つ部分がある」と感じていただいたり、親戚の子どもや子どものお友達に吃音があるので情報が得られてよかった、吃音というものを知ることができてよかった、などのご意見もいただきました。我々としましては、吃音のことを広く皆様に知っていただき、もし身近に吃音のあるお子さまがいらっしゃいましたら、少しでも(気持ちだけでも)サポートする側に立っていただけると嬉しいなと思います。

(3) ご批判

さて、肯定的なご意見ばかりをご紹介してきましたが、「すでに上の子を育てているので知っていることばかりだった」、「忙しくて読む暇がなかった」、「活字が多かった」、「理想論であり実践できないと苦しい」、というような、あまり有益ではなかったというご意見もいただきました。子育て中のお忙しい中、率直なご意見をいただきまして感謝申し上げます。今後も研究活動を継続する中で、情報発信の機会があると思いますので、皆様にいただきましたご意見を振り返り、内容や方法を改善していきたいと思います。

(4) 最後に

今回の感想において、テーマはそれぞれ異なっても、メルマガを読んで「安心した」「自信が持てた」というご意見を多くいただきました。それにより、お母様方が日々、「これでいいのかな」「どうしたらいいかな」との思いを抱えながら子育てなさっていることを、改めて感じた次第です。

お子さまに何か気になる点があると、より心配・不安になったり、自身の子育てを否定されているように感じることもあるかもしれません。そのような時は是非一人で抱え込まず、周りに支援を求めていただきたいと思います。お子さまは親とは別の個性を持つ一人の人間です。親の育て方が子どもに影響することはもちろんなのですが、同じ育て方をしても、本人の体質や気質、あるいはその時々の周りの環境で、結果は大きく違ってきます(同じ兄弟でも違いますよね?)。また、吃音のように、ほとんどは体質で決まるようなものもたくさんありますので、育て方ですべてが決まるわけではないことは、時々思い出してみてもいいかもしれません。

子どもは、親だけで育てなければならないわけではありません。この少子化の時代に、子どもは社会全体の貴重な財産です。大変なときには、社会の知識とマンパワーをうまく利用してください。健やかに育つ権利を持つ子どもを、皆で育てていけるようになればと思います。私どもは吃音の専門家集団ですが、そのような取り組みに参加したいと考えています。必要と感じられた場合にはご連絡いただけますと幸いです。

 

6. 参考文献・資料

  • NHKバリバラ(バリアフリー・バラエティー・ショー): 「どきどきコテージ」前編〜ぎこちない出会いの巻〜. ETV 2018年1月21日放送
  • 金原洋治 監修 はやしみこ著 かんもくネット編: どうして声が出ないの? 学苑社, 2013
  • 久田信行、金原洋治、梶正義、角田圭子、青木路人: 場面緘黙(選択性緘黙)の多様性―その臨床と教育―. 不安症研究. 8(1), 31-45. 2016
  • 友田明美: 子供の脳を傷つける親たち. NHK出版新書, 2017
  • 友田明美: 脳を傷つけない子育て:マンガですっきりわかる. 河出書房新社, 2019

文責:酒井奈緒美(研究分担者,国立障害者リハビリテーションセンター )

変更履歴:2022-07-12: 参考資料1のURLが無効になっていたため修正しました。ご意見・感想の中の節番号が飛んでいたので修正しました。

 

AMED研究「発達性吃音の最新療治法の開発と実践に基づいたガイドライン作成」
研究代表 国立障害者リハビリテーションセンター 森 浩一

 

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