子どものウソ
配信年月:2018年12月号
1. いつから子どもはウソをつく?
事実に反する発言をして、大人に笑いかけるような行動を1歳半〜2歳以降に見せることがあります。例えば、おしっこをしていないのに、「チー、でた(おしっこ出た)」と教えて笑うような行動です。しかしこれは、子ども自身に大人をだまそうという意図がないため、厳密にはウソではありません。子どもはこのような発言をして、大人が反応するというコミュニケーションを楽しんでいます。
また、2, 3歳では、行ってもいないのに「動物園に行ったよ」などと話し、「ウソを言っている」ようにみえることもあります。しかしこれも、だます意図はなく、動物園に行きたいなと思っていた気持ち(願望)が思わず「行った」という表現で出てきてしまったり、お友達が「行った」と話しているのを聞いていて自分も行ったような気になってしまった結果の表現であり、厳密にはウソではありません。
それでは、だますことを意図した嘘はいつからみられるのでしょうか。これは、早い場合で2歳半以降、多くは3〜4歳頃から大人から叱られそうな場面で、自分のした事を隠すような言動が見られるようになってきます。
2. ウソをつくのに必要な能力
大人から叱られそうな時にウソをつく場合は、自分の言っていることが現実とは異なっていること(例えば、「やっていない」と言っていても実際には「やった」こと)を自覚しており、また自分が知っている事実(「やった」という事実)を相手は知らないという相手の状況を理解できており、叱られないようにウソをつくという目的をはっきり持っています。この、「自分の知っていること」と「相手の知っていること」が異なる(つまり自分は「やった」ことを知っているが、お母さん・お父さんは自分がやったことを知らない状況にある)ことが分かるようになることは、「心の理論」の発達と呼ばれます。この「心の理論」は、「相手の立場から見た現実、あるいは相手の心を推測する機能」のことです。個人差はありますが、4歳頃になると、多くの子どもがこの心の理論を発達させるため、ウソをつけるようになるのです。つまり、ウソをつくことは発達のあかしであり、喜ばしいことなのです。
また、上手なウソをつくためには、表情や行動に「ウソをついている」ことが出てしまわないよう、自分をコントロールする力も必要です。過去の実験(ルイスら, 1989)では、3歳のウソをついた子どもと、ついていない子どもの表情や身体の動きは、全く差がなかったと報告されており、3歳児でも大人がウソを見抜けないほど、自制心を発達させていることがうかがえます。
3. ウソをついた時は?
「ウソをつくことも発達している証拠」とはいえ、やはり子どもがウソをつくとなると心配ですよね。しかし、子ども自身も「ウソをつくことは良くないことだ」と何となく分かっています。そのため、「お友達が持っている飛行機、いいな〜…、こっそり使っちゃえ」というような場合も、「お友達のだから勝手に使えない」という理性と、「どうしても使ってみたい」という気持ちがせめぎ合った結果の行動であるため、「いけないことをしてしまった…」という後悔の気持ちも持っています。
それでは、我々大人は、このようなウソを発見した時、どのような言葉かけをしたらよいでしょうか。「ウソをつくなんて!」と頭に血が上り、「何でウソをつくの!」ときつく問い詰めたり、「ウソつきは泥棒の始まりよ!」「ウソつきはうちの子どもじゃありません!」など、強い口調で子供を否定するような行動は望ましくないと言われています。なぜなら、子どもの心にも「悪いことをしている」という自覚が多少なりともあるため、大人にきつく問い詰められれば問い詰められるほど、怖くなって何も言えなくなってしまうからです。
では、どうしたらいいのか。子どもはウソをつく必要がなければ正直になります。あまり神経質にならずにちょっとしたウソは聞き流しましょう。「え?使ってないの?ちょっと使っているの見えたけどなぁ」と言いながら、“お見通しよ”という顔をしてあげればいいのです。もちろん、きちっと対応した方がよいようなウソもありますが、たいていは大きな問題ではありません。お父さん、お母さんもきっと、小さい頃にちょっとしたウソをついたことはあると思います。これを書きながら、私自身も小さい頃ウソをついたことを思い出しています(笑)。お子さんが、お父さんお母さんに、いけないことをやってしまったこと、失敗したこと、悲しかったこと、やってほしいことなど、何でも正直に話せるよう、 お子さんの話に共感的に耳を傾け、おおらかに受け止めていれば、問題となるようなウソをつくことにはなりません。子どもはまだ生まれて数年の存在です。ウソをつかなくてすむよう、ちょっとした失敗は責めないで笑って許してあげましょう。
4. 吃音の豆知識(自助グループ)
何らかの問題や悩みを抱えた人が、同じような問題を抱えている人や、その家族とともに、当事者同士のつながりで結びついた集団を自助グループ(セルフヘルプグループ, 以下SHG)と言います。吃音にも、古くから存在する「言友会(げんゆうかい)」、20代〜30代を中心に構成される「うぃーすた」、吃音のあるお子さんを持つ保護者の会「きつおん親子カフェ」など、いくつかのSHGが全国に存在します。いずれの団体も、当事者の方々が吃音について学び考えたり、それぞれの問題解決に取り組んだり、あるいは広く世間への吃音の啓発活動の実施など、様々な活動に取り組んでいます。
5. 参考文献・資料
- Kang Lee (カン・リー): “Can you really tell if a kid is lying?” 「子どもが嘘をついているかどうか本当にわかりますか?」(書き起こしの日本語訳あり)TED Talk, 2016
- 無藤隆, 子安増生 編: 発達心理学Ⅰ. 東京大学出版, 2011
- 今井和子: 0歳児から5歳児 行動の意味とその対応. 小学館, 2016
- ルイス, M., スタンガー, C. & サリヴァン. M. W. : Deception in 3-year-olds. Developmental Psychology, 25: 439-443, 1989
- 親野智可等: 親が寛容なら子どもはウソをつく必要がなくて正直になる(「親野智可等の深掘りコラム」親力. 教育評論家・親野智可等公式ホームページ) 初出『月刊サインズ・オブ・ザ・タイムズ(福音社)2014年6月号』
- ヨシタケシンスケ. りゆうがあります. (PHPわたしのえほん). PHP研究所, 2015
文責:酒井奈緒美(研究分担者,国立障害者リハビリテーションセンター )
AMED研究「発達性吃音の最新療治法の開発と実践に基づいたガイドライン作成」
研究代表 国立障害者リハビリテーションセンター 森 浩一