レジリエンス
配信年月:2018年10月号
1. レジリエンスとは
最近、時々目にするようになりましたが、「レジリエンス」という言葉をご存知ですか。
レジリエンスとは、「回復力」や「復元力」「弾力」と訳されることばですが、「困難な事柄にしなやかに対応し立ち直る力」として、心理学、教育から企業まで幅広く注目されている言葉です。この言葉が注目されたのは、東日本大震災です。被災された方たちは、計り知れない困難から立ち上がり人生を歩まれており、その姿に、レジリエンスが高いと、世界中から賞賛が寄せられました。
2. レジリエンスに必要なもの
以前に比べ、何か困難なことに出会うと、すぐにあきらめてしまったり、「心が折れてしまう」子どもが増えているといわれています。これは、子どもだけでなく、大学生にも、社会人にも共通したことかもしれません。では、レジリエンスを育むにはどうしたらよいのでしょう。
埼玉学園大学の心理学研究科長の小玉正博教授は、レジリエンスには、小さなことに一喜一憂しない感情のコントロール力、自分は大切だと思える自尊感情、自分が成長前進しているという自己効力感、何とかなるだろうという楽観性、必要な時に助けを求められる力(人間関係)が必要であるとしています。
3. レジリエンスを育むために
まずは、乳幼児期のお母様とのしっかりした愛着関係が「自分は大切にされている」「自分は大切な存在である」という自尊感情の土台を築きます。これがなにより、逆境を乗り越える強さの源となります。
アメリカの心理学者エインズワースは、母親を「心の安全基地」であるといっています。母子の愛着関係が安定していると、子ども達は、安心してこの安全基地から少しずつ探索(遊び)を始めます。幼児期は「遊び」を通して失敗や成功を繰り返しながら、成長していきます。上手くいかなくて泣いても、もう少し頑張ってみようというチャレンジ心が目覚め、自分で達成できると、「できた!」たという自己効力感が育ちます。この体験を楽しみ、何度も繰り返し、新たな変化へ興味関心を広げ、自発性が高まります。
この過程には、たくさんの時間がかかります。親御さんは、お子さんを信じて、見守ることが大切です。お子さんが振り返った時に、笑顔で「だいじょうぶ、きっとできるよ」と少しだけの後押しをしてあげましょう。指示や手出しのし過ぎは、せっかく自分で解決しようとする芽を摘んでしまいます。
それでもできなかった時には、「そういうこともあるよね」と、頑張った過程を褒めてあげましょう。「いつかできるようになるね」という楽観性も大事です。失敗したことを愚痴ったり、一緒に笑ったりという他の人との人間関係の中で育つ部分もあり、「なにがあってもパパとママがついているよ」というメッセージも、「しなやかに立ち直る」力を育てるでしょう。
4. 吃音の豆知識(5歳頃に起きること)
5歳頃になると、言葉の表現力が随分伸び、きちんと筋の通ったお話ができるようになってきます。少なくとも、「てにをは」のような助詞が抜けてしまうことがなくなったり、過去に自分の経験した話を順序だてて話してくれたりすることが増えてきます。ただ、説明する力はまだ十分とはいえないので、聞き手が補ってあげながら話を聞くことが大切です。
このような難しい文を多用する段階にはいると、吃音はまた出現しやすくなります。が、それも成長の証です。話の内容を十分に上手に説明できるようになるころには、また吃音も治まってくることが多いです。変動しやすい幼児期の吃音に一喜一憂しないで、お子さんとの会話を楽しんでくださいね。
5. 参考文献・資料
- 小玉正博(著): へこんでも折れないレジリエンス思考:復元力に富む「しなやかな心」の作り方. 河出書房新社, 2014
- 上島博(著): イラスト版子どものレジリエンス:元気、しなやか、へこたれない!折れないこころを育てる56のトレーニング. 合同出版, 2016
文責:原由紀(研究分担者,北里大学医療衛生学部 )
AMED研究「発達性吃音の最新療治法の開発と実践に基づいたガイドライン作成」
研究代表 国立障害者リハビリテーションセンター 森 浩一