第24回 チック
メールマガジン第24号

チック

配信年月:2018年9月号

吃音のあるお子さんの保護者の方から、「実は、チックもあって…」というご相談を受けることがあります。そこで、この号では、チックの特徴や原因、予後(今後の見とおし)、対処法をお話しします。

1. チックとは

本人の意思とは関係なく、体の一部が、突然、けいれんしたように素早く動く状態がくり返されることをチックと言います。なお、チックのあるお子さんの中には、意思の力である程度チックが出るのを止められるお子さんや、チックが起こる直前にチックが生じる体の部位に「ムズムズする」などの違和感を感じるお子さん、チックがおきた直後に「すっきりする」などの開放感を感じるお子さんがいます。チックには、大きく運動性チックと音声チックがあります。運動性チックとは、まばたきをする、かおをしかめるなど体の一部にチックが生じるものをいいます。音声チックとは、鼻をならす、咳払いをするなどの発声を伴うものをいいます。

チックは、幼児期から学齢期にかけて比較的多く見られ、発症頻度は10人に1〜2人にのぼるといわれています。チックの出現率には性差があり、男児 : 女児 = 3 :1 と男児に多く見られます。

 

2. チックの原因と予後(今後の見通し)

かつて、チックの原因は、親の育て方が悪い等の環境要因の問題と考えられていましたが、現在は否定されています。現在、チックは、幼児期から学齢期にかけての発達で一過性に生じる神経伝達物質分泌のバランスの乱れにより、脳の神経回路がうまく働かなくなるために生じると考えられています。

チックは、症状の程度や見られる期間によって、一過性チック、慢性チック、トゥレット症候群に分類されます。一過性チックは、比較的軽い程度のチックでかつ、1年未満で自然に症状が見られなくなるものです。チックの大半は、一過性のチックです。慢性チックは、比較的軽い程度のチックだが、チックの症状が1年以上続くものです。トゥレット症候群は、運動性チック、音声チックの双方を含む比較的重い程度のチックが1年以上続くものです。なお、慢性チック、トゥレット症候群であってもその大半は、徐々に症状が軽くなり、思春期を超える頃になると、症状が消失したり、生活に支障のないごく軽いチック(軽い咳払いなど)が見られる程度になることがほとんどです。

 

3. 対処法

前述したように、チックの大半は1年未満で症状が見られなくなる一過性チックです。また、10人に1〜2人に見られる発達期によくある問題であること、保護者の育て方等の環境要因の問題から生じるわけではないことから、「発達期によく起こる問題」と捉え、不安視しないようにして、様子を見守ります。また、チックは子どもの意思とは関係なく生じるものなので、チックが出たことを叱ったり、チックが出ないように注意しても収まりません。このような対応は、子どもの劣等感や不安を増大させる場合があるので、避けます。さらに、子どもによっては家庭や園でのストレスがチックを誘発することがあるので、そのような場合は、可能な範囲でそれらのストレスの軽減を試みます。

一過性チックの場合、受診しようか迷っている間にチックが見られなくなることも少なくありません。ただし、保護者の方がご心配だったり、家庭や園での生活に支障がある場合は、小児科や精神神経科、児童精神科などを受診するとよいでしょう。

なお、トゥレット症候群は吃音と同様に「発達障害者支援法」の対象疾患に含まれています。症状を誤解されることも多いので、軽快しないようならトゥレット症候群に詳しい専門家のいる医療機関を受診されるのがいいでしょう(日本トゥレット協会ホームページに専門家のいる主な医療機関が掲載されています)。

 

4. 吃音の豆知識(随伴運動)

吃音のお子さんの中には、吃音で話している時にまばたきをする、顔をしかめる等のチックの様な動きをしたり、手や足で拍子を取りながら話したりする子どもがいます。これは、随伴運動と呼ばれる吃音の症状の1つで、発話時に口や喉、あるいは体全体に力が入ることに伴って生じると考えられています。吃音の随伴運動の中にはチックの動きに似ているものがありますが、随伴運動は吃音の言語症状の時のみに生じるのに対して、チックは吃音の言語症状に関係なく生じるところが違います。そこで、まばたきや顔をしかめるなどの運動が、吃音の言語症状がない時に見られるかを確認することで、吃音の言語症状とチックを見分けることができます。なお、吃音で随伴症状が頻繁に出る場合は、言語聴覚士に相談されるといいと思われます。

 

5. 参考文献など

  1. 難病情報センター トゥレット症候群:<http://www.nanbyou.or.jp/entry/3149>
  2. NPO法人日本トゥレット協会: <http://tourette-japan.org/>
  3. NPO法人日本トゥレット症候群協会(編)(2003)チックをする子にはわけがあるトゥレット症候群の正しい理解と対応のために(子育てと健康シリーズ18). 大月書店.
  4. 星加明徳(2003)小児科を受診するトゥレット障害の診断と治療. 心身医学, 43 (2), 115-121.
  5. 星加明徳(監修)(2010)チックとトゥレット症候群がよくわかる本(健康ライブラリーイラスト版). 講談社.
  6. 新井卓(2018)児童・思春期のチック・トゥレット症候群と周辺症状(特集児童精神医学I). 医学と薬学, 75 (1), 25-29.
  7. Malik, O., & Hedderly, T. (2018). Childhood tic disorders: diagnosis and management. Paediatrics and Child Health. doi:10.1016/j.paed.2018.07.007.

 

AMED研究「発達性吃音の最新療治法の開発と実践に基づいたガイドライン作成」
 研究代表 国立障害者リハビリテーションセンター 森 浩一

 

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