後天性白質疾患の鑑別
大脳白質を後天性に障害する疾患は多くあるが、その鑑別のポイントをとくに頭部MRIの所見をもとに概説することとする。
後天性の大脳白質障害をきたす代表的な疾患は、主なものとして(1)脳腫瘍:悪性リンパ腫、転移性脳腫瘍、大脳膠腫症(gliomatosis cerebri)、(2)脳血管障害:ビンスワンガー病、脳アミロイドアンギオパチー、(3)感染症:単純ヘルペス脳炎、PML(progressive multifocal leukoencephalopathy)、(4)中毒、代謝性疾患:低酸素脳症、CO(一酸化炭素)中毒、Marchiafava-Bignami病、トルエン中毒、薬剤による白質脳症、(5)自己免疫、炎症性疾患:多発性硬化症、NMO(Neuromyelitis optica)、SLE(systemic lupus erythematosus)、(6)脳浮腫、水頭症:PRES(posterior reversible encephalopathy syndrome)、正常圧水頭症などがある。
(1) 脳腫瘍
悪性リンパ腫(図1):細胞性密度が高い場合、頭部CTで高吸収域、頭部MRIのT2強調像で、白質に比べると高信号であるが、周囲の浮腫と比べると比較的低信号を示すことがある。比較的均一に造影される。
転移性脳腫瘍(図2;A;FLAIR像、B; 造影):転移性脳腫瘍が多発すると、腫瘍およびその浮腫のため、大脳白質が広範に障害される。リング状あるいは結節状に造影される。
大脳膠腫症(gliomatosis cerebri):腫瘍が、神経線維に沿ってびまん性にひろがる。びまん性白質病変であっても左右の病変がやや非対称であったり、造影効果やmass effectのある場合は、確定診断のため脳生検を検討することが必要となる1)。
(2) 脳血管障害
ビンスワンガー病(図3):脳血管障害性認知症の原因疾患である。T2強調像でびまん性の高信号を認める。基底核に小梗塞を認めることが多い。Notch3遺伝子変異により生じる遺伝性疾患であるCADASIL(cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy)と画像所見がよく似ているが、CADASILは、側頭極までT2強調像で高信号を認める点が、ビンスワンガー病との鑑別のポイントである2)。
脳アミロイドアンギオパチー(図4):T2*強調像にて大脳白質や皮質下白質に多発するmicrobleedsを認める。microbleedsの好発部位は、後頭葉や側頭葉と考えられている。
(3) 感染症
ヘルペス脳炎:拡散強調像は、病巣の早期検出に有効である3)。両側性に病変が形成される場合は、左右非対称である。基底核は通常障害されない。側頭葉、島回、帯状回、前頭葉下面等の皮質、皮質下白質優位に浮腫を認める。発症から数週〜数ヶ月後に大脳白質病変が出現することがある4)。
PML:免疫不全患者に好発するJCウイルスによる脱髄病巣をきたす疾患。皮質下白質が障害され、皮質は障害されず、境界は明瞭である。T1強調像で低信号、T2強調像/FLAIR像で高信号を示す。造影効果は見られない。
(4) 中毒、代謝性疾患
低酸素脳症:拡散強調像が診断に有用である。T2強調像にて、海馬、大脳皮質、大脳白質、基底核等に高信号を認める。
CO中毒:遅発性のびまん性脱髄。両側大脳白質と淡蒼球にT2強調像で高信号を認める(図5, 6)5)。
Marchiafava-Bignami病:慢性アルコール中毒や低栄養の人に生じる疾患。腫大した脳梁はT1強調像で低信号、T2強調像で高信号を示す(図7)。脳梁のみならず、大脳白質に異常信号を認めることもある(図8)。
トルエン中毒:トルエンは、塗料やシンナーに含まれており、大脳白質、中小脳脚、脳幹などに左右対称性にT2強調像にて高信号を認める6)。
薬剤による白質脳症:フルオロウラシル系の抗癌剤など薬剤により白質脳症が生じることがある。T2強調像にてびまん性に大脳白質に高信号を認める7)。
(5)自己免疫、炎症性疾患
多発性硬化症:大脳白質を中心に病巣が時間的、空間的に多発する。病巣はその形状からovoid lesionやDawson’s fingerと呼ばれる。再発時の病巣は、急性炎症による血液脳関門の破壊により造影されるが、造影病変は、結節状あるいはリング状を示す。結節状病変は、炎症は強いが脱髄は軽度と考えられている。Open-ring signは脳腫瘍との鑑別に有用である。
NMO:NMOは、抗アクアポリン4抗体陽性で、脊髄にLCL(long cord lesion)と呼ばれる3椎体以上の長い脊髄病変を伴うことが多いが、NMOの脳病変の中には、PRES様の大脳白質病変を認める場合がある8)。また、NMOの脳病変はcloud-like enhancementを呈するとの報告がある9)。
SLE (図9):SLE を原因として生じる中枢神経病変をCNSループスと言う。中枢病変の画像所見は多彩であるが、脳血管障害や脱髄病変を呈することがある10)。
(6)脳浮腫、水頭症
PRES:高血圧脳症、子癇、免疫抑制剤などが原因となる可逆性の浮腫性変化。後頭葉および頭頂葉を中心として認める血管性浮腫で、T2強調像/FLAIR像で高信号を示し、ADC値は上昇する11)。
正常圧水頭症:高位円蓋部の脳溝の狭小化やシルビウス裂の拡大を認め、Evans index(両側側脳室前角間最大幅/同一断面における頭蓋内腔幅)が0.3 をこえる。T2強調像で、脳室周囲の白質に高信号を認めることがある(periventricular hyperintensity)。
(大津赤十字病院神経内科 松井 大)
文献
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