白質異常の画像診断
東京女子医科大学八千代医療センター 小児科 高梨潤一
はじめに
大脳白質にMRIで信号異常を呈する疾患群について、画像から診断に至るアプローチの概略を述べる。白質を主として障害する疾患の総称として欧米の成書では leukoencephalopathyないし white matter disorderが使用されている1, 2)。しかしながらleukoencephalopathyの和訳である「白質脳症」は、広い疾患概念として用いられることは少ない。white matter disorderは「白質異常(症)」とでも訳すべきであろうが、ここでは日本で汎用されている「白質変性症」をこの意味で用いる3)。白質ジストロフィー (leukodystrophy) は白質変性症と時に混同されるが、遺伝性の脱髄疾患 (inherited demyelinating disorders) を意味しより狭い用語である。
白質変性症の画像分類
MRIの出現とともに中枢神経白質病変検出能は飛躍的に向上した。多くの既知の白質変性症でMRIは特徴的な所見を呈し、その診断に有用である。MRI (T1, T2強調画像, FLAIR法) の白質異常をパターン化することで多数の鑑別疾患から絞り込むことが容易となる。白質変性症のMRI分類はSchiffmann, van der Knaap らの分類が実用的である2, 4)(図1、表1)。また最終的に診断がつかなかった場合でも、画像所見を分類しておくことで今後の新たな疾患の発見に寄与する可能性がある。白質変性症を上記MRI分類にしたがって記載し、主要な疾患について解説する。
表1 MRIパターン別疾患一覧
- 前頭優位群
Alexander disease, frontal variant of X-linked adrenoleukodystrophy (ALD), metachromatic leukodystrophy (MLD), neuroaxonal leukodystrophy with spheroids. - 頭頂後頭優位群
X-linked adrenoleukodystrophy (ALD), Krabbe disease,early onset peroxisomal disorders, neonatal hypoglycemia. - 側脳室周囲優位群
metachromatic leukodystrophy (MLD), Krabbe disease, Sjögren-Larsson syndrome, adult polyglucosan body disease, leukoencephalopathy with brainstem and spinal cord involvement and lactate elevation (LBSL), periventricular leukomalacia (PVL), HIV encephalopathy, later onset neuronal ceroid lipofuscinoses. - 皮質下白質群
L-2-hydroxyglutaric aciduria, ガラクトース血症, Kearns-Sayer syndrome, Propionic academia, 尿素サイクル異常症、Canavan disease - 全白質群
megalencephalic leukoencephalopathy with subcortical cysts (MLC), leukoencephalopathy with vanishing white matter (VWM), merosin deficient congenital muscular dystrophy, ミトコンドリア症, molybdenum cofactor deficiency, sulfite oxidase deficiency, 白質変性症進行例 - 後頭蓋優位群
小脳・小脳脚病変; cerebrotendinous xanthomatosis (CTX), peroxisomal disorders, Alexander disease, leukoencephalopathy with brainstem and spinal cord involvement and lactate elevation (LBSL), maple syrup urine disease, histiocytosis, adult autosomal dominant leukodystrophy related to a lamin B1 duplication, heroin and cocaine toxicity.
脳幹病変; Alexnader disease, LSBL, peroxisomal disorders, Wilson disease, adult polyglucosan disease, Leigh syndrome, dentatorubropallidoluysian atrophy (DRPLA), adult polyglucosan body disease, adult autosomal dominant leukodystrophy related to a lamin B1 duplication. - 多発性病変群
TORCH症候群(先天性サイトメガロウイルス感染症)、ブルセラ症、急性散在性脳脊髄炎 (ADEM)、多発性硬化症(MS)、視神経脊髄炎(NMO)、遺伝性脳小血管病(CADASIL)、アテローム硬化症、アミロイド血管症、COL4A1関連脳小血管病、Fabry病、Susac症候群、ミトコンドリア症、L-2-hydroxyglutaric aciduria、ムコ多糖症(MPS)、染色体異常(6p-症候群など)など - 拡散能低下病変群
メープルシロップ尿症, methionine adenosyltransferase I/III 欠損症、フェニルケトン尿症、非ケトン性高グリシン血症、Canavan disease、Krabbe disease, metachromatic leukodystrophyの活動性病変
1. 大脳白質形成不全症 (hypomyelination)
髄鞘の形成障害ないし遅延を呈する一群であり、髄鞘化の未熟な新生児期の画像と近似する。T2強調画像で、白質が皮質に比して淡い高信号を広範に呈することが特徴である。詳細は井上班ホームページを参照いただきたい。
白質病変が大脳白質形成不全症 (hypomyelination) に合致しない場合、病変が融合性であるか多発性であるかを判別する2)。融合性白質病変群は多くは遺伝性の白質変性症(leukodystrophy)であり、両側対称性であることが多い。多発性白質病変群は、非対称性で後天的な白質病変であることが多い。融合性白質病変群は、さらに2-7に分類される。
2. 前頭優位群
前頭葉優位の広範な白質病変を有する群である。Alexander disease, frontal variant of X-linked adrenoleukodystrophy (ALD), metachromatic leukodystrophy (MLD), neuroaxonal leukodystrophy with spheroidsがあげられる。
1). Alexander disease.
Alexander diseaseは17q21に存在するGFAP遺伝子変異による常染色体劣性遺伝疾患である。星状膠細胞内にGFAPとストレス蛋白 (αB-crystallin, HSP27)からなるRosenthal繊維が蓄積する。3ヶ月から2歳に発症する乳幼児型が中心で、巨頭症、発達遅滞、痙性麻痺、てんかんを認める。MRI所見として、1. 前頭葉優位の広範な白質病変、2. 側脳室辺縁にT1高信号、T2低信号の縁取り、3. 基底核、視床病変、4. 脳幹病変、5. 活動性病変の造影剤増強効果が挙げられる(図2)。白質、被殻病変ともに病初期には腫脹を示すが、次第に萎縮ないし嚢胞化をきたす。
3. 頭頂後頭優位群
頭頂後頭葉白質病変を主体とする群である。X-linked adrenoleukodystrophy (ALD), Krabbe disease, early onset peroxisomal disorders, neonatal hypoglycemiaなどが含まれる。
1). Krabbe disease.
Krabbe diseaseはGalactosylceramidase欠損 (14q31) による常染色体劣性遺伝疾患(ライソゾーム異常症)であり、細胞毒性の強いサイコシン蓄積が広範な脱髄を引き起こすと想定される。またgloboid cellと呼ばれる大型多核細胞の出現が見られる。発症年齢により乳児型、晩期乳児型、若年型、成人型に分類される。乳児型が最多で、生後3-6か月から発熱、易刺激性、哺乳障害、発達遅滞、末梢神経障害、痙性、視神経萎縮を呈する。CTにて病初期に視床、放線冠に高吸収域を認め、Krabbe diseaseに特徴的とされる。高密度なgloboid cellとグリア増生を反映するとされる。MRIでは脳室周囲のT2高信号T1低信号を認め、MLD同様の線状構造を認めることもある(図3)。小脳歯状核、小脳白質、脳幹錐体路は早期からT2高信号を呈する。
2). X-linked adrenoleukodystrophy (ALD)
ALDはABCD1遺伝子異常 (Xq28) による伴性劣性遺伝疾患(ペルオキソーム異常症)である。β酸化障害のため極長鎖脂肪酸が大脳白質、副腎に蓄積し脱髄と副腎障害をきたす。ALDは小児・思春期・成人大脳型、adrenomyeloneuropathy (AMN)、Addison単独型に分類される。小児大脳型は5-8歳に発症し、知的退行、痙性歩行、視覚障害、聴覚障害などを呈する。病理学的に側脳室三角部周囲白質から脳梁膨大部に脱髄が進展し、次第に外側前方に広がっていく。MRIは病理を反映し側脳室三角部周囲白質から外側前方に進展する対象性のT2高信号、T1低信号が出現し、辺縁には造影剤増強効果を認める(図4)。皮質脊髄路病変も認めうる。
4. 側脳室周囲優位群
側脳室周囲白質病変を主体とする群であり、皮質下白質(U-fiber)は保持される。MLDをはじめとして多くの疾患で認められるパターンで特異性は低い。皮質変性症、特に乳児期発症以降のneuronal ceroid lipofuscinoses で側脳室周囲に軽度の信号異常が認められる。
1). Metachromatic leukodystrophy.
Metachromatic leukodystrophyはArylsufatase-A欠損 (22q13.31) による常染色体劣性遺伝疾患(ライソゾーム異常症)であり、細胞毒性の強いsulfatideの蓄積により脱髄を生じる。発症年齢により先天型、乳幼児型、若年型、成人型に分類される。知的退行、痙性麻痺、不随意運動、末梢神経障害、視神経萎縮などを呈する。T2強調画像にて側脳室周囲を中心とする白質の高信号、T1強調画像では軽度の低信号を認める。病変は前頭優位の傾向がある。白質の広範な異常信号の中に、正常信号の線状構造 (tiger stripes) が認められることがある(図5)。血管周囲腔の髄鞘が一部保持されること、マクロファージに髄鞘の破壊産物が蓄積することによるとされる。
5. 皮質下白質群
U-fiberを含む皮質下白質に主たる病変を有する群である。L-2-hydroxyglutaric aciduria(図6), ガラクトース血症, Kearns-Sayer syndrome、Propionic academia, 尿素サイクル異常症、早期のCanavan diseaseなどが相当する。
6. 全白質群
大脳全白質の信号異常を呈する群である。未髄鞘白質T2信号(hypomyelination)に比して顕著なT2高信号を広範に呈する。megalencephalic leukoencephalopathy with subcortical cystsとleukoencephalopathy with vanishing white matterに加えて、いずれの白質変性症でも進行例はこのパターンを呈する。
1). Megalencephalic leukoencephalopathy with subcortical cysts (MLC).
MLCはMLC1遺伝子異常による常染色体劣性遺伝疾患であり、乳児期発症の巨脳症、緩除進行性の運動退行、失調、痙性を呈する。MRIは特徴的であり、広範な白質信号異常、白質の軽度腫脹に加え、頭頂・側頭葉に嚢胞形成を認める(図7)7,8)。T1, T2強調画像は異常白質、嚢胞いずれもT1低信号、T2高信号を呈するため、嚢胞の検出は時に困難である。嚢胞(水)を低信号に描出するFLAIR画像が診断に有効である。後述するVML に比して日本人にも高頻度に認められる。
2). Leukoencephalopathy with vanishing white matter (VWM).
VWMはinitiator tRNAをリボソームに転送するeIF2の関連蛋白であるeIF2Bの欠損による常染色体劣性遺伝疾患である。eIF2Bは5つの蛋白からなり遺伝子座はおのおの異なる。childhood cerebellar ataxia and central hypomyelination (CACH) と同一疾患であることが判明した。新生児、乳児早期には正常であるが、発症 (多くは2-6歳)後は知的退行、痙性、失調が徐々に進行する。感染や軽微な外傷を契機とした症状増悪が知られている。大脳白質は広範なT2高信号・T1低信号を呈し、経時的に液体に置き換わっていく(その名のとおり白質が消えていく)(図8)。嚢胞化した白質には、縞状の構造を認め残存組織と考えられている。脳幹、特に中心被蓋路にも異常信号が認められる。本疾患においてもFLAIR画像が診断に有用である。
7. 後頭蓋優位群
脳幹・小脳白質に主たる病変を有する一群である。小脳白質病変はcerebrotendinous xanthomatosis (CTX), peroxisomal disorders, Alexander disease, leukoencephalopathy with brainstem and spinal cord involvement and lactate elevation (LBSL), maple syrup urine disease, histiocytosis, heroin and cocaine toxicityなどで、脳幹病変はAlexnader disease, LSBL, adult polyglucosan diseaseなどで、中小脳脚病変はfragile X syndrome, adult autosomal dominant leukodystrophy related to a lamin B1 duplicationで認められる。
8. 多発性病変群
2-7までの融合性病変に対し、白質に多発性(散在性)病変を有する一群である。感染症としてTORCH症候群(先天性サイトメガロウイルス感染症など)、ブルセラ症、炎症性疾患として急性散在性脳脊髄炎 (ADEM)、多発性硬化症(MS)、視神経脊髄炎(NMO)、vasculopathyとして遺伝性脳小血管病(CADASIL)、アテローム硬化症、アミロイド血管症、COL4A1関連脳小血管病、Fabry病、Susac症候群など、遺伝性疾患としてミトコンドリア症、L-2-hydroxyglutaric aciduria、ムコ多糖症(MPS)、染色体異常(6p-症候群など)が相当する。
9. 拡散能低下病変群
白質変性症の代表的病態である脱髄 (demyelination)、大脳白質形成不全 (hypomyelination) いずれにおいても拡散を制限する髄鞘が減少し、細胞外水分が相対的に増加するためT2高信号、みかけの拡散係数(Apparent Diffusion Coefficient, ADC)高値を呈する。そのため白質変性症の中でT2高信号かつADC低値を呈する疾患は、まれではあるが診断的価値が高い。髄鞘内ないし髄鞘間間隙に生じた浮腫 (intramylinic edema) が主体となる疾患ではADCの低下が観察される。メープルシロップ尿症, methionine adenosyltransferase I/III 欠損症(図9)、フェニルケトン尿症、非ケトン性高グリシン血症、Canavan diseaseなどが相当する。また脱髄の急性期には髄鞘浮腫をきたしうるため、Krabbe disease, metachromatic leukodystrophyにて一部白質病変のADC低値が報告されている。
文献
- Van der Knaap MS, Valk J. Classification of myelin disorders. In Van der Knaap MS, Valk J, eds. Magnetic resonance of myelination and myelin disorders. 3rd ed. Berlin: Springer, 2005, 20-24.
- Schiffmann R, van der Knaap MS. An MRI-based approach to the diagnosis of white matter disorders. Neurology 2009; 72: 750-759
- 高梨潤一. 白質変性症の画像診断. 日本小児科学会雑誌. 2007; 111: 1243-1254.
- Van der Knaap MS, Breiter SN, Naidu S, et al. Defining and categorizing leukoencephalopathies of unknown origin: MR imaging approach. Radiology 1999; 213: 121-133.