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  • 遺伝性白質疾患
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カナバン病診断基準

I. 疾患概念、原因、症状、治療

カナバン病はアスパルトアシラーゼ;aspartoacylase (ASPA)の欠損により、中枢神経系に大量に存在するアミノ酸の一種であるN-アセチルアスパラギン酸;N-acetyl-aspartate(NAA)の蓄積を特徴とする、中枢神経系障害を呈する白質変性症の1つである。病理学的には、白質のミエリン鞘間の空胞化を特徴とする。進行性で乳児早期に発症し、座位や発語を獲得することなく進行性の経過を取り呼吸器感染症などで10年以内に死亡する例が多い。診断は尿中のNAAの著明な上昇(正常上限の20倍以上)、皮膚線維芽 細胞中のASPA活性の低下、特徴的な画像所見(頭部MRI上の白質病変)から行う。まれであり、現在本邦で1名が確認されているのみである。

1. 原因

病因遺伝子は17番染色体短腕に存在し常染色体劣性遺伝形式をとる。ASPAはオリゴデンドロサイトに存在し、NAAとグルタミン酸から、酢酸とアスパラギン酸を生成する。この酢酸は、オリゴデンドロサイトの髄鞘化に際して必要な脂質合成に必要であり、病因の一部を担っている可能性がある。またモデルマウスではオリゴデンドロサイトの成熟が阻害されており、オリゴデンドロサイトの最終分化に影響を与えている可能性がある。アシュケナージ系ユダヤ人に多く発症するが、日本では非常に稀な疾患である。

2. 症状

多くは乳児早期に精神運動発達遅滞、大頭、筋緊張低下、痙性、運動失調が出現する。その後、けいれんや視神経萎縮など認め、退行し睡眠障害、栄養障害も認める疾患である。そのほか、新生児期に低緊張と経口摂取不良等で発症する先天型や4-5歳で発症し緩徐に構音障害やけいれんが進行する若年型の報告例も見ら れる。しかしながら先天型、乳児型、若年型はそれぞれオーバーラップしており、連続性があり一般的には区別されない。また同じ変異を持つ同胞の一人が乳児期に死亡し、もう一人の同胞は30才を超えて長期生存している例もあり、同一変異でも臨床病型が異なる場合もある。

3. 治療法

また現時点では根治療法はなく、対症療法にとどまる。痙攣に対しては抗てんかん薬の投与が行われるが難治例が多い。また痙性麻痺に対しては抗痙縮薬が用いられる。不足している酢酸の補充、NAA軽減を目的としたリチウムなどの治療が試みられたが、症状の改善はなかった。現在種々のアデノ随伴ウイルスを用いた遺伝子治療が試みられている。

II. 診断基準

A) I. 主要臨床症状

多くは乳幼児期より出現する

  1. 精神運動発達遅滞・退行
  2. 筋緊張低下
  3. 大頭症
  4. 痙性

B) 検査所見

  1. 尿中N-アセチルアスパラギン酸; N-acetyl-aspartate (NAA)の著明上昇(正常の20倍以上)
  2. 皮膚線維芽細胞中のアスパルトアシラーゼ; aspartoacylase (ASPA)活性の低下
  3. 頭部MRI T2強調画像で両側対称性の皮質下白質優位の高信号、白質優位の萎縮、1H-MRSでNAAピークの増加とNAA/コリン(Cho)比の上昇
  4. 遺伝子解析:ASPA遺伝子異常

C) その他の所見

  1. 視神経萎縮
  2. 摂食・嚥下障害
  3. けいれん
  4. 運動失調
  5. 常染色体劣性遺伝形式の家族歴
※カナバン病型

先天型  生後数週以内に症状が顕在化する。
乳児型  最も多くみられる群で生後6か月頃には低緊張型発達遅滞が明らかになり、大頭症が認められる。
若年型  4−5才までに発症する

<診断のカテゴリー>

Definite;Ⅰ.3つ以上とⅡ.2つ以上を満たす場合、本症と診断する.
Probable;Ⅰ.3つ以上とⅡ.のいずれかを満たす場合、
Possible:Ⅰ.3つ以上を認める場合。