肝がん、膵がん、胆管がん、胆嚢がんなどの肝胆膵悪性腫瘍を中心に、食道静脈瘤、胆石症、膵・胆管合流異常症など良性疾患も含めて広く肝胆膵疾患の外科治療を行っています。

肝胆膵外科

■ 診療体制

肝胆膵外科を専門とする30名の医師が5つのチームに分かれてチーム医療を行っています。治療方針についてはエビデンスに基づき、カンファランスで決定しています。退院後も入院中の主治医が外来で定期的に診察いたします。

■ 治療方針

肝がん、膵がん、胆管がん、胆嚢がんなどに対して積極的に手術治療を行っております。また、門脈腫瘍栓を伴う進行肝癌や多発性の転移性肝癌など他の病院で手術が難しいと言われた患者さんに対しても手術適応を検討します。手術で根治する可能性がある場合は、積極的に手術を行っています。また、大腸癌肝転移に対しては様々の抗癌剤と組み合わせた治療を臨床試験として行っています。

■ 得意分野

肝がん、膵がん、胆管がん、胆嚢がんに対する手術、肝移植などを得意分野としています。また、腹腔鏡下の肝切除・膵切除も行っています。特に当科の肝切除安全性は世界的に知られ、手術死亡率0.2%という低率となっています。当科の安全で正確な肝切除を見学するため、世界各地から医師が訪問して来ます。肝切除3Dシミュレーション技術もいち早く取り入れ2007年にわが国初の先進医療指定をうけ、保険適応取得に貢献しました。現在ではこれをさらに肝切除ナビゲーション技術に発展させ、新しい器機の開発を行っています。また、2007年からICG蛍光イメージング法を世界に先駆けて開発し、肝がんの術中診断や腹腔鏡下胆摘の術中胆道造影に応用しています。

■ 対象疾患

原発性肝癌、転移性肝癌、胆道癌( 肝門部胆管癌、胆嚢癌、下部胆管癌、乳頭部癌)、膵癌、膵神経内分泌腫瘍( NET )やその他の膵腫瘍、肝膿瘍、肝内結石、胆管結石、胆石胆嚢炎、胆道拡張症、膵・胆管合流異常症、膵炎、門脈圧亢進症( 食道胃静脈瘤、膵機能亢進症)など

■ 主な治療

◆肝がん(肝細胞癌)

肝細胞癌に対する治療成績

肝細胞癌に対する肝切除は慢性肝疾患を背景としていることが多く術後肝不全を回避するためには肝機能に応じた肝切除範囲の選択が必要です。当科では腹水の有無、血清総ビリルビン値およびICG負荷試験の3項目で評価する幕内基準に従って肝切除範囲を決定しており術後合併症率は10.7%、術後90日死亡率も0.67%と非常に低い水準を保持しています。
また、肝細胞癌は肝切除後も再発率が5年で80%と高率でありますが、当科ではこれまで肝細胞癌の門脈血流を介した微小肝内転移を切除する系統的肝切除の有効性を報告しており、系統的肝切除を積極的に行うことで術後5年無再発生存率は28%、5年累積生存率は64%と非常に良好な成績を収めています。

(Shindoh J, et al. Journal of Hepatology 2016;64:594-600より改変引用)

【無再発生存率】

無再発生存率

【累積生存率】

累積生存率

進行肝細胞癌に対する治療

下図のように脈管侵襲を伴う進行肝細胞癌に対しても積極的に手術を行っており血管再建が必要な症例では異物感染を予防するために人工血管を使用せず凍結保存静脈ホモグラフトを用いた再建(2016年4月より保険収載されました)を行っています。

【術前CT検査】

術前CT検査

肝細胞癌再発に対する治療

肝細胞癌の再発に対しては肝切除だけでなく当院消化器内科と連携し肝機能や腫瘍進行度に応じてラジオ波焼灼術、肝動脈化学塞栓療法、化学療法等を適切に選択し治療を行っています。

◆肝がん(転移性肝癌)

転移性肝癌

肝転移に対し、通常は切除の適応はありませんが、大腸がん、卵巣がん、神経内分泌腫瘍、消化管間質腫瘍など一部の腫瘍の肝転移については、切除の有効性が示されています。

大腸がん肝転移は、切除適応を決めるうえで、個数や大きさに制限を設けず、切除可能ならば積極的に肝切除を行ってきました。有効な化学療法が存在しなかった時代でも、切除だけで約30%で10年生存得られることを切除の有効性を当教室は示しました(下図)。

(Takahashi M et al. Am J Surg. 2015;210:904-より改変引用)

大腸がん肝転移再発に対しては、当教室では約70%に起こる再発に対して、50-60%の割合で積極的に再切除を行ってきました。1回目、2回目、3回目の繰り返しの切除で比べてみても、治療効果は回を重ねても変わらず、再発には再切除が極めて有効であることを示しました(下図)。

(Oba M et al. Surgery 2016;159:632-より改変引用)

当教室では、術前に正確な肝機能と残肝容量の評価を厳密に行っております。残肝容量が不足していても、門脈塞栓術、2期的肝切除、新たな2期的肝切除であるassociating liver partition and portal vein ligation for staged hepatectomy (ALPPS)手術、肝静脈再建などの技術を駆使し、高難度な肝切除も安全かつ治癒的に行えています。
近年では、消化器内科と協力して、切除困難もしくは不能例に対して、まず分子標的薬を含めた化学療法を行い、著効して切除可能となれば、即切除(Conversion)する方針としています。下図のように、最初は切除困難であった肝転移の症例も化学療法施行後に切除可能となり、切除し得た例が増えてきております。

【化学療法前】

化学療法前

【化学療法後】

化学療法後

最近は胃がん肝転移に関しても、胃食道外科と連携し、切除可能と判断した症例に対して肝切除を行っております。卵巣がん、神経内分泌腫瘍、消化管間質腫瘍の肝転移についても、同様に関連診療科と連携して切除適応を決め、肝切除を行っています。

◆膵癌

膵頭十二指腸切除、膵体尾部切除を行い、術後に化学療法を行います。切除が困難な進行例では内科と共同で術前化学療法を行い、根治切除の可能性を広げています。教室での切除後の1,3,5年生存率は79%、47%、34%です。

◆肝門部胆管癌

術前減黄、門脈枝塞栓術を施行し、安全性を高めてから、より根治的な拡大肝切除を施行します。

◆下部胆管癌

膵頭十二指腸切除を行います。肝門部および肝外胆管癌全体での教室での切除後の1,3,5年生存率89%、64%、47%です。

◆胆嚢癌

綿密な術前診断に立脚し、過不足のない合理的な根治手術を行います。教室での切除後の1,3,5年生存率83%、58%、55%です。

■ 肝胆膵手術における最近の試み

術前シミュレーション

2004年に導入し、肝臓容積の計算に応用しております。腫瘍の存在する領域を治療効果を損なわず過不足なく切除する(図1)ために利用しております。
術前シミュレーション

また肝静脈の領域を計算することで生体肝移植の安全性を向上するために応用しております。本邦でも早期に導入した施設のひとつであり、本技術の保険収載への大きな役割を果たしました(図2)。

蛍光ナビゲーション

2007年より、術中に腫瘍の位置や胆管の蛍光(光)で同定するために応用しております。本技術の肝胆膵外科領域への応用に関しては、本施設がリードしており、その有用性を世界へ発信しております。術中に腫瘍を切除するために同定する手段として、眼で確認、触って確認、超音波を使用しておりますが、それらの方法で認識できない場合があります。そのようなケースで腫瘍を同定する有用な方法と考えております(図3)。
蛍光ナビゲーション
(Kawaguchi Y et al. J Gastroenterol Hepatol. 2013 Mar;28(3):587より改変引用)

また脂肪にかくれて肉眼では認識できない胆汁の通り道を確認する方法としても応用しています(図4)。

(Kawaguchi Y et al. J Am Coll Surg. 2011 Jun;212(6):e33-9より改変引用)

腹腔鏡下肝切除

2008年より開始しております。患者さんへの侵襲の少ない方法として、開腹手術と比べて腫瘍に対する治療効果を損なわない症例に限定して、適応としております。2016年3月現在、51例に施行し、在院死亡は0%です。1年間の全肝切除のうち、10%前後に対して、施行しております。本手術中にも蛍光ナビゲーションを応用し、触れないことによるデメリットを補完し、腫瘍を残さず切除し、開腹と同じ質の手術を担保できるように努めております(図5)。
腹腔鏡下肝切除
(Kawaguchi Y et al. J Surg Oncol. 2015 Oct;112(5):514-6.より改変引用)