東京大学肝胆膵外科、人工臓器・移植外科 教授 國土 典宏

私どもの科は肝胆膵外科と人工臓器・移植外科が一つの外科としてまとまり、肝胆膵の悪性疾患の外科治療と肝移植を主に担当しています。前身である旧第二外科の開講は明治26年(1893年)で、123年という日本で最も長い歴史を持つ外科です。

肝胆膵外科が取り組んでいる疾患は肝細胞癌、転移性肝癌、胆道癌、膵癌などの悪性腫瘍が中心で、特に肝細胞癌の外科治療ではラジオ波焼灼術を行っている当院消化器内科とともにわが国で最も症例数が多い施設の一つです。生体肝移植も肝癌症例に対して積極的に実施しており、放射線科が行う肝動脈塞栓術(TAE)などと併せて肝細胞癌に対するすべての有力な治療をハイレベルの技術で行うことができるのが東大病院の強みです。

胆道癌、特に肝門部胆管癌は治療が難しい悪性腫瘍で、唯一の根治的治療である外科治療は高度な技術を要します。世界的にみれば手術死亡率10%を超える専門施設も少なくありません。当科では予定残肝を肥大させる門脈枝塞栓術を術前に積極的に行い術後の肝不全を回避し、手術安全性を高めています。

膵癌も難治がんの一つですが、放射線科と内科による詳細な画像診断に基づき手術適応を慎重に吟味してから根治切除を目指し、5年生存率30%という、全国的にみて良好な成績を収めています。それでも根治が難しい膵癌に対して寄附講座の垣見准教授のグループと共同でγδT細胞療法を根治術後に加える臨床研究を開始しました。胆膵疾患は減黄処置やステントなど、術前段階から消化器内科との共同がかかせません。消化器内科胆膵グループと病理学教室、放射線科と定期的に症例検討会・Cancer boardを開催しながら診療を行っています。

1996年以来、生体肝移植550例、脳死肝移植23例を施行しました(2015年12月現在)。レシピエントの周術期死亡率は5%、5年生存率は85%でこれは他施設に比べて優秀な成績です。本来健常人である生体ドナーの手術の安全については慎重に評価を行い、安全で正確なドナー肝切除術式を確立しました。ドナー評価や意志決定過程には移植内科医、移植コーディネーターや精神科の協力を得て細心の注意を払っています。生体ドナーの負担を考えると脳死肝移植を推進しなければなりませんが、わが国全体でもこれまで実施されたのは200例余り(生体肝移植の1%)に止まっています。東大は脳死肝移植実施施設として常時数十名の患者を待機リストに登録し、ドナー発生に24時間対応できる体制をとっています。

外科学の進歩により多くの手術術式は完成されつつありますが、肝胆膵外科領域はまだまだ新しい術式や工夫を生み出す余地のある領域です。また、外科医の技術が大いに発揮できる「外科らしい外科」であるとも言えると思います。最近はコンピューター・シミュレーション技術を取り入れて肝切除容積や、うっ血域などを術前評価し、さらに安全で正確な肝切除を行っています。この技術は患者さんにメリットがあるだけでなく外科医の教育にも役立ちます。これを応用して肝切除技術を習得できる教育プログラムの確立を目指しています。

最近癌患者の高齢化が進んでおり、手術患者の年齢も年々上昇し、それに伴って冠動脈疾患や呼吸器疾患、腎障害などの合併症を有する患者の割合が増えています。このようなハイリスクの症例に積極的な外科治療を行いながら死亡率ゼロの安全を確保することは困難ではありますが、我々の使命であると思っています。本院では合併症についてそれぞれ担当各科の専門家集団が控えており、麻酔科とも協力して総合力を発揮して患者さんをケアできる体制をとっています。今後も治療の困難な肝胆膵悪性腫瘍の外科治療や肝移植を積極的に推進して多くの患者さんのお役に立つとともに、世界に発信できる臨床研究を行っていきたいと思っています。

東京大学肝胆膵外科、人工臓器・移植外科 教授
國土 典宏