頭蓋底髄膜腫の治療

 頭蓋底髄膜腫は良性脳腫瘍のうちでも最も治療の困難な疾患のひとつです。本腫瘍は病理学的には良性ですが、神経や血管を巻き込むことが多くまた残存すると再発することが30%近くあると考えられています。手術で全部取れれば根治できるのですが、発生する場所により後遺症が出る可能性が高くなる場合もあります。小さいものではガンマナイフが有効なので、後遺症を最小限にとどめるようにできるだけ腫瘍を摘出し、もし残った場合にはガンマナイフを組み合わせることで良好な成績を上げています。私は頭蓋底手術のエキスパートである福島孝徳先生(1984-86)や米国においてLaligam N. Sekhar教授(1995-98)のもとで100例超の症例を学ばせていただき、またMayo Clinicにおいてガンマナイフでの治療88症例の治療成績をまとめました。私個人は50症例の経験ですが、死亡率は0%、意識障害や強い麻痺などの重篤な後遺症出現率は2人の患者様に出現しています(4%)。

治療方針は現在
①腫瘍の場所と大きさ
②患者さんの年齢と病状
③腫瘍の進行度
④治療リスク
を判断して決めています。
症状が軽微で腫瘍が2cm以下、大きさの変化が経時的にない場合は6ヶ月ないし1年毎の経過観察をお勧めしています(保存的治療)。
また年齢が70歳以上の場合は基本的に保存的治療かガンマナイフ等の治療をお勧めしています。

以下は腫瘍の場所による基本的治療方針を示します。

場所 治療方針
前頭蓋底(鞍結節・前床突起部)髄膜腫 視神経への圧迫解除を第一の目標とし、内頚動脈・その枝の前脈絡叢動脈、前大脳動脈および下垂体柄の温存に注意して手術的摘出する。
視神経から5mm以上離れた部分に血管や神経に癒着して腫瘍残存した場合にはガンマナイフ。
中頭蓋底(メッケル腔・海綿静脈洞)髄膜腫 メッケル腔(三叉神経鞘)の腫瘍は原則手術的に摘出し、海綿静脈洞内腫瘍のみ残す。ただし三叉神経第1枝に癒着の強い腫瘍は残す。海綿静脈洞内髄膜腫は基本的にガンマナイフを治療の主体として、もし大きさが治療範囲(最大径3cm)を超える場合は一部分を手術的に摘出するか、サイバーナイフ等を検討する。
後頭蓋(斜台、小脳橋角部、テント、頚静脈孔、大孔)髄膜腫 中頭蓋に伸び海綿静脈洞に浸潤することが多くまた、多くの脳神経や脳底動脈やその枝などの重要な血管を巻き込むことが多く、治療リスクの高い群です。脳幹に癒着を来たすことも多く、腫瘍を無理なくかつ有効に減圧し、ガンマナイフやサイバーナイフなどの治療を組み合わせて治療します。
手術には特殊なアプローチを用いて、さまざまなモニタリングを駆使して行ないます。
広範髄膜腫 上記の腫瘍群を組み合わせたような腫瘍で、極めて治療が困難ですが、何回かの手術とガンマナイフ等の治療をいくつか組み合わせて慎重に治療を進めます。

実際の症例

症例1

症例1は急激に進行する視力障害で来院された44歳女性です。視野検査で両目の外側が見えにくい両耳側半盲、右視力1.0、左視力は0.5と低下していました。両側の前頭葉の間から腫瘍を摘出し、視力は術後右1.5、左0.9、視野も著明に改善しました。

図1:視神経を圧迫し視力・視野障害で来院。


術後MRI:腫瘍は全摘出され
視力も改善し退院。
嗅覚障害出現したが軽快しつつある。

症例2

症例2は私が東京大学で治療した巨大斜台髄膜腫の症例です。歩行障害・嚥下困難などの症状をもち来院されましたが、腫瘍の大半を切除し、歩いて帰宅することができました。海綿静脈洞部分の腫瘍は取ると合併症が出現するため、この部分は意図的に残しガンマナイフ治療を計画しています。

図2::頭蓋底髄膜腫 48歳女性 歩行障害、嚥下困難で来院


術後MRI:海綿静脈洞への浸潤部を除き
摘出、歩行障害改善し退院

頭蓋底髄膜腫は手術もガンマナイフも熟練したチームで治療を行なうのが最良の結果を生むと考えています。

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