脊髄空洞症とは脊髄の中に水がたまり、脊髄内の神経細胞や脊髄の伝導を障害する病気です。赤ちゃんにできる場合と大人にできる場合がありますが、最近その主な原因は頭蓋骨を脊椎の移行部に脊髄液の流れをせきとめるものがあることであることが実証されました。そこで従来は脊髄に管を入れて治療していましたが、最近は頭蓋-脊椎移行部の狭い部分を拡大する手術を行うことが治療の主流になっています。但し、このような治療にても改善しない例や、また外傷後の脊髄空洞症などでは、直接空洞に管をいれて減圧することが必要となる場合があります。
脊髄腫瘍には大きく分けて、脊髄内にできるもの、脊髄の外-硬膜(脊髄を被う硬い膜)の中、硬膜の外にできるものの3タイプに分類されます。
硬膜の外にできるものは悪性の場合も多く、痛みも強いので手術、放射線で早急な治療が必要とされる場合が多くみられます。またこの場合には、脊椎まで腫瘍が及ぶことが多いので、脊椎を安定させるための手技が必要となることがあります。
硬膜の中、脊髄の外にできるものは髄膜腫や神経鞘腫といわれるものが大半をしめます。脊髄や神経を押して麻痺や感覚障害、手足の痛みを生じます。手術で治癒できることも多く、また症状も圧迫を除くと改善することが多いので、手術療法が強く勧められます。
脊髄の中にできる髄内腫瘍にはさまざまなものがあります。発育の極めておそいものと、早いものがあります。手足の脱力や尿・便の失禁などから症状が進みます。顕微鏡手術の発展とともに、手術的に摘出できる腫瘍も増えてきています。但し神経膠腫瘍が大半を占めており、この腫瘍の発育の早いものでは、未だに治療の効果はうすく、今後の新しい治療の開発が待たれます。
図は17歳の男性で数年で進行する左半身のしびれ、筋力低下で来院されました。脊髄の上方(C2)に大きな腫瘍を認め脊髄を強く圧迫していました。手術的にこれを全摘出しました。腫瘍は良性で神経の皮からできる腫瘍でした。手術後しびれや麻痺は改善し、手術後1ヶ月半で大学に復帰しました。(本人の了解を得て掲載)
手術前MRI | 手術前MRI | 手術前MRI |
脊髄の外に伸びた腫瘍 | 術後MRI |
次の図は脊髄内の腫瘍の患者さんです。43歳の女性で数カ月に及ぶ首の突っ張り感と左上下肢のしびれ感で来院しました。MRIで頚髄の4番目に腫瘍がみられ脊髄内部に水がたまっている所見がありました。脊椎の椎弓を一時はずして腫瘍を全摘出しました。腫瘍は良性で血管の芽の細胞から発生したものでした。手術後左下肢のしびれが増強しましたが改善しつつあります。このように脊髄の中にできる腫瘍のなかにも慎重に手術を行えば比較的軽度な合併症で腫瘍を摘出することが可能なものがあります。(本人の了解を得て掲載)
手術前MRI | 脊髄後面の腫瘍 |
手術後MRI | 腫瘍摘出後 |
脊髄に動脈瘤ができることは稀ですが、動静脈奇形や動静脈瘻はしばしばみられます。これらは出血、脊髄の血液還流障害、脊髄の虚血などによって上・下肢の運動や感覚の障害を来たします。
動静脈瘻は血管撮影によって瘻孔を同定しその部を手術的に結紮することで症状を安定させることができます。脊髄内にできる動静脈奇形の場合には、出血を来たすことが最も恐れられますが、治療のリスクも高いためかなり症状が重症でないと治療方針の決定は困難です。症状が急速に進行するものや出血を繰り返す症例では血管内から栄養血管を閉塞させたり、または直達手術を施行します。
これは生下時に脊椎/背中の下端部に水膨れや脂肪腫などができる疾患で、神経/脊髄が形成される際に完全に閉塞していないことが原因となる。約1000出産に2人位の率で生じ、前の子供がこの疾患を患う場合には次の子供に同じ異常の生じる確立が極めて高くなる。近年はこのような危険のある場合にはできるだけ出生前に羊水穿刺をすすめ、診断を速める努力がなされています。
水膨れの場合には、表面の皮が極めて薄く破れると脳/脊髄の感染(髄膜炎)をきたし、命に関わる場合も多く、従って早期(できれば1日以内)の手術、欠損部の閉塞が必要となります。また脂肪腫やその他の異常が見られる場合には、身長の伸びと同時に徐々に脊髄が牽引され機能障害を来たす場合が多いので、機能障害が余り進行しないうちに脊髄の係留を解き放つ手術を勧めています。
このような障害にはキアリ奇形や水頭症など他の脳障害を合併することもおおく、呼吸の状態などへの配慮も必要です。
若い世代に発生することが多く、重篤な機能障害を来たすため大きな社会問題となります。
1980年代に大量のステロイド投与を外傷後1日以内に投与すると機能予後が改善されることが実証され、現在ではスタンダードな治療として施行されています。但し、治療の基本は症状の悪化を防ぐことであり、また予防でしょう。
脊椎はさきに述べた様に脊髄を守る入れ物であると同時に頭、体を支える構造ですので、脊椎に損傷がある場合、必ず動かしても安全かどうかを確認する必要があります。医師や救命救急士が近くにいない場合には動かさないことが大事です。昔の人は戸板で患者さんを運んだりしていたが、これは極めて安全な運搬方法といえます。
治療は圧迫があれば手術的に圧迫を取り除く、また脊椎がグラグラ不安定の場合には身体の外に固定器を使ったり、また手術的に内固定をする必要があります。
肺炎や床擦れなどの合併症に十分注意しつつ、また症状が更に上方へ伸びないように尽力し、急性期を過ぎたらなるべく早くリハビリを開始するのが必須です。
若い世代の患者が下半身の機能を失ってしまった場合、将来に対する夢や希望を失ってしまう場合も多く、リハビリもうまく進まなくなってしまう。そのための心のケアも極めて重要で、また日本の社会においても一日も早く欧米の様に車椅子の必要な人にもより多く重要な仕事につける機会/環境を作って行かねばならないでしょう。