神経内視鏡手術の最近の進歩

1980年代以降、患者さんへの侵襲を少なくすることを目的に内視鏡を用いた手術手技が消化器外科、胸部外科、婦人科、耳鼻咽喉科などの外科手術において用いられ、またこれらは基本的な手術手技の一部とみなされ始めています。脳神経外科領域においては今世紀の初頭より内視鏡は頭に水がたまる疾患である水頭症などの手術に用いられていましたが、内視鏡が用いられる手術はごく限られたものでした。近年、他に医学領域の内視鏡手術の進歩に伴い、脳神経領域においても内視鏡が用いられる機会が増加しています。。

神経内視鏡の発展の経緯

脳神経外科領域における内視鏡の歴史は古く、今世紀の初頭には水頭症の治療のために内視鏡が用いられていましたが、これらの手術成績は機器の不備、消毒法の問題などのため合併症も多く、一般に広く受け入れられる手術とはなりませんでした。本邦では1960年代に山鳥先生や当医局出身の福島先生等が小型のファイバースコープを開発し脳室内の観察、疾患の観察、治療などに用いています。しかしその後手術用顕微鏡が開発され、深部の視野を比較的小さな開頭で得ることができる様になったので、手術視野を確保するための手段として内視鏡が用いられることは例外的となっていました。最近ビデオ画像機器や内視鏡、周辺手術器具などが改良され一層複雑な手術手技を行うことができるようになりましたので、特に腹部外科(胆嚢手術等)、胸部外科、耳鼻咽喉科、産婦人科領域においては内視鏡を用いた手術手技/周辺機器が1980年代以降飛躍的に進歩し普及しています。脳神経領域においても水頭症に対する治療の他、内視鏡を用いた下垂体の手術が行われる様になり、これらの手術手技は徐々に脳神経外科手術のスタンダードとなりつつあります。また1990年代にはドイツ・マインツ大学のPerneczky教授やアメリカ・ピッツバーグ大学のJho教授らが顕微鏡を用いた脳神経外科手術に際して内視鏡を補助的に用いて、さらに深部の良好な視野、あるいは死角になる部分の視野を得る手段とすることを提唱しました。脊髄手術においても胸腔鏡を用いた胸椎の手術や腹腔側または斜め後方からの腰椎椎間板ヘルニアの手術などに内視鏡が用いられています。また手根管症候群などの末梢神経の病気においても内視鏡手術が盛んにおこなわれるようになっています。内視鏡は小さな入り口から深い部分まで観察することができ、これをを用いることによって、手術中の脳の圧迫を減らしたり、頭をあける大きさなどを格段に小さくすることができると考えられています。私達の教室でも、私自身、西原、辛先生がグループとなって新しい技術、器具の開発にあたり、数多くの手術において内視鏡をもちいて低侵襲手術をおこなっています。

内視鏡とは

内視鏡とは細い管の中にグラスファイバーやガラスレンズが入っていて、その管を体や脳の中にさしこむと、内部が見える器具のことをさします。基本的には胃カメラのように屈曲可能な軟性鏡とガラスレンズからつくられた硬性鏡という2種類があり、使う場所や目的に応じて使い分けられています。
現在はこれに高画質のテレビカメラをつけて大きな画面に内視鏡画像を写し出して手術を行っています。
様々な手術器具、ドリル、補助装置などが開発されていますが、脳神経外科領域においては、やや開発が遅れており、当教室でも研究が進められています。
レーザーは細いファイバーを通して強いエネルギーを組織に与えることが可能ですので、重要な手術装置の一部です。

当科で使用されている様々な内視鏡

Storz社硬性内視鏡
Storz社硬性内視鏡
町田製作所製軟性脳室鏡
町田製作所製軟性脳室鏡

神経内視鏡の応用

現在脳神経外科領域において内視鏡を用いるには、内視鏡の画像のみをもとに手術を行う場合と、顕微鏡手術の際などに内視鏡を補助的な視野を確保する手段として用いる場合があります。脳神経外科分野において内視鏡の使われる領域は最近は脳室だけではなく、頭蓋内/外、脊髄/脊椎、末梢神経などに適用されています。

現在は水頭症、脳室(脳の水をつくる部屋)内の腫瘍、脳出血、下垂体腫瘍の手術、脳腫瘍、くも膜下出血を来たす脳動脈瘤の手術、脊椎の手術、末梢神経の障害などに内視鏡が用いられ、安全性、有効性が確認されています。

私は下垂体や頭蓋底の腫瘍、脳動脈瘤、脊髄ヘルニアの手術など現在まで100例以上の症例に内視鏡を用いていますが、大きな合併症には出会っていませんし、非常に内視鏡が役にたった症例を数多く経験しています。また同グループの西原先生は脳内出血に対する内視鏡を用いた画期的な手術方法を開発しています。

内視鏡を用いて摘出したコロイド嚢胞(第3脳室内)の症例:45歳男性、頭痛を主訴に来院、MRIで腫瘍と水頭症が発見された。(患者さんの許しを得て掲載)腫瘍を内視鏡下にレザーなどを用いて摘出、患者さんの症状は軽快した。この手術方法によると従来は大きな開頭を必要としていた手術が10円玉サイズの穴から可能となり、患者の回復も極めて早い。

手術前のMRI 内視鏡写真 嚢胞
レーザーで出血をコントロール 手術後のMRI(明らかな嚢胞の残存は見られず、水頭症も改善)

将来の展望

コンピューターモーション社製ロボテイック内視鏡/手術器具保持装置(イソップ/ゼウス)
コンピューターモーション社
ロボテイック内視鏡/手術器具保持装置
(イソップ/ゼウス)

将来は内視鏡下に制御されるマイクロロボットやロボットアームを使用して現在よりも更に正確な、またバンドエイドでかくれる位の小さな傷から、大きな腫瘍を摘出するような有効な治療ができる様になると確信しています。当大学では医学部、工学部が協力してこのような技術の開発を押し進めてゆく努力がなされており、当教室もその中核となっています。

図はアメリカコンピューターモ-ション社で製作されたロボットアーム(ゼウス):この機械は実際にアメリカでは心臓の冠動脈の再建などに用いられ小さなあなから血管吻合ができることが実証されている。

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