顔面痙攣と三叉神経痛の治療

顔面痙攣と三叉神経痛は世間ではいわゆる「顔面神経痛」と呼ばれ混同されることが多い病気ですが、原因は似ていますが症状はまったく異なります。以下に症状と原因、治療法について解説します。

下記は三叉神経痛に関する2005年10月19日の記事の抜粋です。

I: 症状:

顔面痙攣

顔面痙攣は右または左側いずれかのまぶたなどの顔半分が無意識のうちにぴくぴくと痙攣する病気です。初期はまぶたのあたりがぴくぴくすることから始まることが多く、時間がたちひどくなってくると目が閉じるほど強くつぶってしまったりまた口が引っ張られるようになります。症状は特に緊張するとひどくなることが多く、人と会うお仕事の患者様は困られることご多くみられます。顔面の痛みなどは伴いません。下の図1のように顔面の半分が引きつれたようになります。


図1:顔の引きつれ

三叉神経痛

一方三叉神経痛は、表情など外から見ても異常はないのですが、食事や洗顔、歯磨きなどをしたときにキーン・ズーンと響くような極めて強い電撃痛が顔の半分に走る病気です。あまりしびれ感が無いのも特徴です。

ひどい場合髭剃りや歯を磨くことが出来なくなり衛生面での問題が生じ、また食事が出来ないため何キロもやせる患者様もいらっしゃいます。痛みは下の図2のような部分にでます。痛いとその部分を触れなくなったり、風にあたることさえもしなくなります。


図2:痛みの場所 顔面の半分、下顎や頬骨の部分、
時に目の上のこめかみの部分が強く痛むことがあります。

II: 原因と自然経過:

どちら病気も脳の奥で、動脈硬化などにより蛇行した血管が顔の神経を圧迫することにより起こることがわかっています。中には腫瘍やそのほかの病変が神経を圧迫して起こることもあります。また三叉神経痛の一部は多発性硬化症など神経が変性する疾患でもきたされることがあります。

図3・4のように神経は電線の束のようなものですが、その一番弱い脳の幹からでた数ミリの部分に血管や腫瘍が圧迫するために神経線維間でショートのようなことがおこって痛みや痙攣(ぴくつき)が発生すると考えられています。経過は血管や腫瘍による神経の圧迫の状況によりますが、定常状態で続くもの、悪化してゆくもの、また時には自然に軽快し数年間症状がなくなる場合も認められます。


図3:神経の構造と圧迫による障害


図4:脳幹から神経の出るところ(REZ;root entry/exit zone)を血管等が圧迫する。

III: 治療法:

症状が強く日常生活が続けられなくなった状況が治療の適応となります。治療は下記のようにさまざまな治療法がありますが、年齢や身体状況を考慮しこれらを組み合わせて最善の治療を行うことが最も患者様のためになると考えます。

A: 薬物療法:

神経がショートしたような原因が上記のような症状をきたしますので、薬物療法としては神経の伝導を抑えるような薬剤 たとえばテグレトール・アレビアチン等の抗けいれん剤やリボトリールなどが使用されます。特にテグレトールは三叉神経痛には極めてよく効き特効薬のように使用されます。ただし時間がたつにつれて薬剤の効果がうすれたり、多量に使わないと症状が治まらず薬剤の副作用(ふらつきなど)が出てしまう場合が起こってきます。

B: ブロック療法:

これはペインクリニックが主体となって行う治療法ですが、麻酔薬等で神経をにぶくする方法です。そのほか熱や神経の圧迫等で神経を一時的に麻痺させる方法もあります。こちらは主に三叉神経痛に用いられる方法ですが、一定の効果が得られています(ペインクリニックのページを参照)。しかし長期的には再発が多いのが欠点です。顔面痙攣の場合神経ブロックはあまりお勧めできませんがボツリヌス毒素の顔面筋への注射により、筋肉を弛緩させる方法なども用いられています。

C: 手術治療:

最も根治的な治療は開頭術により圧迫している血管を解除してやることです。この手術は米国ピッツバーグ大学のPeter Jannetta教授が世界で最初に始められた手術ですが、日本では福島孝徳教授等らがはじめました。私は福島孝徳教授のもとで3年間訓練をつみ200例を超える手術経験を有しています。耳の後ろを約4センチほど切開して小さな孔をあけ顕微鏡を使って血管を除圧しテフロン等でできたスポンジなどで血管を神経に当たらなくするものです(図5)。手術時間は2~3時間、入院期間はおよそ10日間です。最近2年間の初回治癒率は95.6%、再発率が9.1%となっています。この間の手術死亡は0%、合併症としては手術側の聴力低下がよく知られており、通常2-3%程度の合併症率といわれていますが、私たちの施設ではここ2年間に聴力障害をきたした例はありませんでした。ほかに一過性のかすれ声(嗄声)が4.7%の症例で見られたほかに大きな合併症は経験していません。もちろん局所剃毛ですので、丸坊主になる必要もなく、退院時にはほとんど頭の手術を受けたことはわからない状況になります。



図5:顕微鏡手術により神経を圧迫している血管を丁寧に剥離し、テフロン等でできたスポンジなどで神経に血管があたらないようにします。血管をはなすことで神経の損傷が修復されます。

下記は実際の手術例の写真です。食事もできないような強い三叉神経痛で発症された患者様ですが、術前のMRIで脳の微細な動脈(前下小脳動脈という動脈)が三叉神経の根元を圧迫しているのが認められました(図6)。手術中顕微鏡でその血管と神経の圧迫をみとめ(図7)、それをテフロンの綿でどかして痛みは完全に消失しました(図8)。


図6:血管の圧迫を示す


図7:手術写真神経が血管に圧迫されている部分を丁寧に剥離し血管をどかしているところ。


図8:血管をテフロン綿でどかして神経にあたらないようにしている。

D:ガンマナイフ

最後に高齢者など手術リスクが高い場合、ガンマナイフによって70Grayという高線量を三叉神経の根元に照射することによってブロックと同等またはそれ以上の効果で痛みを伝える神経をブロックするという治療も可能です。初期効果は約80%で痛みの消失または軽減が、長期的には約60%で痛みが抑えられています。しかし現在本治療は保険診療外となっており70万円ほどの自費治療となっています。

下記図9は82歳女性の右三叉神経痛に対してガンマナイフで三叉神経に72Gを照射しているガンマナイフプランの図です。


図9 ガンマナイフによる三叉神経治療

当院では、以上のように優れた手術治療、ペインクリニック、ガンマナイフ治療などを組み合わせ患者様に最良の治療を提供しています。セカンドオピニオンも受け付けておりますので、お尋ねください。

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