6:日本の脳神経外科臨床訓練との相違

最初に述べたように、日本とアメリカでは社会、医療システムが根本的に異なるので、ただ脳外科の訓練の違いだけを比較することはできない。日本ではアメリカほど神経内科医、放射線科医の数が多くないので脳外科医の役割もかなり異なる。脳外科訓練期間に臨床と基礎研究の占める割合、また興味の重さも異なると思う。日本にはアメリカほど医師の職種による収入差もない。病院間の役割分担、中央集中体制もできていない。

まず私が思う最も大きな違いは、脳神経外科が対象とする症例の範囲である。アメリカでは“脳神経外科が脳、脊髄、そして末梢神経の外科である”という基本的姿勢を下記のABNS Introductionの冒頭に見ることができる。

NEUROLOGICAL SURGERY is the discipline of medicine and the specialty of surgery which provide the operative and non-operative management (i.e. prevention, diagnosis, evaluation, treatment, critical care, and rehabilitation) of disorders of the central, peripheral, and autonomic nervous systems, including their supporting structures and vascular supply; the evaluation and treatment of pathological process which modify function or activity of the nervous system, including the hypophysis; and the operative and non-operative management of pain.(1)

一方、日本では脳外科はいわゆる脳血管障害と脳腫瘍の外科の代名詞の様にみえる。

次にレシデントの数とその教育カリキュラムの違いがあげられる。1996年時点での日本とアメリカの脳神経外科専門医の数はほぼ同数である、そしてその予備軍すなわちレジデントの数は日本ではアメリカの数倍である。概算でアメリカが日本の2倍の人口をもつとすると、人口単位では、日本はアメリカのほぼ倍の脳外科医を有している。そしてその予備軍は5ー6倍である。日本に会員1万人の脳神経外科学会が登場するのもそれほど遠い話ではないように思える。医療の集中がされていないためもあり、一つの医療施設ではこれだけの数のレジデントを教育しきれず、1000を越えるA, C項指定の訓練施設が登録されている。次にカリキュラムであるが、日本では研修医期間内の確固とした習得義務がない。日本では変なところで個人の自由、裁量がまかされているような気がしてならない。まだ強くのこっている出身大学医局入局制度、また医局間の風通しの悪さもレジデントの活性化をはばむ一因であると思う。アメリカでは出身大学にレジデントとしてのこるのは少数派であり、またレジデント終了後は外に出てゆくのが当り前なのである。

先に述べたように、アメリカでは、認定医をつくる目的として社会に貢献する脳外科医を育成することを掲げているので、知識だけではなく、実際にしっかりした医療をしていることを確認したうえで最終的な口頭試験を行う。知識だけで専門医を認定するのとはかなり趣を異にする。

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