4:メイヨークリニックの脳神経外科

概要

メイヨークリニックの脳神経外科は1915年頃設立された。メイヨー兄弟が、外科医であったDr. AdsonにそのころDrs. Horsley , Cushing, Dandyらによって盛んになってきたこのSpecialtyをメイヨーに設けるよう指示したことに始まる。脊髄手術で有名なDr. Loveや、脳腫瘍手術で有名なDr. McCarty、 Dr. Miller、 脳血管外科の権威であるDr. Sundtをへて現在Dr. PiepgrasがChairmanをしている。脳外科顕微鏡解剖で有名なDr. Rohton, 脳下垂体、脳腫瘍を専門とするDr. Laws, 定位脳手術法、脳腫瘍手術にコンピューターを導入した第一人者であるDr. Kellyなども以前メイヨーのStaffであった。過去10年以上に渡って世界で最高の手術数(約3500件/年)を誇りその臨床研究は数多く発表されている。 アメリカの他の脳外科と同様脊髄の手術が半数以上を占めている。そのほかMajor operationとして、脳血管障害、脳腫瘍などが300〜400例ずつ、定位脳手術やてんかんの外科などが200例前後なされている。 手術の内容については別の機会に述べたいと思うが、手術数から予想されるように6〜7つの手術室をフル回転してきわめて迅速に手術がこなされていく(1日に15〜20件)。その症例数、種類の豊富さには驚くものがあるが、大変な腫瘍の手術でもなんとなく物足りなく思われるほどスムースに終了する。そして術後の経過も比較的良好である。いまはやりの頭蓋底の腫瘍などは耳鼻科との協力で余り無理をせずにおえられる。私がレジデントをしている間にも何人かの日本の脳外科の先生方がメイヨーに見学に見えたが、私の印象では皆すこしガッカリして帰られるようだ。それはメイヨーでは余り華々しい手術は行われていないからだと思う。また私の先生のStaffたちには少々失礼だが、余り小手先の上手な先生はいらしゃらない。しかしどの脳外科Staffも疾患、その手術に慣れているのでとても迅速でしかも予後の良い手術をする。長い歴史に基ずく膨大な経験から何が最も患者のためになるのかを考えながら手術をする、そして決して奇を衒わない。自分の経験のない手術はしない。みようみまねで手術をするなどというのは、最も忌避されるものである。

Departmentは現在9人のStaffと2人のChief residentによって構成されている。他の大学方式のDepartmentと異なりChairmanは主にDepartmentの事務的な統合、レジデントの管理を任されており、他のStaffの診療には余り干渉しない。 但しレジデントの教育に関して あるStaffに問題があるとみなされる場合、その件については抗議する。いうなれば並列の体制である。大学方式のピラミッド型の体制に比べるとやはりGroup Practiceの色合いが濃く、Staff一人一人に特色がありバラエテイーに富んでいる。さらに大切なメイヨーの脳外科の特色は、強力な神経内科との協力体制であろう。メイヨーの神経内科は50人以上のStaffを抱え、北米では1ー2位の評価を得ている。その非常に臨床指向の強い神経内科との協力によって、脳外科は神経疾患の診断・治療の一環を担っている。

メイヨーの脳神経外科レジデント

現在メイヨーではResidency Review Committee (RRC)から1年に2〜3人のレシデントをうけいれることを許可されている。インターンをふくめた6年の研修期間が決められており、なかには私のように変則的なレジデント、またPhDコースを希望して1〜2年長く研修するものもいる。レジデントは1人あるいは2人のStaffの受け持ち医となり、主にそのStaffの患者の手術を手伝い、術後を管理する。脊髄専門のStaffにつけばその3ヵ月は脊髄を中心に勉強することになる。そのローテーションをうまく配分することによってレジデントの経験が偏らないようにするのはChairmanの大切な仕事の一つである。平均すると臨床脳外科を研修中には1年に300件の手術を経験することになる。各クオーターの終わりには、Staffとレジデントがお互いの評価をし何が足りなかったか、何を改善すべきかなどを議論する。その互いの評価はDepartmentのChairman および Graduate Schoolに送られ、スタッフ、レジデント両者の能力評価の参考にされる。

下記の日課、週間日程(Table 2) からわかるように、アメリカのレジデントの朝はとても早い。4時半〜5時位から自分の受け持ち患者を診察し(20人位)Staffの7時からの回診に備える。患者も朝早くから大変だとはおもうが、脊椎手術の翌朝5時から歩かされ神経所見をきっちりとられる。それがまた欧米で多い下肢静脈血栓症の予防になることは間違いない。7時前に殆どの入院患者に拘わる仕事をおえて、朝のカンファ、7時45分からの手術に備える。臨床担当の期間は、殆ど毎日手術に手洗いすることになるが、手洗いする疾患についての知識を必ずStaffに質問されるので、前日に教科書のChapterを読んでおくことが要求される。余りにも知識がないと手術から外され、果てには解雇されるという可能性もある。 手術のない日には、レジデントは救急室の当番にあたるか、Staffと共に外来診察にあたる。夕方には朝みた受け持ち患者を必ず再チェックし、他科の入院患者の診察以来があれば、その患者を診察、評価して、救急的治療が必要ならChief Resident と相談し、もし翌日まで待てるならば、自分の担当のStaffと翌日相談する。その後翌日の手術患者、入院患者の診察、カルテ整理、手術前、後の指示をだす。

週間予定を見ていただければわかると思うが、非常にたくさんのカンファランスがあり、レジデントの出席は必須とされている。たとえStaffが手術中でもカンファ出席が優先される。レジデント期間は学習、訓練のための期間であるから当然といえばそのとうりだが、日本ではどちらかというと学び終わってしまった(?)先生の出席が優先されている様に思える。またレジデントはそのカンファでも頻繁に質問されまた発表の機会を与えられる。まさに小学校からの教育と同じシステムである。

Table 2: Daily and weekly schedule of Neurosurgical resident at Mayo Clinic

Daily schedule:

4:30-5:00 Primary round(see primary patients: 10-20 patients)
7:00 Round with staff, conference
7:40 Preope conference
7:45-17:00 Operation, ER call, Clinic
17:00 PM round, see in patient consultation(2-3), see new preope patients(4-5)
18:00 Night call(1/week)

Weekly schedule(Conference):

Mon. Reading conference(Yumans, etc.), Spine conference Neuroradiology reading
Tues. Preope conference
Wed. Neurology-Neurosurgery joint conference
Thurs. Preope conference, Spine reading, Journal club(2/months)
Fri. Neurovascular conference
Sat. Neuropathology conf., Neurosurgery conference

メイヨー脳外科では各研修学年毎に、一応のGoalを定めている。1年目のインターンの時期には一般的な全身管理、外科的手技を覚え、脳外科1年目にはChief Residentと一緒に仕事をして一般的脳外科疾患の知識、管理そして基本的手術手技を学ぶ。また神経内科の知識もこの年につける。脳外科2年目には、神経病理、方射線学の知識、基礎的な開閉頭、椎弓切除術の手技を学ぶ。3、4年目には、より高度な手術手技、患者評価力をマスターし、希望により特殊な臨床をみにつけるか、研究を始める。毎年ABNS(American Board of Neurological Surgery)主催の筆記試験を受け、自己の知識量を把握し、またその成績を1年1年向上させることが要求され、 Chief Residentになる前に脳外科専門医筆記試験に合格することが必須とされている。 Chief Residentは独自の患者を受け持ち、深い脳外科、神経疾患についての知識・判断力を持って対応することが求められる。また手術も自分で計画し、困難なものはStaffとの協力で行う。脳外科のカンファランスはChief Residentが計画・主催する。また自己の就職戦略のためにSubspecialtyに興味をもち、Fellowshipに申し込むか、その知識をつけておくことが推薦されている。そういったレジデントの成長を助けるという目的で、近年Mentorを研修1〜2年目に指定する制度ができた。 Mentorは年2〜4回レジデントと率直に話合いそのレジデントの弱点、良いところ、将来の可能性、リサーチの方針などを指導し、またChairmanと協力してレジデント終了後の就職先を世話するなど役割を持たされる。

メイヨーではレジデントに患者に対する基本的マナーを厳守させる。まずアメリカの殆どの病院でそうだが、病院施設内では禁煙(患者も含め)である。つぎに患者の前での身だしなみはジャケット、スーツ、ネクタイ着用または手術着・白衣と決められている。酒気を帯びて患者を診てはいけない等々さまざまな決まりがある。 厳しいと思われがちだが患者の立場に立てばそれが当り前なのであろう。そのハードな仕事の代償として、隔週の土曜、日曜はPagerをはずして休めるし、また年に3週間の休暇は保証されている。また発表があれば年2回までアメリカ国内の学会の旅費、学会費、宿泊費が支給される。またDepartmentによっては1年に1シリーズの教科書、基本的な専門雑誌の購読費も支給するところもある。

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