5:アメリカの脳神経外科専門医制度

アメリカの専門医制度の特色は専門医の数の制限と厳密に定められたカリキュラムにあると思われる。脳外科専門医になるには、医学部卒業後RRC(Residency Review Committee)でさだめられたレジデントプログラムに入らなければならないが、そのプログラムの数(現在99施設)、各施設のレジデントの割り当て数(アメリカ全国で146人)は厳しく制限されている。その制限によって、脳外科専門医の質と地位を保っている。専門医の数は、アメリカの政府及びアメリカ医学会(American Medical Association, AMA)で運営するACGME(Accreditation Council for Graduate Medical Education) によって決定され、ACGME, ABNS の運営するRRCによって各医療施設(99プログラム)に割り当てられる。目安としては施設年間手術数1000件に対して年レシデント1人が割り当てられる。レシデントが臨床研修中1年に約300件の手術を経験できることになる。そのレジデントの数は、数年のうちに2/3程度に減らされる予定である。アメリカでは脳外科専門医の年収は一般内科医等に比べると格段に高く、1年に約200〜250人の各医大トップクラスの医学生が脳外科医になることを希望するが、狭き門である。

レジデント教育のカリキュラム(Table 3)も厳しく定められており、脳神経外科6〜7年の研修期間中、36ヵ月の臨床脳外科研修(実際に患者を診る立場)、3〜6カ月の神経内科、1年間のインターンは義務とされている。また6ヵ月の神経病理、神経放射線科のローテーションが推薦されている。 残りの12〜21カ月は神経科学に関する臨床または基礎研究にあてられる。このカリキュラムは厳守が義務づけられており守らないと専門医の資格をとることができない。また症例のバランスも大切でレジデントの経験できる症例数、種類に問題があると、そのDepartment のレジデント枠が減らされることになる。RRCの委員は年に1〜2回は各Departmentを訪れ直接レジデントと話をして、そのDepartment の評価をしている。一般にレジデントは厳しいカリキュラムに組み込まれているのでアルバイトは不可能であり、また禁止されている。ここでもレジデントに対するローンが活躍する。また1箇所のレジデント育成プログラムに編入されるとそのカリキュラムに沿って教育をうけるので、ABNSの許可なしでは、他の施設での研修はできないことになっている。

Table 3: Residency curriculum
Total of 72 months -84 months of neurosurgical training

36 months Training in clinical neurosurgery
12 months as senior or chief resident responsibility
3-6 months Training of clinical neurology
12 months Training of fundamental clinical skills, general surgery
21-33 months Unobliged, but should be devoted to neuroscience related clinical, basic research, neuroradiology, neuropathology rotation

このようにしっかりと定められたトレーニングと脳外科認定医・筆記試験に合格するとBoard Eligible(準専門医)となるが、その後さらにSubspecialtyのトレーニングを積む人が増えてきている。準専門医になると独自のクリニックを持ち、患者の治療にあたることが許される。正式のBoard Certified Neurosurgeon(専門医)になるには、次に述べるような条件を満たした後、口頭試験に合格しなければならない。卒後Practiceをしたという証拠にレジデント終了後1年間自分で受け持ち治療した患者のリスト(登録番号、診断、診断理由、治療、結果、および3ヵ月後のFollow-up)、レジデント期間中の手術経験(手術の種類と数、術者か助手か)、レジデント後努めた全ての病院の管理者、3人の同僚のリストと手紙、その地域の医師のリストをABNSに提出し、受験許可をとらなければならない。ABNSは直接地域の医師と連絡しまた実際に委員をその地区に送ってそのCandidateがしっかりとした脳外科診療・治療をしていることを確認したうえで受験許可をだす。ABNSおよびACGMEは専門医をつくる目的として公共のために脳神経科学、外科学に寄与する人材を造ることを標語としているが、まさに徹底した評価体制であるといえる。下記はABNSの基本的目的・理念の抜粋である。

...the Boad, along with the RRC for Neurological Surgery and the ACGME, works toward elevating the standards in neurosurgical programs and advancing the science of neurosurgery in order to benefit the health of public. (1)

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