第89回
2011年7月1日

死後画像 (Ai) 診断専門医制度についての私案

札幌医科大学 放射線診断科
兵頭 秀樹先生

死後画像 (Ai) は既に国内の多くの施設で実施され、専用装置を備える医療機関も増加し、社会からもその有用性について一定の見解が得られるまでに至っております。撮像された画像の有効利用のためすでに各施設で様々な取組が行われており、死後画像で得られる所見を“極め”たり解剖と組み合わせて画像を有効活用する等、施設間で死後画像の扱いは若干異なっているようです。いずれの場合も得られる情報は体表観察や病歴からの推測よりも客観的であり、多くの臨床医からも導入が望まれているのが現状と考えております。

多くの課題の中で、私が最も早急に始めねばならないと考えておりますのは、死後画像 (Ai) 診断専門医制度であります。他学会の専門医制度は各学会単位の認定で行われているものが多く、社団法人・日本専門医制評価・認定機構(Japanese Aboard of Medical Specialties) (以下専門医認定機構)には多くの学会が登録し専門医の標榜が認可されております。H22年8月現在では日本医学放射線学会(5491名)・日本病理学会(2085名)等74学会が参加しております(日本法医学会は認定医制度があり専門医制度と同様の基準設定があるようです)。専門医認定機構では専門医は「5年間以上の専門研修を受け、資格審査ならびに専門医試験に合格して、学会等によって認定された医師」と定義されております。そこでAi学会でも死後画像(Ai)診断に一定の認定基準を作成し専門医を制定し、一般の方からも信頼されるような制度作りが必要と考えております。この場をお借りして認定基準の項目等について私案を提示させていただきたいと思います。

Ⅰ. 名称:死後画像診断専門医

“Ai”の文字が含まれないのは残念な気持ちもありますが、本専門医がいかなる専門性を持つかを明確に言い表すものとして、今私が考えうる最適のものと考えております。呼称として“Ai診断専門医”の利用も可能と考えております。

Ⅱ. 資格認定:

専門医認定機構で提示されております専門医の規定はクリアする必要があると思われます。様々なbackgroundをお持ちの先生にも死後画像診断専門医になっていただけるよう考えてみました。

資格申請要件1:日本国の医師免許を有していること。
資格申請要件2:Ai学会会員であること。
資格申請要件3:死後画像診断講習会を受講していること。
資格申請要件4:日本医学放射線学会診断専門医・日本病理学会専門医・日本救急医学会専門医あるいは日本法医学会認定医であること。もしくは、死後画像診断に5年以上従事していること。
資格申請要件5:死後画像所見(CT/MR画像所見)と剖検所見(マクロ解剖)が対比されている症例を50体以上経験していること。そのうち、各領域(頭部・頭頸部・胸部・腹部・骨軟部・小児)2体以上の死後画像診断実績があること。(リストを提出できること)

資格申請要件5については、病理専門医の要件には剖検報告書(病理学的考察が加えられていること)40例以上・法医学会死体検案認定医制度規定の要件には4年以上従事しかつ50体以上の検案経験を有するとありましたので、総数50体以上であれば妥当と考えました。また、死後画像 (Ai) 診断は全身をくまなく観察する必要がありますので、各領域をすべて経験していることを要件に加えてみました(5年間で50体以上ではなく、総検討数が50体以上と考えております)。
以上のような資格申請要件を満たし、専門医試験で合格した場合にAi学会が死後画像診断専門医と認定することを考えました。

Ⅲ. 専門医更新

5年毎に資格の更新も必要と思われましたので、更新要件についても考えてみました。

更新要件1:日本国の医師免許を有していること。
更新要件2:Ai学会会員であること。
更新要件3:年間20体(5年100体)以上の死後画像診断を行いその記録が提出できること

更新要件3は、実務の継続が必要と考えたため加えてみました。また、学会のための専門医制度は不要と考え、学会参加の項目は意図的に外しました。

上記項目であれば専門医資格申請が可能な先生は少なく見積もっても100名以上いらっしゃると思われます。どのようなbackgroundの先生でも死後画像(Ai)診断に参加したい方であれば専門医になれるものと考えられます。ハードルが低すぎるとの御指摘を受けることも考えましたが、最も重要な目的は初期制度設定を行うことと考えております。初期5年を試行期間としその後に不足/修正箇所について訂正を加え更に確立した制度設計を図って行ければ幸いと考えております。

Ai学会1000字提言の場をお借りして私案のご紹介となりました。“実績(実務経験)重視で死後画像 (Ai) 診断専門医を規定してゆく”“各都道府県に5名の死後画像 (Ai) 診断専門医を10年で育成する”、このような目標をAi学会が掲げ、内外にはたらきかけ、関係学会と協力して制度設計を進めてゆくことが必要と考えております。会員の皆様の話題提供の機会となりますと幸いです。

追記:

今回の提言を発表する際に関係される先生方にディスカッションをお願いしましたところ、専門医認定機構からは「今後厚生労働省が出す(であろう)「死亡時画像診断読影研修会修了書」があれば専門医制度は不要」との見解が示されているようです。詳細につきましては今後公表されるものと思われます。ますます死後画像診断に携わる者として、身の引き締まる思いを感じております。