我々が経験した溺死症例の1例と宮崎県の現状
8月30日、第4回Ai学会夏期症例検討会に参加し、30歳代男性の溺死症例を提示した。症例は海上に浮かんでいるのを釣り客に発見され、心肺蘇生術に反応せず、搬送先の病院でCTが撮像(覚知から約2時間後)された。その後、本学法医学教室で司法解剖が行われた。CTにて副鼻腔・乳突蜂巣の液体貯留、肺野のスリガラス影を認め、溺水として矛盾しないと考えられた。文献(1)的に溺水を強く示唆する所見として、気道内の泡沫状の液体と高吸収の沈渣が知られているが、それらは本症例では確認できなかった。解剖では肺過膨張、口腔内・気道内の泡沫、胸水、肺割面から泡沫を含んだ水溶液を大量に認め、死因は溺死と判断された。また、発見現場付近で採取した海水中の珪藻と同様の種類のものを肺から検出した。
症例提示後に約1時間にわたる討論をおこない、一般的な解剖では検索しない副鼻腔や乳突蜂巣内の状態をCT像にて観察できることが確認できた。解剖で認めた気道内の泡沫状の液体は、CTでは確認できなかったが、CT撮像直前の蘇生術で吸引されたものと判断された。文献(1)では気道内の泡沫状の液体 ・frothy fluid・として画像を掲載しているが、一般的な白色細小胞末とは泡沫の大きさが違うのではと考えられた。本症例では心臓・大血管に血液就下を認めなかったが、溺水と関連があるのか、水中での姿勢の変化によるものか、現在のところ明らかではない。また、乳突蜂巣内の液体貯留は、溺水でなくても死後時間の経過とともに出現することもあり、必ずしも溺水の所見ではないことも確認された。討論では我々が気が付かなかった点やこれからの研究課題も上がり、今後、症例を蓄積し検討を加えていきたいと考えている。
宮崎県におけるAi事情であるが、Aiはすでに宮崎県の地方新聞にも取り上げられるほど社会に浸透しつつある。しかし、残念ながら、県内には死亡時にルーティンとして死亡時画像診断を行うことの出来る基本的体制を整えている施設はない(2008年9 月30日現在)。Ai施行の基準は施設により異なり、来院時心肺停止状態で心拍再開が得られなかった症例に対して死因究明の目的でCTを撮像している施設 (2)や警察から依頼されたときのみにCT撮影をしている施設があるのが現状である。今後の課題として、社会の中のシステムとしてのAiという面と、新しい学問分野としての面があり、前者は検査費用の捻出や人材の確保など財政的な問題があり、システム構築は容易ではないと思われるが、本学でも千葉大学や群馬大学のようなAiセンターの設立を望みたい。
参考文献
- Levy, et al. Virtual Autopsy: Two- and Three-dimensional Multidetector CT Findings in Drowning with Autopsy Comparison. Radiology 243(3): 862-868, 2007
- 杉村宏, 他 : 心肺停止症例の死因検索におけるCTの有用性. 救急医学 32 : 861-864,2008