一般病院でのAi導入顛末記
1.PMI(狭義のAi)の検討(第1回倫理委員会・2008年2月下旬)当初、倫理委員会には、剖検の有無にかかわらず、臨床医が必要と考えたら死後画像を撮影できるような承諾書案を提出した。承諾書には、・画像は診療記録とともに病院が管理保管する、・保存された情報を医学教育や学術研究に使用することがある、・学会や紙上発表の際には匿名化し、個人情報は公開されない、の3点を明記し、説明の確認を取る形にした。 委員会で問題になったのは、費用をどうするか、万が一Ai画像を元にした訴訟が起きたらどのように対応するか、の2点であった。これらは倫理面とは異なる問題を含み、病院としての方針にも関わる。そこで審議を保留にしてもらい、学術研究としての実施に向けて案を練り直した。
2.剖検を前提としたAi(広義のAi)の検討(第2回倫理委員会・同年3月下旬)画像撮影の費用は主に放射線技師の人件費であり、勤務時間を大幅に超えることがなければ問題は少ない。医療関連死が疑われる症例については、東京では第三者機関がその判定をするモデル事業が行われている。問題はAiにより医療関連死を疑うような所見が新たに見いだされた場合であり、少なくとも剖検によって所見を確認することを前提にしておきたい。これらの討議から、夕方亡くなって翌朝解剖の許諾が取れ、遺族とのトラブルがない症例で、放射線科の同意が得られれば、一般患者の撮影を終えた時間帯に画像撮影を実施する、という多くの制限を設けた院内研究として、倫理委員会の認可がおりた。 委員の間で、撮影した死後画像を遺族に渡すか否かが話題となり、電子カルテで保管し、プリントを渡すことはしない方針としたが、承諾書にその明記はさけた。なお当院では2008年から「看護-病理カンファレンス:N-CPC」を開催しており、亡くなられた患者から多くを学ぶという視点が徹底されていたためか看護部は導入に好意的であった。
1. 実施にあたって病理科が主体となって話を進め、放射線科との討議がまだ不十分な時期に、たまたま条件を満たす症例が出た。放射線科医はすぐに撮影に同意してくれ、遺族には病理医が直接検査の意義を説明して承諾を頂いた。混乱したのは放射線技師で、遺体をCT室に搬送してから主旨や方法を説明する状況になり、迷惑を掛けてしまった。放射線科と病理の協力体制がない限り実施は困難であり、事前の協議(説明)不足は深く反省する点であった。 実は倫理委員会を通過した後、院内関係者にAiを紹介しようと海堂尊氏に講演をお願いしていたが、第一例の実施(5月中旬)が先となり、結果として講演でより理解が深まる結果となった。
2. Aiと医療関連死当院では、PMI画像から「誤った医療過誤の疑い」を抱かれることを危惧する声があり、死後画像診断のみの実施には至っていない。しかし、臨床的にまったく医療関連死を疑っていない症例において、PMIでそれを指摘することがはたしてどのくらいあるだろうか。Ai学会において、死体画像にみられる死後変化については多くの報告がなされている。一方、割りばし事故やカテーテル挿入時の事故を疑われた例をみるまでもなく、生前画像でも「問題があるように見える」所見は少なくない。PMIによる医療関連死の判定にはまだ多くのエビデンスの蓄積が必要であり、PMIで何らかの問題が指摘されれば積極的に剖検を実施すべきであろう。また一般の方々にAiの知識が普及してきた現在、PMIの所見を根拠に剖検許諾を求めることも可能と思われる。
以上、当院でのAi実施までに問題となった事項を述べた。実際にAiを行ってみて、剖検前の画像情報が剖検を進める上で非常に役立つことが改めてわかった。放射線科医も、1週間前と死亡時で予想以上に画像の変化が見られることに驚愕していた。あとは臨床医の認識であり、今後CPCなどの機会に啓発していく予定である。