第56回
2007年12月3日

日本法医学会関東地方会におけるシンポジウムのご報告

千葉大学大学院医学研究院 法医学教室
岩瀬 博太郎

平成19年10月20日に、パシフィコ横浜・会議センターにて、聖マリアンナ医科大学の向井敏二教授を会長として日本法医学会関東地方会が開催された。その中で、向井会長のご提案によって「法医学におけるオートプシーイメージングの展開」と題したシンポジウムが開催され、私はその座長を務めさせていただいた。シンポジストには、法医学会の会員でもあり、既に画像診断を実務や研究に取り入れていらっしゃる先生をということで、筑波メディカルセンターの塩谷清司先生、日本大学医学部法医学教室の内ヶ崎西作先生、千葉大学大学院医学研究院法医学教室の早川睦先生、千葉大学附属病院放射線科の山本正二先生の4名の先生を選ばせていただいた。 塩谷先生からは、20年前から、日本で最初にシステマティックに死後CTやMRIを取り入れたご経験から、死後変化の画像に及ぼす影響や、薬毒物中毒の診断ができないなどの画像診断の限界、および、MRIによる心筋梗塞等の診断の可能性など将来の展望が紹介された。その中で、CTによる死因診断率は3割程度であることも紹介された。

内ヶ崎先生からは、スイスのベルン大学の提唱するVirtopsyは、解剖に変わる手段としての画像診断を将来目指しているのに対し、日本におけるオートプシーイメージングは、解剖と画像診断を組み合わせることで、より精密な死後診断を目指すものであるとの捕捉を頂いた。その上で、ポータブルの超音波検査装置(エコー)の利点や欠点についての紹介がなされた。大腿静脈内の血栓は死後でもエコーで検出可能であるが、下腿の血栓は診断できるか研究中であるとの話は興味深かった。早川先生からは、千葉大学法医学教室で行っている司法解剖前のCTや、警察が事件性なしと判断し、司法解剖をしないと決められた事例について、警察や遺族の希望で実施されるCT検案について紹介された。解剖前CTは、解剖による診断をより適正化するなど、大きなメリットがある反面、骨盤骨折や頚椎骨折などを発見できない点が課題とされた。また、管球が切れる時期が近づいており、その後どうなるかという悩みも紹介された。

山本先生からは、千葉大で8月に開設されたオートプシーイメージングセンターが紹介された。大学の法医、病理、放射線科が連携し、遺族や、病院、警察などから大学に持ち込まれる遺体を統合的に取り扱い、内部で病理解剖や法医解剖に振り分ける構想が紹介された。美しい3D-CTの画像も紹介しつつ、3D-CTであれば、頚椎骨折や骨盤骨折も撮像できる可能性が指摘された。

発表後の討議では、死後の画像検査は、解剖による死因診断の適正化に関しては有効であることを認めつつ、解剖に取って代わることはありえない点で意見が一致した。また、新聞報道では、今年度から、警察庁がCT検査の費用を出すことが報道されていたが、現実には、犯罪性が疑われた司法検視事例にのみ、費用が捻出され、犯罪が疑われない行政検視事例や、明らかな犯罪事例に関しては費用が捻出されず、筑波剖検センターでのCTは相変わらず病院からの持ち出しで実施されている実態が明らかになった。また、先日時津風部屋で力士が暴行死した疑いのある事件に関して、CTやレントゲンが撮影されたにも関わらず、病死とされた事件に関しては、山本先生から、死後CTの読影にあたっては、遺体のCTを見慣れた専門医がすべきであるし、そうした医師を養成しなければ、診断を誤る可能性があることが指摘された。

本シンポジウムにより、法医学領域における、画像診断について、その可能性と限界を会員に伝えることできたらと考えていたが、それは果たせたはのではないかと思う。この場を借り、シンポジウムを開いていただいた向井会長と、シンポジストになっていただいた諸先生方に深謝したい。