第32回
2006年4月1日

小児虐待の実態とAi

小宅小児科医院
小宅 雄二

近年、子どもの虐待が増加していることが報道され、社会問題となっている。児童相談所に通告された虐待件数だけでも平成16年度は32,979件に達し、平成2年度の1,101 件と比較すると約30倍になっている。子ども虐待の発生頻度は正確に知ることは不可能だが、わが国の全国規模の実態調査では1年間に約35,000人であり、これは小児1,000人あたり1.54人に相当するという(アメリカでは小児1,000人あたり11.8人)。報告によると日本において虐待死亡の約40%は1歳以下の乳児である。集団生活していれば、他の人に発見される機会もあるが、乳児であると難しい。前回のAi提言でも紹介したが、虐待によって脳死や重い障害になった子どもが医療機関を受診したとき、親が医師などの医療関係者に虐待の事実を話すのは2割弱と多くの場合は本当のことを言わずにうそをついている。本人は意思を伝えられず、家族の話す病歴もあてにならないということになると診断は困難である。兄弟がいた場合、約半数は他の兄弟も虐待するという報告もあり、再発防止のためにも虐待の診断は非常に重要である。

Society for Pediatric Radiology(SPR)とNational Association of Medical Examiners(NAME)は共同で2歳以下の予期せぬ死亡症例では虐待を考慮に入れ死後画像診断(Post-mortem radiography)することをすすめている。剖検も実施している状況でなおかつそれをすすめるということは、有用性があると認めていることにほかならない。全身骨撮影を行うことで新たに新旧の骨折などを発見することもあり、診断の精度の向上が期待できる(Pediatr Radiol. 2004 Aug;34(8):675-7)。

児童相談所への通告が虐待の家族への抑止力になっているように、乳幼児死亡(明らかな病死をのぞく)は全例Aiをするというはどうだろうか。Aiをするとわかってしまうんですよ(限界もあるのは事実だが)とアピールしておくことで、少しは抑止力になると思われる。そのままうそをつき、次の子も虐待するということも多いので、医療側のリスク回避のためにも有効である。最近の傾向として医療も結果責任が問われてきているので、今後は前の子も実は虐待だったということがわかると、虐待を見過ごして死亡診断書を書いた医師の責任が追及される可能性が十分でてくるだろう。