歯が語る真実:画像が拓く法歯学の新展開
2024年11月よりオートプシーイメージング学会の理事に就任いたしました、東京科学大学法歯学分野の斉藤久子と申します。1992年に鹿児島大学歯学部を卒業後、千葉大学大学院を修了し、同大学法医学教室にて長年にわたり教育・研究・実務に携わってまいりました。2023年4月より現職に着任しております。千葉大学在職中には、法医学教室ならびに放射線科の多くの先生方から温かいご指導を賜り、この場をお借りして深く御礼申し上げます。今後は、本学会に所属される皆様からも幅広くご教示いただきながら、微力ながら学会の発展に貢献できればと存じます。
日本は地震・津波・台風など多様な自然災害のリスクを抱える災害多発国であり、2011年の東日本大震災では多数の身元不明遺体が発見され、災害時の身元確認体制の重要性が改めて浮き彫りとなりました。平時・有事を問わず、正確で確実な身元確認を行うための客観的方法は、世界共通の三大手段である指紋・歯科所見・DNAであります。
災害時の歯科所見による身元確認では、口腔内写真、デンタルX線画像、デンタルチャート(歯の有無、状態及び治療痕などを模式的に記録するための図式化された歯列図)といった死後資料を収集し、これらを該当者と思われる人物のカルテ、デンタルX線、治療記録などの生前資料と照合します。照合結果は、同一人物であると判断できるのか、あるいは矛盾はないものの断定には至らないのか、といった最終的な判断へとつながります。歯科所見は個人差が大きく、かつ生涯を通じて治療の痕跡が残るため、災害時においても極めて高い識別力を有し、「歯が語る真実」は身元確認の中核的役割を担っていると考えます。
近年、歯科臨床の現場ではデジタル化が急速に進み、「診断→計画→補綴→手術→フォロー」までをデジタルで一気通貫する流れが加速しています。口腔内スキャナー(Intraoral scanner: IOS)を用いたデジタル印象、コーンビームCT(Cone beam computed tomography: CBCT)による画像診断、これらの3Dデータの統合、遠隔診断、デジタルID管理は、法歯学分野におけるデジタル化・画像解析の潮流とも深く結びつくものです。災害時に活用されるデジタルツールは、従来の手法をより正確かつ効率的にするだけでなく、後方支援として現場を支える新たな力にもなり得ます。デジタル技術は、三大手段と相補的に働き、その信頼性を高め、作業を迅速化し、災害時の身元確認をより確実なものへと進化させる“次の基盤”となりうると考えております。
オートプシーイメージング学会の会員の皆様のご協力を賜りながら、法歯学の新たな展開に向けて持続的な成長を遂げていきたいと存じます。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
