近年の関連文献紹介
今年も残すところ、あとわずかとなりました。会員の皆様へ歳末のご挨拶として、近年発表された文献を二つご紹介させていただきます。
・Okuda T, et al.: Pericardial tear as a consequence of cardiopulmonary resuscitation (CPR) involving chest compression: a report of two postmortem cases of acute type A aortic dissection with hemopericardium. Leg Med (Tokyo) 17:201-204,2015
心嚢内血腫と左血胸を伴うA型動脈解離死亡二例の症例報告。
いずれも死後CTにて上行大動脈に血腫を伴う偽腔と、少量の心嚢内血腫、大量の左血胸が認められた。また、左室周囲には限局する心膜のえくぼ形成 (dimpling)と心膜の不連続が指摘された。
解剖では、左胸腔には血液の貯留が認められた他、凸レンズ状の裂傷が心膜の左後方外側に確認された。
心嚢内血腫を伴うStanford A型大動脈解離の症例では、蘇生処置時の胸部圧迫が心膜破裂の原因であり、心嚢内の血液が裂傷を経由して漏出する事が左血胸の原因と推察された。
※蘇生処置による心膜損傷が血胸の原因となりうると言われていましたが、論文として報告されたのは初めてだと思います。
・Y. Kawasumi, et al: Post-mortem lung features on computed tomography in cardiac death cases: ischemic cardiac death vs. non-ischemic cardiac death. http://dx.doi.org/10.1594/ecr2016/C-0932, 2016
虚血性心疾患と非虚血性心疾患による死亡例の肺所見の比較。
解剖により確認された非虚血性 53例、虚血性 30例のCTを比較し、肺所見を肺鬱血と血液就下に分類し検討した横断研究。
非虚血性は肺鬱血 10例、 血液就下 42例であり、虚血性は肺鬱血 20例、 血液就下 11例であった。χ二乗検定にて、p=0.0003 と有意差が認められた。
肺所見による虚血性心疾患の推定は、感度 60%、特異度 80%、陽性的中率 62%、陰性的中率 78%、正確度 72 %であった。
虚血性心疾患による死亡例は肺鬱血を呈する頻度が高く、心臓関連の死亡が疑われた場合、肺鬱血が認められれば虚血性心疾患の可能性は約70%である。
※非造影CTでは虚血性心疾患を直接指摘する事が困難ですが、肺所見が一つの間接所見になりうる事を示唆する報告であり、有用と思われました。
来年が皆様にとって輝かしい年となりますことを心よりお折り申し上げます。