第101回
2014年3月27日

チームバチスタシリーズの監修に込めた思い

千葉県がんセンター
髙野 英行先生

我々のエバンジェリストである海堂尊の「チームバチスタの栄光」は、死因究明にAutopsy imagingを用いるという画期的小説であり、死因不明社会への警鐘を鳴らした。

私は、そのテレビドラマシリーズ「螺鈿迷宮」および映画の「ケルベロスの肖像」において、Ai監修、医療監修を務めさせていただいた。このシリーズには、前山本理事長、塩谷理事なども関わっており、Aiの普及に貢献した作品群と言えるだろう。

私は、ドラマのプロデューサーに、トリックの原案作りを依頼された。今回の「螺鈿迷宮」は、ミステリーというよりホラーに近い原作であり、テレビドラマ化しにくいトリックであり、「ケルベロスの肖像」は、「バチスタシリーズ」の総括であり、ドラマを収束させることが中心におかれていたため、ミステリー的な要素が少なかったため、映像的にインパクトのあるトリックがほしいと言われたのである。

今までの医療モノや刑事モノでの、解剖の結果は、その結果つまり、種明かしは、解剖の結果を見せるのではなく、そうであるという説明だけである。その理由としては、内容が複雑すぎたり、死体の絵は残酷で、不気味であるので、一般人には分かりにくいし、受け入れられないからである。

一方Aiは、画像であるため、見ても嫌悪感もなく、CGの画像ともうまく連動した。その過程を通じて、これは、裁判員裁判と同じではないかと気づいた。

裁判員が死体の写真を見せられて、精神的な苦痛を強いられたと訴えた裁判があったが、Aiによる画像は、死因のメカニズムの説明にマッチした。そして、白鳥佳輔がAiをお茶の間の前で説明したのである。ドラマの放射線科医立花の顔の3D画像は、個人識別の一種である。

その一方で、死体のAi画像をCG化する過程を行ったが、こちらの指示が、相手に伝わらない。アシスタントディレクターから、骨の白さと血管の石灰化の白さは違うのかと質問された。この少しの違いが、本物のCTらしくみえるかどうかに掛かっていると、何とか、調整してもらった。医療ドラマをを扱っている人達でも、詳細な解剖は分からない。逆にいうと、ドラマ用の画像は、お茶の間にもわかる工夫が必要であるということである。
このドラマの監修の経験で、裁判員制度などにどのような画像を出すべきか、医療のいわゆる素人の人達でも分かるAi画像の見せ方を学んだ気がする。

また、今回のドラマでは、裁判員に対する分かりやすい説明と同様に「死因の見える化」が行われた。今回、「螺鈿迷宮」では、Dual energy CTを用いることにより、キセノンガスを「見える化」しているが、これは、CTによる物質分析の将来像を示したものである。昨年の北米放射線学会では、2層のディテクターにより、通常スキャンと同じ様にスキャンし、後から、Dual energy CT解析で、物質分析できるようになっている。今後、モノクロマティックイメーングや、Triple energy imagingなどにより、MRIにも勝るくらいの分子組成の「見える化」が進んでいくだろう。このことは、Aiの将来を表していると思う。画像の専門家でなければ、追いつけない世界がそこに迫ってきている。

一方、「ケルベロスの肖像」では、9TのMRIをモチーフに、MRスペクトロスコピーの原理を利用し、「死因のみえる化」を図ったが、通常の検体検査においても、成分分析にMRスペクトロスコピーが用いられている。有機化合物の分析に有用である。通常の血液検体が多くても数十グラムであるのに対して、人体はその1000倍の量がある。このことは、人体そのものをMRSで分析する方が、より大きな信号を取り出すことができることを意味する。しかも、Aiであれば、1日という単位での分析が可能である。血液の検体よりも、Aiの方が優位である化合物も出てくる可能性もあると思われる。

テレビや映画の仕事は娯楽目的であり、科学とは対局の様にも見えるが、国民に納得し、支援してもらうためには、時には、演出も必要であることを学んだ。そして、Aiの将来像を視聴者が理解はできなくても、感じてもらえたなら、今回のAi監修を引き受けたことの意味があったのではないかと思う。

「ケルベロスの肖像」の小説の中に、Aiの種は綿毛の様に日本中に広がっているということが書かれているが、その種を育てるのが、私達Ai学会会員の使命であると信じている。今後とも、Aiの普及、発展に尽力していきたいと思います。