M新聞にこういう記事が掲載されていました 「<オスプレイ>事故率1.5倍 「安全」根拠覆る」。記事を読むと「1.5倍」という数値の計算も、「根拠が覆った」という判断も専門家によるものではなく、同新聞社の計算であり、判断だと読めます。問題の個所は次のように書かれています。
海兵隊によると、オスプレイが試験開発を終えた2003年10月から今年8月末の総飛行時間は30万3207時間で、重大事故は9件。10万飛行時間当たりの事故率は2・97になり、防衛省が12年10月の普天間飛行場配備前に公表した事故率1・93(同年4月時点)の約1・5倍に上った。
何が問題かと言うと、「点推定」で安全性を評価している点です。確率でものを判断する時は、「区間推定」を見たいところです。1.93が十分に長い試験飛行時間に基づく数字だとして、記事のデータを基に計算すると、次のようになります。
10万飛行時間当たりの事故率は2.97 (95%CI; 1.36 – 5.63)になり、…配備前に公表した事故率1.93から上昇したとは言えない。
区間推定を見ると、記事の根本的な判断の根拠がおかしいことに気づきます。いろいろな状況があって、事故率の高いような状況での使用時間が長ければ、単純に飛行時間を分母にするような集計ではダメな場合もあるはずで、専門家が詳細な分析をしないと、数字の意味するところは評価できない物です。ブンヤがこういう数字を雑に扱った記事を書くので、多くの日本人の数字に対する感覚はこのレベルどまりになるのでしょう。
もう一点、FDAでは対外的なリスクコミュニケーションでは、リスクの比を述べるのではなくリスクの差を述べることを推奨しています。仮に1.93が2.97に「増加した」として、「約1.5倍になった」というのではなく、「10万飛行時間当たり1」も上昇したと表現するようにとしています。「10万飛行時間、つまり11.5年の飛行につき、1回分重大事故の発生が当初の説明より高い」と。これで、初めて感覚としてどの程度の頻度の上昇があるのかつかめるようになるからです。これが深刻な問題なのか、大したことないのかは、実際の運用状況と情報の受け取り側の環境によるところでしょう。比で表現する1.5倍よりは、差を表現した方が具体的なイメージがわくように思います。