平成28年度補助事業成果報告書
事業名: 平成28年度医療研究開発推進事業費補助金(長寿・障害総合研究補助事業)
(英語)Research and Development Grants for Comprehensive Research for Persons with Disabilities
研究開発課題名: 発達性吃音の最新治療法の開発と実践に基づいたガイドライン作成
(英語)Development of innovative therapy techniques and intervention guidelines based on clinical practice for developmental stuttering.
補助事業担当者(研究代表者): 国立障害者リハビリテーションセンター研究所感覚機能系障害研究部 部長 森浩一
(英語)Koichi Mori, Director, Department of Rehabilitation for Sensory Functions, Research Institute, National Rehabilitation Center for Persons with Disabilities.
実施期間: 平成28年4月1日 〜 平成29年3月31日
成果の概要(総括研究報告)
(1) 幼児吃音への早期介入システムの開発
1) 幼児吃音の疫学調査のためのチェックリスト作成・幼児吃音の疫学調査研究
本研究は、3歳の幼児をおよそ2年間追跡することで、吃音の有病率や自然治癒率、またそれらに関わる要因を明らかにすることを目的としている。
平成28年度は、分担研究者の小林宏明(金沢大学教授)、宮本昌子(筑波大学准教授)、原由紀(北里大学講師)、菊池良和(九州大学病院助教)、酒井奈緒美(国立障害者リハビリテーションセンター)の5名が、各施設の倫理審査の承認の後、保健センター等とスケジュール調整を行い、全国4カ所の地域(福岡、金沢、つくば、相模原)の3歳児健診および3歳6か月児健診において、3歳児の吃音症状の有無について、チェックリストを使用した調査を実施した。
調査期間平成28年7月〜平成29年3月における調査協力者数は、福岡211名、金沢391名、つくば357名、相模原554名の計1,513名であった。チェックリストの有効性は、研究者が直接対象児の所見を取ることで確認を行っている。吃音の中核症状の1つである「語頭音のくり返し」は幼児期の症状のほとんどを占めるが、一部のデータについて集計したところ、対象幼児の8.6%に認められた。また健診実施より以前に症状が認められた割合は3.9%であった。
平成29年度初頭にはさらに研究対象者を追加して2,000名規模の統計データを出すとともに、今後の研究では、これら児の有症率の変化を追跡する。
対象者から引き続き協力を得られるように、①リマインダーとして注意する症状と連絡先を明記したマグネット(冷蔵庫のドアにつけられるもの)の送付、②毎月1回のメールマガジンの配信を実施した。
2) 暫定ガイドラインの作成
研究開発分担者(見上昌睦、川合紀宗、前新直志)と共同し、幼児期早期介入および治療効果に関する後方視的調査と文献調査を実施し、介入のための暫定ガイドラインを作成した。
3) 幼児介入効果研究の実施(坂田善政)
幼児介入効果研究について、国立障害者リハビリテーションセンターにて倫理審査を受審し、平成28年6月に承認された。UMINに臨床研究登録を行った。
平成28年11月に参加者募集を開始し、年度末までに9名の参加者を得て介入を開始した。現在のところ、介入による有害事象は見られていない。
協力候補者の中で合併症のある症例については、担当の研究開発分担者(金樹英精神科医師)に報告し、暫定ガイドラインの妥当性について検証作業を行った。
平成29年3月に、29年度から介入効果研究に携わる予定の筑波大学の臨床家を対象に、能力要求モデルに基づくアプローチに関する講習を行った。
(2) 青年期以降の吃音への支援技術の開発(北條具仁)
中高生・成人に対する認知行動療法を用いた吃音症の治療方法開発に向け、倫理審査委員会の承認後、暫定版プログラムでのグループ介入を開始した。またUMINへの登録を行った。
29年度以降には暫定プログラムの結果から修正プログラムを作成し、本介入を行う。
吃音のある中高生の実態調査に使用する調査書を完成した(倫理審査受審済み)。また、小児の吃音重症度を測定する質問紙として国際的に使われているOASES-S、OASES-Tの日本語版(仮翻訳)を作成した。
今後折り返し翻訳を行い、原著者による確認と必要な修正が終了した後、公式版として、実態調査に用いる。
(3) 自閉症スペクトラム障害, AD/HD, うつ等合併症障害対応
2014年1月から2017年3月に成人吃音外来初診症例の診療録による後方視的調査を行い、暫定結果として、28.5%に精神科や心療内科の受診歴があり、5.7%は発達障害の診断だった。また、幼児介入効果研究への参加者で発達障害の併存が疑われた幼児について評価を行い、発達障害の診断をした。