2019〜2021年度補助事業成果報告書
研究の概要
研究の目的
- 学齢初期までの新規発症を調査し、累積発症率と発症や持続に関わる定性的要因を確定する
- 吃音の経過への関与が示唆されている要因について、吃音が回復した児と残存する児で比較調査して回復・持続関連要因を明らかにする
- 近年提案されている認知行動療法的アプローチを含めた治療法の有効性の検証を行う
- 学齢期の吃音の影響を評価する方法として、国際的に広く用いられているOASES-S(学齢期用)質問紙の日本語版を作成し、標準化を行う
- 前研究の成果である「幼児吃音臨床ガイドライン」を、パブリック・コメントに対応した修正を加え、第1版を完成・公開する
さらに、国際的にも有効性の高い治療法が確立していない学齢期について、
また、
研究の成果概要
(1)コホート調査
3歳児健診から追跡しているコホートで、1539人に質問紙を送付し、1130人の有効回答(73.4%)を得た。研究を終了時に吃音症状が残っている者は18人であり、有症率は1.6%となった。満8歳までに85%以上の吃音が消失したことになる。
(2)対面調査による回復要因の探索
吃音の既往のある児と現在症状がある児を比較した。コロナ禍で辞退する症例もあり、最終的に9名の吃音が持続している児と、吃音が消失した対照9名を比較したところ、音韻操作能力(語の逆唱)において、吃音持続群の方が反応時間が有意に長かった。
(3)学齢期吃音の評価・治療法開発
1) OASES-S-J標準化
世界共通の吃音のある学童の心理評価質問紙OASES-S-Jの120名の結果の論文が学術誌に掲載された。
2) 学齢期吃音の治療の有効性を検証する介入研究
学齢期の吃音に効果があると想定される2つの方法(直接的発話指導と心理教育)の無作為割付スイッチオーバー比較介入研究を3施設において合計30名に実施した。コロナ禍のために一部で後半、あるいは終了後3ヶ月目の評価が未完了であるが、データ収集が終了した20名の暫定分析を実施したところ、前半の3ヶ月において、直接的発話指導群の吃音中核症状頻度の平均は19.95から9.65に減少し(p < 0.05)、心理教育群は平均23.38から17.95に減少した(p < 0.05)。
3) 通級指導教室担当教員及び言語聴覚士を介した在籍学級環境調整調査
通級指導教室担当教員及び言語聴覚士100名に、「子どもの吃音サポートガイド」(小林, 2019年)に基づき、(1)児童生徒が学校生活で抱える困難の実態調査と(2)『サポートガイド』の有効性についての調査を行い、(1)は99名、(2)は82名より回答があった。(1)困難場面で多かったのは、他の子どもからの指摘、新入学、進級時、音読、授業の発表、自己紹介、他の子どもからのからかい、日直当番などだった。(2)学校生活の困難で多かったのは、大勢の人の前で話す、他児が吃音を笑ったり真似したりからかったりするなどだった。
(4)幼児吃音臨床ガイドライン第1版の完成と公開
パブリッ・クコメントに対応する修正を行い、2021年9月30日に第1版を公開した。Mindsの基準に従った今後の改定は、日本吃音・流暢性障害学会のワーキンググループに移管した。