第20回 子どもの睡眠①
メールマガジン第20号

子どもの睡眠(1)

配信年月:2018年5月

本研究は、子どものことば(吃音)をテーマにしておりますので、メルマガでも、ことばの発達や情緒の発達、社会性の発達(友達関係)など、人間に特有な高次な領域を主に取り上げてきました。今回は、より生理的な部分に相当する「睡眠」を取り上げてみたいと思います。

1. 睡眠の重要性

「睡眠負債」という言葉をご存知でしょうか。毎日のちょっとした睡眠不足が借金(負債)のように積み重なってしまうことを指し、この状態が心や身体に悪影響を与えうることが注目されています。我々は起きている間に、「睡眠物質」と呼ばれる眠くなる物質を脳に貯め(負債し)、それを分解する(返済する)ために眠るのですが、日々十分に眠って返済できていないと、「睡眠負債」という状態におちいります。

大人にとっての睡眠は身体や脳の働きを“維持する”ためのものですが、子供の睡眠は脳をはじめとする神経や身体を“形成する”ためのものです。起きている間に五感を使って得たさまざまな情報を、眠っている間に記憶として整理し、大脳を発達させていきます。また適切な時間に睡眠を取ることで、成長ホルモンが十分に分泌され、脳や身体の発達を促します。昔から「寝る子は育つ」と言われるように、子どもにとって睡眠は大変重要なものです。そのため、子どもに「睡眠負債」が生じると、その影響は大人よりも大きなものになると思われます。

2. 日本の子どもの睡眠時間

近年、日本人の生活スタイルが夜型化して、大人の睡眠時間が年々減少しており、それらの影響を受けて、日本の子どもたちの就寝時間も年々遅くなっていることが報告されています。厚生労働省が行っている21世紀出生児縦断調査では、4歳6ヶ月時点での最も多い就寝時刻は21時台(50.1%)、次いで22時台(21.9%)であり、21時前に就寝する子供は5人に1人以下しかいませんでした。これは共働き家庭が増えることで、親の帰宅時間が遅くなることが影響していることもわかっています。また、小学校以降では、塾や習い事による帰宅時間の遅さ、テレビやゲーム、インターネットによる夜更かしなどから、日本の子どもたちの睡眠時間は、諸外国の子どもたちより大幅に短くなっています。

3. 睡眠不足の影響

先に述べたように、十分な睡眠は、子どもの健康な心と体を作るのに不可欠なものです。これまでの研究では、睡眠時間の短い子どもたちは、学業成績や記憶力などが低いとの報告が複数見られています。脳の大きさと睡眠時間との関係を調べた研究では、睡眠を十分取っている子どもは、睡眠時間が短い子どもより、特に記憶に関わる領域である海馬(かいば)の大きさが大きいことが報告されました。他にも、小・中学生において、イライラ感の強い子どもは、夜更かしをしている子どもが多かったという報告もあります。このように、知的・情緒的発達に睡眠が影響を与えることに加え、昼間に眠かったり夜眠れないなどの睡眠リズムの問題、また頭痛・肩こりなどの身体の不調の問題も起こり得ます。昼夜のリズムができる乳幼児のうちから、しっかりと睡眠をとる習慣を身につけ、子どもが昼間に十分に活動できるよう発達を促していきたいものです。

*今回は、「睡眠が大事なのは分かっているけど、なかなか実践がむずかしい」というお母様、お父様方には耳の痛い話となってしまったかもしれません。中にはお子さん自身の特徴として、なかなか寝ない、夜中に起きてしまうなどもあるかもしれません。次回のメルマガでは、睡眠時間を確保するためには、どうすればよいか?について取り上げます。

 

4.  吃音の豆知識(感受性が強いと…)

吃音のある人に対して、神経質そうだとか、几帳面そう、緊張しやすそうなどの印象をもつことがあるかもしれません。しかし、これまでの吃音研究は、吃音になりやすい性格的な特徴があることは示していません。一方で、繊細で感受性の強い子どもは、ちょっとしたことばのつっかえに反応しやすく、結果的に話す時に体の緊張を強くしてしまう可能性があることは指摘されています。とは言え、感受性の強さは個性としてよい面もありますので、子どもの高い感受性を共感的に受け止めながら、情緒やことばの発達を見守っていくことが大切です。吃音に関しては、改善するのに1〜2年ほど(それ以上の場合もあります)の時間が必要ですので、ゆったりとした気持ちで、お子さんの話に耳を傾けてください。

 

5. 参考図書・資料など

    1. 三島和夫. 子どもの睡眠. 白石君男.厚生労働省 生活習慣病予防のための健康サイト e-ヘルスネット.
      https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-007.html
    2. 厚生労働省. 第5回21世紀出生児縦断調査結果の概要.
      http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/syusseiji/05/index.html
    3. 大川匡子. 子どもの睡眠と脳の発達-睡眠不足と夜型社会の影響-. 特集1 望ましい子どものこころの育ちと環境を実現するために. 学校の動向. 2010.
    4. 東北大学加齢医学研究所ニュース. 健常小児における海馬体積と睡眠時間の相関. 2012.09.17
    5. 廣島忍・堀彰人. 子どもがどもっていると感じたら. 子育てと健康22シリーズ. 大月書店. 2004.
    6. バリー・ギター著、長澤泰子監訳. 吃音の基礎と臨床. 学苑社. 2007.

変更履歴:2022-07-12 参考資料4のリンクが切れていたので修正しました。

 

AMED研究「発達性吃音の最新療治法の開発と実践に基づいたガイドライン作成」
 研究代表 国立障害者リハビリテーションセンター 森 浩一

 

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