絵本で育まれるもの
配信年月:2018年3月
先月の17号のメルマガ、また一年前の5号のメルマガで、3歳と4歳の絵本を取り上げました。<3歳の絵本>では、お母さん・お父さんが自分のために絵本を読んでくれるという行為そのものが、子どもの「自分は大切にされている」という感覚を育てること、また<4歳の絵本>では、何かを教え込むために読むのではなく、一緒に絵本を楽しむことが子どもの安定した情緒を育むことをお伝えしました。今月は、その「情緒を育む」について、もう少し詳しくご説明します。
1. 豊かな感情
子どもにとって、絵本を楽しむということは、その主人公になりきって、絵本の世界を体験することです。絵本には楽しい場面だけでなく、恐ろしい場面も出てきます。そのため、幼い子ども1人でこの世界を体験することはとても心細いものでしょう。しかし、信頼できるお母さん・お父さんが読んでくれる、つまり常に一緒にそこにいてくれることで、子どもは見守られていることを感じながら、安心して絵本の世界を十分に楽しむことができます。
1冊の本を読み終わった時、ワクワクしたこと、驚いたこと、心配したことなど、様々な情動の体験が、全てお母さん・お父さんと共有した感動となるのです。子ども達はもちろん、実生活においても心が動き、感情が育まれますが、絵本では実生活では体験でき得ないことも味わうことができます。毎日、お母さん・お父さんと、楽しみながら絵本の世界を体験することで、ますます豊かな感情が育まれます。
2. 心の知能指数
このような、様々な場面での感情の体験は、近年盛んに言われている「心の知能指数」の向上につながると考えられます。「心の知能指数」とは、「自分や他の人の感情に気づき、自分の感情をコントロールする力」のことであり、社会で生きていく際に大きな力となるものです。
昨今、子どもや若者について、人の痛みが分からない、思いやりがない、すぐにキレるというような問題が指摘されていますが、人の気持ちに気づき、相手を思いやる気持ちは、自分が信頼できる人と共に喜び、共に悲しむなどの気持ちを共有する経験を積み重ねて初めて培われるものです。絵本に出てくる、様々な知識をついつい子どもに教えたくなってしまうかしれませんが、単に絵本のストーリーの中で、親子一緒に様々な感情体験をすることが、子どもの生きる力の土台作りになっているのです。
3. 知恵やメッセージ
感情体験と同時に、生きるための知恵やメッセージも、絵本の中には含まれています。特に、世代を通じて受け継がれてきた昔話には、人間にとって共通のテーマが多く見られます。例えば、主人公が、オオカミ、やまんば、鬼などの自分にとって恐ろしいものと、知恵や力をしぼって戦い最終的に打ち勝つ姿は、困難に対して果敢に立ち向かい、克服していくようなテーマが含まれていると思われます。
読んだすぐ後に、子供達がその絵本に込められたメッセージを理解する必要はありません。しかし、そのメッセージは、物語を読んでくれたお母さん・お父さんの優しい声とともに、心の中にしまわれており、子どもが成長する過程で必要な時に、きちんと取り出せるようになっていることが、子どもの生きる力となるのです。
4. 吃音の豆知識(歌や斉唱はどもりにくい)
ひとりごとを言う、歌を歌う、誰かと一緒に声を揃えて言うなどといった状況では、吃音が出にくいことが報告されています。ひとりごとや、誰かと一緒の場合に吃音が出ないということは、話すことに意識が向いていない(きちんと話さなければと思ったり、聞かれていると思ったりすることがない)ことが影響しているかもしれません。また歌を歌うことは、リズムに乗ることであり、それが吃音を出にくくしているとも言われています。メトロノームのような単調なリズムに合わせて話すときも吃音が出にくいことが多いです。
5. 参考図書など
- 瀧薫 (2010). 保育と絵本. 発達の道すじにそった絵本の選び方. エイデル研究所.
- 菊池良和 (2012)..エビデンスに基づいた吃音支援入門. 学苑社.
AMED研究「発達性吃音の最新療治法の開発と実践に基づいたガイドライン作成」
研究代表 国立障害者リハビリテーションセンター 森 浩一