SLCトランスポーター異常症
Point
- ヒト遺伝子の1割はトランスポーター関連遺伝子である。
- トランスポーターは、ABCトランスポーターとSLCトランスポーターの2つに分類される。
- SLCトランスポーターは、神経伝達物質などの内因性物質の輸送に関わり、中枢神経機能の維持に重要な役割を果たし、治療標的としても注目される。
治療可能な疾患
SLC2A1遺伝子異常症 グルコーストランスポーター1(GLUT1)欠損症
C:不随意運動(空腹時に悪化)、眼球運動異常、知的障害
B:髄液糖/血糖比<0.45
L:髄液糖/血糖比<0.45、糖↓
P:脳波:徐波が食後に改善
治療:ケトン食、L-カルニチン、ビタミン、ミネラル
SLC6A3遺伝子異常症 ドパミントランスポーター欠乏症候群
C:筋緊張低下、動作緩慢、ジストニア、パーキンソニズム異常な眼球運動
L:ホモバニリン酸↑5-ヒドロキシインドール酢酸→、ホモバニリン酸/5-ヒドロキシインドール酢酸>5
R:前側頭部のくも膜下腔の開大、髄鞘化遅延、SPECTで基底核のドパミン取り込み低下
治療:L-ドパ、ドパミンアゴニスト(プラミペキソール塩酸塩35μg/kg、ロピニロール塩酸塩0.5-4mg/day)、MAO―B阻害薬
SLC6A19遺伝子異常症 Hartnup病
C:ペラグラ様皮膚炎、眼振(小脳失調)
U:中性アミノ酸
R:頭部MRI: 脳萎縮、髄鞘化遅延
治療:ニコチン酸(ニコチン酸アミド散10%)を50-300mg/day投与
SLC18A1/SLC18A2遺伝子異常症 脳ドパミン・セロトニン小胞トランスポーター変異疾患
C:発達遅滞、体幹低緊張、眼球上転発作、仮面様顔貌、Parkinson病様引きずり歩行
B:異常を示さず
R:異常を示さず
治療:プラミペキソール塩酸塩水和物(0.01-0.02mg/kg/day)、トリヘキシフェニジル塩酸塩(0.2mg/kg/day)
SLC19A2遺伝子異常症 チアミントランスポーター1欠損症、チアミン反応性巨赤芽球性貧血症
C:貧血、糖尿病、難聴
B:巨赤芽球性貧血
治療:チアミン補充(25-100mg/day)
SLC19A3遺伝子異常症 ビオチン反応性大脳基底核病
C:筋緊張低下、けいれん発作、嚥下障害、運動失調、構音障害、感染に伴う脳症エピソード
B:代謝性アシドーシス↑
R:頭部CT:両側大脳基底核と皮質下に低吸収域
頭部MRI:基底核を中心に両側対称性T2WI・FLAIR高信号
治療:チアミン 10-40mg/kg/day 最大1500mg
ビオチン 5-10mg/kg/day
SLC22A5遺伝子異常症 全身性カルニチン欠乏症
C:飢餓や感染で発症、嘔吐、けいれん
B:AST↑、CK↑、アンモニア↑、ケトン体↓
S:遊離カルニチン↓、尿中遊離カルニチン排泄率>2.1%
治療:カルニチンの大量投与(L-カルチン 100-400mg/kg/day)
SLC25A15遺伝子異常症 高オルニチン血症・高アンモニア血症・ホモシトルリン尿症(HHH)症候群
C:脳症、失調やアテトーゼ(発作時)、進行性痙性麻痺
B:オルニチン↑、食後の高アンモニア血症、血液凝固因子(Ⅶ、X)↓
U:ホモシトルリン↑、オルニチン
治療:蛋白制限食、一部でオルニチン、アルギニンの補充療法
SLC35A2遺伝子異常症 先天性グルコシル化異常症ⅡM
C:乳児早期てんかん性脳症、発達遅滞、筋緊張低下、小頭症、眼球運動障害
R:大脳や小脳萎縮、脳梁菲薄化
治療:ガラクトース補充
SLC35C1遺伝子異常症 先天性グルコシル化異常症ⅡC
C:発達遅滞、特異的顔貌、小頭症、四肢短縮を伴う低身長、細菌感染の反復
B:好中球数増加、好中球遊走能低下
治療:フルクトース補充
SLC46A1遺伝子異常症 先天性葉酸吸収不全
C:重症感染症、発達遅滞、痙攣、不随意運動、末梢神経障害、体重増加不良
B:葉酸(<0.1mg/ml)、巨赤芽球性貧血を伴う汎血球減少,低ガンマグロブリン血症
治療:フォリン酸10-15mg/kg/dayまたは50mg/dayの定期的非経口(筋注,静注)投与
SLC52A2/SLC52A3遺伝子異常症 Brown-Vialetto-Van Laere症候群、Fazio-Londe病
C:延髄機能障害(嚥下、呼吸など)、感音性難聴、視神経萎縮、四肢の脱力(上肢>下肢)、感覚障害(深部感覚優位)
B:アシルカルニチン異常
P:感覚運動軸索ニューロパチーの所見、SNAPの消失とCMAPの減少
S:腓腹神経生検で大型の有髄線維の減少(SLC52A4)、や運動ニューロパチー・軸索変性(SLC52A2)
R:頭部MRI所見を認める症例は少ない。
治療:リボフラビン補充療法 (10-80mg/kg/day)