ミトコンドリア病
Point
- ミトコンドリア病は、ATP産生障害のために、中枢神経系・筋などエネルギー需要の大きい臓器の機能障害をきたす疾患である。
- 疑うポイントは多臓器にわたる症状と、感染などエネルギー需要がさらに高まる際に、症状・検査値が悪化することである(脳卒中、てんかん発作、脳神経症状、乳酸値上昇、トランスアミナーゼ上昇など)。
- 神経細胞死から壊死性病変や萎縮性病変を生じる画像上の変化として描出できる。
- 各種ビタミントランスポーターや補酵素関連疾患には、治療可能なものがあり、鑑別や診断的治療が望まれる。
治療可能な疾患
チアミン(ビタミンB₁)反応性疾患
ピルビン酸脱水素酵素複合体異常症
C:発達遅滞、けいれん、筋緊張低下、呼吸障害
B:乳酸↑、ピルビン酸↑、アラニン↑、プロリン↑
L:乳酸↑、ピルビン酸↑、アラニン↑、プロリン↑
R:頭部MRI:脳幹、基底核、視床の壊死性病変(Leigh脳症)
治療:チアミン投与、ケトン食(ケトンフォーミュラ)
チアミンピロホスホキナーゼ1欠損症
C:感染を伴って急性脳症エピソード、脳症エピソードの反復、発達遅滞、筋緊張異常、失調、歩行障害、けいれん、構音障害
B:乳酸↑、チアミンピロリン酸(thiamine pyrophosphate:TPP)↓
U:α-ケトグルタル酸↑
L:乳酸↑
R:頭部MRI:脳幹、基底核、小脳(特に歯状核)に両側対称性T2WI高信号
治療:チアミン投与、ケトン食(ケトンフォーミュラ)
ビオチン反応性大脳基底核病
C:筋緊張低下、けいれん発作、嚥下障害、運動失調、構音障害、感染に伴う脳症エピソード
B:代謝性アシドーシス↑
R:頭部CT:両側大脳基底核と皮質下に低吸収域
頭部MRI:基底核を中心に両側対称性T2WI・FLAIR高信号
治療:チアミン 10-40mg/kg/day 最大1500mg
ビオチン 5-10mg/kg/day
リボフラミン反応性疾患
Brown-Vialetto-Van Laere症候群、Fazio-Londe病
C:延髄機能障害(嚥下、呼吸など)、感音性難聴、視神経萎縮、四肢の脱力(上肢>下肢)、感覚障害(深部感覚優位)
B:アシルカルニチン異常
P:感覚運動軸索ニューロパチーの所見 SNAPの消失とCMAPの減少
S:腓腹神経生検で大径の有髄線維の減少(SLC52A3)や運動ニューロパチー・軸索変性(SLC52A2)
R:頭部MRIで異常所見を認める症例は少ない
治療:リボフラビン補充療法(10-80mg/kg/day)
ミトコンドリア呼吸鎖複合体Ⅰ欠乏症(ACAD9欠乏症)
C:肥大型心筋症、ミトコンドリア脳筋症、運動不耐
B:乳酸アシドーシス
S:呼吸鎖酵素活性異常
治療:リボフラビン補充療法(10-80mg/kg/day)
モリブデン補助因子欠損症A型
C:難治てんかん、哺乳不良、重度の発達遅滞、痙性四肢麻痺、小頭症、粗な顔貌
B:尿酸↓
U:尿酸↓、亜硫酸↓、S-スルホシステイン↓、キサンチン↓、ヒポキサンチン↓、タウリン↑
R:病初期には全体的な浮腫、白質や両側淡蒼球・視床の多発のう胞
脳1H-MRSでコリンピークの上昇
治療:A型では、cPMP(cyclic pyranopterin monophosphate)投与
B型では、尿中α-AASA(α-amino adipic semialdehyde)が上昇することがあり、その場合ピリドキシンによる治療が有効
コエンザイムQ10欠損症
C:脳症、脳筋症、発達遅滞、運動失調、腎障害、難聴、網膜色素変性症、心筋症
G:CoQ10生合成に直接関与する蛋白質をコードする9つの遺伝子の1つに両アレル性の病原性バリアントを同定
S:骨格筋における酸化型CoQ10レベルの低下
凍結筋ホモジネートを用いてミトコンドリア呼吸鎖の複合体Ⅰ+ⅢとⅡ+Ⅲの活性低下
治療:PDSS2, COQ4, COQ6, ADCK4遺伝子変異によるCoQ10欠損症に対しては、CoQ10の経口投与(5-50mg/kg/day)
主要な共因子関連ミトコンドリア病をカバーする目的のエンピリカルな治療として、CoQ10(15mg/kg/day)+チアミン(20mg/kg/day)+ビオチン(5mg/kg/day)+ リボフラビン(20mg/kg/day)
チオレドキシン2欠乏症
C:小頭症、協調運動障害、痙性、発達遅滞、てんかん、網膜症、視神経萎縮、末梢神経障害、自律神経障害
B:乳酸↑
L:乳酸↑
S:筋生検検体でのミトコンドリア呼吸鎖複合体ⅠおよびⅢの活性低下とATP産生率低下
治療:抗酸化剤(イデベノン)
ミトコンドリア炭酸脱水酵素欠損症
C:新生児~乳児発症
B:アンモニア↑↑、乳酸↑、ケトン体↑、グルタミン↑、アラニン↑シトルリン↓
U:3-OHプロピオン酸↑プロピオニルグリシン↑、メチルクエン酸↑
S:アシルカルチニン分析C3↑C5-OH↑
治療:高アンモニア血症に対して、安息香酸ナトリウム(250mg/kg)やL-アルギニン投与(アルギUR注(10%) 3.6mL/kg)
代謝性アシドーシスや低血糖に対して、蛋白摂取制限食と高脂肪食、高カロリー輸液
ミトコンドリアグルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ欠損症
C:後天性小頭症、重度のけいれん、痙性、睡眠障害、腹痛
B:セリン↓
L:セリン↓
治療:セリン、ピリドキシン塩酸塩