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膵臓移植について

背景

<膵臓移植とは>

膵臓はアミラーゼやリパーゼなどの消化酵素を分泌して消化吸収を助ける外分泌細胞と、インスリンやグルカゴンを分泌して血糖調節を行う内分泌細胞との2種類の、全く働きの異なる細胞群(組織)より構成されています。外分泌細胞は膵臓の99%を占めており、これら細胞で作られる消化酵素は、膵管と呼ばれる導管を通って十二指腸に放出されます。内分泌細胞は直径が約0.1~0.3 mmの球状の細胞塊(膵島)として、膵外分泌組織の中に点々と散らばっています。塊として散らばっている様子から“膵臓のなかの島”という意味で膵島の名前がついています。膵臓の中には成人一人あたり約100万個の膵島が存在します。膵島にはα細胞、β細胞、その他ごく少数の働きの違う細胞が含まれます。β細胞は、血糖が上昇した場合に血糖を低下させるホルモンであるインスリンを分泌します。反対に血糖が低下しすぎた時には、α細胞から血糖を上昇させる働きがあるグルカゴンが分泌されます。
1型糖尿病は膵臓からのインスリン分泌が欠乏している病気です。1921年にインスリンが発見され、インスリンの注射が出来るようになり、糖尿病の患者さんがそれまでのように高血糖による意識消失(昏睡)で亡くなることは少なくなりました。しかし、インスリンの注射を行っても、長期にわたり不安定な血糖管理が続くと心臓、脳、腎臓、目(網膜)などの大切な臓器の血管病変が進行し、心筋梗塞、脳梗塞、腎不全や視力障害(網膜症による失明)が引き起こされ、さらに末梢神経障害が出てきます。このような合併症はいったん出現すると、インスリンの治療を強化しても改善されません。また、糖尿病腎症が進行し透析が必要な方は、腎臓移植を受けることにより、その生活の質(QOL)はかなり改善します。しかし、腎臓移植だけを行ってもインスリンの治療は継続しなければならないため、移植した腎臓に糖尿病性の血管病変が起こってくる可能性があります。
膵臓移植は、膵臓からのインスリン分泌がなくなってしまったインスリン依存性糖尿病(1型糖尿病)に対する根治的治療法の一つで、膵臓を移植することで血糖の安定化とインスリン療法からの離脱、新たな血管病変の増悪を阻止し、移植前より制限の少ない生活を送るために行われます。また、末期腎不全を伴っている方は、膵臓と腎臓の同時移植を受けることができます。

<膵臓移植の歴史>

1966年に、米国ミネソタ大学において初めて、糖尿病末期で腎不全を合併した患者さんに、膵臓と腎臓の移植が行われました。1981年には、免疫抑制剤としてシクロスポリンが人の移植に使用できるようになり、続いてタクロリムス等の免疫抑制剤が、開発され使用されるようになりました。それ以来、移植医療は発展し数多くの膵臓移植が確立した治療法として日常的に行われています。
日本では、1984年に筑波大学において、第一例目の脳死下膵臓移植が行われました。それ以後は、心停止後の方から提供された膵臓の移植が行われてきました。1997年10月16日に「臓器移植法」が施行されたことにより、心臓停止後の腎臓と角膜の移植に加え、脳死からの心臓、肝臓、肺、腎臓、膵臓、小腸などの移植が法律上可能になりました。また、2010年7月17日に「改正臓器移植法」が施行され、本人が生前に臓器提供を拒否していなければ、家族の同意により臓器提供ができることになりました。また、15歳未満の子供からの臓器提供も可能となりました。脳死下または心停止下膵臓移植は2006年4月より保険収載されていますが、2010年の法律の改正により、移植件数は格段に増加しています。

<膵臓移植の方法>

膵臓移植は全身麻酔で行います。提供者から頂いた膵臓と十二指腸の一部を移植することになります。通常は右足に流れる血管(外腸骨動静脈)につないで移植します。膵臓は消化液(膵液)を産生するため、この消化液が流れるように、移植した十二指腸と患者さんの小腸(もしくは膀胱)をつなぐ必要があります。膵臓と腎臓を同時に移植する場合は、左側の足に流れる血管に腎臓をつないで移植します。通常は患者さんの膵臓や腎臓を摘出することはありません。

<移植に伴う合併症>

膵臓移植の頻度の高い合併症として、移植した膵臓の静脈血栓症があげられます。頻度は約5%であり、移植後早期にみられる最多の合併症です。発症するとグラフトの血流が急激に悪くなるため、血管内治療や緊急手術を行って血流を改善させる必要があります。移植した十二指腸の穿孔や小腸(もしくは膀胱)とつないだ部分の縫合不全を起こすこともあります。膵液が体内に漏れ出てしまうと強い炎症を起こすため、再手術やドレナージ術が必要となります。血管吻合部の狭窄などを起こすこともありますが、頻度は高くありません。

<移植後の合併症>

膵臓移植などの臓器移植では、移植した臓器を排除しようとする免疫反応である拒絶反応が起こります。この拒絶反応を抑えるため、数種類の免疫抑制剤を長期に渡り服用することが必要となります。移植医療全般に言えることですが、免疫抑制剤の内服により、細菌、ウイルス、真菌類や寄生虫などに対する免疫反応を抑えてしまう可能性があり、感染症にかかる頻度が高くなります。時に重症化して生命の危険をもたらすこともあります。そのため、移植後は定期的な受診で体調のチェックや免疫抑制剤の量の調整を行う必要があります。また、移植を受けた方は、受けない人に比べて悪性腫瘍の発生頻度が高くなることが知られています。そのため、定期的にがん検診を受けることを勧めています。

<移植後の経過>

順調に経過した場合、1か月程度で退院できます。移植した膵臓が機能すれば、血糖値は移植直後から安定します。通常は移植によりインスリンが不要となることが多いですが、移植した膵臓の機能が患者さんにとって十分でない場合は、移植後もインスリンの注射や経口糖尿病薬を使うことがあります。血栓症や強い拒絶反応が起こった場合は、移植した膵臓を摘出することもあります。