手術紹介

転移性脳腫瘍

転移性脳腫瘍とは

転移性脳腫瘍とは、体の他の部位の癌が頭蓋内(頭蓋骨の中)に転移してくる腫瘍のことです。脳腫瘍は頭蓋内から発生する原発性脳腫瘍と転移性脳腫瘍に別れ、原発性の脳腫瘍は良性、悪性のどちらもありますが、他臓器から転移してきたものは悪性の腫瘍です。原発巣(最初に癌ができた場所)としては、肺癌が約50%、次いで乳癌、胃癌、頭頸部癌、結腸癌、子宮癌の順になります。
一般的に転移性脳腫瘍患者さんの予後は良いとは言えず、平均で半年間程度です。これは全身の癌の状態や年齢等に大きく左右されるためです。転移性脳腫瘍自体は治療によって十分コントロールできる場合が多いので、転移性脳腫瘍が見つかったからといって治療をあきらめる必要はありません。原発巣が良ければ、多発転移性脳腫瘍の治療後10年以上も再発なく元気に生活されている方もおられます。ですが、状態の悪い患者さんへの治療は、体への負担が大きいため積極的治療はお勧めできません。

症状

症状としては、出来た場所に応じて手足が動きづらい、感覚がおかしい、ふらつく、物が二重に見える、ろれつが回らない、言葉が出づらい、けいれんなどの様々な局所神経症状が出ます。また、元々頭蓋骨は脳を守るために存在しますが、脳腫瘍ができたことによって頭蓋内の脳以外の体積が増大するため、頭蓋内の内圧が上昇します。これを頭蓋内圧亢進症状と言い、頭痛や吐き気を引き起こします。進行すると脳自体が頭蓋骨の内側から頭蓋骨の外側へ出ようとします。この状態を脳ヘルニアと呼び、ここまで進行するとかなり危険な状態となります。

検査

 造影剤を使ったMRIは非常に小さな転移性脳腫瘍も発見することができます。治療方針を決める際は、正確な転移の数と大きさが重要ですので必須の検査といえます。ですが、色々な事情で造影剤を用いたMRIが難しい場合は、造影剤を使わないMRIや造影剤を用いたCTで代用することもあります。またPET-CTなどの核医学検査によって転移性脳腫瘍が見つかることもあります。全身の癌の状態を把握するため、全身の造影CTや腫瘍マーカー測定も重要です。

治療

 転移性脳腫瘍の治療は、大きく分けて定位放射線治療(ラジオサージェリー)、手術による摘出、放射線分割照射に分かれます。これらは頭蓋内のコントロールが目的であり、原発巣の治療(化学療法等)は別に検討が必要です。
定位放射線治療に使われる装置にはX線を使用したライナック、サーバーナイフやγ線を使用したガンマナイフなどがあります。これらは転移性脳腫瘍のコントロールに優れており、全身に対する負担も少ないため、第一に考慮される治療であるといえます。ですが、大きさが直径3cm以内であり、かつ転移数が3個程度までといった制限があります。通常2〜3日の入院で行えるのも大きなメリットです。


転移性脳腫瘍(肺腺癌)定位放射線治療前と治療半年後

それに対して手術摘出は3cmを超える転移性脳腫瘍に対して行われます。定位放射線治療以上に腫瘍のコントロールに優れますが、脳や体への負担は大きくなります。全身麻酔が必須ですので、全身麻酔が不可能な場合は行えません。また、複数の転移性脳腫瘍がある場合は、一度に治療することは困難となります。手術のみであれば入院期間は約2週間程度です。


転移性脳腫瘍(乳癌)手術摘出前と摘出半年後

放射線分割照射は多数の転移性脳腫瘍がある場合に行われます。脳全体に放射線を1日に少量ずつ照射する方法です。腫瘍細胞は神経細胞の中に滲みわたっている可能性があるため、定位放射線外科手術や手術摘出後にも行われます。一般的に総線量で30グレイ(Gy)という量を照射しますが、期間が約3週間かかります。通院が可能であるならば通院での治療も可能です。問題点として正常脳にも放射線が照射されるため、脳の老化(認知症)が早まる可能性があります。


転移性脳腫瘍(乳癌)手術摘出後放射線分割照射照射前と照射半年後

全身状態が悪く、これらの治療の負担が大きいと判断される場合は、頭蓋内圧を下げるために高浸透圧利尿剤やステロイド剤などが投与されます。

患者さんへ

 転移性脳腫瘍の治療には、頭蓋内の治療だけでなく、原発巣の治療も必要であることから、脳神経外科のみならず各科との密接な関係が必要となります。当院では放射線科の協力の下、定位放射線治療、手術摘出、放射線分割照射全ての治療に対応しており、原発巣の治療に関しても、内科、外科などの診療各科と密な連携を構築しています。また、癌治療に欠かせない痛みのコントロールに対する専門チームや、がん看護専門看護師、医療ソーシャルワーカーによるがん相談支援室の整備なども行っており、院内全体が一つのチームとなって治療にあたっています。