GeneReviews著者: Jessica Marquard、MS、LGC and Charis Eng、MD、PhD、FACP
日本語訳者: 内野眞也(野口病院外科)
GeneReviews最終更新日: 2019.8.15. 日本語訳最終更新日: 2023.1.27.
原文: Multiple Endocrine Neoplasia Type 2
疾患の特徴
多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)は、MEN2A、MEN2Bおよび家族性甲状腺髄様がん(FMTC、MEN2Aの亜型と考えられる)の3つの病型に分類される。これらすべての病型では、甲状腺髄様がん(MTC)を発症するリスクが高い。MEN2AとMEN2Bでは褐色細胞腫発症のリスクも高く、MEN2Aでは副甲状腺過形成あるいは腺腫が発症するリスクもある。MEN2Bでは、口唇や舌の粘膜神経腫、厚い口唇を伴う特徴的な顔貌、消化管神経節腫、マルファン様体形などの他の特徴を伴う。MTCは通常、MEN2Bでは小児期早期、MEN2Aでは若年成人期、FMTCでは中年期に発症する。
訳注:2015年の米国甲状腺学会による甲状腺髄様癌診療ガイドラインでは、FMTCは独立した病型ではなくMEN2Aの亜型のひとつと位置付けられている。
診断・検査
MEN2の診断は、MEN2の臨床診断基準を満たしている発端者において確定する。C細胞過形成あるいはMTCと診断されている患者や、臨床的にMEN2の診断を受けた患者に対しては、生殖細胞系列のRET病的バリアントを同定するためにRET遺伝学的検査が勧められる。MEN2に随伴する疾患の臨床診断がまだ不確定の場合は、RET病的バリアントを同定することにより診断を確定する。
臨床的マネジメント
疾患に対する治療:
甲状腺髄様癌(MTC)に対する治療は、甲状腺と所属リンパ節の摘出である。局所進行性の場合には、外照射(EBRT)や強度変調放射線治療(IMRT)を行うこともできる。転移性MTCに対してはキナーゼ阻害剤も使用することができる。生化学検査や核医学検査で発見された褐色細胞腫に対しては、副腎切除術を行う。原発性副甲状腺機能亢進症に対しては、単一腺もしくは複数腺の摘出を行うが、まれに副甲状腺ホルモン分泌を抑制する薬物治療を行うこともある。
一次病変の予防:
RET病的バリアントが同定された患者に対しては予防的甲状腺全摘術を施行する。
二次病変の予防:
どのような手術であっても、MEN2AまたはMEN2B患者の術前には、必ず生化学検査によって褐色細胞腫の可能性を除外しなければならない。
サーベイランス:
たとえMTCの(生化学的エビデンスがまだ得られる前の)発症前の段階で甲状腺全摘術を行った場合でも、残存腫瘍や再発を検出する目的で、術後は年1回の血清カルシトニン測定を行う。甲状腺全摘と副甲状腺自家移植を受けたすべての患者に対しては、副甲状腺機能低下症がおこらないかを検査していく。RET病的バリアントが同定された時に褐色細胞腫がまだ発症していなかった患者に対しては、副腎に関する生化学検査を年1回行っていく。
回避すべき薬剤や環境:
褐色細胞腫患者では、ドパミンD2受容体遮断薬やβ遮断薬による副作用を生じるリスクが高い。
リスクのある血縁者の検査:
RET病的バリアントが確定した場合、リスクのある血縁者全員に対してRET遺伝学的検査を勧めるべきである。
妊娠管理:
MEN2を有する女性は妊娠を計画する前または予期しない妊娠の可能性がある間は、できるだけ早く褐色細胞腫のスクリーニングを受けるべきである。
遺伝カウンセリング
MEN2はいずれの病型も常染色体優性形式をとる。病的バリアントがデノボ(新生突然変異)である確率はMEN2A発端者では5%かそれ以下であるが、MEN2B発端者では50%である。患者の子供は50%の確率で病的バリアントの遺伝子を受け継ぐ。RET病的バリアントが家系内罹患者で確定している家系では、妊娠時の出生前診断は技術的に可能である。
GeneReviewsで扱う範囲1 |
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同じ意味で用いられる病名や以前使われていた病名は病名(表記法)の項を参照のこと。
MEN2の診断基準については米国甲状腺学会ガイドライン作業部会(2009)にてまとめられている:診断の確定の項を参照のこと。
MEN2を疑う所見
MEN2の表現型には、MEN2A、家族性甲状腺髄様がん(FMTC)、MEN2Bがある。
甲状腺髄様がん(MTC)、褐色細胞腫、副甲状腺腫/過形成のうち、1つあるいはそれ以上認められる場合はMEN2Aを疑う。
家系内で2人以上にMTCが診断され、褐色細胞腫または副甲状腺腫/過形成がみられない場合はFMTCを疑う。
厚い口唇を伴う特徴的な顔貌、口唇や舌の粘膜神経腫、角膜神経肥厚、マルファン様体形とMTCが認められる場合は、MEN2Bを疑う。
診断の確定
MEN2の診断は、以下の臨床基準を満たす発端者で確定する。臨床的に診断が不確かな場合は、生殖細胞系列のRET病的バリアント(表1)を同定することにより診断を確定する。
臨床基準、米国甲状腺学会ガイドライン作業部会(2009)により概要が記載されている。
表現型や検査所見からMEN2と診断される場合、シングルジーン検査やマルチジーンパネル検査などの遺伝学的検査を行う。
シングルジーン検査
RET遺伝子のシーケンス解析では小さな欠失・挿入や、ミスセンス・ナンセンス・スプライスサイトのバリアントが検出される。通常、RET遺伝子では、エクソンや遺伝子全体に及ぶような大規模な欠失や重複は検出されない。
病的バリアントのほとんどはエクソン10、11、13~16におこる(表3)。一部の検査施設では選択したエクソンのシーケンス解析あるいは病的バリアントだけを狙った標的バリアント解析を行う。
選択したエクソン検査で病的バリアントが検出されない場合は、マルチジーン検査でRET遺伝子全長のシーケンス解析を行う。
注:MEN2は機能獲得機構により発生し、大領域の遺伝子欠失/重複は報告されていないため、遺伝子欠失/重複を調べる遺伝学的検査は必要ない。
RET遺伝子や他の関心のある遺伝子を対象としたがん易罹患性マルチジーンパネル検査(「鑑別診断」の項を参照)は、最も妥当な価格でその病態の遺伝的要因について調べられるが、様々な意義不明のバリアントや今の病状を説明できない遺伝子の病的バリアントなどが検出されることがあり、原因の解明には限界がある。注1:マルチジーンパネルの対象となる遺伝子の種類や感度は検査施設によって異なる。注2:GeneReviewsに記載した疾患とは関連のない遺伝子を解析対象に含んだマルチジーンパネル検査もある。注3:検査施設によっては、検査施設がカスタムデザインするパネルや、臨床医が指定した遺伝子を対象に含み病型にフォーカスしたカスタムのエクソーム解析などのパネルオプションがある。注4:パネル検査の方法には、シーケンス解析、欠失/重複解析、あるいはシーケンス以外の他の検査もある。
マルチジーンパネル検査についてはここをクリック。臨床医がオーダーする遺伝学的検査の詳細についてはここをクリック。
表1.MEN2で用いられる遺伝学的検査
遺伝子1 | 検査法2 | この検査法で検出される病的バリアント3を有する発端者の割合 | ||
---|---|---|---|---|
MEN2A | FMTC | MEN2B | ||
RET | シーケンス解析4、5 | >98% 6、7 | >95% 6、8 | >98% 9 |
選択したエクソンのみのシーケンス解析 | 98% 6,10 | 95% 6、8 | ||
病的バリアントの標的解析11 | 98% 9 |
臨床的特徴
臨床に関する記載
多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)でみられる内分泌疾患は、甲状腺髄様がん(MTC)もしくはその前病変であるC細胞過形成、褐色細胞腫および副甲状腺腺腫/過形成である。
甲状腺髄様がん(MTC)とC細胞過形成(CCH)
注:RET病的バリアントがあるが予防的甲状腺全摘術をまだ受けていない患者では、MTCの生化学的所見は35歳までに陽性となる[DeLellisら2004]。
散在性にみられるC細胞や集塊を形成しているC細胞の数がびまん性に増加している場合に組織学的にCCHと診断する。MEN2においてCCHからMTCへ進展する年齢は、生殖細胞系列のRET病的バリアントによって異なる[Machensら2003]。
褐色細胞腫
MEN2患者の褐色細胞腫は必ずといっていいほど副腎に発生し、両側性にみられることが多い[Pomaresら1998、Pacakら2005、Thosaniら2013]。
副甲状腺の異常
MEN2の病型
MEN2は臨床的に3つの病型に分類される,すなわちMEN2A、FMTC(現在は2Aの亜型とされている)、MEN2Bである(表2)。これらはすべてMTCを発症するリスクが高い。MEN2AとMEN2Bでは褐色細胞腫を発症するリスクが高くなる。MEN2Aでは副甲状腺過形成あるいは腺腫を発症するリスクが高くなる。MEN2の患者や家族の病型分類を行うことにより、予後評価や治療方針の決定を行うことができる。
表2. MEN2各病型ごとにおける各病変の発症率
病型 | 甲状腺髄様がん | 褐色細胞腫 | 副甲状腺疾患 |
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MEN2A | 95% | 50% | 20%-30% |
FMTC | 100% | 0% | 0% |
MEN2B | 100% | 50% | まれ |
MEN2A
MEN2AはMEN2全体の70~80%を占める。MTCは通常MEN2Aで最初に発症する病変である。
RET遺伝学的検査が行われるようになってから、MEN2A患者の95%にMTCを発症し、約50%に褐色細胞腫を、20~30%に副甲状腺機能亢進症を発症することが明らかとなった [Neumanら2019]。
褐色細胞腫は、通常、MTCより後または同時に発症するが、MEN2A患者の最初の契機となるのは13~27%である[Inabnetら2000、Rodriguezら2008]。散発性褐色細胞腫と比較して、MEN2Aの褐色細胞腫はより若年で診断され、臨床症状はより軽く、両側性であることが多い[Pomaresら1998、Pacakら2005]。褐色細胞腫の悪性化は約4%である[Modiglianiら1995]。一部のMEN2A患者では褐色細胞腫が初発病変となるため、褐色細胞腫が発見された場合はMEN2Aに関するさらなる精査が必要である[Neumannら2019]。
MEN2Aの副甲状腺機能亢進症(HPT)は通常軽症であり、単一腺の腺腫から明らかな過形成まで様々である。ほとんどのHPTは無症状であるが、高カルシウム尿症や腎結石を起こしてくる [Brandiら2001]。HPTはMTCが診断されてから何年も経ってから診断されることが多く、発症時の平均年齢は38歳である[米国甲状腺学会ガイドライン作業部会2009]。
ごく一部のMEN2A家系では、かゆみを伴う皮膚苔癬アミロイドーシス(PCLA)を生じ、単に皮膚苔癬アミロイドーシス(CLA)とも呼ばれる。CLAは上背部全体にみられ、MTCの発症前にみられることがある[Seriら1997]。
FMTC
FMTCはMEN2の約10~20%を占める。操作的定義によると、FMTCではMTCが唯一の臨床徴候である。今日では、FMTCは別個の病型というよりは、褐色細胞腫や副甲状腺機能亢進症の浸透率が低いMEN2Aの亜型と考えられている[米国甲状腺学会ガイドライン作業部会2009]。MEN2AやMEN2Bに比べ、FMTCにおけるMTC発症年齢は遅く、浸透率もより低い[Engら1996、Machensら2001、Machens & Dralle 2006、Zbuk & Eng 2007、米国甲状腺学会ガイドライン作業部会2009]。褐色細胞腫発症を見過ごさないためにも、FMTC家系と診断するにあたっては、厳格な診断基準にあてはめるべきである(「診断の確定」および「臨床的特徴」の項を参照のこと)。
MEN2B
MEN2BはMEN2の約5%を占める。MEN2Bでは、悪性度が高いMTCが早期に発生することが特徴である[Skinnerら1996]。1歳までに甲状腺手術を受けていないMEN2B患者は早い時期に転移をきたすMTCを生じる可能性が高い。早期予防的甲状腺全摘術が行われる以前は、MEN2B患者の平均死亡年齢は25歳であった(年齢幅:0.5-66)[Castinettiら2019]。
MEN2B患者の約50%に褐色細胞腫が生じ、そのさらに約半数は多発性で両側性である。褐色細胞腫が診断されていないと、周術期に心血管高血圧性クリーゼで死に至ることがある。
MEN2Bでは臨床的に明らかな副甲状腺疾患はみられない。
舌の前背部,口蓋、咽頭の粘膜神経腫や特徴的な顔貌からMEN2B患者は乳幼児期に診断可能である。口唇は徐々に大きく(「厚ぼったく」)なり、粘膜下結節が口唇辺縁に認められることもある。眼瞼の神経腫により上眼瞼辺縁は肥厚し、反転する。角膜神経の肥厚はスリットランプ検査で確認する。
約40%の患者は腸管にびまん性神経節腫を生じる。これによる、腹部膨満、巨大結腸、便秘、あるいは下痢をきたす。MEN2B患者19例の報告によると、これらの消化管症状は、84%の患者においてすでに乳幼児期に起こり始めていた[Wrayら2008]。
約75%の患者はマルファン様体形があり、亀背や側彎、関節過伸展、皮下脂肪減少を伴っていることが多い。近位筋の萎縮や筋力低下が見られることもある。
遺伝型と表現型の相関
RET遺伝子エクソン10のシステインコドン609,618,620の病的バリアントはMEN2A、FMTC、HSCR1の原因となる[Mulliganら1994、Deckerら1998、Romeoら1998、Inoueら1999、Takahashiら1999]。これらのいずれかのコドンに起こる病的バリアントはMEN2A家系の約10%、FMTC家系の50%以上に認められ、これらはRETのトランスフォーミング活性が低い病的バリアントである[Takahashiら1998、Hansford & Mulligan 2000]。
p.Met918Thrという生殖細胞系列のRET病的バリアントはMEN2Bのみを引き起こすが、家族歴がない散発性MTC患者でもこのコドンの体細胞病的バリアントを認める。またこの体細胞病的バリアントは、生殖細胞系列にp.Ser836のRET多型を有している散発性MTC患者において高頻度に認められる[Gimmら1999]。
エクソン11コドン634のRET病的バリアントでは、褐色細胞腫と副甲状腺機能亢進症の発症が高くなる[Engら1996、Yipら2003、Zbuk & Eng 2007、米国甲状腺学会ガイドライン作業部会2009]。
コドン768、804、891の病的バリアントは、当初はMTCのみを発症すると考えられていたが、その後MEN2Aの家系でもこのバリアントが見つかってきた[Jimenezら2004a、Aielloら2005、Schulteら010]。
コドン790または804の病的バリアントがMTCだけでなく、甲状腺乳頭がんの発症とも関連しているとする報告が1つある[Brauckhoffら2002]。イタリアの大家系の調査では、Val804Met病的バリアントを有している血縁者の40%が髄様がんと乳頭がんを同時に発症していた[Shifrinら2009]。
米国甲状腺学会ガイドライン作業部会は、MTCの悪性度のリスクに基づいて病的バリアントを分類した[米国甲状腺学会ガイドライン作業部会2009]。
この分類は以下の事において使われる。(1)病型予測、(2)(a)予防的甲状腺全摘術の推奨年齢、(b)褐色細胞腫や副甲状腺に対する検査開始時期の推奨年齢(表3および「定期検査」の項を参照のこと)。
浸透率
MTC、褐色細胞腫、副甲状腺疾患の浸透率はMEN2の病型によって異なる(表2を参照)。
病名(表記法)
MEN2AはSipple症候群ともいわれている。
粘膜神経腫症候群はMEN2Bと同義語である。MEN2Bは当初はWagenmann-Froboese症候群と呼ばれていた[Morrison & Nevin 1996]。
有病率
MEN2の有病率は35,000に1人と推定されている[DeLellisら2004]。
遺伝的に関連のある疾患
ヒルシュスプルング病(HSCR) 生殖細胞系列のRET病的バリアントはHSCRとも関連がある。ヒルシュスプルング病(HSCR)は、大腸神経叢の疾病で、通常、新生児の腹部膨満や頑固な便秘をきたす。HSCRの家族例の約50%および散発例の35%は、RETがん遺伝子の生殖細胞系列の機能喪失型バリアントが原因である[Kouvarakiら2005](分子遺伝学および異常遺伝子産物の項を参照のこと)。HSCRの原因となる生殖細胞系列の病的バリアントはRETのコーディング領域全体に及んでいる[Takahashiら1999]。エクソン10、特にコドン618と620のRET病的バリアントの場合は、しばしばMEN2A/FMTCとHSCRの両方を引き起こす[Engら1996、米国甲状腺学会ガイドライン作業部会2009]。
家族歴のないMTC患者
毎年米国で新たに診断される甲状腺がんの約10%はMTCである。一般に、散発性MTCは単発性で発症年齢が高く、C細胞過形成(CCH)は見られないという特徴がある[米国甲状腺学会ガイドライン作業部会2009]。
生殖細胞系列にRET病的バリアントのないMTC症例の組織DNA解析では、40%~50%に体細胞バリアントが認められる[Schillingら2001、de Grootら2006、Dvorakovaら2008、Eliseiら2008]。この場合、最も頻度が高いのはp.Met918Thrバリアントであり、他のコドンのバリアントや小さなインフレーム欠失も報告されている[de Grootら2006]。コドン918の体細胞病的バリアントを有する腫瘍はより悪性度が高いと考えられている[Schillingら2001、Eliseiら2008]。
C細胞過形成(CCH)
一般人口の約5%において、カルシトニン誘発刺激試験が陽性を示すようなCCHが存在している。慢性腎不全、敗血症、肺や消化管の神経内分泌腫瘍、高ガストリン血症、肥満細胞症、自己免疫性甲状腺疾患、偽性副甲状腺機能低下症1A型の患者でも血清カルシトニン濃度は上昇する[Costanteら2009]。
このような2次性CCHは加齢によって、また副甲状腺機能亢進症患者でも起こることが報告されている。2次性CCHがMTCに進展することはほとんどなく、MEN2とも関係はない。
褐色細胞腫
家族歴のない褐色細胞腫患者の25%において、次の遺伝子のうちの一つに病的バリアントが認められる:RET、VHL、SDHD、SDHB[Neumannら2002、Bryantら2003、Neumannら2004]。家族歴のない無症候性褐色細胞腫患者の約5%にRET病的バリアントが認められる[Neumannら2002]。他の褐色細胞腫の原因遺伝子にはSDHC、TMEM127、MAX、SDHAなどがあり,これらの遺伝学的検査は無症候性のパラガングリオーマや無症候性の褐色細胞腫の鑑別診断に広く用いられるようになった[Peczkowskaら2008、Burnichonら2009、Bayleyら2010、Burnichonら2010、Qinら2010、Comino-Méndezら2011、Vandyら2011]。どの遺伝子から先に検査するかというアルゴリズムはErlicら[2009]、Neumannら[2009]、Welanderら[2011]により示されている。無症候性の患者ではマルチジーンパネルによる遺伝子解析も考慮される。
生化学的特徴を評価することによってMEN2関連褐色細胞腫かどうかを鑑別できる。Pacakらは(2005)遺伝性と散発性の褐色細胞腫の生化学的特徴を比較し、ノルメタネフリンを特に産生する褐色細胞腫ではMEN2が除外できることを報告した。
明らかに常染色体優性遺伝形式で発症している褐色細胞腫の一部の家系では、生殖細胞系列のVHL病的バリアントを認めるが、VHL症候群の他の病変を有していないことがある[Inabnetら2000]。Neumannら(2002)は家族歴のない褐色細胞腫患者の11%で生殖細胞系列のVHL病的バリアントを同定した。しかし、米国の研究においては、無症候性の褐色細胞腫または無症候性のパラガングリオーマ患者ではVHLの病的バリアントは1例もみられなかった[Fishbeinら2013]。
多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1) MEN1は遺伝学的にも臨床的にもMEN2とは別のものであるが、病名が似ているためにしばしば混乱を招いている。MEN1の三徴は下垂体腺腫、膵島腫瘍、副甲状腺過形成もしくは腺腫である。副腎皮質腫瘍,カルチノイドや脂肪腫もみられる[Giraudら1998]。MEN1はMEN1遺伝子の生殖細胞系列の病的バリアントを原因とし、常染色体優性遺伝形式を示す。
多発性内分泌腫瘍症4型(MEN4) CDKN1B遺伝子の病的バリアントを有するMENXラットモデルでは褐色細胞腫を発症するが、ヒトではMEN1と同様の表現型を示す傾向があり、下垂体腫瘍と原発性副甲状腺機能亢進症の発症が多い[Lee & Pellegata 2013]。
初めてMEN2と診断した際の評価
多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)と診断された患者の疾患やニーズを把握するために、以下が勧められる。
各疾患に対する治療
甲状腺髄様がん(MTC) MTCの標準的治療は甲状腺切除とリンパ節隔清である[米国甲状腺学会ガイドライン作業部会2009、全米総合がんネットワーク2015]。現行のNCCNガイドラインでは、不完全切除例または断端陽性の腺外浸潤例に対しては定位体外照射療法(EBRT)または強度変調放射線療法(IMRT)を推奨している[全米総合癌センターネットワーク]。2種類のキナーゼ阻害剤(バンデタニブ、カボザンチニブ、BLU-667)は、MTCの切除不能例または進行転移例において無増悪生存期間を延長し、一部の症例で病巣の縮小がみられることが示されている[Eliseiら2013、Wellsら2013、Subbiahら2018]。
甲状腺切除術を受けたすべての患者は、甲状腺ホルモン補充療法を受ける必要がある。
明らかな副甲状腺機能亢進症がない場合は、甲状腺手術時に副甲状腺自家移植は通常行わない[米国甲状腺学会ガイドライン作業部会2009]。
褐色細胞腫 生化学検査や核医学検査で診断された褐色細胞腫に対しては副腎摘出術が行われ、ビデオガイド下腹腔鏡手術が行われる場合もある。歴史的には、一部の専門家は、一方の褐色細胞腫の手術の際に、対側副腎も10年以内に褐色細胞腫を発症する可能性が高いという理由により両側副腎摘出を勧めている時期もあった。しかし、両側副腎摘出後には副腎不全のリスクやアジソンクリーゼ発症のリスクがあるため、今日では多くの専門家は、片側性の腫瘍に対しては片側のみの手術を勧めている。さらに残しておいた片側副腎の手術や両側副腎摘出を行う患者に対しては副腎皮質温存手術を行い、残存副腎組織の注意深い経過観察を行うことを勧めている[米国甲状腺学会ガイドライン作業部会2009、Neumannら2019]。
副腎摘出術前の高血圧治療にはαおよびβアドレナリン遮断薬が使用される[Pacakら2005]。術前にα遮断薬を使用せず、術中に血管拡張薬により血圧コントロールを行う施設もある[Neumannら2019]。
副甲状腺腺腫、過形成 甲状腺全摘の際に副甲状腺腺腫や過形成が診断された場合の術式としては、肉眼的に腫大した副甲状腺のみを摘出する術式、副甲状腺亜全摘術、あるいは前腕自家移植を伴う副甲状腺全摘術がある[米国甲状腺学会ガイドライン作業部会2009]。しかし、MEN2A患者では、甲状腺全摘術から何年か経過した後に副甲状腺機能亢進症と診断されることが多い。
甲状腺全摘の術前に、生化学的に原発性副甲状腺機能亢進症が明らかな患者に対しては、術前に摘出すべき腫大腺の局在診断と前腕への自家移植の位置決めを行わなければならない。
手術リスクが高い患者、限られた余命しかない患者、単回もしくは複数回の手術後も原発性副甲状腺機能亢進症が持続している患者、術後副甲状腺機能亢進症再発の患者では、副甲状腺機能亢進症をコントロールするために内科的治療を検討すべきである[米国甲状腺学会ガイドライン作業部会2009]。
最初に発症する病変の予防
生殖細胞系列のRET病的バリアントが同定された患者に対して最初に行うべき予防的治療法は、予防的甲状腺全摘術である[Cohen & Moley 2003、米国甲状腺学会ガイドライン作業部会2009]。
予防的甲状腺全摘術はすべての年齢層において安全な方法であるが、手術の時期については議論がある[Moleyら1998]。米国甲状腺学会ガイドライン作業部会のコンセンサス声明では、予防的甲状腺全摘術の施行年齢を、RET病的バリアントのコドン位置に基づいて示してある(表3、遺伝型と病型の関連)[米国甲状腺学会ガイドライン作業部会2009]。しかし、これらのガイドラインは多くのデータが蓄積されることによって今後修正されていくであろう。
表3. 遺伝型に基づくMTCの悪性度のリスクと推奨する治療介入
ATA 1リスクレベル | 病的バリアント1 | 予防的甲状腺全摘術施行年齢 | スクリーニング開始年齢 | |
---|---|---|---|---|
PHEO | HPT 4 | |||
レベルD (もっともリスクが高い) |
p.Ala883Phe p.Met918Thr p.[Val804Met;p.Glu805Lys] 2 p.[Val804Met;p.Tyr806Cys] 2 p.[Val804Met;p.Ser904Cys] 2 |
生後1年以内、なるべく早く | 8歳 | 該当せず |
レベルC | p.Cys634Arg/Gly/Phe/Ser/Trp/Tyr | 5歳まで | 8歳 | 8歳 |
レベルB | p.Cys609Phe/Arg/Gly/Ser/Tyr p.Cys611Arg/Gly/Phe/Ser/Trp/Tyr p.Cys618Arg/Gly/Phe/Ser/Tyr p.Cys620Arg/Gly/Phe/Ser/Trp/Tyr p.Cys630Arg/Phe/Ser/Tyr p.Asp631Tyr p.Cys634_Thr636dup(p.633/9 bp dup3) p.Lys634_Arg635insHisGluLeuCys(p.634/12 bp dup3) p. [Val804Met;p.Val778Ile] 2 |
5歳までが原則、条件を満たせば遅らせることも可能4 | コドン630バリアントは8歳、他はすべて20歳 | コドン630バリアントは8歳、他はすべて20歳 |
レベルA | p.Arg321Gly p.Glu529_Cys531dup(p.531/9 bp dup3) p.Gly532 dup p.Cys515Ser p.Gly533Cys p.Arg600Gln p.Lys603Glu p.Tyr606Cys p.635/insert ELCR;p.Thr636Pro p.Lys666Glu p.Glu768Asp p.Asn777Ser p.Leu790Phe p.Val804Leu/Met p.Gly819Lys p.Arg833Cys p.Arg844Gln p.Arg866Trp p.Ser891Ala p.Arg912Pro |
条件を満たせば5歳以降に遅らせることも可能4 | 20歳 | 20歳 |
出典:米国甲状腺学会ガイドライン作業部会[2009]
ATA = 米国甲状腺学会; HPT = 副甲状腺機能亢進症; MTC = 甲状腺髄様癌; PHEO =褐色細胞腫
MTCに進展する前のC細胞過形成に対する手術では、リンパ節は郭清せず甲状腺全摘のみを行う[Brandiら2001、Kahramanら2003]。
甲状腺全摘術を受けていないRET病的バリアント保有者に対しては、年1回の生化学検査を行い、結果が異常であれば直ちに甲状腺全摘術を行うことが推奨される[Szinnaiら2003]。
年1回の血清カルシトニン測定[米国甲状腺学会ガイドライン作業部会2009]は以下の年齢から開始する。
3歳未満、特に6か月未満の小児ではカルシトニン測定結果の解釈には十分注意をはらうべきである[米国甲状腺学会ガイドライン作業部会2009]。
MEN2の診断が確定していないリスクのある血縁者に対して、ルーチンに予防的甲状腺全摘術を行うことは通常勧められない。
2次的に起こる合併症の予防
MEN2AあるいはMEN2Bの患者において、あらゆる手術の前には、適切な生化学スクリーニングを行うことによって、機能性褐色細胞腫の存在を除外すべきである。病的バリアントを有する家系の前向き調査では、8%の患者はMTCと同時に褐色細胞腫を合併していた[Nguyenら2001]。
褐色細胞腫が検出された場合には、手術中のカテコラミンクライシスを避けるため、甲状腺手術より先に副腎摘出術を施行する[Lee & Norton 2000]。
定期検査
MTC 甲状腺全摘と頚部リンパ節隔清を受けたMTC患者の約50%が再発をきたす[Cohen & Moley 2003]。さらに、RET病的バリアントを有する患者で、血清カルシトニン濃度が正常な患者から摘出した甲状腺組織においてもMTCが発見されている[Skinnerら1996]。したがって、生化学的な異常を確認する前に甲状腺全摘術が行われていたとしても、MTCの残存あるいは再発をチェックするモニタリング検査を継続する必要がある。
予防的甲状腺全摘術後のMTCのスクリーニングとしては、年1回の血清カルシトニン濃度測定を行う[米国甲状腺学会ガイドライン作業部会2009]。残存腫瘍がある場合にはより頻回の定期検査が推奨される。
副甲状腺機能低下症 甲状腺全摘術と副甲状腺自家移植術を受けたすべての患者は、副甲状腺機能低下症のモニタリング検査が必要である。
褐色細胞腫 最初のスクリーニングで褐色細胞腫が認められなかった患者に対しては、年1回の生化学スクリーニングが推奨され、もし異常が認められた場合はMRIもしくはCT検査を追加する[Pacakら2005、米国甲状腺学会ガイドライン作業部会2009、Neumannら2019]。MEN2の女性患者は、計画妊娠の前には必ず、あるいは予定していなかった妊娠の場合にも、できるだけ早期に褐色細胞腫のスクリーニングを行わなければならない[米国甲状腺学会ガイドライン作業部会2009、Neumannら2019]。シンチグラフィやPETなどの他のスクリーニング法も一部の患者には必要な場合がある。
副甲状腺腺腫または過形成 副甲状腺全摘術と自家移植を受けていない患者に対しては、年1回の生化学スクリーニングが推奨される。
避けなければいけない薬物や環境
ドパミンD2受容体遮断薬(メトクロプラミドやヴェラリプリドなど)およびβアドレナリン受容体遮断薬(β遮断薬)は、褐色細胞腫患者で高率に有害反応をひきおこす。
モノアミンオキシダーゼ阻害薬や交感神経刺激薬(エフェドリン)、一部のペプチドや副腎皮質ホルモンも合併症を引き起こす原因となることがある。三環系抗うつ薬は有害反応としては一定した見解はない[Eisenhoferら2007]。
リスクのある血縁者への検査
一見無症状であるリスクのある血縁者のなかで、治療の開始や予防により効果が得られる人をできるだけ早期に特定しなければならない。米国臨床がん学会(ASCO)はMEN2をグループ1(遺伝学的検査がリスクのある血縁者に対する標準的医療とみなされる遺伝性腫瘍症候群)に分類している[American Society of Clinical Oncology 2003]。検査には以下のようなものがある。
遺伝カウンセリング目的でのリスクのある血縁者の検査に関する問題については、「遺伝カウンセリング」の項を参照のこと。
妊娠管理
MEN2の女性患者は計画妊娠の前に、妊娠を予定していない期間でも、できるだけ早期に褐色細胞腫のスクリーニングを行う[米国甲状腺学会ガイドライン作業部会2009]。
研究中の治療法
ソラフェニブ、スニチニブ、ポナチニブのようなマルチキナーゼ阻害剤の臨床試験が現在行われている。NCCNガイドラインでは、ヴァンデタニブあるいはカボザンチニブによる標準的治療が奏効しなかった患者に対して臨床試験参加への検討を推奨している[全米総合癌センターネットワーク 2015、Wellsら2015]。BLU-667などの新薬が期待されている。
ソラフェニブは、腎細胞がんと肝細胞がんに対してFDAの認可を受けた薬剤である。ソラフェニブの第2相臨床試験では、16例の散発性MTC患者にPR(部分奏効、1/16)またはSD(安定、15/16)が認められた[Lamら2010]。スニチニブに関する小規模な第2相試験では、転移性MTC患者6例中3例(50%)に客観的奏効が認められ、SDが2例に認められた[Carrら2010]。ポナチニブはRETキナーゼ阻害作用を示し、マウスにおいてMTCを縮小させることが示されている[De Falcoら2013]。
さまざまな疾患に対する臨床試験の情報は米国のClinicalTrials.govあるいは欧州のClinicalTrialsRegister.euを参照のこと。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)のすべての病型は常染色体優性形式で遺伝する。
家族構成員のリスク
発端者の両親
罹患している親を持っているMEN2患者の割合は病型により異なる。
MEN2A
定義通りであれば、FMTC患者にはすでに罹患した複数の血縁者がいるはずである。
発端者で同定されている病的バリアントがいずれかの親の白血球DNAにみられない場合、2つの可能性がある。1つは片方の親の生殖細胞系列モザイクであり、もう1つは発端者の新生突然変異である。MEN2では生殖細胞系列モザイクの例は報告されていないが、可能性としてはありうる。
臨床的にMEN2であるがRET病的バリアントがまだわかっていない発端者の両親に対して、MTC、褐色細胞腫、副甲状腺機能亢進症について甲状腺超音波と生化学スクリーニングの検査を行う。
家族の疾患を認識できない場合、浸透率が低い場合、親が早期に死亡している場合、親の発症が遅い場合は、MEN2の診断を受けた患者の家族歴は陰性になることがあると思われる。したがって、発端者の両親の適切な臨床評価が行われない、あるいは遺伝学的に検査が行われない限り、一見陰性の家族歴を真に陰性であると証明することはできない。
発端者の兄弟姉妹
発端者の子供
他の血縁者
遺伝カウンセリングに関連した問題
早期診断,早期治療を目的としたリスクのある血縁者の検査の情報については「管理」の「リスクのある血縁者の検査」の項を参照のこと。
リスクのある人への検査
サーベイランスのためには、リスクのある血縁者に対して遺伝学的検査の実施を検討することは適切である(「定期検査」の項を参照)。リスクのある血縁者に対する遺伝学的検査は(「診断の確定」の項を参照)血縁者の誰かに生殖細胞系列バリアントが同定されている場合にのみ可能である。病的バリアントが同定されていない場合で、異なる世代に患者が複数いる家系においては、連鎖解析(「診断の確定」の項を参照)の実施を考慮する。リスクのある人を早期に確定することは医学管理の上で重要であり、無症状の小児に対する検査は意味がある[American Society of Clinical Oncology 2003]。リスクのある小児とその両親に対し、遺伝学的検査前に遺伝教育と遺伝カウンセリングを行うべきである。
遺伝学的がんリスク評価とカウンセリング
がんリスク評価の過程で(遺伝学的検査を用いるかどうかにかかわらず)リスクのある個人を確定することについての医学的、心理社会的、倫理的影響についての包括的な説明については、「遺伝学的がんリスク評価とカウンセリング–医療従事者向け(PDQ®の一部、米国国立がん研究所)」を参照のこと。
明らかな新生突然変異を認める家系について
MEN2発端者の両親に病的バリアントがない、または疾患の臨床的エビデンスを有していない場合は、RET新生突然変異の可能性が高いが、生殖細胞系列モザイクの可能性もある。しかし、他に考え得る非医学的説明としては、生殖補助医療などで父または母が違うなど、またはこれまで内緒にされていた養子縁組などがある。
家族計画
DNAバンクは将来使用する可能性に備えてDNA(通常白血球から抽出する)を保管する機関である。検査方法や遺伝子・アレルのバリアント・疾患に対する理解が今後進歩する可能性が高いため、罹患者はDNAバンクへの寄託を行うことが望まれる。
出生前診断と着床前診断
罹患した血縁者の一人にRET病的バリアントが同定されていれば、妊娠についてのMEN2出生前遺伝子診断や着床前遺伝子診断が可能となる[米国甲状腺学会ガイドライン作業部会2009]。
早期診断ではなく妊娠中絶目的で遺伝子検査を考慮する場合は特に、出生前遺伝子診断の実施について医療者と家族内では見解が異なるかもしれない。ほとんどの医療機関では出生前遺伝子診断実施の決断は両親の選択にゆだねるとしているが、この問題については注意深い検討が求められる。
GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここをクリック。
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家族性甲状腺髄様がん
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UK National MEN1 & PNET Research Resistry
分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。
表A. X連鎖高IgM症候群 : 遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体座位 | タンパク質 | 遺伝子座特異的データベース | HGMD | Clin Var |
---|---|---|---|---|---|
RET | 10q11.21 | がん遺伝子チロシンキナーゼ受容体retタンパク | RETデータベース | RET | RET |
データは以下から収集した:遺伝子はHGNCから、染色体座位はOMIMから、タンパク質はUniProtから。データベースの記述について(染色体座位特異的、HGMD、ClinVar)のリンクはここをクリック。
表B. 多発性内分泌腫瘍症2型のOMIMエントリ(全文はOMIMを参照)
155240 | 甲状腺がん、家族性髄様がん;MTC |
162300 | 多発性内分泌腫瘍症、IIB型;MEN2B |
164761 | トランスフェクション中の再構成がん遺伝子;RET |
171400 | 多発性内分泌腫瘍症、IIA型;MEN2A |
分子病態
RET遺伝子は、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞内ドメインから構成される受容体型チロシンキナーゼタンパクを産生する。細胞外ドメインはカルシウム結合カドヘリン様領域とシステインに富む領域で構成される。コードされたタンパク質は、リガンドのグリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)ファミリー(GDNF、ニュールツリン、パーセフィン、アルテミン)と相互作用してシグナル伝達の役割を果たす。リガンドの相互作用はリガンド結合GDNFファミリー受容体(GFRα)を介して行われ、RETタンパク質はGFRαタンパク複合体と結合する。2分子のRETタンパクを含む複合体の形成により、RETタンパクの自己リン酸化と細胞内シグナル情報伝達が起こり、それによってリン酸化されたチロシンに細胞内シグナル情報伝達タンパクが結合する[Santoroら2004]。細胞内ドメインに存在するRETチロシンキナーゼの触媒コアはドッキングタンパクFRS2と相互作用し、マイトジェン活性化タンパク(MAP)キナーゼシグナルカスケードの下流を活性化する[Maniéら2001]。MEN2の病的バリアントではチロシンキナーゼの持続的な活性化(すなわち機能獲得性)を引き起こす。
遺伝子の構造
RETがん遺伝子は20のエクソンから成り、1つめのエクソンは非コード領域である(NM_020975.5)。正常な組織には様々な長さのRETタンパク質が存在する[Takayaら1996]。 このうち最も長い転写産物はNM_020975.5であり、Ret51という長いアイソフォームをコードしている。遺伝子とタンパク質の情報に関する詳細な概要については、表Aの「遺伝子」を参照のこと。
良性/修飾因子/易罹患性のバリアント
臨床的意義が不明なバリアントとともに良性のバリアントを表A(正常、意義不明、病的バリアントのRET遺伝子座特異的なデータベース)に示した[Margrafら2009]。
一部のまれなバリアント(p.Val648Ileなど)は病的バリアントと共に遺伝すると、病型が変わることがあると考えられている[Nunesら2002]。
他のまれなバリアントが病気を発症しやすくする例がある。例えば、p.Gly691Serとp.Ser904Serは甲状腺髄様がん(MTC)発症のリスク因子としては低いものであるが[Robledoら2003、Eliseiら2004]、病的バリアントを有するMEN2A患者がより若年で発症しやすくなる可能性がある[Gilら2002、Robledoら2003、Cardot-Bautersら2008]。しかし、この所見は大規模研究では確認されなかった[Lesueurら2006]。p.Ser836Ser バリアントは非家族性MTCのリスク増加と関連していることが少なくとも2つの研究で示されている[Gimmら1999、Ruizら2001]が、他の研究では示されていない[Berardら2004]。6つのバリアントのメタ解析では、非家族性MTCはp.Ser836Serとの間にわずかな相関を示し、プロモーター領域に存在する良性バリアントのIVS1-126G>Tと強い相関を示している[Figlioliら2013]。
p.Ser649Leuとp.Tyr791Pheバリアントは最近非病的なバリアントとして再分類されたが、これらが修飾因子として作用するかどうかは不明である[Erlicら2010]。
表4. 良性/修飾因子/易罹患性のバリアント
Predicted Protein Change | DNA Nucleotide Change | Reference Sequence |
---|---|---|
p.Val648Ile | c.1842G>A | NM_020975.5 NP_066124.1 |
p.Gly691Ser | c.2071G>A | |
p.Ser836= 1 | c.2508C>T | |
p.Ser904= 1 | c.2712C>G |
病的バリアント
RETタンパクの細胞外領域の6つのシステインコドンのいずれかに位置する非保存的な置換が主要な病的バリアントである。これらは、エクソン10のコドン609、611、618、620とエクソン11のコドン630、634である[Takahashiら1998]。これらのバリアントはすべてMEN2A家系で認められており、一部はFMTC家系でも認められている。これらの病的バリアントは、MEN2A家系の98%で検出されている[Engら1996]。RETバリアントのデータべースについては、表Aを参照のこと[Margrafら2009]。
MTCの悪性度、褐色細胞腫の発症、副甲状腺機能亢進症の発症については、遺伝子型に基づいて推定できる。推奨される管理法については表3を参照のこと。
MEN2B患者のおよそ95%において、RETのチロシンキナーゼ領域エクソン16コドン918のスレオニンをメチオニンに置換する一塩基置換(SNV)が認められる[Engら1996]。コドン883の2つの塩基のSNVがMEN2Bの2~3%で認められる[Gimmら1997、Smithら1997]。また、MEN2B患者において、コドン778、805、806、904のRET病的バリアントがp.Val804Met病的バリアントとシス配置でタンデム(同一アレル上)に認められる症例が報告されている[Miyauchiら1999、Menkoら2002、Cranstonら2006、米国甲状腺学会ガイドライン作業部会2009]。
MEN2A家系で認められるエクソン10や11のシステイン残基の病的バリアントに加えて、少数の家系でコドン631、768、790、804、844、891の病的バリアントや、エクソン5、8、10、11、13~16などのホットスポットでない他の部位に病的バリアントが認められることが報告されている[Hofstraら1997、Berndtら1998、米国甲状腺学会ガイドライン作業部会2009、Wellsら2015]。
コドン603の病的バリアントが1家系で報告されており、MTCと甲状腺乳頭がんのいずれとも関連していると報告されている[Reyら2001]。病的バリアントp.Arg912Proは2家系においてFMTCとの関連が報告されている[Jimenezら2004b]。
小さな、インフレームになる重複バリアントが4家系で報告されている[Höppner & Ritter 1997、Höppnerら1998、Pignyら1999、Niccoli-Sireら2003]。
シス配置(同一アレル上)にある2つの病的バリアントを有するまれな家系が報告されている。例えば、MEN2Aの1家系におけるコドン634と635のバリアント、FMTCの1家系におけるコドン804と844のバリアント[Bartschら2000]、MEN2B患者におけるコドン804と806のバリアント[Miyauchiら1999]である。
MEN2AとHSCRが共分離している家系においては、その病的バリアントがどのように機能獲得や機能喪失の原因となっているかを説明するモデルが示されている[Takahashiら1999]。
表5. RET病的バリアント
ATA Risk Level | Predicted Protein Change (Alias 1) |
DNA Nucleotide Change (Alias 1) |
Reference Sequences |
---|---|---|---|
Level D (highest risk) |
p.Ala883Phe | c.2647_2648delGCinsTT | NM_020975.5 NP_066124.1 |
p.Met918Thr | c.2752A>G | ||
p.[Val804Met;Glu805Lys] 2 | c.[2410G>T; c.2413G>A] 2 | ||
p.[Val804Met;Tyr806Cys] 2 | c.[2410G>T;2417A>G] 2 | ||
p.[Val804Met;Ser904Cys] 2 | c.[2410G>T;2711C>G] 2 | ||
Level C | p.Cys634Arg | c.1900C>T | |
p.Cys634Gly | c.1900T>G | ||
p.Cys634Phe | c.1901G>T | ||
p.Cys634Ser | c.1900T>A | ||
p.Cys634Trp | c.1902C>G | ||
p.Cys634Tyr | c.1901G>A | ||
Level B | p.Cys609Phe | c.1826G>T | |
p.Cys609Arg | c.1825T>C | ||
p.Cys609Gly | c.1825T>G | ||
p.Cys609Ser | c.1825T>A | ||
p.Cys609Tyr | c.1826G>A | ||
p.Cys611Arg | c.1831T>C | ||
p.Cys611Gly | c.1831T>G | ||
p.Cys611Phe | c.1832G>T | ||
p.Cys611Ser | c.1831T>A | ||
p.Cys611Trp | c.1833C>G | ||
p.Cys611Tyr | c.1832G>A | ||
p.Cys618Arg | c.1825T>C | ||
p.Cys618Gly | c.1852T>G | ||
p.Cys618Phe | c.1853G>T | ||
p.Cys618Ser | c.1852T>A | ||
p.Cys618Tyr | c.1853G>A | ||
p.Cys620Arg | c.1858T>C | ||
p.Cys620Gly | c.1858T>G | ||
p.Cys620Phe | c.1859G>T | ||
p.Cys620Ser | c.1858T>A | ||
p.Cys620Trp | c.1860C>G | ||
p.Cys620Tyr | c.1859G>A | ||
p.Cys630Arg | c.1888T>C | ||
p.Cys630Phe | c.1889G>T | ||
p.Cys630Ser | c.1889G>C | ||
p.Cys630Tyr | c.1889G>A | ||
p.Asp631Tyr | c.1891G>T | ||
p.Cys634_Thr636dup (633/9 bp dup) |
c.1900_1908dupTGCCGCACG | ||
p.Cys634_Arg635insHisGluLeuCys (634/12 bp dup) |
c.1892_1903dupACGAGCTGTGCC | ||
p.[Val804Met;Val778Ile] 2 | c.[2410G>T;c.2332G>A] 2 | ||
Level A | p.Gly321Arg | ||
p.Glu529_Cys531dup (531/9 bp dup) |
c.1585_1593dupGAGGAGTGT | ||
p.Gly532dup | |||
p.Cys515Ser | |||
p.Gly533Cys | c.1597G>T | ||
p.Arg600Gln | c.1799G>A | ||
p.Lys603Glu | c.1807A>C | ||
p.Tyr606Cys | c.1817A>G | ||
p.635/insert ELCR;p.Thr636Pro | |||
p.Lys666Glu | c.1996A>G | ||
p.Glu768Asp | c.2304G>C | ||
p.Asn777Ser | c.2330A>G | ||
p.Leu790Phe | c.2379G>C | ||
p.Val804Leu | c.2410G>C | ||
p.Val804Met | c.2410G>A | ||
p.Gly819Lys | |||
p.Arg833Cys | c.2497C>T | ||
p.Arg844Gln | c.2531G>A | ||
p.Arg866Trp | |||
p.Ser891Ala | c.2671T>G | ||
p.Arg912Pro | c.2735G>C |
出典:米国甲状腺学会ガイドライン作業部会(2009)
ATA = 米国甲状腺学会
表記方法については、別表のクイック・リファレンスを参照のこと。GeneReviewsではtheHuman Genome Variation Society (varnomen.hgvs.org)の標準表記法に従っている。
バリアントの表記は最新の表記法で更新していくため、原文での記載と異なることもある。
正常遺伝子産物
転写産物のバリアントの一つであるNM_020975.5は、NP_066124.1をコードしており、このタンパク質は1114アミノ酸から構成されるチロシンキナーゼ受容体のRETアイソフォームの前駆体であり、Ret51として知られている。RETの機能については「分子病態」の項を参照のこと。遺伝子、転写産物、タンパク質の詳細な要約については表Aの「遺伝子」を参照のこと。
異常遺伝子産物
システインに富む細胞外ドメインのコドン(609、611、618、620、634)の病的バリアントにより、リガンド非依存的にRETタンパクが二量体化することとなり、チロシンキナーゼの恒常的な活性化(機能獲得)を引き起こす[Takahashiら1998]。
MEN2Bの95%の原因となっているコドン918の病的バリアントはチロシンキナーゼの触媒コア内に存在し、正常なリガンド結合や二量体化のステップとは関係なく、単量体状態でRETキナーゼの恒常的な活性化(機能獲得)を引き起こす [Takahashiら1998]。
MEN2の病的バリアントの活性化とは対照的に、ヒルシュスプルング病(HSCR)の原因となる病的バリアントでは、RETのトランスフォーミング活性の低下をもたらす[Iwashitaら1996](「遺伝的に関連のある疾患」を参照のこと)。
がんと良性腫瘍
融合タンパク質
およそ20~40%の甲状腺乳頭がんにおいて、RET遺伝子のチロシンキナーゼドメインとさまざまなパートナー遺伝子が結合する体細胞遺伝子再構成が認められる[Talliniら1998、Santoroら2002、Puxedduら2003]。
RET体細胞系列バリアント
MTC家族歴のない患者のMTCや散発性褐色細胞腫において、生殖細胞系列のRET病的バリアントが無くても、体細胞系列のRETバリアントが見つかることがある(「鑑別診断」の項の「家族歴のないMTC患者」と「褐色細胞腫」を参照のこと)。
GeneReviews著者: Jessica Marquard、MS、LGC and Charis Eng、MD、PhD、FACP
日本語訳者: 内野眞也(野口病院外科)
GeneReviews最終更新日: 2019.8.15. 日本語訳最終更新日: 2023.1.26. [in present]