フォンヒッペル・リンドウ病
(Von Hippel-Lindau Syndrome)

Gene Reviews著者: Rachel S van Leeuwaarde, MD, PhD, Saya Ahmad, BSc, Bernadette van Nesselrooij, MD, PhD, Wouter Zandee, MD, PhD, and Rachel H Giles, PhD.
日本語訳者:入部康弘・蓮見壽史・矢尾正祐(横浜市立大学大学院医学研究科泌尿器科学)、古屋充子(市立札幌病院病理診断科)

GeneReviews最終更新日: 2025.5.1.  日本語訳最終更新日:  2025.5.12.

原文: Von Hippel-Lindaou Disease


要約


疾患の特徴

フォンヒッペル・リンドウ (VHL)病は脳・脊髄・網膜の血管芽腫、腎嚢胞/淡明細胞型腎細胞癌、褐色細胞腫/パラガングリオーマ、膵嚢胞/神経内分泌腫瘍、内リンパ嚢腫瘍、精巣上体・子宮広間膜の嚢胞腺腫によって特徴づけられる。網膜血管芽腫はVHL初発症状のことがあり、視力低下を引き起こしうる。小脳血管芽腫は頭痛、嘔吐、歩行障害または運動失調を伴うことがある。脊髄血管芽腫とそれに関連する空洞形成は通常疼痛を伴う。脊髄圧迫により感覚脱失および運動麻痺をきたすこともある。腎細胞癌はVHL患者の約70%に発生し(訳注1: [Maher et al 1990]の研究当時はVHL遺伝子が同定前で、臨床診断での頻度。現在罹患頻度は25~50%と報告されている)、主要な死因となる。褐色細胞腫は無症状のこともあるが、持続性または発作性の高血圧症を引き起こすことがある。膵病変は無症状のことが多く、内分泌/外分泌機能不全を起こすことはまれである。内リンパ嚢腫瘍は様々な程度の難聴を引き起こし、、初発症状となることがある。精巣上体嚢胞腺腫は比較的よくみられる。問題を起こすことはまれであるが、両側性の場合は不妊症の原因となりうる。

診断・検査

VHLは現行の臨床診断基準を満たせば確定診断となる。臨床的特徴で結論が出ない場合は分子遺伝学的検査でヘテロ接合性にVHLの生殖細胞系列病的バリアントが同定されれば診断が確定する。

臨床的マネジメント

分子標的治療:
パゾパニブが進行性腎細胞癌の治療薬としてFDAの承認を受けている。ベルズチファンは直ちに手術を必要としない成人VHL患者の腎細胞癌、中枢神経系(CNS)血管芽腫、または膵神経内分泌腫瘍治療薬として多くの国で承認されている。

支持療法:
ほとんどのCNS血管芽腫には外科的切除を行う。網膜血管芽腫には早期に治療を行う。腎細胞癌には凍結療法またはラジオ波焼灼療法を行う。両側腎摘術施行例には腎移植を行う。褐色細胞腫には摘除術(可能な場合は副腎部分切除術)を行う。膵神経内分泌腫瘍には切除術を考慮する。内リンパ嚢腫瘍には外科的切除を考慮する(聴覚および前庭機能を温存するため、特に小さな腫瘍に限られる)。精巣上体/子宮広間膜嚢胞腺腫には、有症状または不妊のおそれがある場合は治療を要する。必要に応じて心理社会的支援およびケアのコーディネートを行う。

サーベイランス:
VHL罹患者および遺伝状態不明だがリスクのある血縁者が対象となる。 神経学的症候、視覚的問題、聴力障害について年1回の臨床的評価を10歳になる前に開始する。11歳から2年に1回、脳および全脊椎のMRIを撮像する。1歳から眼科検診を開始する。15歳から2年に1回、腹部MRIを撮像する。10歳になる前に年1回の血圧測定を開始する。5歳から年1回の血漿または24時間蓄尿によるメタネフリン分画測定を行う。11歳より2~3年に1回、聴力評価を行う。無症状でも15~20歳の間に内耳道のMRI検査を行う。診察のたびに心理社会的ニーズの評価を行う。

回避すべき薬剤や環境:
タバコ製品は腎癌のリスク因子と考えられているので使用を避けるべきである。VHL患者の臓器に影響を及ぼすことが知られている化学物質や工業製品由来の毒物と接触することを避けるべきである。副腎や膵臓に病変がある場合はぶつかり合うスポーツは避けるべきである。

リスクのある血縁者の評価:
当該家系の病的バリアントがわかっている場合、分子遺伝学的検査を用いてリスクのある家系員の遺伝状態を明らかにすることができ、病的バリアントを受け継いでいないとわかった家系員はサーベイランス不要ということになる。

妊娠管理:
妊娠前および妊娠中の小脳血管芽腫および褐色細胞腫のサーベイランスを強化する。妊娠4ヵ月時に小脳の単純MRIを撮像する。

遺伝カウンセリング

VHLは常染色体顕性遺伝形式をとる。VHL患者の約80%は罹患した親からの遺伝で、約20%は患者本人にde novoイベント、またはモザイクのため一見罹患していないようにみえる親に生じた接合後de novoイベントの結果としてVHLに罹患する。VHL患者の子は、50%の確率でVHL病的バリアントを受け継ぐ。罹患した家系員でVHL病的バリアントが同定されれば、リスクのある無症候性家系員の検査、出生前検査/着床前遺伝子検査が可能となる。


診断

フォンヒッペル・リンドウ(VHL)病の臨床診断基準が提示されているが、オランダとデンマークのガイドラインでは若干の違いがある [Binderup et al 2022Wolters et al 2022]。

本疾患を示唆する所見

VHL病は、家族歴の有無にかかわらず以下の場合に疑うべきである。

確定診断

VHLは発端者であればデンマークまたはオランダのガイドライン(表1)に沿って臨床的に確定診断できる。あるいは分子診断としては分子遺伝学的検査でVHLのヘテロ接合性病的(pathogenicあるいはlikely pathogenic)バリアント同定で確定となる(表2)。
注:(1)ACMG/AMPのバリアント解釈ガイドラインによると、「pathogenicバリアント」と「likely pathogenicバリアント」という用語は、臨床の場では同義であり、どちらも診断的とみなされ、臨床的意思決定に使用できることを意味する [Richards et al 2015]。このGeneReviewsにおいて「病的バリアント」というのはlikely pathogenicバリアントも含むと理解されたい。(2)ヘテロ接合性VHLバリアントで病的意義不明のものが同定されても、診断が確定するわけでも除外されるわけでもない。

表1
フォンヒッペル・リンドウ(VHL)病の臨床的診断基準

発表されている
診断基準
臨床診断基準 VHL関連症状
家族歴あり 家族歴なし いずれの診断基準にも含まれるもの 当該基準に特異的なもの
オランダ基準1 VHL関連腫瘍1個
かつ
第1度あるいは第2度近親者がVHLの診断
2個以上のVHL関連症状
  • 網膜血管芽腫
  • CNS血管芽腫
  • 腎細胞癌
  • 褐色細胞腫
  • 膵神経内分泌腫瘍
  • 内リンパ嚢腫瘍
 
  • パラガングリオーマ
  • 多発腎嚢胞
  • 多発膵嚢胞
デンマーク基準2 1個以上のVHL関連症状
かつ
第1度近親者がVHLの診断
2個以上の血管芽腫
または
1個の血管芽腫と1個のVHL関連症状
なし

Wolters et al [2022]より引用

  1. Hes et al [2001]
  2. Binderup et al [2022]

分子遺伝学的検査のアプローチには特定遺伝子検査(単一遺伝子検査、マルチ遺伝子パネル)と包括的ゲノム検査(エクソームシークエンシング、ゲノムシークエンシング)がある。特定遺伝子検査では、どの遺伝子が関与している可能性が高いかを臨床医が判断する必要があるが(オプション1を参照)、包括的ゲノム検査ではその必要はない(オプション2を参照)。

オプション1

単一遺伝子検査. VHLのコーディング領域、イントロン1、およびフランキング配列のシークエンス解析を最初に行い、ミスセンス変異、ナンセンス変異、スプライスサイトバリアントや小さな遺伝子内欠失/挿入を検索する。
注:シークエンス方法によっては単一エクソン、複数エクソンあるいは当該遺伝子全体の欠失/挿入を検出できないことがある。使用したシークエンス方法でバリアントが検出されない場合、次のステップとして特定遺伝子の欠失/挿入解析でエクソン単位あるいは当該遺伝子全体の欠失/挿入の検出を行う。

多遺伝子パネル検査VHLやその他着目すべき遺伝子(鑑別診断の項を参照)をカバーし、病態の遺伝学的原因同定のため考慮されるかもしれないが、一方で、表現型の原因にならない遺伝子の病的バリアントや病的意義不明のバリアント(VUS)を同定することは制限する必要がある。注:(1) パネルに含まれる遺伝子群や各遺伝子に利用される検査の診断感度は検査施設により異なり、また時期により変わっていくことがある。(2) 多遺伝子パネル検査によってはGeneReviewsで取りあげている病態とは関係ない遺伝子を含むものもあるかもしれない。(3) 検査施設によってはパネルのオプションとして、臨床医が選定した遺伝子群を含む、当該施設でデザインしたカスタムパネルや表現型にフォーカスしたカスタムエクソーム解析がある。(4) パネル検査の手法にはシークエンス解析、欠失/重複解析、その他のシークエンスベースでない検査のいずれか、あるいはそれらを組み合わせたものがある。

多遺伝子パネル検査の紹介はここをクリック。遺伝子検査をオーダーする臨床医向けのより詳細な情報はこちらで見つけることができる。

オプション2

包括的ゲノム検査では、関与していると思われる遺伝子を臨床医が決定する必要がない。エクソーム解析が最も広く利用されている。ゲノム解析も利用できる。

包括的ゲノム解析の紹介はここをクリック。ゲノム検査をオーダーする臨床医向けのより詳細な情報はこちらで見つけることができる。

表2
フォンヒッペル・リンドウ(VHL)病で利用される分子遺伝学的検査

遺伝子1 検査手法 当該手法による発端者の病的バリアント同定率2

  VHL

シークエンス解析3,4

~85%5,6

遺伝子欠失/重複解析7

~10%5,6

  1. 遺伝子座と発現するタンパク質についてはA. 遺伝子とデータベースを参照。
  2. この遺伝子で検出されるバリアントに関する情報は分子遺伝学を参照。
  3. シークエンス解析で検出されるバリアントは良性(benign)、おそらく良性(likely benign)、病的意義不明(VUS)、おそらく病的(likely pathogenic)、病的(pathogenic)に分類される。バリアントにはミスセンス、ナンセンス、スプライスサイトバリアント、そして遺伝子内微小欠失/挿入が含まれる。典型的には、エクソンあるいは遺伝子全体のの欠失/重複は検出できない。シークエンス解析結果の解釈に関して考慮すべき事項についてはこちらをクリック。
  4. 発端者VHL遺伝子のコーディング領域に病的バリアントが同定されなかった場合、イントロン1のシークエンス解析を行うべきである。イントロン1の病的バリアントがcrypticエクソン(エクソンE1')のことがある[Lenglet et al 2018]。
  5. [Nordstrom-O'Brien et al 2010] ,  [Stenson et al 2020]
  6. VHL病と臨床診断された人の約5%は病的バリアントを同定できない。
  7. 特定遺伝子の欠失/重複解析では遺伝子内微小欠失/重複を検出することができる。利用される手法としては、定量PCRから、ロングレンジPCR、多重ライゲーション依存性プローブ増幅法(MLPA)や特定遺伝子において単一エクソンの欠失あるいは重複を検出するためにデザインされたマイクロアレイまで含まれる。

臨床的特徴

臨床像

フォンヒッペル・リンドウ(VHL)病は脳・脊髄・網膜血管芽腫;腎嚢胞/淡明細胞型腎細胞癌;褐色細胞腫/パラガングリオーマ;膵嚢胞/神経内分泌腫瘍;内リンパ嚢腫瘍;精巣上体・子宮広間膜の嚢胞腺腫によって特徴づけられる。いくつかの腫瘍では集積性が認められ、VHL病の特徴的表現型を示すことがある。家系内でも家系間でも、さらに同一病的バリアントであっても症候や重症度には大きな幅がある。

血管芽腫

CNS血管芽腫はVHL病の原型的病変である [Catapano et al 2005, Gläsker 2005]。CNS腫瘍は同時性あるいは異時性に多発することが多い。約80%は脳に、20%は脊髄に生じる。末梢神経血管芽腫はまれな症候である[Giannini et al 1998]。血管芽腫には無症状のものもあり、画像検査ではじめて見つかる。

CNS血管芽腫の発育様式には跳躍型(72%)、直線型(6%)、あるいは指数関数型(22%)がある。発育の速さには男性、症候性腫瘍、血管芽腫関連嚢胞[Takami et al 2022]、生殖細胞系列のVHL遺伝子内欠失[Lonser et al 2014, Huntoon et al 2015]が関連していた。CNS血管芽腫は今もなお主たる死因であるが、VHL病の生命予後は年々改善している[Binderup et al 2017b]。

網膜血管芽腫は無症候性のことがあり、通常の眼底検査で見つかる。網膜剥離、滲出液、出血による視野欠損あるいは視力低下をきたす場合もある。網膜血管芽腫が落ち着いていても網膜機能検査で異常を示すこともある[Kreusel et al 2006]。網膜血管芽腫は加齢とともに増えるようではないが、失明率は上がる[Kreusel et al 2006]。

腎病変

褐色細胞腫は持続的あるいは発作性の高血圧を引き起こすこともあれば、無症候性のこともある。VHL罹患者に対するサーベイランスにより、VHL関連褐色細胞腫はより若年で診断されるようになってきているほか、腹部画像検査で血圧正常の無症状者に偶発的に認めることもある[Li et al 2020]。褐色細胞腫は片側性も両側性もあり、しばしば小径で多発性である[Li et al 2020]。通常は良性であるが、悪性例も報告がある[Chen et al 2001, Jimenez et al 2009]

パラガングリオーマ. 病因は同じで、パラガングリオーマは腹部あるいは胸部の交感神経系に沿って発症することがある[Schimke et al 1998, Boedeker et al 2014]。これらの腫瘍はしばしば非機能性である(すなわちカテコラミンその他のホルモンを分泌しない)。

膵病変

内リンパ嚢腫瘍はVHL罹患者のおよそ10~16%にみられ、片側あるいは両側性難聴がVHL
の初発症状となる例がある[Kim et al 2005, Binderup et al 2013]。難聴は典型的には突然発
症する。重症度は様々であるが、しばしば重症~最重症である[Choo et al 2004, Kim et al 2005]。回転性めまいあるいは耳鳴りが内リンパ嚢腫瘍の初発症状となることもある。VHL関連の内リンパ嚢腫瘍より非VHLの内リンパ嚢腫瘍のほうが受診時において有意に難聴の程度が重く、腫瘍のサイズが大きいことが報告されている[Nevoux et al 2014]。大きい内リンパ嚢腫瘍では他の脳神経を巻き込むことがある。悪性は稀である[Muzumdar et al 2006]。

精巣上体嚢胞腺腫および子宮広間膜嚢胞腺腫 精巣上体あるいは乳頭状嚢胞腺腫はVHLの男性では比較的頻度が高い。それらは両側性で不妊の原因となる可能性があるような場合を除けば、めったに問題を起こすことはない。頻度ははるかに低いが女性でこれに相当する病変が子宮広間膜の乳頭状嚢胞腺腫である。いずれの組織も中腎を起源とし、体細胞系列でのVHL欠失を起した発生過程の遺残と思われる。

予後

一つの研究で、成人では男性のほうが女性よりもVHL関連症状を呈しやすく、また症状発現のリスクは一定ではなく、罹患者の生涯を通じて変化することが示されている[Binderup et al 2016]。年齢が罹患臓器数の唯一の予測因子であった。

サーベイランスガイドラインの改訂によりVHL罹患者の平均余命は1990年以降16年以上も延びた[Wilding et al 2012]。デンマークとオランダで、それぞれ国内サーベイランスガイドラインの実施状況を評価した2つの研究がある。VHL罹患者84人を対象とした研究では90%以上が国内のVHLサーベイランスガイドラインを熟知していると回答した。しかし情報を受け取っていたうちの64%はオランダのガイドラインと部分的にしか一致していなかった[Lammens et al 2011a]。デンマークの研究ではVHL罹患者およびリスクのある血縁者の推奨サーベイランスに対するコンプライアンスや受検頻度は低かった[Bertelsen & Kosteljanetz 2011]。これらの研究は、医師向けおよび患者向けの情報提供キャンペーンを通じてサーベイランスガイドラインを実施していればVHL患者にすぐポジティブな影響を与えた可能性があったと示唆している。

遺伝子型と表現型の関連

褐色細胞腫あるいは腎細胞癌の発症のしやすさに基づいてVHLの4つの表現型(1型, 2A型, 2B型, 2C型)が提唱されている。多くの研究が、褐色細胞腫の分子病因は他のVHL関連病変とは異なるようだという結論を支持している。したがって、最も強い遺伝子型と表現型の関連は、当該アレルと関連した褐色細胞腫の有無に大きく依存する。下記の議論は今日までに世に出た遺伝子型と表現型に関する研究を要約したものであるが、さらなる研究が必要であるという注意を付記している。注:パターンはクリアカットではなく、遺伝子型と表現型の関連は現在診断学的あるいは治療学的価値はない。それらは学術目的でのみ使用される。

VHL1 網膜血管腫、CNS血管芽腫、腎細胞癌、膵嚢胞、神経内分泌腫瘍。VHL1型は褐色細胞腫を発症するリスクが低いことで特徴付けられる。短縮型あるいはミスセンス病的バリアントはVHL蛋白質の折りたたみを大きく損なうと予測され[Stebbins et al 1999]、VHL1型と関連している。
VHL遺伝子欠失が起こっている罹患者では腎細胞癌の発症リスクが低くなることを複数のグループが報告している[Cybulski et al 2002, Maranchie et al 2004, McNeill et al 2009]。特にVHL遺伝子の完全または部分欠失が5'末端側のBRK1遺伝子(かつてはC3orf10と呼ばれていた)に及んでいる罹患者においては有意に腎細胞癌の発症リスクが低くなる[Maranchie et al 2004, McNeill et al 2009]。この遺伝子型はVHL1B型という、腎細胞癌と褐色細胞腫のいずれの発症リスクも低い特徴をもつ独立した表現型といえるかもしれない。

VHL2 褐色細胞腫、網膜血管芽腫、CNS血管芽腫。VHL2型は褐色細胞腫を発症するリスクが高いことで特徴付けられる。VHL2型の罹患者はミスセンス病的バリアントを有する。いくつかのミスセンス病的バリアントはVHL2型の特徴的な表現型と関連しているようである[Weirich et al 2002, Sansó et al 2004, Abbott et al 2006, Knauth et al 2006](分子遺伝学の項を参照)。ミスセンス病的バリアントを複数のin silico計算モデルにより層別化すると、病原リスクが高いと予測されるバリアントは膵病変が進行することを予測するものであった[Tirosh et al 2018a]。それとは対照的に、遺伝子型がVHL罹患者における腎細胞癌の発育を左右することはないようであった[Farhadi et al 2018]。

VHL2型はさらに亜分類される。

加齢に伴う網膜血管芽腫、CNS血管芽腫、淡明細胞型腎細胞癌、膵内分泌腫瘍の発生率は、短縮型バリアントの人のほうがミスセンスバリアントや単一アミノ酸のインフレーム欠失の人に比べて高くなる[Reich et al 2021]。

浸透率

VHL病的バリアントの浸透率は高い。VHL病的バリアントを有する人はほぼ全員、65歳までに何らかの症状を呈する[Maher et al 1991]。

病名

VHL病の旧名には以下が含まれる。網膜・小脳血管母斑症(angiophakomatosis retinae et cerebelli)、家族性小脳・網膜血管腫症、小脳・網膜血管芽腫症、ヒッペル病、ヒッペル・リンドウ症候群、リンドウ病、網膜・小脳血管腫症[Molino et al 2006]。

頻度

VHLの有病率はおよそ36,000出生あたり1名で、de novo変異は配偶子100万あたり4.4と推定されている[Maher et al 1991]。


遺伝学的に関連のある疾患(同一アレル疾患)

家族性赤血球増加症2(OMIM 263400)はVHL遺伝子の両アレルに病的バリアント(イントロン1にcrypticエクソンを持つことになる)を有することによって発症し、循環血液中の赤血球塊、血清エリスロポエチン高値、正常な酸素親和性を特徴とする。家族性赤血球増加症2型罹患者の多くで血栓症と出血の両方またはいずれかをきたすにもかかわらず、この疾患罹患者やヘテロ接合性の血縁者でVHL病関連腫瘍を発症した人は報告されていない。
注:先天性赤血球増加症は世界的にみて一部の地域に特有の疾患である。VHL遺伝子の病的バリアントは先天性赤血球増加症の一般的な原因である[Bento 2018]。

散発性腫瘍(淡明細胞型腎細胞癌と血管芽腫を含む)が、他のVHL関連所見を合併することなく単発で発生した場合は、生殖細胞系列にはないVHL遺伝子の病的バリアントを体細胞に持っている可能性がある[Iliopoulos 2001, Kim & Kaelin 2004]。こういった例では腫瘍形成の素因は遺伝性ではない。


鑑別診断

単発の血管芽腫、網膜血管腫、淡明細胞型腎細胞癌VHL遺伝子の分子遺伝学的検査は臨床的感度が高いため、(1)単発の血管芽腫、網膜血管腫、または淡明細胞型腎細胞癌を発症しており、(2)VHL遺伝子の生殖細胞系列病的バリアントが検出されない人についてはVHL病を高い確実度で効率的に除外することができる。そのような人であってもVHL遺伝子の体細胞モザイクの可能性は依然考慮されうる(VHL罹患者の約5%は体細胞モザイクである[Chen et al 2022 ])。若年者で、特に多発病変を生じている場合は、高齢で単発病変のみを生じている罹患者に比べてVHL遺伝子の生殖細胞系列病的バリアントを有している可能性は高くなる[Binderup et al 2017a ]。

VHLが疑われる人の鑑別診断は、さらなる臨床所見によって決まる(3a3b参照)。

褐色細胞腫 褐色細胞腫罹患者の40%が次に挙げる遺伝子のうちのいずれかのヘテロ接合性病的バリアントを有している:SDHBSDHDVHLRETNF1 (これらは頻度が高い) 、 SDHASDHAF2MAXFHTMEM127 (これらは頻度が低い)。20歳未満の発症例を除けば、VHL遺伝子の生殖細胞系列病的バリアントが孤発性の片側性褐色細胞腫(すなわちVHL家族歴がない罹患者)でみられることはまれである。

表3a
褐色細胞腫の発症リスクが高い遺伝性疾患

遺伝子 疾患 遺伝形式 臨床的特徴
MAX
SDHA
SDHAF2
SDHB
SDHC
SDHD
TMEM127
遺伝性パラガングリオーマ・褐色細胞腫症候群 常染色体顕性遺伝 1 パラガングリオーマ、褐色細胞腫を発症することが特徴である。
NF1 神経線維腫症1型 常染色体顕性遺伝 カフェオレ斑、間擦部の雀卵斑様色素斑、皮膚神経線維腫、学習障害。褐色細胞腫は神経線維腫症1型患者で比較的頻度が高いがそれでも稀少で、成人患者の1%未満である。
RET 多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2型) 常染色体顕性遺伝
  • MEN2A:甲状腺髄様癌、褐色細胞腫、副甲状腺腫or過形成の発生リスクが高い。褐色細胞腫は通常甲状腺髄様癌よりも後か、同時に生じる。しかし13-27%の症例では初発病変である。
  • MEN2B:口唇と舌の粘膜神経腫、消化管の神経節腫、マルファン様体形、甲状腺癌および褐色細胞腫の発症高リスク。褐色細胞腫はMEN2Bの人の50%に発生する。
  1. SDHDの病的バリアントは片親起源効果を示しており、通常は病的バリアントが父親から受け継がれた場合にのみ疾患を引き起こす。SDHAF2、場合によってはMAXの病的バリアントも、SDHDの病的バリアントと同様に片親起源効果を示す。

腎細胞癌 家族性腎細胞癌の罹患者についてはFH腫瘍易罹患性症候群(訳注2:遺伝性平滑筋腫症・腎細胞癌症候群: HLRCC)やBirt-Hogg-Dubé症候群の可能性がないか評価すべきである。

表3b
腎細胞癌に関連する遺伝性疾患

責任遺伝子 疾患名 遺伝形式 臨床的特徴
FH FH腫瘍易罹患性症候群(遺伝性平滑筋腫症・腎細胞癌症候群:HLRCC) 常染色体顕性遺伝 皮膚平滑筋腫、子宮平滑筋腫(子宮筋腫)、腎腫瘍。褐色細胞腫およびパラガングリオーマは少数の家系で報告がある。診断時年齢の中央値は40歳以下である。
FLCN Birt-Hogg-Dubé(BHD)症候群 常染色体顕性遺伝 皮膚病変(線維毛包腫、アクロコルドン、血管線維腫、口腔内丘疹、皮膚線維腫、表皮嚢腫)、肺嚢胞/気胸の既往、多様な腎腫瘍。腎腫瘍の診断時年齢の中央値は48歳である。

VHLの内リンパ嚢腫瘍はしばしばメニエール病と誤診される。


臨床的マネジメント

フォンヒッペル・リンドウ(VHL)病の初のケア・パスウェイが最近オランダの多分野協働チームにより発表された[Wolters et al 2022]。

最初の診断に続いて行う評価

VHLと診断された個人のニーズをとらえるために、4にまとめた評価法(診断につながる評価法の一部として行われるものではないにしても)が推奨される。

表4.
VHL病と初めて診断された後に推奨される評価項目

臓器/問題点

評価法

コメント

神経

  • 神経学的病歴聴取と身体診察
  • 脳脊髄MRI
中枢神経系あるいは末梢神経の血管芽腫を示す所見を検索する。

眼科的評価

網膜血管芽腫を検索する。

腎/膵嚢胞
および腫瘍

16歳以上を対象に腹部超音波検査

腎臓、副腎、膵臓に病変が疑われたらさらなる精査を行う(CT, MRI)。

内分泌

  • 血圧測定
  • 24時間尿中メタネフリンおよびカテコラミン代謝産物 または血漿遊離メタネフリン分画の測定
5歳以上を対象に褐色細胞腫の検索を行う。

耳鼻咽喉

聴覚評価

内リンパ嚢腫瘍による難聴を検索する。

内耳道MRI

15-20歳、難聴、耳鳴り、めまいがある場合はより早期に内リンパ嚢腫瘍を検索する。

精神

心理社会的ニーズの評価

必要に応じソーシャルワーカーや心理士に紹介する。

遺伝カウンセリング

遺伝医療専門家1による対応

罹患者と家族が治療上の、そして個人的な意思決定を行えるよう、VHLの性質、遺伝形式、および影響について情報提供する。

  1. (本邦での各職種名称:臨床遺伝専門医、認定遺伝カウンセラー、遺伝看護専門看護師)

病変に対する治療

GeneReviewsでの分子標的治療とは、疾患発症にかかる特定の根本的メカニズムに対処するもの(その治療法が当該遺伝性疾患1つ以上の症候に著しく有効かどうかにかかわらず)、あるいは遺伝の根本原因に関する知識なしには考慮されないもの、あるいは治癒につながる可能性があるものをいう。- 編集者より

パゾパニブ (Pazopanib)は進行性腎細胞癌に対してFDAで承認された治療薬である。シングルアーム第2相試験では分子遺伝学的あるいは臨床的にVHLと診断された31人の患者にパゾパニブ800mgを24週間経口投与した[Giles & Gläsker 2018, Jonasch et al 2018]。4人は遺伝学的検査でVHL病的バリアント陰性だった(CNS血管芽腫と網膜血管芽腫あり)。31人中13人(42%)はパゾパニブでの治療後にRECIST基準で奏効を達成した。腎細胞癌を生じた人の半数以上(52%)で奏効がみられ、うち2人は完全奏効であった。同様に、膵病変例のうち52%で部分あるいは完全奏効がみられ、血管芽腫49例のうち2例で部分奏効がみられた。1人がCNS血管芽腫の出血で死亡した。治療反応は生殖細胞系列に病的バリアントのある人に限られた。この研究でパゾパニブによる全身療法は、生殖細胞系列にVHL病的バリアントを持ち、かつ治療介入を要するがCNS血管芽腫のない人に考慮されると結論づけた。

ベルズチファン (Belzutifan). VHL関連腎細胞癌患者を対象とした低酸素誘導因子2α(HIF2α)阻害薬ベルズチファンのLITESPARK-004試験では有望な結果が示された。ベルズチファンはVHL蛋白質欠損細胞の生物学的特性を特異的に変化させる経口分子標的治療薬である[Choueiri et al 2021]。ベルズチファンの副作用は限定的である。薬事承認はVHL患者61人を対象とした第2相試験に基づいており、そこでは手術回数の大幅な減少も含め、全タイプの腫瘍に臨床的有効性が報告された[Jonasch et al 2021]。61人の患者の2.5年近くに及ぶフォローアップ解析で、ベルズチファンは腎臓、膵臓、脳、脊髄、目の腫瘍を含むVHL関連新生物に対し抗腫瘍活性を維持し、新たな安全性懸念を伴うことはなかったと報告された[Jonasch et al 2022]。ベルズチファンは部分奏効により腎細胞癌に対する客観的奏効率(ORR)49%をもたらし、21.8ヶ月間の投与での病勢コントロール率は98.4%となった。膵病変(例えば嚢胞、膵内分泌腫瘍)の患者では客観的奏効率77%、CNS血管芽腫では奏効率30%であった。全体では33%でグレード3以上の有害事象が報告されており、7人(11.5%)が治療を中断した。ベルズチファンは2021年8月にFDAの承認を受け、即時手術を要しない患者に使用されている。ベルズチファンがVHLの人における腫瘍発生を予防しうるのかはまだわからない。最も顕著な副作用には貧血と疲労感が含まれる。

サポーティブケア
VHL関連病変のマネジメントに関するガイドラインは存在しない。

CNS血管芽腫

脊髄血管芽腫

網膜血管芽腫

腎細胞癌

褐色細胞腫

膵嚢胞と神経内分泌腫瘍

内リンパ嚢腫瘍

これらの緩徐に発育する腫瘍を外科的に切除するにあたり考慮しなければならないのは、合併症で全聾になる可能性についての議論である。小径腫瘍に対する早期介入で聴力と前庭機能を維持できることが示されてきた[Friedman et al 2013]。Friedman らは内リンパ嚢腫瘍18例中2例に術後顔面神経機能障害、3例に腫瘍再発があったと報告した(平均観察期間67か月)。Kimらは33個の内リンパ嚢腫瘍を切除したVHL病31例について、29 例は症候性であり、術後聴力は97%で維持あるいは改善、腫瘍完全切除率は91%と報告した。有害事象は脳脊髄液漏出2例(6%)、一過性の下部脳神経麻痺1例(3%)の計3件だった [Kim et al 2013]。

精巣上体/子宮広間膜嚢胞腺腫

症状を呈したり妊孕能に影響を及ぼしたりしない限り、外科的切除を要さない。

表5
VHL病:推奨サーベイランス

有害事象 評価法 頻度 コメント
全体 神経症状、視力・聴力障害の臨床評価 0歳開始、1年毎  
中枢神経 脳脊髄MRI 11歳開始、2年毎 側頭骨・後頭蓋窩の内リンパ嚢腫瘍に注意
網膜血管腫 間接検眼鏡を用いた眼科的評価 0歳(遅くとも4歳までに)開始、1年毎  
内臓 腹部MRI
(腎/膵/副腎)
15歳開始、2年毎  
副腎褐色細胞腫 血圧測定 0-9歳開始、1年毎  
24時間血漿または尿中メタネフリン分画測定 5歳開始、1年毎
内リンパ嚢腫瘍1 聴覚評価 11歳開始、2-3年毎 難聴早期発見のため聴覚評価が望ましい
難聴、耳鳴り、めまいがあれば1年毎
内耳道MRI2 無症状なら15-20歳 側頭骨錐体部腫瘍として発症し、単純MRIでは見落とす危険があり、フレア画像が有用3
造影MRI、内耳道のthin slice でT1強調像にて高信号(水腫の検索) 難聴、耳鳴り、めまい発症時
心理ケア 心理社会的ニーズの評価 受診時  
  1. 内リンパ嚢腫瘍同定に最も適した検査法は確立されていない
  2. Mehta et al [2021]
  3. Butman et al [2013]
  4. 訳注4:現在の医療サーベイランスガイドラインはVHL罹患者とその配偶者、家系員に対する心理サポートについて言及しないが、研究でその必要性が示されている[Lammens et al 2010Lammens et al 2011bBond et al 2023]。

回避すべき薬物や環境

以下のものは回避すべきである。

リスクのある血縁者の評価

VHL症状の早期発見は、最適時介入と予後改善につながる; このためリスクを有する無症状血縁者サーベイランス(子供を含む)でVHL初期症状を見つけることは適切である。ASCOはVHL をGroup 1 疾患 –リスクを有する血縁者に対する標準マネジメントとして遺伝学的検査が考慮される遺伝性疾患– と位置付けている [Robson et al 2015]。

VHL病の臨床診断となった発端者が遺伝学的検査を受けていない場合、リスクを有する血縁者の遺伝状態を分子遺伝学的検査で明らかにすることは簡単ではない。かような遺伝学的検査結果の解釈には慎重を要する。リスクを有する血縁者にVHL  病的バリアントが同定されれば陽性で、リスクを有する他の血縁者に同じ分子遺伝学的検査を提供できる。しかしVHL  病的バリアントが陰性の場合は以下の可能性が考えられる。

この場合、リスクを有すると推定される血縁者が病的アレル(VHL病または他の遺伝性疾患の)を有する可能性は低いながら残る。かような血縁者をカウンセリングする場合は、発端者のVHL臨床診断の信憑性、発端者との関係性、病的バリアントの推定リスク(VHL病または他の遺伝性疾患の)、診療サーベイランス継続の必要性を慎重に検討するべきである。
リスクを有する血縁者の遺伝学的検査に関してはGenetic Counseling 参照のこと。

妊娠管理

VHL妊婦の医療サーベイランスに関するコンセンサスはない。フランスのVHL 研究グループによると、一回以上妊娠したVHL女性の血管芽腫関連リスクは有意に高かった[Abadie et al 2010]。他の研究では、妊娠が小脳血管芽腫増大に有意に影響し、合併症率も高い(17%)と報告している [Frantzen et al 2012]。褐色細胞腫や小脳血管芽腫の早期発見に対応できるよう妊娠前後から専門施設でのサーベイランス強化が望ましい。しかし他の研究では妊娠期間中のVHL新規病変は抑制されていた[Binderup et al 2015]。別の研究でも妊娠と小脳血管芽腫新規病変や小脳血管芽腫・嚢胞増大は無関係で[Ye et al 2012]、妊娠中のサーベイランス強化は不要とする意見もある。VHLサーベイランスガイドライン[ VHL Active Surveillance Guidelines] では妊娠4か月での小脳単純MRIを推奨している。
妊娠中の投薬に関する詳細情報はMotherToBaby参照のこと。

研究中の治療

一部のVHL 病的バリアントはhypoxia-inducible factor alpha (HIFα)の抑制が効かず、 vascular endothelial growth factor (VEGF)などHIFα下流分子の発現亢進を招いて疾患に寄与する。研究中の治療はこれらの制御逸脱シグナルを標的としている。硝子体内VEGF阻害薬ラニビズマブ注射は網膜血管芽腫の局所治療難渋例に対し一定の効果をもたらした[Wong et al 2008]。他のVEGF阻害薬ベバシズマブでも網膜血管芽腫に対する有効性が示された[Hrisomalos et al 2010]。CNS血管芽腫制御例も(全例ではないが)示されている[Madhusudan et al 2004]。

チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)スニチニブはVEGF受容体阻害作用を持ち、稀な悪性褐色細胞腫にある程度有効だが、良性例では単摘が推奨される[Jimenez et al 2009]。スニチニブは淡明細胞型腎細胞癌に対する有効性が示されたが血管芽腫では示されなかった [Jonasch et al 2011]。

再発性や進行の早い血管芽腫に対してはパゾパニブの有効性が示された[Migliorini et al 2015]。別のTKIであるドヴィチニブが無症状血管芽腫に対する安全性と有効性をみるパイロットスタディは参加6例全てに有害事象があり中止となった。斑状丘疹状皮疹、下痢、疲労感が最も多かった [Pilié et al 2018]。VHL 患者22人の全 311 病変に対し 89Zr-ベバシズマブPETで VEGF産生病変はよく描出され、抗VEGF治療選択検討に有用な手法であると示唆される [Oosting et al 2016]。

ソマトスタチンアナログは血管芽腫治療に役立つ可能性がある。血管芽腫9例の検討では少なくとも3個のソマトスタチン受容体サブタイプが発現していた (1, 2a, 3, 4, or 5)。摘出不能の鞍上血管芽腫1例はソマトスタチン模倣オクタペプチドであるオクトレオチド徐放性製剤で9か月治療され、臨床的制御が得られ半年以内に画像上縮小がみられた [Sizdahkhani et al 2017]。

プロプラノロールも小児血管腫に対する血管新生阻害効果や、HIFレベルに対する仮想インパクトからVHL関連血管芽腫増大を制御しうる有効な治療と考えられる。

PD-L1を標的とするチェックポイント阻害剤は腫瘍制御に有効である;しかしこれらの治療は全身に潜在病変を多数抱えるVHL罹患者に未知の毒性をもたらすかもしれない。

Sardi et al [2009] は脊髄の多発進行性血管芽腫にサリドマイド単剤で腫瘍抑制が3年持続したと報告した。

アタリュレンとして知られるナンセンス変異リードスルー薬(PTC124)は、mRNA途中でナンセンス変異バリアントによる終止コドン(UAA, UAG, UGA)を有する人に有効かもしれない[Auld et al 2010]。PTC124はいずれの終止コドンにもリードスルー作用があるが効率は異なる (高い順にUGA, UAG , UAA)。PTC124 はデュシェンヌ型筋ジストロフィー、嚢胞性線維症、アッシャー症候群1C型においてリードスルー促進が証明された。Phase I、phase II 臨床試験でPTC124は長期投与においても重篤な有害事象を起こさなかった[Wilschanski et al 2011]。VHL に対するPTC124効果の前臨床試験が進行中である。

vhl-/- ゼブラフィッシュを用いたHIF2α阻害薬in vivo研究では脳と体幹の赤血球産生と血管新生は抑制され、赤芽球系細胞の分化促進、末梢血赤芽球数減少も認められた。これはHIF2α阻害薬適正投与に対する前臨床および臨床試験を進める根拠となる [Metelo et al 2015]。

幅広い疾患と症状に関する臨床研究の情報へアクセスするには米国のClinicalTrials.govや欧州のEU Clinical Trials Register を検索するとよい。

 


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

Von Hippel-Lindau (Von Hippel-Lindau:VHL) 病は常染色体顕性遺伝形式をとる。

家族構成員のリスク

発端者の両親

注: 臨床症状はないがVHL病的バリアントを有する、あるいは遺伝学的検査未受検の両親に対しては、VHL病変スクリーニングを行うべきである (Surveillance参照)。

注: 親の白血球DNAは体細胞モザイク全てを同定するわけではなく、生殖細胞にしかない病的バリアント を同定できないかもしれない。
*体細胞と生殖細胞のVHL病的バリアントモザイクを持つ親は症状がごく軽度かもしれない.

発端者の同胞 

発端者の同胞におけるリスクは発端者の親の臨床的/遺伝学的状態による。

発端者の子

VHL患者の子がVHL病的バリアントを受け継いでいる可能性は50%である。臨床的重症度は予測できない。

他の家族構成員

家系員のリスクは発端者の両親の状態に依存する。親が罹患あるいはVHL病的バリアントを有していれば、その家系員はリスクを有していることになる。

関連する遺伝カウンセリング上の諸事項

リスクのある家系員への、早期診断・治療を目的とした検査に関する情報については、前出の「マネジメント」中の『リスクのある血縁者への検査』を参照。

遺伝性腫瘍リスク評価とカウンセリング

リスクを有する家系員に分子遺伝学的検査を行って(または行わずに)同定することへの医療、心理社会的、倫理的影響に関する総合的記載は Cancer Genetics Risk Assessment and Counseling – for health professionals (part of PDQ®, National Cancer Institute)参照のこと。

リスクを有する無症状の家系員に対する検査

リスクを有する家系員への分子遺伝学的検査は、クリニカルサーベイランスを生涯にわたって続ける必要があるかを見極めるうえで適切である。結果の解釈は、罹患した家系員に生殖細胞系列のVHL病的バリアントが同定されている場合は最も正確である。(リスクのある血縁者の評価欄を参照).
リスクを有する人を早期に同定することは医療マネジメントにも影響し、無症状者を小児期に遺伝学的検査することは有益である [Binderup et al 2022] ( VHL Resources – VHL Patient and Caregiver Handbookを参照). 眼科スクリーニングはVHLリスクのある人に出来るだけ早く、5歳より前に行うべきで、子供への分子遺伝学的検査は早い段階で行うのが良く、その結果によって子供の医療マネジメントが変わるかもしれない。
子供が病的バリアントを持たないなら、不要な医療を避けるために両親は子供の遺伝学的状況をスクリーニング開始前に知りたいこともある。遺伝学的検査前の子供と両親に対する教育には十分な配慮が必要である。結果を子供と両親に伝える方法は計画的に行うべきで、VHL Allianceが作成した子供用ハンドブックを推奨する( VHL Resources – VHL Kids Handbook)。

その他考慮すべき事項

VHL分子遺伝学的検査を行う医師と被験者はリスク、利益、検査精度の限界について理解すべきである。遺伝学的検査をルーチンで行っている遺伝カウンセラーや医療施設に照会することが望ましい。

家族計画

DNAバンク 検査の方法論や遺伝子、対立遺伝子バリアント、そして疾患に対するわれわれの理解が将来さらに進むと考えられるので、分子診断が確定していない(原因となる遺伝子変化が不明の)罹患者DNA保存は考慮されるべきである。詳しくは Huang et al [2022]を参照。

出生前検査と着床前遺伝子診断

VHL病的バリアントが罹患家族で認められた場合、妊娠例に対する出生前遺伝子診断や着床前遺伝子診断が可能である (訳注5:本邦2024年度版VHL病診療の手引きによると「当事者の心情を傾聴しつつ、時代(社会的)背景や最新の情報をもとに、必要に応じ限界や留意点も含め現状について情報提供することが望ましい」としている)。
出生前診断の利用、特にそれが早期診断よりも妊娠中絶を目的として考慮されているならば、医療専門家の間でも家族内でも見解の相違が生じることがある。ほとんどの施設で出生前診断の利用は個人の判断に委ねられるべきだろうが、この問題を議論することは役に立つかもしれない。


関連情報

GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報についてはここをクリック。


分子遺伝学

分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。

表A
Von Hippel-Lindau 病:遺伝子とデータベース

遺伝子 染色体上の座位 タンパク質 座位別データベース HGMD Clin Var
VHL 3p25​.3 VHL 腫瘍抑制因子 パラガングリオーマ褐色細胞腫 Database - VHL
VHLdb
VHL VHL

データは次のレファレンスより集めた。
遺伝子 HGNC
染色体領域 OMIM
蛋白 UniProt
リンクを貼ったデータベース(Locus Specific, HGMD, ClinVar)の説明はこちら

表B
Von Hippel-Lindau 病のOMIMエントリー (View All in OMIM)

193300 VON HIPPEL-LINDAU病
608537 VON HIPPEL-LINDAU TUMOR SUPPRESSOR; VHL

分子病態

癌抑制因子pVHLが低酸素誘導遺伝子群制御におけるhypoxia-inducible factor 1 alpha (HIF1α) のユビキチン化と分解に果たす役割に関する詳細な解析研究は2019年ノーベル賞受賞の核心部分の一つで、VHL 機能障害は腎細胞癌や血管芽腫など血管豊富な腫瘍産生モデルとなった [Takamori et al 2023]。VHL病は生殖細胞系列の機能喪失型バリアントと体細胞の機能喪失型バリアントが対立アレルを巻き込んだ結果発症する. 病的バリアントは VHL 発現を抑制・減弱させ異常蛋白質の発現をもたらす。一部のバリアントでは遺伝子型-表現型相関がある[Reich et al 2021]。αヘリカルドメインを不安定化、α-βドメイン繋がりを脆弱化して、Elongin CやHIF1αとの結合を阻害、または疎水性コア残基を破壊してHIF 制御逸脱をもたらす病的ミスセンスバリアントはVHL type 1と考えられる。HIF 制御を乱さない病的ミスセンスバリアントはVHL type 2と考えられる。さらにVHL病的バリアントはNotchシグナル経路を介して血管分岐を障害する [Arreola et al 2018]。褐色細胞腫を起こすが腎細胞癌リスクが低い病的ミスセンスバリアント(VHL types 2A, 2C)は、褐色細胞腫と腎細胞癌を起こす病的バリアント(VHL type 2B)に比べ常酸素下でのHIF1αユビキチン分解能がより保たれている。 また変異型pVHLは発生過程で交感神経-副腎髄質前駆細胞のアポトーシスを制御する分子経路蛋白質群均衡を乱すことで、褐色細胞腫を発症させやすくするのかもれない。

疾患発症メカニズム 機能喪失

VHLに特化した解析技術について  VHL翻訳領域に病的バリアントが見つからない発端者にはイントロン1シークエンス解析を行うべきで、イントロン1病的バリアントでcrypticエクソン(designated exon E1')が含まれていることがある  [Lenglet et al 2018]。


更新履歴:

  1. 日本語訳者 櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)
    Gene Review 最終更新日: 2002.12.4. 日本語訳最終更新日: Gene Review 最終更新日: 2004.4.1 
  2. Gene Review著者: R Neil Schimke, MD, Debra L Collins, MS, Catherine A Stolle, Ph.D.
    日本語訳者: 櫻井晃洋(信州大学医学部附属病院遺伝子診療部)           
    Gene Review 最終更新日: 2007.3.20. 日本語訳最終更新日: 2007.5.14.
  3. Gene Reviews著者: Carlijn Frantzen、MD、Timothy D Klasson、BSc、Thera P Links、MD、PhD、Rachel H Giles、PhD
    日本語訳者: 矢尾正祐(横浜市立大学附属病院泌尿器科)
    AMED「医療現場でのゲノム情報の適切な開示のための体制整備に関する研究」班(研究開発代表者:小杉眞司)
    Gene Reviews 最終更新日:2015.8.6. 日本語訳最終更新日: 2018.8.25.(in present)

  4. Gene Reviews著者: Rachel S van Leeuwaarde, MD, PhD, Saya Ahmad, BSc, Bernadette van Nesselrooij, MD, PhD, Wouter Zandee, MD, PhD, and Rachel H Giles, PhD.
    日本語訳者:入部康弘・蓮見壽史・矢尾正祐(横浜市立大学大学院医学研究科泌尿器科学)、古屋充子(市立札幌病院病理診断科)
    GeneReviews最終更新日: 2025.5.1.  日本語訳最終更新日:  2025.5.12.[in present]

原文: Von Hippel-Lindaou Disease

印刷用

 

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