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神経線維腫症1型
(Neurofibromatosis 1)

[NF1, Von Recklinghausen Disease, Von Recklinghausen’s Neurofibromatosis]

Gene Review著者: J M Friedman, MD, PhD
日本語訳者: 森川真紀(名古屋大学医学部附属病院ゲノム医療センター),生田国大(名古屋大学医学部附属病院ゲノム医療センター/整形外科) 

Gene Review 最終更新日: 2019.6.6  日本語訳最終更新日: 2021.1.12

原文 Neurofibromatosis 1


要約

疾患の特徴 

神経線維腫症1型(NF1)は多発性のカフェ・オレ斑,腋窩や鼠径部の雀卵斑様色素斑,多発性の皮膚神経線維腫,虹彩Lisch結節および脈絡膜色素斑により特徴づけられる.NF1患者の約半数に蔓状神経線維腫がみられるが,体内に生じ無症状であることが多い.学習障害はNF1患者の少なくとも50%に認められる.頻度は低いが,より重篤な病変としては,視神経やその他中枢神経系の神経膠腫,悪性末梢神経鞘腫瘍,側彎症,脛骨異形成症や血管病変などがある.

 

診断・検査 

NF1の診断は通常臨床所見に基づく.NF1遺伝子のヘテロ接合性病的バリアントが神経線維腫症1型の発症原因となる.NF1遺伝子の分子遺伝学的検査は診断に必要とされることが少ない.

臨床的マネジメント

対症療法:
眼や中枢神経系,末梢神経系,心血管系,内分泌系,脊椎,長管骨の症状を有する患者に,治療に適切な専門家を紹介する.美容上問題となったり,生活に支障を生じたりする散在性の皮膚や皮下神経線維腫は外科的に切除する.蔓状神経線維腫の外科的治療は満足な結果を得られないことが多い.悪性末梢神経鞘腫瘍は可能であれば外科的に完全切除する.視神経膠腫は通常無症状で臨床的に安定しているため,治療を必要とすることが少ない.高度の骨萎縮を認めるdystrophic typeの側彎症は時に外科的治療を要するが,dystrophic type以外の側彎症は通常保存的治療で足りる.注意欠如・多動症の小児に対してはメチルフェニデートによる治療が有効とされる.

サーベイランス:
年に一回本症の経験が豊富な医師による身体診察,小児では年に一回の眼科診察(成人では頻度は少なくてよい),定期的な小児の発達評価,定期的な血圧測定,臨床的に頭蓋内腫瘍や体内の腫瘍が疑われる場合MRI検査によるフォローアップ.女性は30歳から年1回のマンモグラフィー検査を開始,更に30~50歳の女性では年1回の乳房MRI検査も考慮される.

遺伝カウンセリング 

NF1は常染色体優性遺伝の形式をとる.患者の半数はNF1遺伝子にde novoで病的バリアントが発生している.患者の子は50%の確率で変化したNF1遺伝子を有するアレルを受け継ぐが,同一家系内においても臨床像はきわめて多彩である.リスクのある家系員に対する出生前診断や着床前診断は,家系内で病的バリアントが同定されていれば可能である.

訳注:日本では, 本症に対する出生前診断や着床前診断は行われていない. いずれにしても次世代への遺伝に関しては細心の遺伝カウンセリングが必要である.


診断

疑わしい所見

下記の所見のいずれかを有する患者は,神経線維腫症1型(NF1)を疑うべきである.

図1

図1 fig2 カフェオレ班
図2 fig1 神経線維腫
図3 fig3 蔓上神経線維腫

確定診断

NF1の診断は発端者においてthe National Institutes of Health(NIH)の神経線維腫症1型(NF1)診断基準[NIH 1988]に該当すれば確定する.NIHのNF1診断基準では,前項の疑わしい所見で示された項目のうち2つ以上該当すれば診断が確定する.

注釈:下記小児の項にも示すとおり,診断に用いる皮膚所見が他の疾患と重なるため,NF1の家族歴のない小児の診断には注意が必要である.

成人 

NIHの診断基準は成人NF1患者において特異度も感度も高い[Ferner et al 2011, Ferner & Gutmann 2013]

小児

NF1遺伝子のヘテロ接合性病的バリアントを検出する分子遺伝学的検査は,一部の患者に提示されることがある.

訳注:日本では一般にNF1に対して出生前診断の適応があるとは考えられておらず,着床前診断も行われていない.

改訂版NIH診断基準では,NIHコンセンサス会議開催当時は知られていなかった小児期の臨床的特徴(例:脈絡膜色素斑や貧血性母斑,"unidentified bright objects"(UBOs))や,NF1病的バリアントに対する分子遺伝学的検査の有用性についても考慮するよう推奨している[Curless et al 1998, Ferrari et al 2014, Tadini et al 2014, Parrozzani et al 2015]

単一遺伝子検査

NF1のゲノムDNA(gDNA),そして/またはcDNA(mRNAから逆転写された相補的DNA)のシークエンス解析は,標的遺伝子の欠失解析と共に実施される.

染色体マイクロアレイ解析(CMA)は,臨床所見から遺伝子の大規模な欠失が疑われる場合にNF1遺伝子全欠失検出のために実施される[Mautner et al 2010, Pasmant et al 2010, Kehrer-Sawatzki & Cooper 2012]

マルチジーンパネルのうち,NF1やNF1関連遺伝子(鑑別診断の項を参照)を含んだパネルについては考慮されることがある.ただし,SPRED1遺伝子を除けば,RAS/MAPK症候群の他の遺伝子やヌーナン症候群,あるいは遺伝性腫瘍パネルの生殖細胞系列バリアントに伴う臨床的特徴は,NF1と重なることが少ない.ゲノムDNA解析単体のパネルにおいてNF1遺伝子の病的バリアントが検出される割合は,NF1遺伝子のcDNA(mRNA)解析と標的ゲノムDNA解析,コピー数解析を実施する多段階プロトコールによって得られるよりも本質的に低い可能性がある.注釈:(1)パネルに含まれる遺伝子や,各遺伝子に対する検査の診断感度は,検査会社によって異なり,経時的に変化する可能性がある.(2)マルチジーンパネルによっては,本GeneReviewで述べる疾患と関連のない遺伝子が含まれる可能性がある.そのため,本来の表現型からは説明できない遺伝子の病的バリアントや病的意義不明なバリアントが同定されることを考慮しつつ,臨床医はどのマルチジーンパネルが最も手頃な価格で疾患の遺伝的要因を特定できる可能性が高いかを見極めなければならない.(3)検査会社によっては,独自のカスタムメイドパネルや,臨床医が解析遺伝子を選べる表現型中心のカスタムメイドのエクソーム解析といったオプションを提供している.(4)パネル検査で用いられる手法には,シークエンス解析,欠失/重複解析,そして/または塩基配列によらない他の検査が含まれうる.

マルチジーンパネルの概要はここをクリック.遺伝学的検査を依頼する臨床医向けのより詳細な情報についてはこちらを参照のこと.

注釈:細胞遺伝学的検査は,NF1の臨床診断が確実であるにもかかわらず,NF1遺伝子のcDNA(mRNA)解析やゲノムDNA解析,コピー数解析からは病的バリアントが検出されなかった場合に考慮される.細胞遺伝学的な再構成が原因となるのはNF1患者の1%にも満たないため,おそらく病的バリアントの大半は,前述したcDNAに基づく多段階検査により検出できる.

表1 
神経線維腫症1型で用いられる分子遺伝学的検査

遺伝子1 検査法 この方法により検出可能な病的バリアント2を有する割合
NF1 cDNA(mRNA)およびゲノムDNAのシークエンス解析に基づく多段階病的バリアント検出プロトコール3,4 >95%5
ゲノムDNAシークエンス解析3 ~60%-90%6
標的遺伝子欠失/重複解析4 ~5%7
染色体マイクロアレイ解析(CMA) ~5%7,8
細胞遺伝学的解析 <1%9
  1. 染色体座位とタンパク質については,表A.遺伝子とデータベース参照
  2. この遺伝子上で検出されるアレルのバリアント情報については,分子遺伝学の項を参照
  3. シークエンス解析で検出されるバリアントは,良性, おそらく良性, 意義不明, おそらく病的, 病的に分類される.バリアントには,小規模な遺伝子内欠失/挿入,ミスセンス,ナンセンスおよびスプライス部位のバリアントが含まれる.通常,エクソンや遺伝子全体の欠失/重複は検出されない. シークエンス解析結果の解釈について考慮すべき課題については,ここをクリック.
  4. 標的遺伝子の欠失/重複解析では, 遺伝子内の欠失や重複が検出される.検査方法は,定量PCR,ロングレンジPCR,MLPA(multiplex ligation-dependent probe amplification)法,単一エクソンの欠失や重複の検出を目的とする標的遺伝子マイクロアレイなどである.
  5. Messiaen & Wimmer [2008], Valero et al [2011], Sabbagh et al [2013], Evans et al [2016]
  6. Maruoka et al [2014], van Minkelen et al [2014], Pasmant et al [2015], Zhang et al [2015], Calì et al [2017]
  7. 遺伝子の全欠失はNF1患者の4~5%にみられる[Kluwe et al 2004].臨床所見から遺伝子の大規模な欠失(large deletion phenotype,遺伝子と表現型の相関の項「NF1遺伝子の全欠失…」部分を参照)が疑われる場合に,NF1遺伝子全欠失に対する検査が実施される[Mautner et al 2010, Pasmant et al 2010, Kehrer-Sawatzki & Cooper 2012]
  8. 大規模な欠失(0.25~10Mb)や重複が検出される.このような病的な変化は,通常cDNAに基づく多段階検査においても検出される.
  9. 染色体マイクロアレイ検査(CMA)やcDNAに基づく多段階検査では通常検出できないような染色体再構成が検出される.細胞遺伝学的な解析ではNF1遺伝子全欠失はほとんど検出できない.

臨床像

臨床症状に関する説明

神経線維腫症1型(NF1)の臨床像はきわめて多彩である[Ferner et al 2011, Ferner & Gutmann 2013, Dunning-Davies & Parker 2016]

皮膚の特徴

カフェ・オレ斑と雀卵斑様色素斑. 多発性のカフェ・オレ斑はほぼ全例に出現し,間擦部の雀卵斑様色素斑は約90%に出現する.

NF1患者にみられる特徴的なカフェ・オレ斑は,通常大きさが1~3cm程度の境界明瞭な長円形で,色合い(本来の皮膚の色よりやや濃い)は均一である.しかしながら,小さいものや大きいもの,淡い色合いや,より濃い色合いのもの,いびつな形のものもみられる.不規則な色素沈着として,典型的な大きめの色素病変の中に雀卵斑様色素斑や小さく色の濃いカフェ・オレ斑がみられることもある.カフェ・オレ斑は扁平で周囲の皮膚と同じく平面的である.皮膚病変が盛り上がっている,あるいは周囲の皮膚に比べて柔らかく手触りが異なる場合は,皮下の蔓状神経線維腫が考えられる.色白や浅黒い肌の人のカフェ・オレ斑は,色がやや濃いものの周囲の皮膚の色に似ていて見つけにくいことがある.そのような場合,色素斑を明らかにするのにウッド灯が有用である.カフェ・オレ斑はNF1患者の掌蹠にはみられないものの,それ以外の全身に生じうる.
多発する雀卵斑(そばかす)は日光に曝される部位によく生じるが,NF1患者では体幹や近位四肢,頸部にも散在的にみられることがある.類似した雀卵斑はNF1ではない色白の人にもよくみられる.しかし,NF1患者では腋窩や鼠径部,女性では乳房の下部といった皮膚同士が擦れ合う部位に雀卵斑様色素斑が生じやすい.これらは見た目によく似ているものの,生じる場所が通常と異なっている.

神経線維腫. 成人NF1患者では通常,多数の良性の皮膚神経線維腫が認められる.

散在性の皮膚もしくは皮下神経線維腫は小児期後半以前には少ない.成人NF1患者に見られる神経線維腫の数はごく少数の場合から数百,数千個にいたるまでばらつきがある.新たな皮膚や皮下の神経線維腫は生涯にわたって出現しつづけるが,出現の速度は年によって大きなばらつきがある.多くの女性患者では妊娠中,神経線維腫の数や大きさの急速な増大を経験する[Roth et al 2008]

 

その他の皮膚症状. NF1患者によくみられる若年性黄色肉芽腫や貧血母斑は,診断基準を満たさない幼児の診断の補助として役立つことがある[Marque et al 2013, Ferrari et al 2014, Hernández-Martín et al 2015, Vaassen & Rosenbaum 2016].若年性黄色肉芽腫は小さな黄褐色またはオレンジ色の丘疹で多発することがある.貧血母斑は不規則な形状の斑点で,周囲の皮膚よりも淡く,こすっても周囲の皮膚のように赤くはならない.

眼所見

NF1の眼症状としては視神経膠腫やLisch結節および脈絡膜色素斑があり,視神経膠腫は失明の原因ともなりうる.Lisch結節は無害な虹彩過誤腫で,細隙灯顕微鏡を実施するとほぼすべての成人NF1患者にみられるが,5歳以下のNF1患者では半分以下にしか認められない[Ragge et al 1993].脈絡膜色素斑は一般的な眼科検査では検出されないが,走査型レーザー検眼鏡や赤外線反射イメージング,あるいは光干渉断層画像化法(OCT)によるスキャンで可視化することができる[Vagge et al 2016].軸索を取り囲むシュワン細胞の増殖は,あらゆる年代のNF1患者の大多数に起こり,年齢とともに有病率や程度が増加する.NF1の稀な眼症状には,網膜血管増殖性腫瘍[Hood et al 2009, Shields et al 2014]や血管新生緑内障が含まれる[Elgi et al 2010, Chiu et al 2011, Al Freihi et al 2013]

視路神経膠腫を有するNF1患者の多くが6歳以前に視力低下や眼球突出,斜視で発症するが,小児期後半もしくは成人期まで症状を呈さないこともある[Friedrich & Nuding 2016].NF1による視路神経膠腫の多くが長年安定しているか,もしくは非常にゆっくりと進行する.なかには自然退縮するものもある[Listernick et al 2007, Shamji & Benoit 2007, Nicolin et al 2009, Sellmer et al 2018]

神経学的症状

末梢神経および中枢神経系の腫瘍については,皮膚の特徴,および腫瘍の項を参照.

多くのNF1患者の知能は正常であるが,50~80%に学習障害,もしくは行動障害が認められる[Pride & North 2012, Lehtonen et al 2013].明らかな知的障害は,一般集団における頻度の2倍にあたる6~7%に認められる[Pride & North 2012, Lehtonen et al 2013].自閉症スペクトラム障害の特徴は,最大30%の小児NF1患者にみられる[Garg et al 2013a, Garg et al 2013b, Walsh et al 2013,Plasschaert et al 2015, Morris et al 2016].そのほか学習面や行動面でのさまざまな障害が成人期まで続くと言われている[Descheemaeker et al 2013, Pride et al 2013, Granström et al 2014].視覚空間動作障害や社会適応障害,注意障害はNF1患者に最もよくみられるが,運動機能障害や実行機能障害,記憶障害や言語障害も頻繁にみられる[Pride & North 2012, Lehtonen et al 2013]

一部のNF1患者はびまん性多発神経障害を発症し,多発性神経根腫瘍を伴うことがある[Drouet et al 2004, Ferner et al 2004].発症者においては悪性末梢神経鞘腫瘍のリスクが高い.

てんかん発作は一般集団よりもNF1患者に多くみられ,どの年代にも起こり得る[Hsieh et al 2011, Ostendorf et al 2013].通常は焦点発作で,脳腫瘍や梗塞部位の存在と関連する[Ostendorf et al 2013].NF1患者の焦点発作のコントロールには,1種類以上の抗てんかん薬の使用,または脳の病変部位に対する外科的切除が必要となることがある[Ostendorf et al 2013, Gales & Prayson 2017]

睡眠障害はNF1患者にしばしばみられる[Leschziner et al 2013, Licis et al 2013, Maraña Pérez et al 2015].頭痛(片頭痛を含む)も非常によくみられる[Pinho et al 2014, Afridi et al 2015].蔓状神経線維腫に伴う痛みもまた一般的であるため,悪性末梢神経鞘腫瘍へ転化する際の最初の徴候としての痛みと区別しなければならない.

筋骨格の特徴

長管骨(多くの場合脛骨や腓骨)の異形成は稀であるもののNF1特有の徴候であり[Elefteriou et al 2009],先天性でほとんどの場合片側性である.通常,乳児期に下腿が前外側へ弯曲しているが,これは子供が歩き始める時期にみられる一般的な生理学的弯曲とはかなり異なる.脛骨異形成の早期発見ができれば,装具の使用により骨折を防げる可能性がある.初期の画像所見として,弯曲の頂点の皮質肥厚による髄腔狭小化がみられる[Stevenson et al 2007].長管骨の形成異常は骨自体の異常であり,通常は神経線維腫と隣接していない.反対にNF1に特徴的な限局性の骨病変である蝶形骨翼の異形成や脊椎異形成は,隣接した蔓状神経線維腫や硬膜拡張症(あるいはその両方)によるものである[Alwan et al 2005, Arrington et al 2013, Nguyen et al 2015, Huet al 2016]

蝶形骨翼の異形成は頭蓋の画像や,斜視,非対称な眼窩により偶然見つかることがある.大抵の場合は進行しないが,時に進行すると眼窩が破壊され,拍動性眼球陥凹を引き起こす[Friedrich et al 2010]

NF1の側彎症はdystrophic typeかnon-dystrophic typeのいずれかである[Elefteriou et al 2009].後者は一般的な思春期側彎症のように脊椎の異常を伴わない.dystrophic typeの側彎症はかなり若年(通常は6〜8歳)で発生し,短い分節で高度な弯曲を呈することを特徴とし,非常に急速に進行する可能性がある.

これらの限局性病変における骨折または骨の欠損は完全に治癒することが難しく,治療に難渋するため[Pessis et al 2015, Borzunov et al 2016],経験豊富な専門家による治療が望まれる.

小児NF1患者は,同じ年齢,性別,体重の子供と比べて筋力が低下している[Summers et al 2015]

血管病変

高血圧の頻度が高く,いずれの年齢にも生じうる.多くの例では高血圧は「本態性」であるが,NF1に特徴的な血管病変が腎動脈狭窄や大動脈縮窄,あるいはその他の高血圧に関連する血管病変を引き起こしていることもある.腎血管性のものは小児NF1患者の高血圧でしばしば発見される[Fossali et al 2000, Han & Criado 2005]

脳卒中の頻度が高く,多くの場合,一般集団に比べてNF1患者の方が若年で発症する[Terry et al 2016].心血管や脳血管に生じたNF1の血管病変は重篤で,時には生命にかかわる結果をもたらす[Cairns & North 2008, Rea et al 2009, Stansfield et al 2012, Koss et al 2013]

心臓の課題

肺動脈弁狭窄は一般集団に比べNF1患者での頻度が高い[Lin et al 2000].先天性心疾患または肥大型心筋症は,NF1遺伝子の全欠失を有する患者に特によくみられる[Nguyen et al 2013b].成人NF1患者は,肺高血圧症を呈することがあり,これは間質性肺疾患に合併する場合が多いが,その他のNF1の遅発性の病変に合併することもある[Stewart et al 2007, Zamora et al 2007, Montani et al 2011, Ennibi et al 2015].心臓内に神経線維腫が発生することもある[Nguyen et al 2013b]

腫瘍

神経線維腫は良性のシュワン細胞腫瘍で,身体のどの神経にも生じる可能性がある  [Stemmer-Rachamimov & Nielsen 2012].皮膚神経線維腫はほぼすべてのNF1患者に生じ,大きさの変化は非常にゆっくりであるものの年齢とともに数が増加する.NF1患者の約半数に蔓状神経線維腫がみられるが,ほとんどの場合内在的なため,身体診察では明らかにならない.体表に認められる蔓状神経線維腫の病変の広がりは身体診察だけでは判断できない.MRI検査が蔓状神経線維腫の画像診断の選択肢となる(画像診断の項を参照).

蔓状神経線維腫は小児期から青年期にかけて増大する傾向があるが,その後は成人期を通して安定した状態を保つ[Dombi et al 2007, Tucker et al 2009a, Nguyen et al 2012].蔓状神経線維腫の多くは無症状であるものの,痛みや,巨大化,重篤な変形が生じる場合や,隣接組織の異常増殖やびらんを引き起こすことがあり,神経や他の機能に影響を及ぼすこともある.

悪性末梢神経鞘腫瘍はNF1に伴う最も頻度の高い悪性腫瘍で,患者の約10%に発生する[Rasmussen et al 2001, Evans et al 2002, Walker et al 2006, Friedrich et al 2007, McCaughan et al 2007].悪性末梢神経鞘腫瘍はNF1患者において,一般集団より若く,青年期から成人期初期に発症することが多い[Hagel et al 2007, McCaughan et al 2007, Valentin et al 2016]NF1遺伝子の全欠失や[De Raedt et al 2003, Kluwe et al 2003, Kehrer-Sawatzki et al 2012],良性の皮下神経線維腫,深部に大きな蔓状神経線維腫を有するNF1患者は,これらの特徴を有しない患者に比べ,悪性末梢神経鞘腫瘍を発症するリスクが高い[Tucker et al 2005, Mautner et al 2008, Plotkin et al 2012, Nguyen et al 2014]

NF1患者において,(良性神経線維腫以外で)最も多い腫瘍は視神経膠腫と脳腫瘍である[Prada et al 2015, Blanchard et al 2016, Friedrich & Nuding 2016, Parkhurst & Abboy 2016,Sellmer et al 2017, Sellmer et al 2018].NF1患者にみられる視神経膠腫の多くは,生涯を通して無症状である.病変の大部分は自然退縮していると考えられ,実際にNF1における有病率は,幼児で約20%だが高齢者では5%未満にまで低下する[Sellmer et al 2018].視神経膠腫患者の臨床経過は,NF1ではない患者に比べ,NF1患者の方が軽症な傾向がある[Mandiwanza et al 2014].視路神経膠腫を有するNF1患者の17〜20%に,新たな中枢神経系神経膠腫が生じる[Sharif et al 2006, Sellmer et al 2018]

脳幹や小脳の星状細胞腫を発症したNF1患者もまた,NF1ではない患者よりも病勢進行が緩徐な可能性がある[Ullrich et al 2007a, Sellmer et al 2017].視神経以外の神経膠腫を一度発症したNF1患者の約20%は,2個以上の中枢神経系神経膠腫を発症する[Sellmer et al 2017].神経膠腫に対する放射線療法を受けたNF1患者においては,照射領域の視神経以外の膠腫と悪性末梢神経鞘腫瘍がかなり多くみられる[Kleinerman 2009, Madden et al 2014].毛様細胞性星状細胞腫からより悪性度の高い脳腫瘍への転化は,NF1患者の放射線療法後にも発生する可能性がある[Krishnatry et al 2016]

小児NF1患者において白血病(特に若年性慢性骨髄性白血病)や骨髄異形成症候群は,多くはないものの一般集団よりは頻度が高い.ほかにも横紋筋肉腫[Crucis et al 2015]や褐色細胞腫[Gorgel et al 2014],消化管間質腫瘍[Andersson et al 2005, Takazawa et al 2005, Miettinen et al 2006, Gorgel et al 2014, Nishida et al 2016],グロムス腫瘍[Harrison et al 2013, Kumar et al 2014],網膜血管増殖性腫瘍[Shields et al 2014]など様々な腫瘍が,予想よりも多くNF1患者にみられる.女性NF1患者は,50歳以前に乳がんを発症するリスクや乳がんによる死亡リスクがかなり高い[Madanikia et al 2012, Wang et al 2012, Seminog &Goldacre 2015].NF1患者はその他のがんのリスクも高い[Seminog & Goldacre 2013, Varan et al 2016]

発症年齢

NF1患者の多くは皮膚症状とLisch結節のみを発症するが,年齢とともにより深刻な合併症の頻度が増加する.NF1の多彩な症状はそれぞれ出現時期が特徴的である[DeBella et al 2000b, Boulanger & Larbrisseau 2005, Williams et al 2009,Ferner et al 2011]

例:

成長発達

NF1患者の身長は平均を下回り,頭囲は平均を上回る傾向がある[Clementi et al 1999, Szudek et al 2000a, Szudek et al 2000b, Virdis et al 2003, Karvonen et al 2013, Soucy et al 2013].しかし身長が-3SD以下であったり頭囲が+4SD以上であったりすることはほとんどない.一方,NF1遺伝子の完全欠失が原因となっている患者では臨床像が異なり,特に身長は2~6歳にかけて過剰発育を呈する[Mautner et al 2010,Pasmant et al 2010, Kehrer-Sawatzki & Cooper 2012, Ning et al 2016].一部の小児患者の臨床像はWeaver症候群に似ている.

二次性徴は通常正常であるが,思春期早発をきたすことがあり,特に視神経交叉に腫瘍を生じた小児NF1患者に多い[Virdis et al 2000, Kocova et al 2015].二次性徴の遅れもよく見られる[Virdis et al 2003]

寿命 

NF1患者の寿命の中央値は一般集団よりおよそ8年短い[Evans et al 2011, Wilding et al 2012].悪性腫瘍(特に悪性末梢神経鞘腫瘍)や血管病変がNF1患者における最も重要な早期の死因となっている[Zöller et al 1995, Rasmussen et al 2001, Evans et al 2011, Masocco et al 2011]

生活の質(QOL)

小児NF1患者と成人NF1患者の両方において,生活の質(QOL)の評価は比較群よりも低い[Vranceanu et al 2013, Merker et al 2014, Vranceanu et al 2015].整容面,医療面,社会面,行動面におけるこの疾患の特徴は,いずれもNF1患者の生活の質を損なう可能性があり,抑うつにより機能を損なうこともある[Cohen et al 2015]

画像診断 

注釈:NF1診断時に定例的に頭部MRI検査をおこなうことの有用性については議論がある.

MRI検査は,蔓状神経線維腫の病変の大きさや広がりを評価し[Mautner et al 2008, Cai et al 2009, Matsumine et al 2009, Van Meerbeeck et al 2009, Plotkin et al 2012, Hirbe & Gutmann 2014],その経時的変化を観察するための選択肢となる[Dombi et al 2007, Tucker et al 2009a, Nguyen et al 2012].MRI検査はNF1患者の視路神経膠腫やその他の脳腫瘍,脳の形態異常,脳血管障害の兆候を明らかにするのにも有用である[Cairns & North 2008, Rea et al 2009, Lin et al 2011, Prada et al 2015, Blanchard et al 2016, Sellmer et al 2017, Sellmer et al 2018].MRI検査による血管撮像(MRA)はNF1の血管障害の評価に役立つ[D'Arco et al 2014].従来のX線検査ではNF1患者に生じる骨格異常を検出できるが[Patel & Stacy 2012],骨病変の外科的治療が予定されている場合には,CT検査あるいは3D-CT検査が必要となることがある.PETやPET-CTは末梢神経鞘腫瘍の良悪性の判定に役立つが[Combemale et al 2014, Hirbe &Gutmann 2014, Salamon et al 2014, Chirindel et al 2015, Salamon et al 2015, Van Der Gucht et al 2016],最終的な鑑別は腫瘍の組織学的検査によってのみおこなわれる.PET-CT検査は悪性化が疑われる末梢神経鞘腫瘍の経皮的生検時のガイドとして有用とされている[Brahmi et al 2015]

MRI研究によりNF1患者は平均的に頭囲が大きいことが明らかになっているが,灰白質容量とIQには関連がない[Greenwood et al 2005, Margariti et al 2007, Karlsgodt et al 2012].脳梁拡張は一部の小児NF1患者に見られ,学習障害と関連している[Pride et al 2010, Aydin et al 2016].視神経の蛇行は一般に比べ小児NF1患者に多くみられるが,視神経の蛇行と視神経膠腫の発生との関連性はない [Ji et al 2013].NF1患者の拡散テンソル画像は特に前頭葉と脳梁における白質微細構造の異常を捉え[Ferraz-Filho et al 2012b, Karlsgodt et al 2012, Nicita et al 2014, Aydin et al 2016],機能的MRI研究では結合性の変化が示されている[Tomson et al 2015].MRスペクトロスコピー(MRS)検査では,NF1患者の方が対照群よりも代謝の変調がみられる[Nicita et al 2014, Rodrigues et al 2015]

脳MRI検査で小児NF1患者の約50%に認められるいわゆるunidentified bright objects (UBOs)の臨床的意義ははっきりしない[Sabol et al 2011, Friedrich & Nuding 2016, Sellmer et al 2018].このT2強調画像で高信号として認められる所見は視神経経路,基底核,脳幹,小脳,大脳皮質にみられ,通常占拠性の症状は引き起こさない.典型的なUBOsはT1強調画像やCTでは捉えられない.UBOsは拡散強調MRI[Ferraz-Filho et al 2012a, Ferraz-Filho et al 2012b, Billiet et al 2014, Ertan et al 2014]およびMRSで髄鞘内浮腫像を呈し[Rodrigues et al 2015],これは病理学的には海綿状髄鞘障害の領域に相当している[DiPaolo et al 1995].これらは年齢とともに消失するため,小児NF1患者に比べて成人NF1患者では低頻度である[Payne et al 2014, Friedrich & Nuding 2016, Sellmer et al 2018]

UBOsの存在は小児NF1患者のけいれんとは関連しない[Hsieh et al 2011].UBOsの存在,数,量や局在,消失が小児NF1患者の学習障害と関連しているという研究もあるが,研究者間で意見の一致には至っていない[Hyman et al 2007, Chabernaud et al 2009, Feldmann et al 2010, Payne et al 2014, Roy et al 2015]

遺伝子型と表現型の相関

NF1の臨床像はきわめて多彩で,血縁のない患者間は言うまでもなく,同一家系内の罹患者や,さらに同じ患者でも時期によって病像が大きく異なる.NF1遺伝子において特定の病的アレルと表現型に明らかな相関がみられるのはごくわずかである[Shofty et al 2015]

NF1患者ではNF1遺伝子の短縮型バリアントが多くみられるのに対して,肺動脈弁狭窄を伴うNF1患者(NF1-Noonan症例あるいはWatson症候群の表現型も含む)では非短縮型バリアントがみられる[Ben-Shachar et al 2013]

Watson症候群(多発性のカフェ・オレ斑,肺動脈弁狭窄,軽度知能低下)[Allanson et al 1991, Tassabehji et al 1993]や,家族性脊髄神経線維腫症[Upadhyaya et al 2009, Burkitt Wright et al 2013, Ruggieri et al 2015]のように明瞭なNF1遺伝子病的バリアントの家系内伝播は, NF1の多彩な臨床像がアレル異質性によるものであることを示している.さらにNF1家系内,あるいは家系間の臨床像に関する統計学的研究や[Sabbagh et al 2009, Sabbagh et al 2013],NF1モザイクの患者の精子提供により出生した23人の半同胞の観察結果[Ejerskov et al 2016]から,NF1遺伝子の病的アレルは表現型のごく一部にしか関与していないことが示唆されている.NF遺伝子の正常アレルの発現の違いが表現型の多様性に関与している可能性が考えられる[Jentarra et al 2012].罹患家系における臨床像の統計学的研究[Pasmant et al 2012]や,上位性が推定される多型の研究では[Pemov et al 2014],ほかの座位にある修飾遺伝子がNF1の表現型の多くに影響を与えることも示されている.

NF1の極めて広い臨床像は,偶発的に発生するイベントも表現型を決定するのに重要であることを示唆している.この推測を支持する証拠として,NF1患者に生じた神経線維腫,悪性末梢神経鞘腫瘍,褐色細胞腫,星状細胞腫,消化管間質腫瘍,骨髄悪性腫瘍,悪性黒色腫,下顎巨細胞性肉芽腫,グロムス腫瘍でNF1遺伝子座にセカンドヒットやヘテロ接合性の欠失が認められることが挙げられる[Upadhyaya et al 2012, Emmerich et al 2015].NF1患者のカフェ・オレ斑から成長したメラノサイト[Maertens et al 2007, De Schepper et al 2008]や,副腎皮質大結節性過形成,脛骨偽関節部組織[Kobus et al 2015] では,NF1遺伝子のヘテロ接合性の欠失が認められる[Lee et al 2012, Paria et al 2014, Sant et al 2015]

NF1の広い臨床像については遺伝子,非遺伝子,確率的な要素が関与していると考えられる.この複雑さとNF1遺伝子の病的バリアントの多様さゆえに,遺伝子型と表現型の相関を明らかにすることは非常に困難である.

浸透率

小児期以降の浸透率はほぼ100%である.

病名

NF1でも中枢神経病変を生じるが,NF2(中枢神経線維腫症)と区別するために「末梢神経線維腫症」と呼ばれていた.

特に何の限定もなく「神経線維腫症」という名称がNF1をさすことがあるが,他の著者がNF2やシュワノマトーシス,およびその他のNF1類縁疾患までをも含む用語として「神経線維腫症」を用いることがあるため混乱が生じる.

頻度

NF1は常染色体優性遺伝性疾患の中で最も頻度の高い疾患のひとつであり,その罹患率はおおよそ3,000出生に1人である[Lammert et al 2005, Evans et al 2010]

患者の約半数はde novoの病的バリアントにより発症する.NF1遺伝子の変異発生率(~1/10,000)はヒトの知られている遺伝子の中では最も高い.その高い変異率の発生理由はまだ明らかでない.


遺伝学的に関連する疾患

下記のような一部の患者や家系においては,明らかなNF1遺伝子の病的バリアントを有しているが,表現型の特徴はNIHの診断基準を満たさない.

これらの家系における非典型的な表現型の原因は不明である.

別疾患の共起 おそらくは比較的高い有病率のため,同一患者においてNF1遺伝子の病的バリアントに起因するNF1と,他の遺伝子座の病的バリアントに起因する別の常染色体優性遺伝性疾患の発生がたびたび報告されている.PTPN11遺伝子の病的バリアントに起因するNoonan症候群 [Thiel et al 2009, Prada et al 2011]を含むNF1患者にみられる二番目の常染色体優性遺伝性疾患として,ハンチントン病(HTT遺伝子)[Kawakami et al 2014]RYR1遺伝子関連先天性ミオパチー[Martin et al 2014]遺伝性乳がん卵巣がんBRCA1遺伝子)[Campos et al 2013]多発性内分泌腫瘍症2型RET遺伝子)[Ercolino et al 2014]が報告されている.NF1とJalili症候群(錐体杆体ジストロフィーとエナメル質形成不全症を伴う常染色体劣性遺伝性疾患)を併発した小児では,NF1遺伝子のヘテロ接合性病的バリアントと,CNNM4遺伝子のホモ接合性病的バリアントを有することが判明した [Zobor et al 2012].少なくとも3人の関連性のない患者においてダウン症候群とNF1がみられ[van Leeuwen et al 1996, Satgé et al 2004, Schaffer et al 2014],de novoのNF1遺伝子の病的バリアントとde novoの20q11.23染色体欠失を有する症例の報告もある[Santoro et al 2013]

Noonan症候群 Noonan症候群の表現型はNF1患者の約12%に見られる[Colley et al 1996].臨床所見としては眼間開離,瞼裂斜下,耳介低位,翼状頚,肺動脈弁狭窄がある.このような所見を呈するNF1患者の血縁者は,Noonan症候群の所見を伴うことも伴わないこともある.NF1-Noonanの表現型を示す理由はさまざまである.NF1-Noonan症候群症例のほとんどは生殖細胞系列にNF1遺伝子の病的バリアントを有するが[De Luca et al 2005, Hüffmeier et al 2006, Stevenson et al 2006, Chen et al 2014, Ekvall et al 2014],一人の患者が異なる2つの比較的高頻度な常染色体優性遺伝性疾患の病的バリアントを有することにより生じる場合もある[Thiel et al 2009, Prada et al 2011]NF1遺伝子の病的バリアントをもたないNoonan症候群患者の約半数にPTPN11遺伝子の病的バリアントがみられるが,NF1-Noonan症候群の表現型を示す症例は非常にまれである[De Luca et al 2005, Sarkozy et al 2007, Carcavilla et al 2011]

NF1モザイクはNF1遺伝子の病的バリアントの体細胞モザイクを有する患者において診断される[Messiaen et al 2011, García-Romero et al 2016].臨床的にNF1 モザイクの所見は,身体の一部に限局することもあれば,複数の部位を含んで全身性に生じることもある.全身性の場合であっても,NF1モザイクは通常同じ病的バリアントを有する非NF1モザイク症例に比べて軽症である.身体の一部分のみに症状を呈するNF1モザイクはしばしば「分節型NF1」と呼ばれるが,特に幼児期では非NF1モザイク症例であっても,偶然身体の一部にしか所見がみられていないこともあり,より詳細な用語として「限局性NF1モザイク」の方が好まれる.分節型NF1患者の子が典型的な(非モザイクの)NF1であった例が報告されている[Oguzkan et al 2004, Consoli et al 2005]NF1遺伝子の病的バリアントによる体細胞モザイクは,接合後の非常に早い段階で起きたことが一卵性双生児の2症例で証明されている[Kaplan et al 2010, Vogt et al 2011]


鑑別診断

カフェ・オレ斑や神経線維腫症1型(NF1)でみられる他の兆候を示す遺伝性疾患や先天性疾患は100種以上知られているが,NF1との鑑別が困難なものはほとんどない.

NF1と混同されることの多い疾患


臨床的マネジメント

診断後の評価

神経線維腫症1型(NF1)と診断された患者の臨床像を把握するために,下記の評価項目が推奨されている.

さらに,遺伝したものかde novoで生じたものかを判断するためには,NF1関連症状に特に注意した家族歴聴取,身体診察,眼科的検索(細隙灯顕微鏡や,眼底の赤外線反射イメージングまたは光干渉断層画像化法(OCT)を含む)を両親に対しても実施すべきである.この判断は遺伝カウンセリングのために必要であり,Legius症候群や体質性ミスマッチ修復欠損症など,NF1遺伝子の病的バリアント以外の要因による疾患との鑑別に役立つことがある(鑑別診断の項を参照).

治療法

米国小児学会と米国臨床遺伝・ゲノム学会(American College of Medical Genetics and Genomics:ACMG)は小児NF1患者に対する治療ガイドラインを公表しており[Miller et al 2019],ACMGは成人NF1患者に対する治療ガイドラインも公表している[Stewart et al 2018].他の専門家集団も類似の提言を発表している[Ferner & Gutmann 2013, Dunning-Davies & Parker 2016]

眼や中枢神経,末梢神経系,脊髄,長管骨,心血管系の異常を有するNF1患者には,治療のために適切な専門家を紹介すべきである.NF1患者に生じる悪性腫瘍の治療は,遺伝性疾患に伴う異常な分子発癌メカニズムや遺伝的な癌素因に精通している腫瘍外科医,そして/または腫瘍内科医が携わるべきである(例:放射線療法[Evans et al 2002, Sharif et al 2006];回避すべき薬剤や環境の項参照).

神経線維腫 美容上問題となったり不便を生じたりする散在性の皮膚や皮下の神経線維腫(ベルトの位置や襟首など)は外科的に切除したり,もし小さければレーザーや電気メスにて切除することもある.

悪性末梢神経鞘腫瘍 疼痛や神経症状の発生,もともとあった蔓状神経線維腫の増大は悪性末梢神経鞘腫瘍を疑わせる所見であり,早急な評価が必要である[Valeyrie-Allanore et al 2005].MRIやPET,PET/CTによる検査が[Combemale et al 2014, Hirbe & Gutmann 2014, Salamon et al 2015, Van Der Gucht et al 2016],良性と悪性の腫瘍を鑑別するのに役立つが,最終的な鑑別は病理学的診断によらなければならない.完全な外科的切除が可能であれば,それが治癒につながる唯一の治療法である[Dunn et al 2013, Valentin et al 2016].術後化学療法や放射線療法が併用されることもあり,(多くはないが)一部のNF1患者には効果を示すようである[Chaudhary & Borker 2012, Zehou et al 2013, Valentin et al 2016].悪性末梢神経鞘腫瘍に対する臨床試験が進行中である[Karajannis & Ferner 2015](研究中の治療の項を参照).

視神経膠腫 視神経膠腫は若年発症の傾向があるものの,NF1ではない小児患者に比べ,小児NF1患者の方がより良好な経過をたどる[Nicolin et al 2009, Stokland et al 2010, Goodden et al 2014].NF1患者でMRI検査にて発見される視路神経膠腫の多くは無症状であるため,治療を必要としないことが多い[Blanchard et al 2016, Friedrich & Nuding 2016, Parkhurst & Abboy 2016, Sellmer et al 2018].NF1患者の小児期に発生した進行性の視路神経膠腫は化学療法が治療の選択肢となるが,その効果はまちまちである[Rosenfeld et al 2010, Ardern-Holmes & North 2011, Fisher et al 2012, Shofty et al 2015].低悪性度の進行性の神経膠腫(そのほとんどは視路に生じていた)を有する小児NF1患者では,同様の腫瘍を有するNF1でない小児患者よりもカルボプラチンとビンクリスチンによる治療後の生存率が高かった[Ater et al 2016].視神経膠腫の外科的治療は美容上の目的で失明した患者におこなわれることが多い.放射線療法は照射領域の悪性腫瘍やモヤモヤ血管の発生リスクがあることから通常避ける[Evans et al 2002, Ullrich et al 2007a, Murphy et al 2015].視路神経膠腫に対する臨床試験が進行中である[Karajannis & Ferner 2015](研究中の治療の項を参照).

脳腫瘍 NF1患者に生じる視神経以外の神経膠腫は,NF1ではない患者よりも病勢進行が緩徐な傾向がある[Ullrich et al 2007a, Sellmer et al 2017].そのような腫瘍の多くは無症状で,長年に渡ってゆっくりと進行するか,あるいは全く進行しないこともある[Sellmer et al 2017]

整形外科的な課題 NF1に伴う骨萎縮が高度な小児の側彎症はしばしば外科的治療を要するが,これは複雑で難しい[Stoker et al 2012, Kawabata et al 2013, Deng et al 2017].NF1患者に生じた骨萎縮が高度ではない側彎症は特発性側彎症と同様の治療がおこなわれる.

脛骨の偽関節に対する外科的治療は難しく,満足な結果が得られないことが多い[Stevenson et al 2013, Borzunov et al 2016]

ビスフォスフォネート治療は骨粗鬆症を有するNF1患者に役立つ可能性があるが,その効果は通常NF1でない患者にみられるよりも小さいかもしれない[Heervä et al 2014]

神経行動学的な課題 メチルフェニデート治療は注意欠如・多動症のNF1患者に対して有効である[Lion-François et al 2014]

乳がん 一般女性に比べ,女性NF1患者に生じる乳がんは悪性度が高い傾向があるものの,同様の病状や腫瘍マーカーを示す他の患者と異なる治療をすべきというエビデンスや推奨を筆者は認識していない.著者は女性NF1患者に対する放射線療法と二次がんの関連性は認識していないが,可能であれば放射線療法を避けることは妥当である.

サーベイランス

米国小児学会と米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)は小児NF1患者に対するサーベイランスガイドラインを公表しており[Miller et al 2019],ACMGは成人NF1患者に対しても類似のガイドラインも公表している[Stewart et al 2018].NF1患者のサーベイランスに関する提言は他の専門家集団も発表している[Ferner & Gutmann 2013, Dunning-Davies & Parker 2016]

以下が推奨される.

女性NF1患者は50歳未満で乳がん発症リスクが高いため[Madanikia et al 2012, Wang et al 2012, Seminog & Goldacre 2015],米国総合がんセンターネットワーク(National Comprehensive Cancer Network:NCCN)のガイドラインでは,女性NF1患者に対して30歳から年に1回のマンモグラフィー検査が推奨されており,さらに30歳から50歳では乳房MRI検査も考慮される[Daly et al 2017]v.一方で,これらのスクリーニング検査の有用性や対費用効果は実証されていない[Howell et al 2017]

回避すべき薬剤や環境

ほとんどのNF1患者に対しては特別な制限は必要ない.脛骨異形成や異形成性側彎症がある場合には制限が必要になるかもしれないが,それはNF1そのものによるわけではなく,骨病変の状況によって決まってくるものである.

NF1患者に対する放射線療法は照射域における悪性末梢神経鞘腫瘍のリスクを明らかに高める[Evans et al 2002, Sharif et al 2006]

リスクのある血縁者の検査

リスクのある血縁者の検査について,遺伝カウンセリングの項を参照のこと.

妊娠中の管理

女性NF1患者の多くは正常な妊娠経過をたどるが,重大な合併症も生じうる[Chetty et al 2011, Terry et al 2013]

研究中の治療

蔓状神経線維腫や脊髄神経線維腫に対する種々の薬物治療の臨床試験が進行中である[Blakeley & Plotkin 2016, Karajannis & Ferner 2015].第I相試験では,MEK阻害剤であるセルメチニブによる長期治療を受けた手術不能の症候性,または生命を脅かしうる蔓状神経線維腫を有する小児患者24人中,17人において20%以上の腫瘍量減少が認められた.いずれの症例も腫瘍の進行はみられず,本試験による毒性は許容できると考えられた(脚注を参照).

顔面びまん性蔓状神経線維腫やカフェ・オレ斑に対する高周波治療が少数の臨床試験である程度の効果を示している[Baujat et al 2006, Yoshida et al 2007].

悪性末梢神経鞘腫瘍に対するいくつかの治療法の臨床試験は,NF1患者が参加可能である[Karajannis & Ferner 2015](脚注を参照).

視路神経膠腫に対するいくつかの治療法の臨床試験はNF1患者が参加可能である[Karajannis & Ferner 2015](脚注を参照).

NF1患者にみられる学習障害や行動障害に対する臨床試験が進行中である[Lion-François et al 2014, van der Vaart et al 2016](脚注を参照).

*注釈:NIH(米国国立公衆衛生研究所) ClinicalTrials.govにNF1の臨床試験に関する最新のリストが掲載されている.

米国においてはClinicalTrials.gov,ヨーロッパにおいてはEU Clinical Trials Registerを検索すると,幅広い疾患や病態に対する臨床研究の情報が得られる.

その他

ホルモン剤による避妊は女性NF1患者の神経線維腫の増殖を促進しない[Lammert et al 2006]


遺伝カウンセリング

「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝子検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」

遺伝形式

神経線維腫症1型(NF1)は常染色体優性遺伝の形式をとる.

患者家族のリスク

発端者の両親

発端者の同胞 

発端者の子 

他の家族 

他の血縁者のリスクは患者の両親の状況による.もし片親が罹患しているのであれば,その他の血縁者もリスクを有していることになる.

遺伝カウンセリングに関連した問題

同一家系で複数の病的バリアントが新規に存在する可能性 Upadhyayaら[2003] はひとつの家系で3種類の異なるNF1遺伝子の病的バリアントが確認された症例を報告しており,同一家系内の罹患者は同じバリアントを有するとの推測には注意が必要であるとしている.ほかにも,2つの異なるNF1遺伝子の病的バリアントが同一家系内で報告されている例がある[Klose et al 1999]

明らかな新規の病的バリアントを認める家系について 常染色体優性遺伝性疾患において発端者の両親がいずれも発端者と同じ病的バリアントを有していない場合や臨床所見がない場合には,発端者に同定された病的バリアントはおそらくde novoと考えられる.しかしながら,生物的父親や生物的母親が異なる場合(例:生殖補助医療による)あるいは,明かされていない養子縁組など,非医学的な要因が関係する可能性もある.

家族計画 

出生前診断および着床前診断

分子遺伝学的検査 家系内の罹患者にNF1遺伝子の病的バリアントが同定されていれば,リスクのある妊娠に対する出生前診断[van Minkelen et al 2014]や着床前の遺伝学的診断[Merker et al 2015]が可能となる.

超音波検査 非常に重症のNF1を出生前に超音波で診断した報告があるが[McEwing et al 2006],大多数のNF1について超音波検査は有用性がない.

特に早期診断よりも中絶を目的として考慮される場合は,医療関係者と家族の間では出生前診断に対する見解の相違が生じやすい.多くの医療機関では最終的には両親の意思を尊重するとしているが,この問題については注意深い検討が求められる.

訳注:日本では一般にNF1に対して出生前診断の適応があるとは考えられておらず,着床前診断も行われていない.


関連情報

GeneReviews のスタッフは,本疾患を持つ患者とその家族のために,疾患特異的または包括的な支援をおこなう組織やレジストリーを,以下の通り抽出した.他の組織が提供する情報について,GeneReviewsが責任を負うものではない.選定基準についてはこちらを参照のこと.

  1. Children's Tumor Foundation
    95 Pine Street
    16th Floor
    New York NY 10005
    Phone: 800-323-7938 (toll-free); 212-344-6633
    Fax: 212-747-0004
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    www.ctf.org

分子遺伝学

下記の記述は最新の情報を含まれているため、GeneReviewsに記載されているほかの情報と異なることがある

表A
神経線維腫1:遺伝子とデータベース

遺伝子記号 遺伝子座 タンパク質 座位特異性 HGMD ClinVar
NF1 17q11.2 ニューロフィブロミン NF1データベース NF1 NF1

表B
OMIMにおける神経線維腫症1型関連情報(OMIMですべてをみる

162200 神経線維腫症1型;NF1
613113 ニューロフィブロミン1;NF1

遺伝子構造 NF1は大きな遺伝子(~350キロベース,NM_000267.3では57個のエクソン)で,3つ以上の選択スプライシング転写物をコードしている[Upadhyaya & Cooper 2012]NF1遺伝子のような,1つのイントロンに3つ以上のほかの遺伝子のコード配列が含まれる遺伝子は稀である.各種データベースや新旧の文献によっては,参照配列やエクソン番号,バリアントの表記が異なる可能性があることに注意しなければならない.遺伝子やタンパク質の詳細な情報は表A,遺伝子を参照.

病的バリアント NF1遺伝子には数千種類の病的バリアントが確認されている.ほとんどの病的バリアントはある家系に特異的なものとされている.繰り返し確認されたバリアントがあるものの,いずれも家系研究で非常にわずかしか検出されない.今まで,ナンセンス変異,アミノ酸置換,欠失(1から数塩基の欠失,複数エクソン欠失,あるいは遺伝子全欠失),挿入,またはスプライシングに影響するようなイントロンの変化,3’非翻訳領域の遺伝子置換,大規模な染色体再構成を含む,様々な遺伝子バリアントが検出されている.NF1患者に見いだされた生殖細胞系列の遺伝子バリアントの大半は高度な遺伝子産物の不足を引き起こした.その多くはmRNAスプライシングの変化によるものだと考えられる.

表2
本章に記載したNF1病的変異

遺伝子の変化 アミノ酸の変化 基準配列
c.2970_2972 delAAT p.Met992del NM_000267.3
NP_000258.1
c.5425C>T p.Arg1809Cys
c.5425C>G p.Arg1809Gly
c.5425C>A p.Arg1809Ser
c.5426G>T p.Arg1809Leu
c.5426G>C p.Arg1809Pro

表に記載されているバリアントは,著者によって提供されたものである.GeneReviewsのスタッフは,バリアントの分類を独自には検証していない.
GeneReviewsは,Human Genome Variation Society (varnomen.hgvs.org) の標準的な命名規則に従っている.命名法についての説明はQuick Referenceを参照のこと.

正常遺伝子産物 タンパク質産物であるニューロフィブロミンは2,818アミノ酸(NP_000258.1)からなり,おおよそ327kbの分子量を有する.ニューロフィブロミンの役割についてはまだ完全に解明されていないが,ras-GTPaseを活性化することで,細胞増殖の制御や腫瘍抑制因子として作用している[Ratner & Miller 2015, Rad & Tee 2016].それ以外にもニューロフィブロミンには,体細胞分裂への関与や[Luo et al 2014, Koliou et al 2016],アデニリルシクラーゼ活性と,細胞内サイクリックAMP産生の制御[Buchanan & Davis 2010]といった働きがある[Buchanan & Davis 2010]

異常遺伝子産物 NF1はNF1遺伝子の機能喪失バリアントに起因する[Upadhyaya & Cooper 2012, Esposito et al 2015]

がんおよび良性腫瘍 

NF1患者において発症頻度の高いいくつかの腫瘍に関しては,NF1の臨床症状を持たない患者がNF1遺伝子の片アリル,あるいは両アリルに体細胞バリアント(生殖細胞系列ではない)を有することがある[Upadhyaya & Cooper 2012, Esposito et al 2015].NF1の所見がないにも関わらず生じるこのような散発性のNF1関連腫瘍におけるNF1遺伝子の病的バリアントの例として,悪性末梢神経鞘腫瘍[Bottillo et al 2009, Lee et al 2014],褐色細胞腫[Vicha et al 2013, King & Pacak 2014, Martins & Bugalho 2014, Crona et al 2015],若年性慢性骨髄性白血病[Yoshimi et al 2010, Sakaguchi et al 2013, Stieglitz et al 2015],神経膠腫[Purow & Schiff 2009],乳がん[Cancer Genome Atlas Network 2012]がある.

体細胞のNF1遺伝子の病的バリアントは脂肪肉腫,肺腺癌,卵巣癌,大腸癌,悪性黒色腫,および成人急性骨髄性白血病でも認められるが,これらがNF1患者に生じることは稀である[Laycock-van Spyk et al 2011, Patil & Chamberlain 2012, Yap et al 2014, Kanojia et al 2015]


更新履歴

  1. Gene Review著者: J M Friedman, MD, PhD
    日本語訳者: 大畑 尚子(沖縄県立中部病院 総合周産期母子医療センター)  
    Gene Review 最終更新日: 2009.6.2. 日本語訳最終更新日: : 2011.10.17
  2. Gene Review著者: J M Friedman, MD, PhD
    日本語訳者: 江田肖(瀬戸病院 遺伝診療科),大畑尚子(沖縄県立中部病院 総合周産期母子医療センター)  
    Gene Review 最終更新日: 2012.5.3 日本語訳最終更新日: 2014.3.18
  3. Gene Review著者: J M Friedman, MD, PhD
    日本語訳者: 森川真紀(名古屋大学医学部附属病院ゲノム医療センター),生田国大(名古屋大学医学部附属病院ゲノム医療センター/整形外科)
     Gene Review 最終更新日: 2019.6.6  日本語訳最終更新日: 2021.1.12[in present]

原文 Neurofibromatosis 1

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