Gene Reviews著者: Amy E Roberts, MD
日本語訳者:佐藤康守(たい矯正歯科)、櫻井晃洋(札幌医科大学医学部遺伝医学)
GeneReviews最終更新日: 2022.2.17. 日本語訳最終更新日: 2024.4.7
原文: Noonan Syndrome
疾患の特徴
Noonan症候群(NS)は、特徴的顔貌、低身長、先天性心疾患、種々の程度の発達遅滞を特徴とする疾患である。その他の所見として、幅広もしくは翼状の頸、上部が鳩胸、下部が漏斗胸という特徴的な胸の形状、停留精巣、種々の凝固障害、リンパ異形成、眼の異常などがある。通常、出生時身長は正常であるが、成人期の最終身長は正常下限に近い値を示す。先天性心疾患が50%-80%にみられる。中でも最も多くみられるのは肺動脈弁狭窄で、罹患者の20%-50%にみられ、肺動脈弁の異形成を伴うことが多い。肥大型心筋症は罹患者の20%-30%にみられ、出生時からみられることもあれば、乳幼児期や小児期に発症する例もみられる。その他の構造異常としては、心房中隔欠損、心室中隔欠損、肺動脈分枝狭窄、Fallot四徴などがある。罹患者の4分の1近くに軽度の知的障害がみられ、NSでは一般集団より言語障害全般がより多くみられる。
診断・検査
発端者におけるNoonan症候群の診断は、これを示唆する所見がみられることに加えて、分子遺伝学的検査においてBRAF、KRAS、MAP2K1、MRAS、NRAS、PTPN11、RAF1、RASA2、RIT1、RRAS2、SOS1、SOS2のヘテロ接合性病的バリアント、もしくはLZTR1のヘテロ接合性ないし両アレル性病的バリアントが同定されることをもって確定する。それらに加え、確認例が10例に満たない数ながら、Noonan症候群類似の表現型をきたす遺伝子がいくつか同定されている。
臨床的マネジメント
症状に対する治療:
NSでみられる心血管系奇形に対する治療は、一般集団における治療と同様に行う。発達障害については、早期介入プログラムや個別的教育計画の枠組みで対応する。重度の出血の問題がみられる場合は、欠損している凝固因子の種類や血小板凝集異常の有無を把握した上で、それに従った治療を行う。成長ホルモン(GH)治療を行うことで、成長速度の増加が得られる。若年性骨髄単球性白血病(JMML)をはじめとする悪性疾患、摂食障害、ADHD、行動の問題、男性の停留精巣、腎奇形/水腎症、斜視、難聴、Chiari奇形に対しては、標準治療を行う。
定期的追跡評価 :
成長パラメーターの測定、乳幼児における栄養状態の評価、新たな神経症候(慢性の頭痛、頸部痛、筋緊張の変化、眩暈、閉塞性睡眠時無呼吸)の発現に関するモニタリング、発達の進行状況のモニタリング、行動の問題が年齢相応かどうかの把握、皮膚の診査については、来院ごとに行う。眼科的評価や聴力の評価は、小児期に年に1度の頻度で、あるいは臨床的に必要と思われる頻度で行う。
避けるべき薬剤/環境:
出血性素因の悪化につながるおそれがあることから、アスピリンを用いた治療を避ける必要がある。
妊娠に関する管理:
周産期の評価や管理を目的として、成人先天性心疾患者サービスプログラムへの紹介を検討する。出血異常の既往がある、ないし、これまでに凝固障害のスクリーニングを受けていないといった罹患妊婦については、血液内科への紹介を検討する。
遺伝カウンセリング
NSは常染色体顕性の遺伝形式をとることが多い。常染色体顕性遺伝のNSについては、denovoの病的バリアントによって生じた罹患者が多くみられる一方で、30%-75%の家系については、罹患者である片親からの継承例である。常染色体顕性遺伝型NS発端者の同胞の有するリスクは、両親の遺伝学的状態によって変わってくる。仮に片親が罹患者であったとすると、同胞の有するリスクは50%となる。臨床的にみて両親とも罹患者ではないのであれば、同胞の有するリスクは低い(1%未満)と思われる。常染色体顕性遺伝型NSの罹患者の子がその病的バリアントを継承する確率は50%である。
LZTR1の病的バリアントに起因するNSは、常染色体顕性遺伝もしくは常染色体潜性遺伝の遺伝形式をとる。常染色体潜性遺伝型NS罹患者の両親は、通常、ヘテロ接合体(すなわち、LZTR1の片アレルのみが病的バリアントを示す)であり、無症候であるか、もしくはNSの軽度の症候のみを有するといった状態である。仮に、両親ともにLZTR1の病的バリアントをヘテロ接合で有していたとすると、受胎の段階で、罹患者の同胞が罹患者である確率が25%、LZTR1の病的バリアントをヘテロで有する(その場合、NSの軽度の症候が現れることがある)確率が50%、罹患者でも保因者でもない確率が25%となる。
家系内に存在するNS関連の病的バリアントが同定されている場合には、出生前検査や着床前遺伝学的検査を行うことが可能である。
Noonan症候群に関して、コンセンサスの得られた臨床的診断基準は、今のところ公表されていない。診断のための点数化システムとしては、最も新しいものにvanderBurgt[2007]によるものがあり、イギリスのDYSCERNEの作成した管理のガイドライン[Noonan症候群ガイドライン作成委員会2010]には採用されているものの、北アメリカにおいては今のところ広く用いられるには至っていない。
本疾患を示唆する所見
以下のような臨床所見、検査所見、家族歴を有する例については、Noonan症候群(NS)を疑う必要がある。
臨床所見
NSの顔貌は年齢とともにかなり大きく変化し、最も顕著な形で現れるのは、小児期前期ならびに中期である。そして、成人期に至ると最も目立たなくなる。年齢に関係なくみられる重要な特徴には以下がある。
注:さまざまな民族のNoonan症候群罹患者の写真については、アメリカの国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)の「AtlasofHumanMalformationSyndromes」(スクロールして「ATLASIMAGES」に進む)を参照されたい。
本疾患を示唆する検査所見
凝固異常
家族歴
常染色体顕性遺伝に一致した家族歴(例えば、複数世代にわたって男女の罹患者がみられるといったこと)を示す。また、稀ではあるが、常染色体潜性遺伝を示すものも存在する(「遺伝カウンセリング」の項を参照)。ただ、Noonan症候群の家族歴がなかったとしても、Noonan症候群の可能性が除外されるわけではない。
診断の確定
発端者におけるNSの分子診断は、NSを示唆する所見を有することに加えて、表1に挙げた遺伝子の1つの病的バリアントのヘテロ接合、もしくはLZTR1の両アレルの病的バリアントが明らかになることをもって確定する。
注:(1)ACMG/AMPバリアント解釈ガイドラインによれば、「病的バリアント」と「病的バリアントの可能性」という用語は臨床現場では同義であり、どちらも診断的とみなされ、臨床上の意思決定に使用できることを意味する[Richardsetal2015]。このセクションにおける「病的バリアント」は、「病的バリアントの可能性」を含む。(2)臨床的意義が不明なバリアントの同定は、診断を確認したり除外したりするためには使用できない。(3)NSについて提案されている臨床診断基準[vanderBurgt2007]を満たす罹患者の最大20%は特定可能な分子遺伝的所見を示さないため、非診断的遺伝学的検査では診断が除外されない。
具体的な検査の手法としては、表現型により評定遺伝子解析(マルチ遺伝子パネル検査)、ないし網羅的ゲノム検査がある。
遺伝子標的型検査の場合は、どの遺伝子の関与が疑われるか、臨床医の側であらかじめ目星をつけておく必要があるが、ゲノム検査の場合、その必要はない。「本疾患を示唆する所見」の項にある所見を明瞭に有する罹患者については、遺伝子標的型検査(「方法1」参照)で診断がつく可能性が高いものと思われるが、Noonan症候群の診断を考慮するところまで至らない例については、ゲノム検査(「方法2」参照)で診断がつく可能性が高いように思われる。
方法1
表現型として現れた所見からNoonan症候群が疑われる場合、用いるべき分子遺伝学的検査手法は、ふつう、マルチ遺伝子パネル検査である。現況の表現型と直接関係のない遺伝子の意義不明バリアントや病的バリアントの検出を抑えつつ、疾患の遺伝学的原因の特定に最もつながりやすいのは、表1に挙げた遺伝子の一部ないし全部、ならびにその他の関連遺伝子(「鑑別診断」の項を参照)を含むNoonan症候群用マルチ遺伝子パネルであると思われる。
注:(1)パネルに含められる遺伝子の内容、ならびに個々の遺伝子について行う検査の診断上の感度については、検査機関によってばらつきがみられ、また、経時的に変更されていく可能性がある。(2)マルチ遺伝子パネルによっては、このGeneReviewで取り上げている状況と無関係な遺伝子が含まれることがある。(3)検査機関によって、パネルの内容が、その機関の定めた定型のパネルであったり、表現型ごとに定めたものの中で臨床医の指定した遺伝子を含む定型のエクソーム解析であったりすることがある。(4)ある1つのパネルに対して適用される手法には、配列解析、欠失/重複解析、ないしその他の非配列ベースの検査などがある。
Noonan症候群は、機能獲得型の機序で発症することに加え、遺伝子内の大きな欠失や重複がこれまでに報告されていないことから、遺伝子内の欠失/重複に関する検査で診断に至る可能性は低いと思われる。ただ、いくつかの遺伝子ではそうした稀な例が報告されている(表1参照)。
マルチ遺伝子パネル検査の基礎的情報についてはここをクリック。遺伝学的検査をオーダーする臨床医に対する、より詳細な情報についてはここをクリック。
注:マルチ遺伝子パネル検査が行えない場合は、直列型単一遺伝子検査が検討対象となりうる。NS罹患者の約50%は、PTPN11の病的ミスセンスバリアントを有する。したがって、PTPN11から始める単一遺伝子検査は、最初に行う検査として次善の選択肢と思われる。PTPN11の検査で診断がつかなかった場合は、罹患者の示す表現型に従って適切な順番を決めた上で、直列型単一遺伝子検査を行う(例えば、肥大型心筋症がある場合はRIT1、常染色体潜性遺伝が疑われる場合はLZTR1といった具合)。ただし、単一遺伝子検査を続けざまに行うことは、マルチ遺伝子パネル検査に比べ効率が悪く、かつ費用も嵩むため、あまり推奨できない。
方法2
罹患者の示す症候が典型的なものでない、あるいは全部ではなく表現型の一部の症候しか確認できない(例えば、いわゆる「Noonan類似」表現型)といった理由で、Noonan症候群の診断までは頭に入れにくいといった場合は、網羅的ゲノム検査が選択肢となろう。この場合、臨床医の側で原因遺伝子の目星をつけておく必要はない。最も広く用いられているのはエクソームシーケンシングであるが、ゲノムシーケンシングを用いることも可能である。
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表1:Noonan症候群(NS)で用いられる分子遺伝学的検査
遺伝子1,2 | その遺伝子の病的バリアントがNS全体の中で占める割合 | その手法で発端者の病的バリアント3が検出される割合 | |
---|---|---|---|
配列解析4 | 遺伝子標的型欠失/重複解析5 | ||
BRAF | 2%未満6 | 100% | 不明7 |
KRAS | 5%未満8 | 100% | 不明7 |
LZTR1 | 8%近く9 | 100% | 不明7 |
MAP2K1 | 2%未満10 | 100% | 不明7 |
MRAS | 1%未満11 | 100% | 不明7 |
NRAS | 1%未満12 | 100% | 不明7 |
PTPN11 | 50%13 | ほぼ100% | 稀な重複が報告されている14が、NSの診断に疑問ありとの指摘15あり。 |
RAF1 | 5%16 | ほぼ100% | 重複の1例17については、NSの診断に疑問ありとの指摘15あり。 欠失の1例の報告あり18。 |
RASA2 | 不明19 | 100% | 不明7 |
RIT1 | 5%16 | 100% | 不明7 |
RRAS2 | 1%未満20 | 100% | 不明7 |
SOS1 | 10%-13%21 | 100% | 不明7 |
SOS2 | 4%近く22 | 100% | 不明7 |
その他23 | 評価対象外 |
臨床像
Noonan症候群は1,000人から2,500人に1人の割合で発生すると推定されており、臨床診断と分子遺伝学的診断の両方がなされたもので、現在までに数千例の報告がある[Robertsら2013]。以下に述べるNSの各症候は、こうした報告を基礎としたものである。
表2:Noonan症候群:各症候の出現頻度
症候 | その症候を有する罹患者の割合 | コメント |
---|---|---|
眼の異常 | 95% | |
低身長 | 50%-70% | 年齢、性別、家系を考慮して判定 |
筋緊張低下 | 大多数 | 摂食の問題、構音の問題、粗大運動発達指標の遅れにつながる可能性あり。 |
関節の過伸展性 | 大多数 | |
胸郭奇形 | 大多数 | 特徴的な胸郭の変形あり:上部は鳩胸、下部は漏斗胸 |
男性の停留精巣 | 60%-80% | |
先天性心疾患 | 50%-80% | 罹患者の25%-71%に肺動脈弁狭窄がみられ、しばしば肺動脈弁の異形成を伴う。 |
難聴 | 40% | 感音性、伝音性、混合性のいずれもあり。 |
肥大型心筋症 | 10%-29% | 肥大型心筋症をもつ例の半数は、生後6ヵ月までに診断がなされる。 |
学習障害 | 25% | NS罹患者の10%-15%は特別支援教育を必要とする。 |
知的障害 1 | 6%-23% | |
腎奇形 | 11% | 最も多いのは腎盂拡張症 |
出血の異常やあざ | 出血は6%-10%;あざは大多数 |
出生前にみられる症候
NS孤発例のコホートにおいて、父親年齢の高まりが報告されている。周産期に多くみられる特徴としては、以下がある[Stuurmanら2019]。
Nuchaltransparencyの増大を伴う染色体に異常のない胎児の3%-15%が、PTPN11関連NSであろうと推定されている[Stuurmanら2019]。
成長
出生時体重については、浮腫により一時的に増大することがあるものの、通常は正常である。NSの乳児には摂食障害がしばしばみられる。期間的には、いつまでも続くような成長障害ではないが、体重増加不良が18ヵ月近く続いていくこともある。
通常、出生時身長は正常である。出生後の発育不全は、1歳未満の段階ですでに明らかにみられることが多い[Seo&Yoo2018]。その後、2ないし4歳から思春期まで、平均身長は3パーセンタイルあたりで推移する。この時期、成長速度は平均を下回り、思春期の成長スパートは弱まる傾向にある。骨成熟は遅延することが多く、そのため、20歳以降も成長が続いていく可能性がある。
成人の最終身長は、男性で161-167cm、女性で150-155cmと、正常下限に近づく。こうした横断的資料を用いた後ろ向き研究のデータから得られた成長曲線がすでに存在する。ある研究によると、罹患者の30%は、成人の正常範囲内の身長を有するが、女性の50%超、男性の40%近くについては、成人期の身長が3パーセンタイル未満の値を示した[Seo&Yoo2018]。
多くの罹患者で、IGF-ⅠやIGF結合タンパク質3の低下に加え、誘発に対する反応性の低下もみられることから、成長ホルモン分泌低下、ないし成長ホルモン/インスリン様成長因子Ⅰ軸の障害が示唆されている。受容体レベル以降のシグナル伝達障害に起因する軽度の成長ホルモン抵抗性(この影響は、代償性の成長ホルモン分泌亢進によりある程度相殺される)がPTPN11の病的バリアントを伴うNS罹患者で報告されている[Seo&Yoo2018]。
成長ホルモン(GH)治療が、これまでにNS罹患者に対して用いられてきている(「管理」の項を参照)。
心血管
過去にはNSの診断を行うにあたって、心奇形の存在は必須条件と多くの臨床医が考えていた。そうした経緯から、先天性心疾患の出現頻度に関しては、明らかなバイアスが存在すると言うことができよう。現在、先天性心疾患の出現頻度は、50%から80%の間と推定されている。
精神運動発達
初期には発達指標の遅れがみられるが、その原因の一部は、関節の過伸展性と筋緊張低下の合併にあると思われる。一人すわりは平均で10ヵ月前後、歩行開始は平均で21ヵ月である[Pierpont2016]。学齢期の子どもの約50%は、発達性協調運動障害の診断基準を満たす状況を呈し[Leeら2005a]、手先の器用さの障害の程度と言語性、非言語性知能との間には有意の関連がみられる[Pierpontら2015]。
学齢期の子どもの大半は普通学級に適応できるものの、25%は学習障害を有し[Leeら2005a]、10%-15%については特別支援教育が必要となる[vanderBurgtら1999]。NSの子どもの知能は、通常軽度の低下を示す。IQが70を下回る例は、研究により幅があり、6%-23%とされる[Pierpontら2015]。言語性機能と非言語性機能のどちらに強みがあるかという点に関しては、各研究間で相反した結果が出ており、今のところ確たるパターンがみられていない[Pierpontら2015]。言語的推論あるいは実践的推論のどちらかに、特異的認知障害がみられることがあり、教育上の特別な戦略、学校の斡旋といったことが必要になる。
構音障害が多くみられる(72%)が、通常は、言語治療で良好な成績が得られる。言語発達の遅延の背景には、難聴、知覚運動スキルの障害、調音障害が関与している可能性がある。初語は平均15ヵ月で、単純な2語文の開始は、平均31ヵ月から32ヵ月である[Pierpontら2015]。
NSの子どもと大人の言語面での表現型に関する研究によると、NSでは、一般集団に比べ、言語障害一般の出現頻度が高く、大多数の子ども(70%)が言語治療を受けていることが明らかになっている。言語の問題がある例では、読み書きにより大きなリスクがみられる[Pierpontら2015]。言語の状態は、非言語的認知、聴力、構音、運動面での技能、音韻記憶と有意の相関を示す。NS罹患者では、言語に関する特定の面が選択的に影響を受けることはなかった。
NSの子どもたちにとっては、注意力の欠如や遂行機能障害が、最も多くみられる神経心理学的問題の1つであるとするデータが次第に積み上がってきている[Pierpontら2015]。包括的診断評価を行うことなく、スクリーニングで集めた試料での評価ではあるが、NSの子どもは自閉症スペクトラム障害に関し、高リスクであるとの示唆がある。ただ、これについてはさらなる研究が必要である[Pierpont2016]。
メンタルヘルス
Noonan症候群のメンタルヘルスに関する詳細を報告した研究はほとんどみられない。行動障害や精神病理に関する特定の症候はみられず、自尊心については同年齢の子どもと同程度である[Leeら2005a]。分子遺伝学的診断がなされたNoonan症候群の罹患者37人の研究では、情動制御障害、興奮性、不安症といった症候が、一般集団に比して高頻度にみられることが明らかになっている[Alfieriら2021]。Noonan[2005a]は、51人の成人コホートを用いた研究で、いくつかの問題を報告している。具体的には、鬱病が23%に、また薬物を時に乱用する例や、双極性障害などが報告されている。ただ、多年にわたって追跡調査を行ったイギリスの大規模コホート研究では、こうした所見は報告されていない[Shawら2007]。NSの成人を対象に行った1研究で、49%が、かつて鬱病や不安症の診断を受け、治療を受けたことがあると回答している[Smpokouら2012]。
尿路生殖器
腎の異常は、ふつうは軽度であるが、NS罹患者の11%にみられる。中で最も多いのは、腎盂拡張症である。これより少ないものとしては、集尿系の重複、軽度の回転異常、遠位尿管狭窄、腎低形成、片側の腎無発生、片側の変位腎、瘢痕化を伴う両側の腎嚢胞などの報告がある。
男性における思春期の発達、ならびにその後の生殖能力については、正常であることもあれば、遅延や不全を示すこともある。精子形成能低下が男性の60%-80%にみられるが、背景として停留精巣が関与している可能性がある。ただし、男性の性腺機能を調べた1研究では、停留精巣ありの群においても正常な精巣の下降を示した群においても、Sertoli細胞の機能異常が確認されており、このことから、何らかの内的な問題があって、これが高ゴナドトロピン性性腺機能低下症につながっている可能性も考えられる[Moniezら2018]。
女性でも思春期の遅延がみられることがあり、平均初潮年齢は14.6±1.17歳である。一般に受胎能力は正常である。
顔面の症候
年齢によっては目立たないこともあるが、特徴的顔貌は、1つの重要な臨床症候である。
縦に広い前額、眼瞼裂斜下を伴う眼間開離、厚みのある耳輪を伴う低位で後方に回転した耳介、深い人中窩と上口唇唇紅縁の広く高いピーク、後頸部余剰皮膚と後頭部毛髪線低位を伴う短頸などがみられる。
眼は突出し、眼瞼裂は水平、両眼は開離し、厚ぼったく下垂気味の上眼瞼を伴う。鼻梁は低く、鼻の基部は広く、鼻尖は丸い。
顔貌は、ミオパチーの罹患者に類似した、感情や表情に乏しい顔になることが多い。
思春期までに、顔の形は逆三角形になり、額が幅広でオトガイが尖った形となる。眼の突出感は少なくなり、目鼻立ちがよりはっきりした印象になってくる。頸は長くなり、翼状頸ないし僧帽筋の隆起がより目立つようになる。
鼻唇溝が目立ち、皮膚は薄い印象となり、皺が目立つようになる。
骨格の症候
出血性素因
NS罹患者の大多数は、異常出血や打撲傷の既往を有する。初期の研究では、NS罹患者の約3分の1は、1つ以上の凝固障害を有するとされていたが、その後の研究で、凝血障害の発現率はもっと低いことが示唆された[Derbentら2010]。凝血障害が表面化するきっかけは、手術時の重度の出血、臨床的には問題にならない程度の打撲傷、臨床的には結果として現れず、検査値のみに現れた異常などである。種々の小規模研究の示すところによると、NS罹患者の50%-89%は、出血の既往ないし止血関連検査結果の異常を有するが、その両方を有するのは10%-42%にすぎない(Briggs&Dickerman[2012]のレビューに基づく数字)。術前に凝血障害の評価を行っていない70人のNS罹患者を調べた1研究では、手術期に出血の合併症が生じるリスクは6.2%であった[Briggsら2020]。
リンパ
NSでは、さまざまなリンパ系の異常が報告されている。それは、限局性のこともあれば、広範囲にみられることもある。また、出生前にみられることもあれば、出生後に現れることもある。最も多くみられるのは、四肢背側(手足の甲)のリンパ浮腫である。より頻度の少ないものとしては、腸・肺・精巣のリンパ管拡張、胸腔・腹膜の乳糜性浸出液、陰嚢・会陰の限局性リンパ浮腫などがある。
眼
眼瞼下垂、斜視、屈折異常、弱視、眼振などの眼の異常が、罹患者の95%近くにみられる。前眼部や眼底の病変は、上記のものより頻度が低い。円錐角膜やAxenfeld異常の報告がみられる[Lee&Sakhalkar2014,Gerrinら2015,vanTrierら2018]。
耳/聴覚
聴覚障害の発生頻度は40%と推定されている。感音性難聴の例がある一方で、慢性中耳炎や中耳浸出液に伴う二次性の伝音性難聴、あるいは混合性難聴の例もみられる[vanNieropら2017]。
皮膚
皮膚の異常、特に進展側表面や顔面の毛孔性角化症が比較的多くみられ、時に、心臓-顔-皮膚症候群(CFC症候群)でみられる重度のものもみられることがある(「鑑別診断」の項を参照)。
カフェオレ斑や黒子は、一般集団よりNSで多くみられると報告されている(「遺伝学的に関連のある疾患」の項にある「多発性黒子を伴うNoonan症候群」の欄を参照)。
その他
Arnold-Chiari奇形は、これまでに11例、医学論文の形で報告されている。ただ、NSにおける実際の発生率は不明である[Smpokouら2012,Kehら2013,Mitsuharaら2014,Zarateら2014,Ejarqueら2015]。
肝脾腫がしばしばみられ、その原因は無症候性の骨髄異形成にあると思われる。
NSで最も多くみられる血液疾患は、一過性骨髄異常増殖症で、通常新生児期か乳児期初期に診断される。このうち、約10%がJMMLに移行する[Niemeyer2014]。Noonan症候群ならびにPTPN11の生殖細胞系列の病的バリアントを有する罹患者では、比較的稀なこの小児白血病であるJMMLの素因を有する。一般に、Noonan症候群におけるJMMLは比較的良好な経過を辿る。その場合の病的バリアントは、PTPN11関連JMMLでみられる体細胞病的バリアントとは別の変異である。なお、PTPN11関連JMMLの病的バリアントが生殖細胞系列で現れた場合は、新生児致死性のNSとなる[Mason-Suaresら2017]。
PTPN11の病的バリアントに起因するNoonan症候群罹患者について調べた1研究によると、悪性腫瘍発生リスクが3倍になるとされている[Jongmansら2011]。
Noonan様/多発性巨細胞病変症候群でみられる巨細胞肉芽腫や骨・関節奇形は、Noonan症候群スペクトラムの1つの表現型であると考えられている。これは、ケルビム症(SH3BP2の病的バリアントによって生じる常染色体顕性遺伝疾患;「ケルビム症」のGeneReviewを参照)、神経線維腫症(「神経線維腫症Ⅰ型」のGeneReviewを参照)でみられる各種病変、若年性関節リウマチを伴うRamon症候群でみられる各種病変などに類似した形で現れることがある。
Noonan様/多発性巨細胞病変症候群は、PTPN11[Jafarovら2005,Wolviusら2006]ならびにSOS1[Beneteauら2009,Neumannら2009]の病的バリアントにより引き起こされる。
Noonan様/多発性巨細胞病変症候群で同定されたPTPN11の病的バリアントは、巨細胞病変を有しないNoonan症候群で報告された病的バリアントの1つと同一のものであったという[Tartagliaら2002]。このことから、巨細胞の増殖が生じる上では、さらに別の遺伝的要因の関与が必要である可能性がある。
こうした多発性巨細胞病変は、CFC症候群罹患者でもみられる。CFC症候群は、BRAFやMEK1の変異により引き起こされる疾患である[Neumannら2009]。すなわち、RAS-MAPKシグナル伝達経路の調節障害が、巨細胞病変形成に関わる分子レベルの共通基盤であって、これが、独立疾患としてのNoonan様/多発性巨細胞病変症候群の存在を否定する論拠となっている。
Kratzら[2015]は、632人の分子レベルで確認済のNS罹患者(多発性黒子を伴うNoonan症候群を含む)のコホートに関する調査を行い、そのうち4例にJMML、2例に脳腫瘍、2例にALL、1例に神経芽腫を認め、これは、小児がんの標準発生頻度の8.1倍に相当するとの推算を報告している[Kratzら2015]。すなわち、NS罹患者は、NSを有しない人に比べ、小児がん発生リスクが8倍に上ることになる。20歳までにがんが生じる総合的リスクは、4%と推算されている[Lodiら2020]。
米国癌学会(AmericanAssociationforCancerResearch)の国際会議において、RAS病をはじめとする小児がんリスクの上昇を伴う遺伝疾患の追跡評価に関する合意形成を図るための討議がなされが、がんリスクは5%未満なので、継続的にがんの追跡調査を行うことまでは推奨されなかった。ただし、PTPN11やKRASのバリアントについては、骨髄増殖性疾患やJMMLとの関連が知られており、こうしたバリアントを有する罹患者については、出生時ないし診断確定時から5歳になるまで、3ないし6ヵ月に1度、脾臓の大きさや全血算を含む身体の診査を検討するよう推奨されている。ただ、こうした対策を行うことで生存率が高まるかについては、今のところ確たるデータはない[Villaniら2017]。
遺伝子ごとにみた表現型との相関
RASA2やRRAS2については、表現型との相関はわかっていない。
表3:遺伝子ごとのNoonan症候群の表現型の現れ方
遺伝子1 | 表現型としての症候 | ||||
---|---|---|---|---|---|
肥大型心筋症 | 外胚葉の所見 | 知的障害 | 肺動脈弁狭窄 | その他 | |
BRAF | +++2 | 典型的所見を示すことが多い。 | |||
KRAS | +++3 | 頭蓋縫合早期癒合症が2例報告されている4。 | |||
LZTR1 | ++5 | ||||
MAP2K1 | +++2 | 典型的所見を示すことが多い。 | |||
MRAS | +++ | 報告されている6例すべてでみられている6。 | |||
PTPN11 | -7 | +++ | 低身長、胸の奇形、打撲傷、停留精巣、特徴的顔貌を呈する例が多い。 | ||
RAF1 | +++8 | ++9 | |||
RIT1 | ++10 | ++11 | -12 | 低身長、胸の奇形を示す例が少なく、周産期の異常、出生時体重の過大、相対的大頭症を呈する例が多い。 | |
SOS1 | ++ | - | 身長は正常で、心中隔欠損をもつ例が多い。 | ||
SOS2 | ++ | - | 低身長は多くない。 リンパ系の異常が50%超でみられる13。 |
+,++,+++は、その症候の起こりやすさの程度を示す(+が多いほど出現頻度が高い)。
-は、その症候がほとんどみられないことを示す。
空欄は、その遺伝子の病的バリアントを有することと、その症候が現れることとの間に、特段の相関が知られていないことを示す。
なお、Noonan症候群罹患者全体では18%である[Gelbら2015]。
遺伝型-表現型相関
BRAF、KRAS、LZTR1、MAPK1、MRAS、NRAS、RAF1、RASA2、RIT1、RRAS2、SOS1、SOS2については遺伝型-表現型相関は確認されていない。
PTPN11
疾患名について
NSは、以前、「男性型Turner症候群」と呼ばれていたが、これは、この疾患が女性には現れないはずという誤った意味合いをもつものであった。
1949年、OttoUllrichは、複数の罹患者を報告し、その症候がBonnevieの開発したマウスの系統でみられる特徴(翼状頸とリンパ浮腫)と類似しているとした。そのため、特にヨーロッパにおいては、「Bonnevie-Ullrich症候群」の呼び名が広く用いられた。
頻度
NSは多くみられ、発生頻度は1,000人に1人から2,500人に1人と報告されている。表現型が軽度なものについては、見過ごされているように思われる。
Noonan症候群と同一のアレルにより生じる常染色体顕性の疾患を表4にまとめた。これらはNSと臨床症候の重なる部分を有しているため、鑑別診断にあたっては、これらを頭に入れておく必要がある。
表4:Noonan症候群との鑑別を要する同一アレル疾患
遺伝子 | 疾患名 | コメント |
---|---|---|
BRAF KRAS MAP2K1 MAP2K22 |
心臓-顔-皮膚症候群(CFC症候群) | CFC症候群とNSは症候の重なりが最も顕著な疾患である。 CFC症候群でも同じような心臓やリンパ系の所見がみられる1ものの、知的障害がより重度にみられ、中枢神経系の器質的奇形を有する頻度が高い。皮膚はより赤みが強い。消化器系の問題はより重度で、症候が遷延する。出血性素因は稀にしかみられない。顔貌は粗野さがより強く、長頭形で眉の欠損がより多くみられる。青色の眼はより少ない。 |
BRAF MAP2K1 PTPN11 RAF1 |
多発性黒子を伴うNoonan症候群 (NSML) |
以前はLEOPARD症候群と呼ばれていた。NSMLは表現型のばらつきの幅が大きく、NSと表現型が大きく重なる。小児期初期には、NSMLは典型的なNSと同じ表現型を示すことがあるものの、年齢とともに他の症候(黒子や難聴)が現れてくる。 |
LEOPARDとは、黒子(Lentigines)、心電図(Ecg)の異常、眼間開離(Ocularhypertelorism)、肺動脈弁狭窄(Pulmonarystenosis)、生殖器の異常(Abnormaliesofgenitalia)、成長遅延(Retardationofgrowth)、難聴(Deafness)の略。
MAP2K1とMAP2K2が合わせて25%近く、KRASが2%未満である。
その他の同一アレル疾患
MRAS、NRAS、RASA2、RIT1、RRAS2、SOS2の生殖細胞系列病的バリアントについては、本章で述べたもの以外の表現型の存在は知られていない。
KRASのモザイク活性化病的バリアントにより、脳頭蓋皮膚脂肪腫症(ECCL)が引き起こされる。ECCLで報告されている病的バリアントは、接合子形成後ではあるものの、発生初期の段階にその起源をもつものである。ECCLは、先天奇形を中心とした各種症候から成る1つのスペクトラムを形成している。ECCLは、典型例においては、皮膚、眼、脳の先天奇形、中でも頭蓋内脂肪腫、脊髄内脂肪腫がみられることを大きな特徴とする。
がんならびに良性腫瘍
散発性の腫瘍(白血病と固形腫瘍の両方を含む)で、Noonan症候群を思わせる他の所見がみられず、腫瘍だけが単独で現れた例について、BRAF、KRAS、LZTR1、MAP2K1、MRAS、NRAS、PTPN11、RAF1、RRAS2の体細胞性塩基バリアントがみられることがある。ただ、これは生殖細胞系列ではみられない。したがって、こうした腫瘍に関する素因が遺伝するといった性質のものではない。「分子遺伝学」の「がんならびに良性腫瘍」の項を参照されたい。
Turner症候群
これは典型的には女性が罹患し、罹患者に対して細胞遺伝学的検査を行って性染色体の異常を明らかにすることで、Noonan症候群(NS)と鑑別することが可能である。Turner症候群の表現型は、顔、心臓、発達、腎といったところをみると、NSとはっきり異なっている。Turner症候群のほうが腎奇形の発生がより多く、発達遅延の頻度がずっと低い。また、Turner症候群の場合は原則的に左心奇形である。
NSとの鑑別診断に係わってくる遺伝子を表5にまとめた。
表5:Noonan症候群との鑑別診断の上で関係してくる遺伝子
遺伝子 | 遺伝形式 | 臨床的特徴/コメント | |
---|---|---|---|
BRAF KRAS MAP2K1 MAP2K21 |
心臓-顔-皮膚症候群(CFC症候群) | AD | 「遺伝学的に関連のある疾患」の項を参照。 |
BRAF MAP2K1 PTPN11 RAF1 |
多発性黒子を伴うNoonan症候群(以前の名称はLEOPARD症候群) | AD | 「遺伝学的に関連のある疾患」の項を参照。 |
CBL2 | Noonan症候群様疾患±若年性骨髄単球性白血病(OMIM613563) | XL | 比較的出現頻度の高い神経症状、JMML発症素因、低頻度にしか現れない心疾患、成長障害、停留精巣等の特徴があるものの、表現型のばらつきの幅は広い3。 |
FGD1 | X連鎖性Aaskog症候群(OMIM305400) | AD | 発達遅滞、低身長、先天性心疾患、特徴的顔貌等を示す。 |
HRAS | Costello症候群 | AD | 出生後の重度の摂食障害に起因する成長障害、低身長、発達遅滞ないし知的障害、粗野な顔、巻き毛ないし細く疎な毛髪、手掌・足底の皺を伴う軟らかく締まりのない皮膚、顔や肛門周囲の乳頭腫、手首や指の尺側偏位を伴う瀰漫性筋緊張低下と関節弛緩、硬いアキレス腱、心疾患等を呈する。ふつう、相対的大頭症ないし真性大頭症を呈する。 |
NF1 | 神経線維腫症1型(NF1) | AD | NF1は、低身長、学習障害、カフェオレ斑など一部の症候がNSと重なる。稀ながら、NS類似の顔貌を呈する例もある4。NF1のバリアントであるWatson症候群は、多発性カフェオレ斑、肺動脈弁狭窄、知的障害、低身長を呈する。 |
PPP1CB SHOC22 |
易脱毛性を伴うNoonan症候群様疾患 (OMIMPS607721) |
AD | NS類似の症候を示し、一部の罹患者では典型的なNSの表現型を示すものもある5。SHOC2の反復性の病的ミスセンスバリアント4A>Gが、NSの症候に加えて、成長ホルモン分泌不全、多くの場合、年齢とともに改善していく多動、毛髪の異常、湿疹や魚鱗癬を伴う皮膚の濃い色素沈着、開鼻声などを示し、僧帽弁異形成や中隔欠損が典型的なNSの症候をもつグループより多くみられるという特徴をもつサブグループで同定されている1,6。 |
SPRED1 | Legius症候群 | AD | カフェオレ斑が大多数に、そばかすが30%-50%に、発達上の問題が30%に、Noonan症候群類似の顔の特徴が15%にみられる。 |
AD=常染色体顕性;AR=常染色体潜性;JMML=若年性骨髄単球性白血病;XL=X連鎖性
その他
NSは、発達遅滞、低身長、先天性心疾患、特徴的顔貌を呈するその他の症候群や疾患、特に以下とも鑑別する必要がある。
ヨーロッパのコンソーシアムであるDYSCERNEの作成した管理ガイドライン[NoonanSyndromeGuidelineDevelopmentGroup2010]が存在する(全文はこちら)。これとは別に、アメリカのコンソーシアムがNoonan症候群支援グループと協力して公表したもの[Romanoら2010]も存在し、Lancetにも発表されている[Robertsら2013]。
最初の診断に続いて行う評価
Noonan症候群と診断された罹患者については、疾患の範囲やニーズを把握するため、診断に至る過程の評価の一部としてすでに実施済でなければ、表6にまとめた評価を行うことが推奨される。
表6:Noonan症候群罹患者の最初の診断後に行うことが推奨される評価
系/懸念事項 | 評価項目 | コメント |
---|---|---|
体格 | 成長パラメーターの計測 |
|
内分泌 | 骨年齢,成長ホルモン,甲状腺機能に関する検査1 | 低身長(標準成長曲線に対して-2SD未満、もしくはパーセンタイルの主要曲線〈訳注:5,10,25,50,75,90,95パーセンタイルを示す各曲線〉2本と交わる)の子どもについて行う。 |
消化器/摂食 | 消化器/栄養/摂食チームによる評価 |
|
発達 | 発達評価 | 以下を含むものとする。
|
精神/行動 | 精神神経学的評価も検討対象になりうる。 | 生後12ヵ月超について、行動障害、自閉症、鬱、注意欠如多動性障害,不安症に関するスクリーニングを行う(中には成人期まで現れない症候もある)。 |
循環器 | 心エコーと心電図 | 先天性心疾患,心筋症,心伝導障害のチェックを目的に行う。 |
泌尿生殖器 | 腎超音波検査 | 腎奇形の評価を目的に行う。奇形がみられるようであれば、泌尿器科医へ紹介。 |
男性では停留精巣の評価 | 停留精巣があるようなら、泌尿器科医へ紹介。 | |
筋骨格 | 理学療法/作業療法的評価 | 以下の内容を含むものとする。
|
臨床診査で脊椎の非対称や側彎がみられるときは、X線写真撮影を検討。 | 整形外科医への紹介を検討する。 | |
血液/リンパ | 血液内科医への紹介にあたり、出血の既往,白血球百分率を含む全血算,プロトロンビン時間/活性化部分トロンボプラスチン時間,第Ⅺ,Ⅻ,Ⅸ,Ⅷ,フォンヴィレブランド因子,血小板凝集能検査を行う。 | 生後12ヵ月未満の段階で最初のスクリーニングを行っている場合は、12ヵ月以降も繰り返しこれを行う2。 |
眼 | 眼科的評価 | 弱視,屈折異常,眼振,斜視,肉眼ではっきりわかる眼瞼下垂に関する評価を行う。 |
聴覚 | 聴覚評価 | 難聴と中耳浸出液の評価を行う。 |
皮膚 | 全身の皮膚の評価 | モニタリングを要するような多発性黒子や、明らかな乾皮症3を伴う罹患者については、皮膚科医への紹介を検討する。 |
神経 | 神経の評価 | Chiari奇形の可能性を疑わせる徴候や症候がみられる場合は、脳・脊髄のMRIを行う。 |
遺伝カウンセリング | 遺伝の専門医療職4による評価 | 医療に関する決断や個人的決断に資するため、罹患者や家族に対して、NSの本質,遺伝形式,そのもつ意味についての情報提供を行う。 |
家族への支援 /情報資源 |
以下のニーズについて評価を行う。
|
症候に対する治療
表7:Noonan症候群罹患者の症候に対する治療
症候/懸念事項 | 治療内容 | 検討事項/その他 |
---|---|---|
低身長 | 成長ホルモン治療が検討対象になりうる。 |
|
摂食障害 | 成長障害の乳児で、特に先天性心疾患や肥大型心筋症がある場合は、経鼻胃管栄養を検討する。 | 摂食障害の問題は自然的改善が見込めることが多いものの、場合によっては侵襲的介入(すなわち胃瘻造設)が必要なこともある。 |
発達障害/知的障害 | 「発達遅滞/知的障害の管理に関する事項」の項を参照 | |
精神/行動 | 注意欠如多動性障害その他の、精神神経症候や行動の問題に関する標準治療 | 年齢によっては、神経発達分野の専門医療職、あるいは精神科医への紹介が検討対象になりうる。 |
先天性心疾患 | 心臓病専門医による標準治療 | NSの肺動脈弁狭窄に対する経皮的バルーン肺動脈弁形成術は、NS以外の例に比べ要再施行率が高いものの、それでもなお第1選択と考えられている2。 |
肥大型心筋症 | 心臓病専門医による標準治療 | 肥大型心筋症は早期死亡につながるおそれあり。 6ヵ月未満で鬱血性心不全を呈した乳児は、最も予後不良である(2歳まで生存するのは30%)3。 |
停留精巣 | 泌尿器科医による標準治療 | |
腎奇形/水腎症 | 泌尿器科医ないし腎臓内科医による標準治療 | |
出血性素因 | 血液内科医による標準治療 |
|
視覚の異常/斜視 | 眼科医の推奨に基づく標準治療 | 早期介入プログラムないし学区を通じた地域の視覚障害者サービス |
聴覚 | 耳鼻科医の指示に従い補聴器を使用することが有用である可能性あり。 | 早期介入プログラムないし学区を通じた地域の聴覚障害者サービス |
Chiari奇形 | 脳神経外科医による標準治療 | |
若年性骨髄単球性白血病,その他の悪性腫瘍 | 腫瘍専門医による標準治療 | |
家族/地域社会 |
|
|
発達遅滞/知的障害の管理に関する事項
発達障害/知的障害者の管理に関して、アメリカにおいては以下のような推奨がなされている。ただ、そうした推奨は、国ごとに異なったものになることもあろう。
0-3歳
作業療法、理学療法、言語治療、摂食治療、乳児精神保健サービス、特別支援教育、感覚障害教育が受けられるよう、早期介入プログラムへの紹介が望ましい。早期介入プログラムは、アメリカでは連邦政府が費用を負担して行われる制度で、すべての州で利用可能である。このプログラムは、個人個人の治療上のニーズに合わせた在宅サービスを提供するものである。
3-5歳
アメリカでは、地域の公立学区(訳注:ここで言う「学区」というのは、地理的な範囲を指す言葉ではなく、教育行政単位を指す言葉である)を通じて認定を受けた人のみが発達保育園を利用できる仕組みになっている。入園前には、必要なサービスや治療の内容を決定するために必要な評価が行われ、その上で、運動、言語、社会性、認知の遅れがみられる人に対しては、個別教育計画(IEP)が策定される。こちらへの移行は、通常、早期介入プログラムが支援して進められる。発達保育園は独立運営である。
全年齢
各地域、州、アメリカの連邦教育行政機関が適切な形で関与できるよう、そして、良好な生活の質を最大限確保する支援を親に対してできるよう、発達小児科医への紹介も検討すべきかもしれない。以下を考慮する。
定期的追跡評価
表8:Noonan症候群罹患者について推奨される追跡評価
系/問題点 | 評価内容 | 実施頻度 |
---|---|---|
体格 |
|
来院ごと |
発達 | 発達の進行状況のモニタリングと教育上のニーズの把握 | |
神経 | Chiari奇形1を疑わせるような慢性頭痛,頸部痛,筋力低下,眩暈,OSAの徴候/症候をはじめとする何らかの新しい症候がないかという点の評価 | |
皮膚 | 皮膚の診査 | |
家族/ 地域社会 |
家族に対するソーシャルワーカーによる支援(例えば、緩和や息抜きに関するケア,在宅看護,地域にある別の情報提供源の紹介など)の必要性に関する評価 | |
精神/行動 | 不安,注意力,鬱関連の行動の評価 | 小児期初期から始め、その後は年齢相応の間隔で行われる受診の機会ごと |
心血管 | 最初の心臓の評価で異常なしとなった5歳未満の子どもについては、右の通り。 | 5歳に達するまでは最低限年に1度、もしくは臨床的に必要と判断される間隔で心臓の評価を行う。 |
5歳超の子どもから成人までの人については、右の通り。 | 最低限5年に1度、もしくは臨床的に必要と判断される間隔で心臓の評価を行う。 | |
眼 | 眼科的評価 | 小児期,思春期については年に1度、もしくは臨床的に必要と判断される間隔で行う。 |
聴覚 | 聴覚評価 | 小児期初期については年に1度、もしくは臨床的に必要と判断される間隔で行う。 |
悪性腫瘍/JMML2 | PTPN11ないしKRASの病的バリアント3を有する例については、脾臓のサイズや全血算の評価を含む内科的評価を検討する。 | 5歳に達するまでは3-6ヵ月に1度 |
血液凝固/出血 | 血液内科医への紹介:出血の既往,白血球百分率を含む全血算,プロトロンビン時間/活性化部分トロンボプラスチン時間,第Ⅺ、Ⅻ,Ⅸ,Ⅷ,フォンヴィレブランド因子,血小板凝集能検査 | 外科手術を行う場合はそれに先立って。 また、出欠の既往がある場合。 |
JMML=若年性骨髄単球性白血病
避けるべき薬剤/環境
出血性素因の悪化につながるおそれがあることから、アスピリンを用いた治療は避ける必要がある。
リスクを有する血縁者の評価
リスクを有する血族に対して行う遺伝カウンセリングを目的とした検査関連の事項については、「遺伝カウンセリング」の項を参照されたい。
妊娠に関する管理
妊娠している罹患者は、周産期の評価や管理を目的とした成人先天性心疾患プログラムへの紹介を検討する。
妊娠の期間は、一般に血液凝固が亢進する期間であるが、妊婦に出血異常の既往がある場合、ないしそれまでに凝血障害のスクリーニングを受けていない場合は、血液内科への紹介を検討する。
研究段階の治療
RIT1の病的バリアントを有し、先天性で進行性の肥大型心筋症を示す2人の乳児に対し、MEK阻害剤トラメチニブをコンパッショネートユース(訳注:生命の危険、ないし重大な障害が予想される状況下で、他に採りうる手段がない場合に、未承認の薬剤の使用を限定的に認める制度)で投与した例がある。トラメチニブは、MEK1/2の活性に対する高度に選択的な、可逆性にしてアロステリックな阻害薬である。その結果、いずれの例でも、進行性だった心筋肥大や肺動脈弁狭窄の逆転様相とともに、身体の追いつき成長パターンがみられたという[Andelfingerら2019]。
Doriら[2020]は、トラメチニブによる治療後に、腸間膜・後腹膜のリンパ管拡張や乳糜胸が改善し、リンパ系のリモデリングが完全な形で達成された14歳のSOS1関連NS罹患者の1例を報告している。
Children‘sNationalResearchInstituteのAndrewDauber医師は、ボソリチドの治験を目的として、Noonan症候群も含めた、遺伝子に原因をもつ低身長の子どもの登録を行っている。ボソリチドは、成長板を標的とする選択的NPR-B(訳注:ナトリウム利尿ペプチド受容体タイプB)作動薬である。
「ClinicalTrials.gov」を参照されたい。
さまざまな疾患・状況に対して進行中の臨床試験に関する情報については、アメリカの「ClinicalTrials.gov」、ならびにヨーロッパの「EUClinicalTrialsRegister」を参照されたい。
「遺伝カウンセリングは個人や家族に対して遺伝性疾患の本質,遺伝,健康上の影響などの情報を提供し,彼らが医療上あるいは個人的な決断を下すのを援助するプロセスである.以下の項目では遺伝的なリスク評価や家族の遺伝学的状況を明らかにするための家族歴の評価,遺伝学的検査について論じる.この項は個々の当事者が直面しうる個人的あるいは文化的、倫理的な問題に言及しようと意図するものではないし,遺伝専門家へのコンサルトの代用となるものでもない.」
遺伝形式
BRAF、KRAS、MAP2K1、MRAS、NRAS、PTPN11、RAF1、RASA2、RIT1、RRAS2、SOS1、SOS2の病的バリアントに起因するNoonan症候群(NS)は、常染色体顕性の遺伝形式をとる。LZTR1の病的バリアントに起因するNSは、常染色体顕性遺伝であることもあり、常染色体潜性遺伝のこともある。
常染色体顕性遺伝―血縁者の有するリスク
発端者の両親
注:親の白血球DNAの検査で体細胞モザイクを有する全例が検知されるとは限らず、また、生殖細胞系列のみのモザイクについては、この手法では検出することができない。
発端者の同胞
発端者の同胞の有するリスクは、発端者の両親の臨床的状態/遺伝学的状態によって変わってくる。
発端者の子
NS罹患者の子に、NS関連病的バリアントが継承される可能性は、50%である。
常染色体潜性遺伝―血縁者の有するリスク
発端者の両親
発端者の同胞
発端者の子
NS罹患者の子は、すべて、LZTR1の病的バリアントのヘテロ接合体となる。
他の血族
発端者の両親の同胞は、LZTR1の病的バリアントをヘテロで有しているリスクが50%である。
ヘテロ接合者の特定
リスクを有するヘテロ接合体の血族を特定する上では、家系内にあるLZTR1の病的バリアントの内容を事前に同定しておく必要がある。
関連する遺伝カウンセリング上の諸事項
早期診断・早期治療を目的としてリスクを有する血族に対して行う評価関連の情報については、「管理」の中の「リスクを有する血縁者の評価」の項を参照されたい。
家族計画
DNAバンキング
検査の手法であるとか、遺伝子・病原のメカニズム・疾患等に対するわれわれの理解が、将来はより進歩していくことが予想される。そのため、分子診断の確定していない(すなわち、背景にある病原のメカニズムが未解明の)発端者については、DNAの保存を検討すべきである。
出生前検査ならびに着床前の遺伝子検査
高リスクと目される妊娠
家系内にあるNS関連病的バリアントの内容が同定されている場合には、出生前/着床前遺伝学的検査が可能となる。
50%のリスクを有する妊娠については、高解像度超音波検査が使用可能である。出生前にみられる症候は非特異性で、羊水過多、水腎症、胸水、浮腫、心疾患、頸部リンパ嚢の拡大、嚢胞性ヒグローマ、nuchaltransparencyの拡大などが現れることがある[Myersら2014]。嚢胞性ヒグローマは、頭皮浮腫、羊水過多、胸水や心膜液、腹水、通常の胎児水腫などを伴うことがある。こうした所見がみられる場合は、NSの診断が示唆される。上記に加えて、心疾患の調査も行う必要がある。先天性心疾患の20%は、出生前の段階で診断がなされる[Myersら2014]。こうした妊娠合併症の治療については、一般集団の場合と変わるところがない。
低リスクと目される妊娠(すなわち、胎児にNSのリスク上昇がわかっていない場合)
超音波検査所見は、高リスク妊娠においてNSの診断が示唆される状況と同じであったとしても、こうした所見はいずれも非特異的なものであり、先天性心疾患や、他の染色体異常症候群、非染色体異常症候群でも出現しうるものである。単発性のnuchaltransparencyの拡大(99パーセンタイル超)のみで、超音波で他に特段の所見がみられなかった309人の胎児を後ろ向きに調べた研究では、4人がその後、NSと診断されている[Pautaら2022]。また、Hydrops-YieldingDiagnosticResultsofPrenatalSequencing(HYDROPS)study(訳注:直訳すると、「胎児水腫を生じさせる出生前の配列解析の診断結果に関する研究」)に登録された非免疫性胎児水腫の44胎児中の4例が、トリオエクソーム解析によりNSと診断されている[Al-Kouatlyら2021]。
GeneReviewsスタッフは、この疾患を持つ患者および家族に役立つ以下の疾患特異的な支援団体/上部支援団体/登録を選択した。GeneReviewsは、他の組織によって提供される情報には責任をもたない。選択基準における情報については、ここをクリック。
分子遺伝学
分子遺伝学とOMIMの表の情報はGeneReviewsの他の場所の情報とは異なるかもしれない。表は、より最新の情報を含むことがある。
表A:Noonan症候群の遺伝子とデータベース
遺伝子 | 染色体上の座位 | タンパク質 | Locus-Specificデータベース | HGMD | ClinVar |
---|---|---|---|---|---|
BRAF | 7q34 | セリン/スレオニンプロテインキナーゼB-raf | BRAFdatabase NSEuroNetdatabase-BRAF |
BRAF | BRAF |
KRAS | 12p12.1 | GTPアーゼKRas | KRASdatabase NSEuroNetdatabase-KRAS |
KRAS | KRAS |
LZTR1 | 22q11.21 | ロイシンジッパー様転写制御因子1 | LZTR1@LOVD | LZTR1 | LZTR1 |
MAP2K1 | 15q22.31 | 二重特異性マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ1 | MAP2K1@LOVD NSEuroNetdatabase-MAP2K1 |
MAP2K1 | MAP2K1 |
MRAS | 3q22.3 | Ras関連タンパク質M-Ras | MRAS | MRAS | |
NRAS | 1p13.2 | GTPアーゼNRas | NRASdatabase NRASbase:自己免疫性リンパ増殖症候群Ⅳ型変異レジストリ NSEuroNetdatabase-NRAS |
NRAS | NRAS |
PTPN11 | 12q24.13 | チロシン-プロテインフォスファターゼ非受容体11型 | PTPN11database PTPN11base:SHP-2SH2ドメイン内病的バリアントデータベース NSEuroNetdatabase-PTPN11 |
PTPN11 | PTPN11 |
RAF1 | 3p25.2 | RAFがん原遺伝子セリン/スレオニンキナーゼ | NSEuroNetdatabase-RAF1 | RAF1 | RAF1 |
RASA2 | 3q23 | RasGTAアーゼ活性化タンパク質2 | RASA2 | RASA2 | |
RIT1 | 1q22 | GTP結合タンパク質Rit1 | NSEuroNetdatabase-RIT1 | RIT1 | RIT1 |
RRAS2 | 11q15.2 | Ras関連タンパク質R-Ras2 | RRAS2database | RRAS2 | RRAS2 |
SOS1 | 2p22.1 | Sonofsevenlessホモログ1 | SOS1database | SOS1 | SOS1 |
SOS2 | 14q21.3 | Sonofsevenlessホモログ2 | SOS2 | SOS2 |
データは、以下の標準資料から作成したものである。遺伝子についてはHGNCから、染色体上の座位についてはOMIMから、タンパク質についてはUniProtから。リンクが張られているデータベース(Locus-Specific,HGMD,ClinVar)の説明についてはこちらをクリック。
表B:Noonan症候群関連のOMIMエントリー(内容の閲覧はOMIMへ)
163950 | NOONAN SYNDROME 1; NS1 |
164757 | B-RAF PROTOONCOGENE, SERINE/THREONINE KINASE; BRAF |
164760 | RAF1 PROTOONCOGENE, SERINE/THREONINE KINASE; RAF1 |
164790 | NRAS PROTOONCOGENE, GTPase; NRAS |
176872 | MITOGEN-ACTIVATED PROTEIN KINASE KINASE 1; MAP2K1 |
176876 | PROTEIN-TYROSINE PHOSPHATASE, NONRECEPTOR-TYPE, 11; PTPN11 |
182530 | SOS RAS/RAC GUANINE NUCLEOTIDE EXCHANGE FACTOR 1; SOS1 |
190070 | KRAS PROTOONCOGENE, GTPase; KRAS |
600098 | RELATED RAS VIRAL ONCOGENE HOMOLOG 2; RRAS2 |
600574 | LEUCINE ZIPPER-LIKE TRANSCRIPTIONAL REGULATOR 1; LZTR1 |
601247 | SOS RAS/RAC GUANINE NUCLEOTIDE EXCHANGE FACTOR 2; SOS2 |
601589 | RAS p21 PROTEIN ACTIVATOR 2; RASA2 |
605275 | NOONAN SYNDROME 2; NS2 |
608435 | MUSCLE RAS VIRAL ONCOGENE HOMOLOG; MRAS |
609591 | RIC-LIKE PROTEIN WITHOUT CAAX MOTIF 1; RIT1 |
609942 | NOONAN SYNDROME 3; NS3 |
610733 | NOONAN SYNDROME 4; NS4 |
611553 | NOONAN SYNDROME 5; NS5 |
613224 | NOONAN SYNDROME 6; NS6 |
613706 | NOONAN SYNDROME 7; NS7 |
615355 | NOONAN SYNDROME 8; NS8 |
616559 | NOONAN SYNDROME 9; NS9 |
616564 | NOONAN SYNDROME 10; NS10 |
618499 | NOONAN SYNDROME 11; NS11 |
618624 | NOONAN SYNDROME 12; NS12 |
分子レベルの病原
Noonan症候群に関与する遺伝子群は、いずれも、Ras/MAPK経路の一部、ないしRas/MAPK経路と相互作用するものである。Ras/MAPK経路は、広い領域において、重要なシグナル変換経路となっており、成長因子、サイトカイン、ホルモン、その他の細胞外リガンドが、細胞の分化、増殖、代謝、生き残りを活性化する働きをしている。アダプタータンパク質が動員され、GDP結合型の不活性なRASを、GTP結合型の活性を有するタイプに変換する作用をもつ複合体が形成される。これにより、連続的なリン酸化を通じて下流のRAF-MEK-ERK経路が活性化され、活性化ERKの核内移動、遺伝子転写の変化が活発に生じる。Noonan症候群に関連する病的バリアントは、通常、この経路を通じたシグナルの流れを亢進させる働きをしている。
表9:Noonan症候群:疾患を引き起こすメカニズム
遺伝子1 | メカニズム | コメント/文献 |
---|---|---|
BRAF | 機能獲得型 | Sarkozyら[2009] |
KRAS | ||
LZTR1 | 常染色体顕性LZTR1関連Noonan症候群を引き起こすヘテロ接合型病的バリアント[Mottaら2019] | |
機能喪失型 | 通常、タンパク質の合成/安定化、ないし細胞内局在に影響を及ぼす潜性バリアント[Mottaら2019] | |
MAP2K1 | 機能獲得型 | Cirsteaら[2010],Runtuweneら[2011] |
MRAS | Higginsら[2017],Mottaら[2020] | |
NRAS | ||
PTPN11 | ||
RAF1 | Panditら[2007] | |
RASA2 | Chenら[2014b] | |
RIT1 | Aokiら[2013] | |
RRAS2 | Chenら[2014b],Flexら[2014] | |
SOS1 | Robertsら[2007] | |
SOS2 | Chenら[2014b],Yamamotoら[2015],Lissewskiら[2021] |
表10:Noonan症候群:遺伝子ごとの注目すべき病的バリアント
遺伝子1 | 参照配列 | DNAヌクレオチドの変化 | 予想されるタンパク質の変化 | コメント[文献] |
PTPN11 | NM_002834.3 NP_002825.3 |
c.179_181delGTG | p.Gly60del | Yoshidaら[2004] |
c.181_183delGAT | p.Asp61del | Leeら[2005b] | ||
NM_002834.5 NP_002825.3 |
c.172A>G | p.Asn58Asp | NSとJMML2 | |
c.174C>G | p.Asn58Lys | |||
c.182A>G | p.Asp61Gly | |||
c.184T>G | p.Tyr62Asp | |||
c.188A>G | p.Tyr63Cys | |||
c.214G>A | p.Ala72Thr | |||
c.214G>T | p.Ala72Ser | |||
c.215C>G | p.Ala72Gly | |||
c.218C>T | p.Thr73Ile | |||
c.227A>T | p.Glu76Val | |||
c.228G>T | p.Glu76Asp | |||
c.236A>G | p.Gln79Arg | |||
c.417G>C | p.Glu139Asp | |||
c.417G>T | p.Glu139Asp | |||
c.794G>A | p.Arg265Gln | |||
c.836A>C | p.Tyr279Ser | |||
c.853T>C | p.Phe285Leu | |||
c.922A>G3 | p.Asn308Asp3 | |||
c.923A>G | p.Asn308Ser | |||
c.1403C>T | p.Thr468Met | |||
c.1504T>G | p.Ser502Ala | |||
c.1504T>A | p.Ser502Thr | |||
c.1507G>A | p.Gly503Arg | |||
c.1507G>C | p.Gly503Arg | |||
c.1510A>G | p.Met504Val | |||
RAF1 | NM_002880.4 NP_002871.1 |
c.770C>T | p.Ser257Leu | 乳児性致死性肺高血圧の2例4 |
上記のバリアントは報告者の記載をそのまま載せたもので、GeneReviewsのスタッフが独自にバリアントの分類を検証したものではない。GeneReviewsは、HumanGenomeVariationSociety(varnomen.hgvs.org)の標準命名規則に準拠している。命名規則の説明については、QuickReferenceを参照のこと。
がんならびに良性腫瘍
Noonan症候群の症候がなく、単発の形で生じる散発性の腫瘍(白血病と固形腫瘍)の中には、PTPN11、KRAS、LZTR1、MRAS、NRAS、BRAF、MAP2K1の体細胞性の塩基バリアントを示すものがある。生殖細胞系列にバリアントはみられないので、こうした腫瘍は遺伝性ではない。
「がんにおける体細胞変異カタログ(COSMIC)」を参照されたい。
原文: Noonan Syndrome