第3回
2004年1月6日

平成15年度浜松医科大学解剖体慰霊祭講話からの抜粋

浜松医科大学名誉教授
常葉リハビリテーション病院院長
金子 昌生

半世紀ほど前、医師になる最初の関門である解剖学実習を始めるに際しご遺体を前にした感激を今でも有々と思い出すことができます。医学を学び始める際、自分と同じ人間を解剖し、その構造を目のあたりにし、自分の手で直接メスを加え、触れて診て実感するという行為は、医者になるために不可欠の体験であると同時に、医者になる使命感を新たにする瞬間でもあります。

人体解剖の一つに、病魔に対し全力を尽くして闘った証を教えていただく病理解剖があります。病理解剖させて頂いた患者さんは医師にとって偉大な先生です。その先生からは教えられる事は数多いのですが、何もお返しは出来ません。ですからその後に続く患者さんたちに、その恩恵をお返ししなければならないと思っています。

私の恩師、高橋信次先生(浜松医科大学初代副学長・病院長)は、弘前大学時代に回転横断撮影の実用化に成功され、臨床に人体輪切りレントゲン写真を提供されました。これは現在のCTの前駆をなす研究で、コンピューターのない時代の業績です。私は後にフィルム情報をコンピューターにインプットしたらCTと同じ画像が得られる事を実証する研究のお手伝いをしました。ところで、CTはX線を用いるので被曝があります。従って過剰に使用する事は厳に慎まなければなりません。しかし患者の死亡後ならば被曝の心配をすることなく精細に隈なくCT撮影できます。各臓器計測から周囲臓器の関係や病変についても描出できます。私は現職時代に病理学教室の協力を得て、遺体に対するCT検査を行ったことがあります。私はこれをCT解剖と名付けました。(10年以上前に提案し8年位前に2体に実施)。死後変化は30分位で既に生じはじめていて、肝臓内にガス発生しているという経験をした事があります。*残念ながら記録は残っていません。

解剖には他に司法解剖(法医解剖)があります。不慮の死や犯罪に巻き込まれた場合行われるのが司法解剖です。浜松医科大学在職当時、法医学教室からレントゲン写真の撮影を依頼された事がありました。弾丸などの金属片発見に役立った記憶があります。今思うと、Aiはその頃から部分的には行われてきた普遍的な検査なのかもしれません。

近年、剖検率は著しく低下しています。これはCT,MRIなどで病変の存在が判り、診断や治療法適用の決定も容易になったことが一因だと思われます。

画像診断は、臨床経過中に起こっている事象に関して容易に情報が得られるので有用ですが、最終的な病態像や治療効果判定に関してあるいは、生体が最後迄どのように病に抵抗し命を守ろうとしたかの証を得るためには、剖検に勝る方法はないのです。

剖検以外の検査では、科学的に治療法の正当性を証明する事が難しい場合も多く、今後剖検の重要性は益々大きくなるものと考えられます。Aiはその剖検をより細密化するために、とても有用なツールの一つになるものと期待されます。

(当時の講話を再構成し、Aiに関してのご意見を加えていただいたものです)