第27回
2005年10月31日

法医学関連2国際学会出席記

日本大学医学部社会医学講座法医学部門
内ヶ崎 西作

今年は法医学関連のいくつかの国際学会が開催されたが、そのうち8月21~26日まで香港で開催された「第17回 国際法科学会(17th Meeting of International Association of Forensic Sciences)」(以後、IAFS)と、9月19~24日までハンブルクで開催された「第6回 法医学の進歩に関する国際シンポジウム(6th International Symposium on Advances in Legal Medicine)」(以後、ISALM)に参加する機会を得た。両学会を通じて感じたことは「法医学領域への画像技術の応用の進歩」が目を見張るばかりだったことであった。

特にISALMでは開会式後にメイン会場で主として招待講演者らによる"Imaging Techniques I" 、その日の午後に一般演題による"Imaging Techniques II"のセッションが設けられ、またそれとは別にポスターでも画像関連の発表が数題出されていた。これらの中で最も目立っていたのは、Dr. M Thali を中心とするベルン大学(スイス)のグループであった。彼らは2001年頃より仮想解剖(Virtual Autopsy)を行うことを目的としたVirtopsy (ヴァートプシー) プロジェクトを展開している。彼らはIAFS、 ISALMの双方に演題を発表し、法医解剖死体へのCT・MRI画像と解剖所見の比較、死体への血管造影の応用、3D-CT画像の法医歯科学への応用、更には死体のCT・MRI画像に体表画像データと交通事故時の車両や自転車の画像データを加えて受傷機転を3Dで再現するという、現在までの種々の研究成果や大規模災害時の移動式CT導入による仮想解剖のプランなどを紹介していた。ISALMでの"Imaging Techniques I"(5演題)は、その Dr. Thali の講演から始った。私はこのセッションの3番目に超音波の応用について講演を行い(私はハンブルクに留学していたので、会長や運営スタッフが私に花を持たせてくれたのだろう)、続いて高津光洋教授(慈恵医大)がVirtual Reality 技術による"Digital Morgue and Virtual Autopsy" 構想を紹介された。午後からの"Imaging … II"(16演題…うち1題取り下げ)では、Dr. Thali と私が座長を努めた。このセッションで江澤英史先生(放医研)がオートプシー・イメージング(Ai)について、日本のインフラ充足度を分かりやすい絵で示しながらVirtopsyチームにプレッシャーをかけつつ紹介された。"Virtopsy"の最終目標は画像診断で「autopsy」を代行することであり、"Ai"の基本的コンセプトはとは相容れない部分がある。しかし、彼らは塩谷先生(筑波メディカルセンター)の業績などについてはよく知っており、江澤先生の発表で日本の"Ai"についてもかなり意識をするようになったようである。今回のこのセッション終了後、会場に残ったVirtopsyチームとAiチーム(江澤・塩谷・内ヶ崎)は記念写真を撮り、双方のHPのリンクや両チームが今後密接にコンタクトをとって死因究明に対する画像診断の将来を模索していこうという意見調整が為された。このセッションではVirtopsy、 Aiの他にも、ドイツやイギリスから死因究明へのCT・MRI等の画像診断の応用に関する発表や単純X線画像と解剖所見との比較という基礎的でかつ重要な報告もあった(大阪市立大)。

一方、IAFSでは特に画像を中心テーマとしたセッションは設けられていなかったが、いくつかの画像に関する興味深い報告が為されていた。中でも私が一番驚いたのは、コペンハーゲン大学からの報告であった。死体の画像を撮影する場合には、臨床施設のCTやMRIを診療業務に差し支えのない時間帯に利用して行うというのが世界的にも一般的である。しかし、コペンハーゲン大学ではなんと2002年に法医解剖室にCTを設置して全解剖例について解剖前にCT撮影を行っているという。そして現在では、CTに併設してMRIも設置され、いつでも自由にこれらの検査を行うことができるというのである。私は発表を聞きながら"amazing!"とつぶやいてしまったが、隣に座った北欧の若い法医学者もそれにうなずいていた。

両学会のweb site を10月25日現在でもみることができる。当日のプログラムや抄録のほか、IAFSのサイトでは会期中の写真も掲載されている。興味のある方は、一度ご覧いただきたい。

http://www.iafs2005.com/eng/index.html
http://www2.uni-hamburg.de/~saci006/isalm2005/
※Medical Tribune 10/27号に、もう少し詳しい体験記が掲載される予定です(Virtopsy チームとの集合写真も載ってます)。