第164回
2025年05月15日

雪の中の遺体は窒息死 屋根から落ちた雪に埋もれ死亡か。

Ai学会理事
千曲中央病院 副院長
宮林 千春

 日本列島が連日の大雪で埋もれた2月13日、地元報道機関が報じたニュースである。「飯山市で2月11日、市道の脇の雪の中に遺体が埋まっているのを、行方不明者を捜していた警察官が見つけた。遺体は4メートルほどの雪の壁の中から見つかり、身元や性別が判定できないほど損壊していた。近くに住む90代の女性が数日前から行方不明分で警察などが捜索していた。現場の状況などから遺体は、前方に回転式のブレードがついたロータリー除雪車に巻き込まれた可能性がある。」これを読む限り、痛ましくも除雪作業中の除雪車に巻き込まれた交通事故と誰もが想像する。

 2月19日後報が出た。「『落雪に埋まって窒息死のあとロータリー除雪車に巻き込まれたか』。現場周辺からは、本人のものとみられる長靴やかんじきが見つかっており、屋根から落ちた雪に埋もれ圧迫されて死亡したあとに、作業中の除雪車に巻き込まれたとみられている。」と報じている。90歳過ぎても雪かきをせねば生きていけない雪国の現実。痛ましく胸が締め付けられる。

  学会諸氏ならどのように死因究明するだろう。直接関わったわけではないので推測の域を出ないが、激しく損壊している身体についてはAi-CTと併せて法医解剖が行われ、死因が解明されたものと考える。除雪車による交通事故と誰もが思っていた死因が窒息という外因死に特定されたわけで、納得する科学的知見である。

  さて、死体検案時の死体検案書発行料等の金額の基準や算定根拠の在り方について厚生労働省から令和7年3月28日付けで通知が届いた。現在、検案料(死体検案書発行料等および検査費用)については地域や医療機関等により様々であり、死因究明等推進計画(令和6年7月5日閣議決定)の中で「厚生労働省において、検案に際して行われる検査の費用や死体検案書発行料等の金額の基準や算定根拠の在り方について、研究成果を取りまとめるとともに、地方公共団体への還元、周知等を図る。」とされている。第149回1000字提言(令和6年3月1日)で述べた「死因究明等の推進に関する研究」(令和5年度厚生労働行政推進調査事業費補助金)の成果である。

 これによれば、死体検案書発行料等の金額基準およびその算定根拠が明記され、「検案料支払い基準を検討する際に考慮する要素として各種検査(手技料と検査費用)およびAi-CT撮影料は公費負担が望ましい」と記載されている。要は今まで出所があやふやだったAi-CT費用は公費負担が望ましいと国が認めたわけで一歩前進だと考える。

 さっそく長野県医師会を通じて県に公費負担と補助について問いあわせたら、そういう予算は組んでいないしこれからもその予定はない、対応できている都道府県も把握できていない、という回答でがっかりした。さらに日本医師会、警察庁等が列記された本通知送付先一覧から当学会が漏れていることも極めて残念である。(https://www.hospital.or.jp/site/news/file/1743381467.pdf)