2026年小児Aiシンポジウム 開催後記

聖マリアンナ医科大学 小児科学講座
清水 直樹

 2026年度Ai冬期症例検討会当日の午後、特別企画として小児Aiシンポジウム「子どもを失った家族の最後の希望となる小児脳死下臓器提供に際して、死亡時画像診断(Ai)はどう役立てるか」を開催したので報告する。

開会に際して:

 企画者の清水から、上記の開催経緯と趣旨を説明した。わが国の脳死下臓器提供、イスタンブール宣言と海外渡航移植の抑制、小児(15歳未満)への拡大と虐待除外の問題、最近のガイドライン変更、などの小児脳死下臓器提供の歴史のマイルストンを説明した。さらに、BEAMSの虐待カテゴリー分類と、児相通告有無の関係を示し、脳死下臓器提供のオプション提示範囲を示した。そのうえで、司法・警察による解剖適応範囲と、オプション提示範囲の重複領域の拡大を明示し、近年あらたに表面化してきた今回のシンポジウムの契機となる課題の出現について説明した。

演題1:「症例提示と課題提起」

 宮地 麻衣 聖マリアンナ医科大学 小児科学講座 小児集中治療科, かわさき小児救命・集中治療センター

 最初に、わが国の小児脳死下臓器提供の状況と、移植待機患者にかかるデータが示された。次に、食物による上気道閉塞による心停止・低酸素虚血性脳症からの小児脳死症例が提示された。医療従事者としては、BEAMSカテゴリー2でかつ声門からも食物が確認されたため、司法解剖は不要と推測した。御両親も、脳死下臓器提供を望まれた。しかし、警察・司法の最終的判断としては、司法解剖が必要とされ、脳死下臓器提供は叶わなかった。最後に、法改正は必要となるが、海外では行われている条件付き臓器提供の仕組みを整えることで、司法側の論理にも沿いつつ、医療側の論理も両立させる方法があるのではないかという課題提起がされた。

演題2:「捜査員視点での小児脳死下臓器提供について」

 佐野 学  神奈川県警察刑事部捜査第一課 検視室検死官 警部

 現行法のもとでの、警察・司法側の判断にかかる論理が紹介された。医療側の論理も理解しつつ、警察・司法側の現行法における避けられない状況が説明された。

演題3:「臓器移植に関して法医学ができること」

 井濱 容子 横浜市立大学 法医学講座

 臨床的には食物による気道閉塞と推測されていたが、解剖により非食物によるものと判明して訴訟に至った症例が提示された。次に、当初説明された受傷機転では説明できない外傷が解剖によって判明し、のちに本当の受傷機転の自白に至った症例が提示された。最後に、本来は司法解剖が適応されうる症例であったが、法医学者が現場に赴き、検視官・臨床医と共に状況把握を進めることで、司法解剖をせずに脳死下臓器提供に至った小児例が提示された。いずれも示唆に富むものであり、とくに最後の症例は、法医学者を仲立ちとして医療と司法を結ぶチームとして有効に機能したモデル例ともいえよう。

演題4:「小児死因推定に死亡時画像診断(Ai)ができること」

 伊藤 憲佐 亀田総合病院 救命救急科

 司法解剖をせずに死因究明に至る過程で、Aiが果たしうる役割について考察された。検査で有る以上は偽陰性をゼロにすることは論理的に不可能であり、どの程度の偽陰性が許容されるかの数値化の必要性も提案された。

演題5:「小児の脳死下臓器提供における将来的課題」

 荒木 尚  埼玉県立小児医療センター, 小児救命救急センター外傷診療科

 小児脳死下臓器提供にかかる厚労科研での研究成果、わが国において小児の脳死診断・脳死下臓器提供が逡巡される背景にかかるナラ-ティブな研究結果が照会された。頭部への明確な受傷機転が説明されるにもかかわらず、明らかに無傷な臓器まで解剖標本とせざるをえないわが国の仕組みに対する問題提起もされた。現行法の壁を認識するとともに、それを乗り越えるための方向性についても提示され、国際的に標準化された構造に学ぶ視点の必要性も指摘された。

総合討論:

 最初に、フロアからの質問をうけた。ひとつには、宮地先生が最初に提示された症例と同様な症例が再度発生した際には、何を変えてどのように克服するのか、という質問がされた。相互理解、共働の場の拡大、監察医制度拡大なども重要であるが、最終的には7条はじめ法改正を行い、条件付き臓器提供など、海外でとられている仕組みにも学べるような動きが必要であるとも議論された。法改正の方向に向かうにせよ、いまできることを一歩ずつ、たとえば井濱先生が提示された症例3のように、臨床医と警察・司法のあいだを法医学者がとりもつ共働体制、早期の法医学者の巻き込みなどが、いますぐできる非常に重要であることとして議論された。また、さまざまな変化が遅いわが国においては、次世代でより望ましい体制を提供するためにも、遠大であっても今から議論することの重要性も指摘された。さらに、小児Aiの悉皆化やデータベース化の可能性についても、Ai学会としての論点としてあげられた。

閉会に際して:

 企画者の清水から、以下のとおり総括した。臨床現場も、法医学も、警察・司法も、どの領域も子どもの人権と福祉を護るためにみな矜持をもって全力を注いでいる。それぞれの演者が、しっかりとその矜持を示し、ゆずれない範囲が明確に示されたことはよかった。解決のための道筋が見えないと思われるかもしれないが、だからこそ針穴のようではあるが、具体的な方向性・見通しが得られたように私は思う。その針穴を、今後何年何十年かかっても、ともに協力して通していきましょう。スタートラインとしての相互理解と共働の具体を拡大してゆくこと。さらに、Ai学会としての議論ならではの話題として、少子化の時代だからこそ、小児Aiの悉皆化と解剖所見との突合と、それらのデータベース化や研究について、さらに議論されるべきであろう。小児医療に従事する者としても、そのための小児科医の意識改革もしなければならない。最終的に、次世代の死因究明体制の構築にむけ、みなで頑張っていきましょう。

2026年02月23日

開会挨拶・趣旨説明
総合討論