第8回オートプシー・イメージング学会学術集会 開催記
前田病院 診療放射線技師
畠山修二
2011年2月5~6日、Ai学会主催によるAi研修会および第8回Ai学会総会が千葉大学けやき会館および重粒子医科学センター研修棟で開催されました。この会に参加しての私の印象を書かせていただきたいと思います。因みに、私が勤務する病院は、東京23区以外の病床数42の病院です。
病院とは『死』に最も近い職場でありながら、実際には医師と看護師以外は直接その現場を知らないことがほとんどでは無いかと思われます。私自身もその一人で、過去当院でもAiを実施してことがありましたが、Ai(死後画像検査)に対する心構えも予備知識もなく行われたため充分な検査とはならず勉強の必要性を感じていました。
初日は千葉大キャンパス内にあるけやき会館で午前が研修会一日目(4人の講師の先生が30分ずつ講義)、午後からAi学会総会が開かれました。簡単にではありますが、その内容の説明をしたいと思います。
研修会1日目
司法解剖 大阪大学飯野先生
法医解剖の一つで、犯罪、あるいはその疑いがあると判断された異状死体について刑事訴訟法に基づき令状を得て行われるもの。遺体そのものが犯罪の証拠であることを常に頭に入れて扱う必要がある。実際の司法解剖の方法などについてもスライドで解説された。
Aiにおける医療安全 三重大学兼児先生
医療の場でAiを行うことに対する現状や問題点。死因を知る手段として遺族に受け入れやすいシステムであり説明に有力なツールになり得るが、コストや人件費の問題、臨床機を使うことに対する問題などがある。Aiの撮影で医療事故が発覚することもあり、そのことでAiの実施が萎縮してしまわない為にも病院内の公式なシステムとして運営される必要がある。
病理解剖 福井大学法木先生
病理解剖は,病院内で亡くなった方の死因究明や臨床診断の検証を目的とする解剖である。「死体解剖保存法」に基づいて行われている。一般的な病理解剖に関する一般的知識の習得が講義の中心となっていた。事前にAiを行うことで安全面でも有用である。Aiと病理解剖を同時に行うことで高いレベルの検索が可能となる。
警察医・検視 川口病院川口先生
一般臨床医の中で警察行政に対して医学的立場から協力している医師の通称『警察医』としての発表であった。検視と検死の違いなどについても意見を述べられていた。『検視』は刑事訴訟法第229条に基づき、死体が犯罪に起因するものであるかどうかを判断するために検察官あるいは警察官が自身の五感によって死体の状況を調査すること。警察医が行うのは『検死』であり『死体検案書』を作成するのが最大の目的である。死因、死亡時刻、死因の種類、異常死か否かの鑑別を総合的に行い、警察が行う『検視』の重要な補助行為となる。体表検査が基本で必要に応じて髄液検査、各種生化学検査を行う。これにAiによる診断が加わるとより正確なものとなる。しかし制度が確立されていないため、検査費用の問題が大きい。
感想
初日の勉強会の内容は『死体』に関わる各方面からの話が一度に聞けるもので非常に興味深いものでした。特に司法解剖、警察医の内容は、普段医療の現場では聞かない単語や症例が多く、かなり刺激的な写真と共に紹介されていました。
Ai学会総会
午後からはAi学会総会「今見直されるAiの社会的意義」をメインテーマに症例報告、検視検案、各地で行われているAiセンターについて発表、議論が行われました。最後に佐賀大学医学部付属病院放射線部の阿部先生より「医学・医療の発展に貢献するAiセンター設立に学ぶもの」と題した特別講演が行われました。
研修会2日目
2日目は放医研にある重粒子医科学センター研修棟に場所を移し行われました。
Aiに関する看護学 NTT東日本関東病院木村先生
死後の看護の概念、死後の処置『エンゼルケア』、遺族に対する精神的ケアについて。
Aiにおける感染対策 国際医療福祉大学樋口先生
感染予防基本、遺体の状態別による感染予防策、実際の感染防止におけるポイント。原則Aiは亡くなったままの状態で撮影されることで証拠能力が高くなるが、死後処置を行わない状態での撮影は感染リスクが高い。院外から搬入された遺体は生前時の情報に乏しいため必ず感染があるものとして扱うことが重要である。。撮影室の空調管理は匂いの問題もあり特に気をつける必要がある。
Aiに関する法令・倫理 自治医科大学長谷川先生
法令に関しては制定の趣旨、目的を考える。倫理的な問題は共同体、集団存続に重要なことはなにかという視点が重要。Aiに関する法令は現在のところないが近い将来に法令化されるであろう。紛争の解決手法として訴訟、仲裁、調停、交渉といった概念が存在するが医療では医療メディエーションという当事者間の対話促進によって双方の納得を得て行くプロセスが注目されている。
死後画像に関する特性 筑波メディカルセンター塩谷先生
死後画像の撮影の特徴 佐賀大学阿部先生
救急現場における死後画像 新潟市民病院高橋先生
児童虐待における死後画像 埼玉小児医療センター小熊先生
各々の死後画像の特徴。出血性死因に対するAiの有用性。Aiの所見は死因、死後変化、蘇生術後変化がある。小児のAiを行うに当たっては格段の配慮が必要。Aiを施行するイコール虐待を疑ってる、とならないためにも全例実施が望ましいのではないだろうか?。児童虐待の抑止力となりうる。
Aiの概念および現状 Ai情報センター山本先生
Aiを取り巻く現在の状況、。Aiを医療の最後で行う必要性。Ai情報センターが果たすべき役割など。
感想
二日目の内容は実務に沿ったものが中心となる講義でした。エンゼルケアがより遺族の印象や気持ちを大事にすることで変化してきている状況はまさに医療全体で今求められてることなのではないでしょうか。そして,この日の講義の大部分を占めた『死後画像』の特徴は撮影を行う放射線技師も覚えておかなければいけないと感じました。放射線技師に読影の責任は今の所ありませんが、死後画像の特徴である血液就下、血管内ガス、蘇生術後による変化などがわかって撮影しているのとそうでないのとでは、撮影範囲が広くターゲットを絞れないAiの撮影では特に重要になると思われます。
今回この会に参加させていただき一番強く感じたのが医師と放射線技師の垣根の低さでした。「Aiというツールをどのように運用していくべきか多方面から意見を持ち寄り考える」という雰囲気が全体にあり、Aiに初めて触れる人間にも入っていきやすい環境づくりの配慮が伺えました。Aiの撮影意義に疑問の余地はもう無いように思います。解剖を行ううえで重要なツールであることは言うまでもありませんが、病院内での死に関するトラブルに対して病院側、遺族側双方にとって有益なものになると感じました。死に対する最後の『診断』は特別なものでなく極めて自然で身近なものであると認識できたことが今回一番の収穫だったと思います。
前田病院 診療放射線技師 畠山修二