第0回 オートプシーイメージング学会

(帝京大学医学部附属溝口病院臨床病理部 田島康夫 記)

第0回 オートプシーイメージング学会

屍は活ける師なり。われわれ医学医療に仕える者に剖検の重要さを戒める言葉である。しかしいま、医学医療の場で剖検が一つの曲がり角に差し掛かっている。かつては、主要な病院では、40~70%であった剖検率が、現在では軒並み5~25%まで下がっているという。内科専門医指定の研修病院では、剖検率が30%以上であることが条件となっているが、ほとんどがそれを満たせなくなっているのが現状である。

実は剖検率の低下は世界的な傾向で、日本だけの問題ではない。その原因として、CT、MRIなど画像診断技術の進展が著しく、あえて剖検を行わなくても、原発巣、転移巣の把握ができている場合が多くなったことが理由である。剖検の積み重ねによって治療は飛躍的な進歩をみたが、皮肉にも、その結果として我々が享受している医学の進歩が、今度は剖検率を低下させるというジレンマを生んでいるのである。

しかし現在でも、剖検の意義が失われたのでは決してない。めずらしい疾患、原因不明の疾患にとって、剖検が最も大切なものとなる。臨床データはあくまでも現象を捉えたものに過ぎず、病理解剖によって、はじめて病因が最終決定されるからである。たとえMRI で病変の様子がわかっていても、それはあくまでも影を読んでいるのであって実像ではない(だから読影と言うのであるが)。実際に解剖を行った結果、癌と読影されていたところが、感染症の合併症によって引き起こされていたこともある。思わぬところに転移巣があったりすることもめずらしくないことを病理学者は良く知っている。

そこで我々は、剖検に画像診断の概念を取り入れ融合させた、オートプシー・イメージングという手法を考案した。オートプシー・イメージングによって、臨床治療に役立つ基本的な画像情報が集められる。その成果は、分子生物学、生化学、免疫学などの最新研究成果をも貪欲に取り入れ、より有用な形態病理学へと発展するだろう。それは、今後の病理学の方向性を示唆するものである。

オートプシー・イメージングの手法を確立し、その概念を広く医療に普及するべく、いまここに我々は、オートプシー・イメージング学会を設立することとし、平成15年7月12日、東京根津の日本医大病理部図書室に病理医および放射線科医を中心に10数名が集い、第0回設立準備総会が開催された。(写真)

準備総会では、放射線医学総合研究所重粒子センター病院の江澤が30 数例の施行例を踏まえてオートプシー・イメージングの概念とその実際を紹介した。つくばメディカルセンター病院の塩谷は、放射線科医の立場から急死症例を中心にオートプシー・イメージングの前段階であるPost Mortem CTを10年間、施行した経験を述べ、病理学と法医学の狭間にある症例についても、死因の究明に有用であることを言及した。帝京大学医学部附属溝口病院の田島は、オートプシー・イメージング実施のための院内の合意手続きと倫理審査について述べた。そうした発表に関し、参加者からは活発な意見交換が行われ、一般施設におけるオートプシー・イメージング実施を目指すという目標を具体的に視野にいれた論議が、予定時間をはるかに越えて行われた。そしてその場で、オートプシー・イメージング学会設立が参加者全員の賛同を得て、了承されたのである。

オートプシー・イメージングは、剖検の意義を医師の側も、患者の側も正しく理解し、お互いに良好な関係が維待されていることからスタートすると思う。オートプシー・イメージングは、患者が最良の医療を受けたかどうかを監査する役割もあることを忘れてはならないだろう。日本オートプシー・イメージング学会第1回設立総会は、平成16年1月24日(土曜日)に放射線医学総合研究所で開催される予定である。関心ある多数の参加を期待したい。なお詳細は、オートプシー・イメージング学会ホームページを参照していただきたい。