脳外科医 澤村豊のホームページ

様々な脳腫瘍や脳神経の病気について説明しています。

神経芽腫 neuroblastoma, esthesioneuroblastoma, olfactory neuroblastoma

小児の神経芽腫

中枢神経芽腫 FOXR2-activated
CNS Neuroblastoma, FOXR2-activated (グレード 4)

  • 神経芽腫は幼児にとても多い固形癌ですが,脳にはほとんど発生しません
  • ほとんどの神経芽腫は副腎や交感神経節に発生するので,小児血液腫瘍科で診断と治療がなされ,脳外科の先生がみることはほとんどありません
  • 脳以外にできる小児神経芽腫と中枢神経神経芽腫とは異なる腫瘍と考えられますので,混同しないことが大切です
  • 2016年以前は,小児の大脳腫瘍の場合は病理診断で神経芽腫のようであれば,PNET ピーネットと診断されて文献報告されてきました
  • かつては松果体神経芽腫という診断もありましたが,近年では松果体芽腫 pineoblastomaとされて治療がなされます
  • 小脳にできるものをcerebellar neurblastomaといいますが,髄芽腫の一部として捉えられ治療されていました
  • 2021年WHO分類では,胎児性腫瘍に分類され,CNS Neuroblastoma, FOXR2-activated (グレード 4)と呼ばれます,別ページに書いてあります(ここをクリック)
成人に多い神経芽腫
  • 成人の神経芽腫は,前頭部(前頭蓋底)の嗅神経のところにできるものがほとんどであり,嗅神経芽腫 olfactory neuroblastoma / esthesioneuroblastomaと呼ばれます
  • これは中年以降の成人の腫瘍で鼻腔内から前頭葉の方に伸びてとても巨大になります
  • 悪性の腫瘍で播種転移をしやすい腫瘍です
  • 手術で病理診断がついたら,化学療法と放射線治療をします
  • 手術で播種や転移を誘発することがあるので,生検手術をしたら,まず化学療法と放射線治療をして,それから残存腫瘍を手術で摘出するのが普通です
  • 化学療法は,さまざまなものがあります
  • 放射線治療は,局所照射にとどめる場合と,全脳脊髄照射をする場合があります
  • 治る確率の高い悪性腫瘍です

嗅神経芽腫 esthesioneuroblsatoma, olfactory neuroblastoma 

  • 40代から50代くらいに多い成人の腫瘍です
  • 嗅神経から発生するので基本的には篩骨洞を中心として発生します
  • 3分の1くらいの例で硬膜内伸展(前頭蓋底)が生じるとされています
  • 耳鼻科(頭頚部腫瘍科)での治療が多い腫瘍です
  • 悪性腫瘍でありリンパ節転移や全身転移もあり得ます
  • 全5年生存割合は80%ほどであり,脳から発生する神経芽腫より良いといえます
  • Modified Kadish stageで予後が推定され,Stage Aの鼻腔に留まるものの5年生存割合は90%ほど,Stage Cの鼻腔と副鼻腔を越えて伸展するもの(頭蓋内伸展)は50%ほどとされます
  • 病理診断で,Hyams histological grading I – IVまで分類されます
  • 最初から全摘出をめざす大掛かりな前頭蓋底手術をするべきではありません
  • Hyamsのグレードが低いものは化学療法感受性も高いので,特に大きな頭蓋内伸展(両側前頭葉浸潤)があるものには無理な手術をしません
  • 脳神経外科に受診するような巨大なものには化学療法での縮小をはかり前頭葉機能の温存をめざします
  • 耳鼻咽喉科で発見されるStage Aのものは内視鏡手術で全摘出できることも多いです
  • 大きなものでは,生検術(鼻腔内視鏡)で病理組織診断をして,化学療法あるいは放射線治療を先行させるneoadjuvant thrapyが推奨されています
  • それで残存腫瘍があればsecond-look surgeryで全摘出を行います
  • 陽子線治療が行われていますが,はっきりした長期成績は不明です

原因遺伝子と分子標的治療

  • 臨床経過に影響する遺伝子変異はさまざまで特定されていません
  • MYCN, ALK, TrkBという遺伝子の発現あるいは変異があると高リスクで予後が不良だとされています
  • なかでもALK変異・増幅の頻度が最も高いとされています
  • ALK tyrosine kinase阻害剤 crizotinibは有効性がないとされました
  • ALK tyrosine kinase阻害剤 ceritinib, entrectinib, alectinibなどが臨床応用されていますが,2019年時点でインパクトのある臨床試験の結果はありません,期待薄かも

病理診断をしてから導入化学療法を行う

Su SY, et al: Outcomes for olfactory neuroblastoma treated with induction chemotherapy. Head Neck. 2017
MDアンダーソンからの報告です。進行した嗅神経芽腫にいきなり手術をしないで,まず化学療法から行うという治療です。15人の患者さんが,生検術で病理診断された後で,まずシスプラチンとエトポシドの化学療法を受けました。10人 (68%)ではっきりした効果が得られ,Hymans high-gradeのものに奏功率が高かったそうです。7人の患者さんで腫瘍が消失しました (CR 47%)。その後に,手術や放射線治療が加えられ,5年全生存割合は78%でした。嗅神経芽腫には化学療法がよく効くと結論しています。全頭蓋底に広がった嗅神経芽腫はまず化学療法で治療されるべきでしょう。

テモゾロマイドの神経芽腫への効果について

Rubie H, et al: Pahse II study of temozolomide in relapsed or refractory high-risk neuroblastoma: a joint Societe Francaise des Cancers de l’Enfant and United Kingdom Children Cancer Study Group-New Agents Group Study. J Clin Oncol 24: 5259-5264, 2006
脳腫瘍ではない小児悪性腫瘍に対する効果を見たものです。ヨーロッパで行われた臨床試験の結果です。いろいろな治療をしてもさらに転移したり再発してとても困った状態になってしまった25人の小児の神経芽腫neuroblastomaの患者さんにテモゾロマイドが投与されました。5人(20%)の患者さんにはっきりした効果が見られました(CR+PR)。とても希望の持てる結果です。神経芽細胞腫は髄芽腫や松果体芽腫やPNETに似た腫瘍ですから,テモゾロマイドがこれらの脳腫瘍にも有効かもしれないという期待が持てます。でもまだたくさんの研究が行われないとはっきりしたことは言えません。

文献

Tajudeen BA, et al.: Esthesioneuroblastoma: an update on the UCLA experience, 2002-2013. J Neurol Surg B Skull Base 76: 43-49, 2015

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