ごあいさつ
- この度、前会長である白波瀬丈一郎先生の後を引き継ぎ、日本メンタライゼーション研究会の会長を拝命しました、崔炯仁と申します。
本会は2017年9月23日、日本におけるメンタライゼーションに基づく治療(MBT)、メンタライジング・アプローチの普及と実践家の意見交換の場の提供を目的に設立されました。あの日、東京の田町にある会議室に発足時の運営委員が一堂に会し、本会でどんな活動をしようか、あれこれとアイデアを出し合っていた際、ふと私から、「今、この会が学術集会を開催したとして、果たして一般演題の応募があるのでしょうか」という問いを発したところ、一同腕を組んで黙り込んでしまったことを憶えています。
それから4年半、それぞれの委員が有志でワークショップや研究会を開催し、2019年3月にはMBT創始者であるBateman、Fonagy両教授をお迎えし、日本で初めての、MBTベーシックトレーニングを東京で開催しました。その後2022年2月までに3回のベーシックトレーニングを開催し、これまで約190名の修了者を輩出しています。また子ども向けのMBT(MBT-C)ベーシックトレーニングも複数回開催されました。この間引き続きMBTは世界的な広がりを見せ、それらに共鳴した多くの実践家から日本に新しい知見が次々と提供され、やってみよう、話し合ってみようという取り組みが多く生まれ、今日の日本においてメンタライジングへの関心は大きな高まりを見せています。このような高まりの要因は、メンタライジングが人間のこころ、特に困難な環境の中でうまく育たなかったこころに確かな光を当てる視点であるということ、そして徹底してクライエントが治療の主体であれるよう援助する治療的アプローチの魅力、さらに児童福祉や教育現場、医療・福祉チームの活動など、一心理療法に留まることのない活用の幅広さなど、挙げ始めるときりがありません。この魅力に魅かれて多様な現場の多様な職種の人々がメンタライジングに関心を向けていることに、驚きすら覚えます。
今、4年半前に投げかけられた問いに「Yes」と応える時が来たと感じています。2022年4月、本会はこれまで協働してきた重要なメンバーを運営委員に加え、14名の運営委員会として新しい段階に入りました。そして念願であった、「開かれた学術集会」の開催のため、会員制に移行することを決めました。
現在のところ、本会に連なるメンバーに英国アナフロイトセンターが認証したMBTの指導者(スーパーヴァイザー・トレイナー)はおらず、国内の臨床家同士でスーパーヴィジョンなどトレーニングを担えるような段階にはありません。以前からMBTを学んできたメンバーも、最近学び始めたメンバーも、「ともに学ぶ者」であると考えています。その中で本会は、学び・考え・議論できる場を準備・提供する役割を果たしていきたいと考えています。具体的には、日本のいたるところでメンタライジング実践を始めている臨床家・研究者がそれを報告し、議論する場としての学術集会を定期的に開催していきます。また、アナフロイトセンターと連携しながら、会員のニーズに合わせて日本語で様々なMBTの公式トレーニングを受ける機会を提供したいと考えています。そうして認証されたMBTの実践家を目指す人も、メンタライジングのエッセンスを自分の現場で活かそうと試行錯誤する人も、交わりつつ、それぞれの枝で学べる樹の幹のような会でありたいと考えております。
メンタライジングに関心を寄せておられる皆様、この機会に本会に連なり、ともにこの地にメンタライジングの多様な枝を育んでいきませんか。
- 2022年5月 日本メンタライゼーション研究会 会長 崔 炯仁