会長挨拶

ごあいさつ

 

このたび、新会長を務めることになりました西村 馨です。どうぞよろしくお願いします。本会は多職種による研究会ですが、心理職としては初会長になりますので引き締まる思いです。

本会は、メンタライゼーションに基づく治療(Mentalization-Based Treatment: MBT)またはその他のメンタライジング・アプローチに関する実践,研究を促進し,日本におけるその発展に寄与することを目的とする、と会則に記されています。英国アンナ・フロイト(旧アンナ・フロイトセンター)のピーター・フォナギー、アンソニー・べイトマン両教授がMBTを開発し、治療成果のエビデンスを提示して以来、MBTを日本でも実践したいと願う臨床家のニードが高まりました。このニードに応えることは、本会の重要な使命でしたし、今でも中心にあるでしょう。

幸い、本会の運営により、2019年にフォナギー、ベイトマン両教授をお迎えして「MBTベーシックトレーニング」を東京で開催することができました。それを皮切りに、オンライン・インフラの普及に助けられて、オンライン・スーパービジョンがグループや個人レベルで行われるようになり、プラクティショナーの資格を得る方も現れるようになりました。児童のMBTMBT-C)、青年のMBTMBT-A)についても、日本の臨床家を対象としたトレーニングがいくつかの団体の運営によって行われるようになり、プラクティショナー資格取得者だけでなく、スーパーバイザー資格取得者を出すに至っています。いずれのベーシックトレーニングもスーパービジョンも定期的に開催してきています。ここまでの変化は当初予期していなかったことであり、目覚ましい発展であると言えます。

もう一方で、「メンタライジング」という重要かつ魅力的な概念を用いて、心理療法の本質的機能の理解を深めたり、今の現場での臨床を改善したり、新たな臨床的介入を開発することを期待する方も少なくありません。本会では、学術集会を開催して、研究発表や学術交流を促進してきたほか、定例的な「サロン」による会員交流や、アンナ・フロイトの講師らによる研修会を開催してきました。我流に陥ることなく、MBTの神髄を学び、分かち合うことを重視しつつ、日本の臨床現場での実践を問い、導入にあたって独特な文化的文脈を考慮していきたいと考えています。形にとらわれて、患者・クライエントの主体性が見えなくなったり、臨床家のクリエイティビティを閉じ込めてしまうことがあってはいけない、臨床家がオーセンティックに『自分である』ことを大事にしなければなりません。

本会の学術集会では、私たちが大事にしている、上記のような事柄を「体感」することができます。本会が多職種研究会だということは始めに申し上げましたが、医師、心理士、ソーシャルワーカー、看護師、教師、保育士など、さまざまな現場からさまざまな職種の方が参加し、上下ではなく横並びの関係で関わる雰囲気はよいものです。MBT面接の技法や成果の発表のみならず、職場がメンタライジング的風土を失われやすい中で、それを修復するための試みなど、現場での生々しい体験を分かち合い議論する雰囲気は、メンタライジングに裏打ちされた、温かみに満ちています。ぜひ一度ご参加ください。

MBTは日々進歩しており(比較的最近では、摂食障害対象のMBT-ED、トラウマに焦点を当てたMBT-TFなど)、派生したプログラムも次々と登場し(「つながりにくい」人々を支援するための適応的統合治療AMBIT、里親支援プログラムReflective Fostering、子育て支援プログラムLighthouse Programmeなど)、関心を集めています。今後もアンナ・フロイトとの交流を密にしながら、さまざまなプログラムに触れる機会を提供できるようにしたいと考えています。また、会員同士で研究・実践チームを作り、特定のテーマについての研究や知見の交換などをいっそう促進したいと思います。

心の状態に焦点を当てるというだけでもたくさんのことができ、(様々な条件を整えられるなら)成果をあげることができます。また、心の状態に焦点を当てるやり方からさまざまなことを学ぶことができます。本会が臨床家の皆さんの新たな学びの場となり、ひいては患者・クライエントさんの希望、信頼に貢献するものになることを願い、いっそうの精進したいと思っています。共に進んでまいりましょう。

               2026年4月      日本メンタライゼーション研究会 会長  西村 馨