第163回
2025年04月25日

オートプシー・イメージング(Ai)の未来と社会的役割
〜Aiを実施している民間病院放射線科医の雑感〜

座間総合病院 院長
渡 潤

 オートプシー・イメージング(Ai)は、死後画像診断技術を用いた新しい死因究明のアプローチとして、着実にその存在感を高めています。Ai以前の死因究明といえば司法解剖を中心とした法医学的文脈で語られることが多くありましたが、Aiが果たしうる役割は、犯罪死や異状死の対応にとどまらず、より広く日常医療や地域ケアに密接に関わるものでもあります。

 たとえば、医療現場での予期せぬ急変や死亡事例、特に高齢者の多い入院施設・在宅医療の現場では、病理解剖の実施が困難なケースが多く、死因の不明確さが残されたままになりがちです。こうした場面においてAiは、非侵襲的で遺族の心理的抵抗も少なく、迅速な実施が可能なツールとして、死因の客観的評価を提供します。

 また、医療の安全管理の観点からも、Aiの活用には大きな意義があります。医療関連死において、医療行為と死亡との因果関係を画像として記録・検討できることは、病院にとって透明性を高める手段となると同時に、現場スタッフにとっても検証と学びの機会となります。これにより、事故の防止や医療の質の向上につながるフィードバックループが生まれます。

 また死因が究明されることにより遺族へのグリーフケアにもつながります。

 制度面では、Aiを日常的な死因究明の一環として活用するために、地域や施設ごとに整備状況に大きな差がある現状を是正する必要があります。特定地域でのモデル事業や医療圏単位での共同利用体制を整えることで、より実効性のある体制整備が可能となります。

 加えて、海外ではすでに臨床医・放射線科医・病理医の協働によってAiを活用した死後診断のプロトコルが構築されつつあります。こうした動きに学びつつ、日本の現場に即した実装方法を模索し、医療・介護・地域社会全体でAiの価値を共有していくことが求められます。

 Aiは、もはや特殊な法医学的技術ではなく、日常の死を丁寧に見つめ直すための社会的インフラとなりうるものです。病理解剖の補完手段として、また診療情報の可視化装置として、そして何より、命の最期に対する誠実なアプローチとして、Aiを育てていくことが、これからの医療と地域の信頼を支える鍵になるはずです。